バッシャーン!!という水がかかった音が響く。
かけられた男の長い髪からはポタポタと水滴が滴り落ちており、髪も服も身体にべったりと張り付いている。
皆が唖然とする中、バケツいっぱいの水を躊躇無く頭から被せた人物、はにこりと笑って眼前のびしょ濡れ男を見下ろした。
「で? もう一度言ってみろ」
口元だけを吊り上げて表面上の笑みを浮かべていたが、彼女の瞳は決して笑ってはいなかった―。
フィガロ城の人間の様子を見て治療した後、達はコーリンゲンへ来ていた。
大人数で移動するのも何かと思い、それとまだ城内の人の事も気がかりだったのでモグとシャドウ、そしてエドガーにはフィガロ城へ残って貰った。
はセリスとマッシュと一緒にコーリンゲンへと向かったのだ。
「・・・何だか懐かしいな、コーリンゲン」
「そうだなー。前に情報収集で来た時依以来じゃないか?」
「確かあの時はマッシュと街中を見て回ったよな」
がそう彼を見上げて言うとマッシュは「そうだな」と言って笑った。
コーリンゲンに着いた頃にはもう既に日が傾いていた。
これは一晩はこの街で過ごすのが無難だな、とは思い二人を見やる。
「少しだけ回ったら宿に行こう。日も傾いてきている」
「ええ、そうしましょう」
セリスはそう言い頷き、「で?何処から回るの?」と言った。
その問いにレイナは少しだけ考え、ある事を思い出してパッと顔を上げて口を開いた。
「酒場」
「・・・酒場ね、確かに情報が入りやすそうな場所よね」
「あぁ、それに以前も此処で有力情報を手に入れたからな」
あの時はシャドウが酒場に居てティナの行方を教えてくれたんだったな。とは思い出しながら歩を進める。
そんなの後に続きながらセリスが少し躊躇いがちに「いいの?」と言う。
それに対しては振り返らず、「何が」とだけ返す。
「・・・レイチェルさんの家に、行かなくて・・・」
「・・・・・・後で、行くさ」
そう口早に返し、は酒場のドアを開いた―。
―と、同時に固まった。
行き成り足を止めたを怪訝に思い後ろに居る二人は「?」と彼女を呼ぶ。
固まった彼女の脇を通り、セリスが酒場に足を踏み入れると彼女は眉を寄せて思わず手で口と鼻を覆う。
「・・・凄い臭い・・・」
セリスが思わずそう呟く。
コーリンゲンの酒場は飲み倒れが数人居た。
彼らが大量に飲んだ酒のアルコール臭が酒場内に満ちているのだ。
物凄い臭いだ。とも思い辺りを見渡す。
―と、カウンター席にある姿を見つけ、其方へと歩を進める。
行き成り進みだしたに何だと思い視線を向けたマッシュとセリスも、見覚えのある後姿を目に留め、の後に続く。
カウンター席に近付いたが、隣に立って彼を見下ろす。
「こんな所で何をしている? セッツァー」
「・・・、・・・か。 ・・・生きていたのか」
其処に居た人物こそ、飛空挺を操った男、セッツァーだった。
彼はを力無い瞳で見上げるが、直ぐに前を向き、酒の入ったコップを仰いだ。
そんなセッツァーからコップを取り上げ、は彼を自分の方に向かせる。
「久しぶりだな。どうした、死んだ魚みたいな目をして」
「・・・あぁ、相変わらずキツイこと言うな、。 そんなお前は相変わらず綺麗なままだな」
セッツァーの言葉には彼が茶化しているのかと思ったが、どうやらの瞳を見てそう言っているらしい彼に、眉を潜めた。
セッツァーの瞳の色は絶望の色で、濁っていた―。
「セッツァー。 一緒に行きましょう、ケフカを倒しに!」
後ろからセリスがそう言い彼を誘うが、セッツァーは自嘲気味に笑みを浮かべると肘を着いて達を力ない瞳で見る。
「ふ・・・。もう俺は何もやる気が無いよ」
「何言ってるんだよ」
マッシュが少々困り顔でそう言うが、セッツァーは自嘲気味の笑みを浮かべたまま、口を開く。
「元々俺はギャンブルの世界・・・人の心にゆとりがあった平和な世界に乗っかって生きてきた男だ・・・。
そんな俺にこの世界は辛すぎる。 それに翼も失ってしまった・・・」
「・・・今のお前でも、この世界は辛いのか?」
「・・・言ったろ、俺は平和な世界に乗っかって生きてきた男だと。
今この世界には何がある?平和やゆとりなんてありゃしない。枯れ逝く大地を見ているだけしか、ケフカに怯える事しか出来ない世界じゃないか」
そう言ってまた自嘲気味に笑みを浮かべたセッツァーには苛々していた。
ダン!とカウンターを掌で大きく叩き、マスターを見やる。
睨まれるように見られたマスターは思わずビクリと肩を揺らす。
そんなマスターには手を出して「水を貰おうか」とだけ言う。
それも、バケツいっぱいのを。足りないだろうから。と付け足すにマスターは思わず周りで飲み倒れている男達を見る。
マスターは素早く水を用意し、怖怖と彼女に渡した。
「み、水です・・・」
「ありがとう」
はニコリと微笑んでバケツいっぱいの水を受け取るとセッツァーを見下ろす。
そして微笑んだまま、「ほら、セッツァー」と彼を呼び、セッツァーが顔を上げようとした瞬間―、
バッシャーン!!という水がかかった音が店内に響いた。
かけられたセッツァーの長い髪からはポタポタと水滴が滴り落ちており、髪も服も身体にべったりと張り付いている。
皆が唖然とする中、バケツいっぱいの水を躊躇無く彼の頭から被せた人物、はにこりと笑って眼前のびしょ濡れ男を見下ろした。
「で? もう一度言ってみろ」
口元だけを吊り上げて表面上の笑みを浮かべていたが、彼女の瞳は決して笑ってはいなかった―。
バケツを床に落とし、はカウンター椅子に片足を乗せて身をセッツァーの方へと出す。
そして彼の襟元にあるスカーフを握り、ぐい、と引っ張った。
「確かに、裁きの光は脅威だ。あれのせいで消えた村、命を落とした人の数など数えられないほどだろう。
・・・空は暗雲が立ち込めていて、太陽の光など、無い。確かに、大地は枯れている。
人はこれを絶望と呼ぶだろう。 だが、絶望の中に光は必ず舞い込むものなんだ」
お前はそれを、以前の戦いで理解出来なかったのか?
はそう言い間近まで引き寄せたセッツァーを睨む。
セッツァーは最初こそ瞳を丸くしていたが、直ぐにまた先程の濁った色の瞳に戻る。
「・・・だけど俺はもう、夢を無くしちまった・・・」
「夢は無限だ。これからまた持って、また追えば良い。それ位分かれこのヘタレが」
「ヘタレ・・・」
「セッツァー、」
は引っ張っていたスカーフを更に引っ張り、彼を自分に引き寄せた。
そして彼の背に手を回し、ポンポンと軽く叩く。
親が子を抱き締めるように、はセッツァーを抱き締めていた。
「・・・・・・?」
「私たちは何の為の仲間なんだ、セッツァー。 夢なら一緒に追えば良いじゃないか」
それに、と付け足してはセッツァーの背を優しく叩く。
「希望なら、あるだろう。 仲間が生きていた、お前の中ではそれは希望にならないのか?」
お前から見たら私たちは枯れ逝く花なのか?
そう呟くに、セッツァーは一度大きく瞳を見開き、ゆっくりと目を伏せる。
そして、「そうだな・・・」と言いの背と腰に腕を回した。
「ふふ・・・の言う通りだぜ。 付き合ってくれるか? 俺の夢に・・・」
「何を今更言っている」
当然だ。と言わんばかりの声色で即答され、セッツァーは口の端を嬉しそうに吊り上げた。
そして視線だけでセリスとマッシュを見やると、二人も笑って頷いていた。
「ありがとう。 行こう、ダリルの墓へ・・・蘇らせる・・・。 もう一つの翼を!」
セッツァーはそう言い腕を伸ばした分だけから離れた。
が正面から見たセッツァーの瞳は、先程の濁った色では無く、以前の彼の輝いている瞳だった。
そんな彼の様子に安心し、は嬉しそうに微笑んだ。
「・・・やっぱり、お前はそういう目をしている方が良いな」
初めて会った時も、そんな目をしていた。
そう思いは彼を見やる。
の視線を受けたセッツァーが「ん?」と言いを見返す。
「何だ、。俺の事を考えていたのか?」
それは嬉しい事だな。と言うセッツァーには素直に頷き、「そうだな・・・」と言う。
「確か『後でゆっくり可愛がってあげるさ』だったな。お前が私に言った最初の台詞は」
「・・・セッツァー、貴方、そんな事言ったの?」
最低。と視線で訴えるセリス。
彼女の冷たい視線を受けて「う、」と言葉に詰まるセッツァーだが、直ぐに自分を取り戻して前に居るの腰に腕を回した。
「そういえば、あの時・・・イカサマして俺に買ったんだよな、」
「イカサマもギャンブルの内だ」
「別にセコイって言うんじゃ無いさ。
・・・今思えば、其の時にほんとにお前に落ちたのかもな、俺は」
くい、と腰に回した腕を引いてを抱き寄せようとするセッツァーだが、肩に手を置かれて反対の方向にが力を入れる。
「冗談は止めろ」と言うに彼は笑みを浮かべ、一気にを強い力で抱き寄せた。
「冗談で、すまない位になっちまったんだよな・・・」
「え・・・?」
耳元でそう囁かれ、が驚きで固まっていると、二人をセリスが引き剥がした。
を思い切り引っ張り、セッツァーに非難染みた視線を送る。
そんなセリスには「セリス、あの、」と呼びかける。
「、貴女にはロックが居るんでしょ!? 駄目よ、他の男にそんな簡単に身体を許しちゃ!!」
「・・・傍から聞くと私は物凄い軽い女に聞こえそうなんだが・・・」
淫らな女か、私は。とが少々ショックを受けた様子で言うとセリスは「違うけど、」と言いマッシュを見やる。
するとマッシュも頷いてセッツァーの肩に手を置く。
「お前の気持ちも分かるけどさ、そういう勝負はロックが居る時にやんないか?」
「抜け駆けは流石にセコイって?」
「そういう事」
ニッ、と笑うマッシュにセッツァーも笑みを浮かべ、両手を上げる。
そして「分かった、分かった」と言うとへ視線を移す。
「でもこれだけは言わせて貰うぜ。
俺は諦めたワケじゃ無いぜ。 何時か絶対俺の方が良い男だって分からせてやるからな!」
何時しか聞いたような言葉を言われ、は苦笑を彼に返した。
早く出て来いロック・・・!(立場ピーンチ)