「此処が秘密の洞窟クポ?」
洞窟内にモグの声が反響する。
達はサウスフィガロへ船へ来た後、街を出て直ぐ其処にあるサウスフィガロの洞窟へ来ていた。
この洞窟自体は全然秘密でも何でも無いが、恐らく抜け道を通った先にある洞窟が秘密の洞窟なのだろう。
問いかけてきたモグにはそう言い歩を進める。
奥へ行く途中、何度か魔物に出くわしたが全てシャドウが一人で片付けた。
彼の手際の良さに盗賊達は「おぉー」と関心の声を上げる事しか出来なかった。
そろそろ出口、という所で盗賊の一人が「此処ッスよ、此処」と言い止まる。
そして近くにある泉の前へしゃがみ込んだ。
全員の意識が其方に向いている隙には背後からセリスとマッシュが無事着いてきているかを確認したが、いらぬ心配だったようだ。
二人が着いてきているのを確認したは再度視線を前へと移す。
盗賊の男が泉に手を出し、「よ〜し、よしよし亀ちゃん餌だよ」と言い泉の中に居る大きい亀に餌を見せた。
亀は、すす、と近付いてきて餌をパクリと口に含んだ。
「これで向こうに渡れるっていうわけですぜ」
「やるな」
「俺、昔、亀飼ってたんッス」
ジェフに褒められ、少し照れくさそうに笑いながら盗賊はそう言い立ち上がる。
そして皆の見本を見せるように亀に乗って向こう岸まで渡った。
戻ってきた亀に順番に乗っていき、全員が向こう岸に渡る。
亀の上に乗る時、モグやシャドウはひょいと軽く行ってしまったがは少しだけ、怖怖とした様子で足を亀の甲羅に乗せた。
重くないのだろうか?と思い亀の様子を気遣いつつ乗ると亀は苦にした様子は無く、を向こう岸へと導いた。
岸に足を下ろそうとしたの前に手がすっ、と差し出された。
「さ、手を」
「・・・お気遣いどうも」
わざとらしく微笑み、はジェフの手を取って足を下ろした。
が、直ぐに手を離してしまい先へと歩を進めて行ってしまう。
そんな彼女の背を見ながらジェフは苦笑し、肩を竦めた。
奥へ進むと盗賊達の言っていた巨大ミミズの巣穴への抜け道があった。
右へ左へと真っ直ぐでは無い其処を通っていくと、奥の方に石の壁が見えた。
一番前に居たシャドウが其れを確認した後、近くにあった鉄格子を開ける。
鉄格子を潜り、中に入るとどうやら地中のフィガロ城の地下牢に出たようだった。
盗賊達は喜びの声を上げ、直ぐに階段を駆け上がって行った。
ジェフは動かず、眉を潜めて辺りを見渡している。
達は彼に付き添い、城内を歩き回る事にした。
階段を上っていくと、直ぐ其処に一人の兵が倒れていた。
恐らく牢の見張りの兵だろう。
が直ぐに近付き、兵の喉に手を当てて呼吸と脈を確認する。
「・・・! 生きている!」
「何・・・! おい、大丈夫か!?」
がそう言った途端ジェフは血相を変えて見張りの兵の真横に腰を下ろして様子を伺う。
自分達の持っている荷物の中には回復アイテムがある事はあるが、今この場で処置はとてもじゃないが出来なかった。
は顔を上げ、ジェフを見て口を開く。
「・・・恐らく動力部に異常があるだろう。
此処で下手に手当てをするよりも先に其処へ行って問題を解除し、地上へ出た方が良い」
「・・・・・・そうだな、お宝は其処にあるからな」
ジェフはそう言いゆっくりと腰を上げた。
そんな彼の言葉には肩を竦めるだけだった。
(・・・今の反応でもう分かりきった事なのに、まだなりきるか)
は兵を楽な体制にさせると背の銃を下ろし、手に持ち変える。
「行くぞ」と言い四人は城の動力部のある地下を目指した。
途中出てくる魔物を倒しつつ進むと、奥の方から「うわああ!」という悲鳴が聞こえた。
その悲鳴に反応し、走って奥に進むと其処には盗賊達が居た。
「な・・・!」
「なんだこいつ!!」
目に飛び込んできた光景には息を呑んだ。
盗賊達が口々に目の前のモノについて言っているが、仕方ない。
気色悪い動きをしながら、動いているモノがあったからだ。
何かの植物の触手だろうか、茶色の其れはあちらこちらで蠢いていた。
其の中の幾つかが、動力部に絡み着いていた。
絡み疲れている動力部はギチギチと嫌な音を立てている。このままでは下手したら壊れて如何しようも無くなる―。
そんな動力部を見つつ、ジェフが忌々しげに舌打ちし、呟く。
「こいつが・・・・・・絡まっていたせいか・・・」
「ボス! どうしやす?宝が隠してある部屋はこの奥でっせ!」
「俺達が食い止めている間にお前らが・・・」
「ボス! 危険ですぜ!!」
「いいから行け!!」
俺達、という事はちゃっかり私たちが入ってる事だな。
はそう思いつつ銃を構えて盗賊達を見やる。
未だに躊躇している盗賊達に「さっさと行け」と言い一発発砲したのだ。
其れに驚いた盗賊達は「わわわ分かりました!」と言いながら奥へと姿を消した。
それを見送ったは銃を蠢く触手に向け、横に立つ男を見た。
「では、久しぶりに共同戦闘と行こうか? 王様」
「フ、そうだな」
男、ジェフ――、エドガーはそう言い口の端を吊り上げて己の武器を構えた。
其れとほぼ同時にセリス達がやって来た。
「!」
「兄貴!」
「セリス、マッシュ!手伝ってくれよ!」
「やっぱりエドガーだったのね」
横に並んで構えたセリスがそう言い少々ジト目でエドガーを見やる。
「しらばっくれちゃって」と言うセリスにエドガーは苦笑を返すしか出来なかった。
は蠢いている触手を見返し、どうしたものか。と考える。
「魔法・・・はやめた方がいいな。動力部を壊してしまうかもしれない」
「じゃあの銃クポ!」
「そうだな・・・。それと、どっかの王様の機械とか」
はそう言い標準を捕らえ、撃った。
一本の触手がパァン、と弾ける―。
「意外ともろいじゃないか」
「そうだな。 私とで倒すから他の皆は援護をしてくれ」
エドガーがそう指示を出すとセリス達は頷き向かってくる触手を撃墜する。
的確に標準を合わせながら結構な速さで触手を次々と撃退していくを横目で見ながら、エドガーも触手を機会で撃墜する。
「・・・。本当に久しぶりだな」
「あれから意外と経ったからな。 ・・・一年か」
パァン、という破裂音を聞きながらは弾が切れたので補充をする。
その間エドガーが触手を倒していく―。
「王様は苦労が絶えなかったようだ。髪もこんなに色が落ちて・・・」
「・・・これは染めたんだ」
「分かってるさそれくらい」
「・・・・・・」
弾の補充が終わったが再度銃を構えて触手を狙う。
そんなの横顔を一瞥した後、エドガーは口の端を吊り上げた。
「本当に、久しぶりのパンチのある言葉だな」
「私も久々な感じがする。・・・実際久々なんだがな」
は微笑み、エドガーを見やった。
そして微笑んだまま、エドガーのボウガンの握る手に自分の手を重ねる。
「エドガー、会えて良かった」
綺麗に微笑んだに思わず見惚れたエドガー。
そんな彼の力の無い手の上に重ねられた一回り小さい手が、ボウガンの引き金を引いた。
パァン、という音が響き、最後の触手が消滅した―。
「しらばっくれてくれちゃって」
戦闘が終わった後、腰に手を当ててエドガーを見るセリス。
そんなセリスに笑みを返しつつエドガーは「フィガロが故障したって話を聞いてな」と話し出す。
「助けに行きたいけど砂の中だろ?そんな時にあいつらが城から出てきたって話を聞いてな」
「利用した、という事か」
腕を組んでが言う。
そんな彼女の言葉にエドガーが頷く。
「ま、フィガロ王という事がばれたなら秘密の洞窟に案内して貰えなかっただろうからな」
「かつては自分達を牢に入れていた王様だからね」
セリスがそう意地悪く言うとマッシュが「違い無えな」と言って笑う。
でも、と言い彼はエドガーを見て続ける。
「兄貴、水くさいじゃないか。俺らぐらいには話してくれても良かっただろ?」
「マッシュ、それはこいつが少しだけでも楽しんでいたからじゃないか?」
服装やら髪形やら、結構気に入っていたっぽいしな。
とが言うとエドガーは「まさか」と言っただけだった。余計に怪しい。
等とが思っているとシャドウが奥の部屋をふ、と見やる。
「戻ってくるぞ・・・」
「む、いかんな。皆隠れろ」
エドガーに言われ、各場所に皆が身を隠す。
はモグを抱いて機械の裏へと隠れた。
―少しすると、奥から盗賊達が宝を抱えて戻ってきた。
「ボス! ・・・・・・? ボス?」
「もしや、あの怪物にやられて・・・・・・」
「そんな・・・あの姉ちゃんや護衛だって居たってのに・・・」
「短い間のボスだったけど・・・」
「行こうか・・・」
盗賊達はそう会話して勝手に自己完結するととぼとぼと階段を上がって行った。
そんな彼らの様子を見ていたモグが、「何か勝手に死んだ事になってるクポ・・・」と言い複雑そうな顔をした。
は「其の方が好都合だ」と言いモグを抱いたまま物陰から出た。
「いいの? 宝は・・・?」
「宝など何の価値も無い。本当の悪はケフカさ・・・奴らに罪は無い」
エドガーは問いかけてきたセリスにそう言うと動力部の様子をチェックした。
少しの間各部を見渡していたが安堵の息を吐いて頷く。
「大丈夫そうだ」
「そうか。なら早々に地上へ上げよう。 此処は息苦しい・・・」
ほう、っとハイネックの服の襟部分を指で引っ張っりつつ、が言う。
其れにエドガー達は頷き階段を上がった。
上に行き、城を操作する所に行きエドガーがそれを弄る。
すると、微かな振動の後、大きな揺れが城全体に走る。どうやら移動を開始したようだった。
地上に出たら城内の人間の手当てだな。とは思い、「そうだ」と言いエドガー達を見やる。
「折角会えたんだ。一緒に行動をしないか?」
「私は構わないわ。寧ろ一緒に行きたいわ」
セリスがそう言うとマッシュも頷く。
そしてエドガーを見て「また一緒に暴れようぜ、兄貴!」と言い笑う。
それにエドガーも笑みを返し、大きく頷いた。
これで一気に人数が増えたな。とが思っていると足元でモグが跳ねながら声をかけて来た。
「次は何処に行くクポ?」
「地上に出た城の目の前にコーリンゲンがあるはずだ。其処にしたらどうかね?」
「・・・コーリンゲン・・・」
エドガーの提案に他の皆は頷いたが、だけはポツリとそう零すだけだった。
そんなの様子を見、何事かを察したセリスが少しだけ気まずそうにに近付いて問いかける。
「・・・、ロックとは会えたの・・・?」
「・・・・・・」
セリスの問いに対し、はゆるゆると首を振るだけだった。
「そう・・・」とセリスは言い少しだけ間があった後、再度口を開く。
「コーリンゲンはロックにとって大事な場所だもの、戻ってるかもしれないわ」
セリスの言葉には力なく微笑み、「そうだな」とだけ返した。
次はコーリンゲン。