善は急げだ。
すっかり元気になったセッツァーがそう言いコートを翻して酒場を出た。
そんな彼に笑みを浮かべて達は彼の背を追った。
コーリンゲンから出て、西にある森の中に目的地はあった。
草木が生い茂った場所に、地下に続く道がある。
確か、誰かの墓だと言っていた気がする。とが考えているとセッツァーが進みながら「何たって墓だからな。色々出るかもしれないぜ、気を付けな」と言う。
それにが反応し、「何か、って?」と小さい声で問う。
セッツァーはそんなに小首を傾げたが、直ぐにある事に思い当たり口の端を吊り上げて彼女に視線をやる。
「何だ、怖いのか? そうだったら俺に捕まってていいぜ」
「誰が・・・!!」
直ぐに何時もの表情に戻ったがそう言ってきたセッツァーをキッと睨む。
そして彼を押しのけて先に薄暗い中へと進んでいく。
「居ると言ったって、魔物だろうが。 それ位毎度の事だから怖い訳が無いだろう!」
口早にそう言いは腰に手を当てて進んで行ってしまう。
そんなの後姿を見、マッシュがくつくつと抑えた笑みを零す。
セリスがそんなマッシュに視線をやるとそれに気付いたマッシュが「ってやっぱ相変わらずだな」と言って今度は普通に笑った。
「魔列車の時と全く同じ顔してるもんだからさ・・・、」
「・・・マッシュ!!」
セリスに説明をしようとしたマッシュの言葉を途中でが遮る。
そんなにセッツァーが近付いて彼女の手をさり気無い動作で握る。
「意外だな、ってお化け類駄目だったのか」
「五月蝿い黙れ触るな邪魔だ動きづらい」
は口早にそう言うとペシン、とセッツァーの手を叩いてずかずかと大股で進む。
彼女の後ろ姿を見ていたマッシュがまた笑みを零す。
あの列車は散々だったが、の珍しい一面が見れた場所でもあるんだよな。
そう思いマッシュはセリスに少し目配せし、歩くスピードを速めた。
セリスも笑みを浮かべ、彼に習いを追う。
先頭を歩いていたが「・・・所で、」と言い斜め後ろを歩いているセッツァーに声をかける。
「此処は、誰かの墓なのか?」
「あぁ、俺の友の墓さ・・・、大した奴だ。 世界がひっくり返っちまったってのにビクともしちゃいねえ」
「・・・そう、だな。しっかりと作られているし・・・。地下にある物もこれなら無事だろうな」
の言葉にセッツァーは「そうだな」と言い前を歩くの腕を掴んだ。
其れに小首を傾げるだが、彼に「こっちだ」と言われ階段の方へと身体を引かれたので頷いて彼に従う。
下へ下へ、階段を使い下りていく。
その途中で何度かアンデット系の魔物と遭遇したが全て難なく倒せた。
結構地下まで来た所で、セッツァーが歩調を緩め、其処にあった墓石の前で立ち止まる。
墓標を見ると、『ダリル此処に眠る』と書かれていた。
その近くには埃を被った真っ赤なコートがあった。
恐らく、そのダリルという人の物だろう。
はそう思いつつ、黙って友の墓石の前に立っているセッツァーの後姿を見やる。
少し経ってセッツァーは俯き気味だった顔を上げ、「翼はこの下にある」と言って横の階段を下りた。
其れに達も続いてゆっくりと下りていく。
階段の壁には蝋燭が点々と続いており、辺りは薄暗かった。
「色々と思い出すぜ・・・、足元に気を付けな」
セッツァーはそう言い階段を下りながら今は亡き友、ダリルの事を思い出していた。
強気で、誰にも負けない翼を持っていた、女性だった。
「あいつは、飛空挺、ファルコンの限界まで挑んだんだ」
『今度のテスト飛行は危険かも知れない』
『船の限界まで挑戦するなんて無茶だ!!』
『私にもしもの事があったらファルコンはよろしく』
『馬鹿言え!ファルコンを頂くのはスピードでお前に勝った時だ。それまでは俺の前から逃がさねぇ!』
『・・・ふっ、好きにしな!』
ダリルはそう言い、強気に笑った。
二人で大空を駆けると、何時も気分が良かった。
前にはダリルの翼・ファルコン。自分の乗ったブラックジャックは何時もスピードでは勝てず、後ろに着いていた。
『やっぱり空は最高だな!』
『何時まで後にいるつもり? 悔しかったら私の前に出てみな。・・・それとも、私のお尻がそんなに魅力的なのかしら?』
挑発的なダリルの言葉に乗ったセッツァーが舵を切り、船のスピードを上げる。
だが、どうやってもダリルのファルコンには追いつけなかった。
『さすがだな』
『これからが本番よ。記録を塗り替えるわ! 雲を抜け、世界で一番近く星空を見る女になるのよ!』
『日没までに帰れ! 何時もの丘で落ち合おう!』
そう言い、その時は別れた。
何時もの丘で落ち合おう。
そう言ったのに、日が完全に沈みきってもダリルは姿を現さなかった。
「世界で一番近く、星空を見る女になる。その夢を叶えたかったんだ、あいつは。
・・・遠くの土地で壊れたファルコンを見つけたのはそれから一年後だった・・・。
俺はファルコンを整備し大地の下に眠らせてやった・・・」
セッツァーがそう言い、開けた所に安置してあった飛空挺に近付く。
真っ黒だったセッツァーのブラックジャックとは違い、ファルコンは白色を基準とした飛空挺だった。
セリスが今は埃を被り、少々黄色っぽくなっている飛空挺を見上げながら「これがファルコン・・・?」と言う。
セッツァーはそれに頷き、ファルコンの中へと乗り込む。
彼に続き、達も乗り込み、甲板に上がる。
セッツァーは甲板の上にある舵に、そ、と手を這わし、口の端を吊り上げてこう言った。
「羽を失っちゃあ世界最速の男になれないからな。 また夢を見させてもらうぜ、ファルコンよ・・・!」
そう言った後、操縦桿をグッと握りエンジンをつける。
そうするとガグン、とファルコン全体が揺れる。
セッツァーが「何かに掴まってな!」と言うので達は甲板の縁やら何やらに掴まる。
直後、前に空いている大きな道へ入り、船体を斜めにさせて上へ上へと上がっていく。
物凄い突風が正面から襲い掛かって来て、は思わず片目を瞑る。
物凄い風、と思った直後、地上に出たらしく太陽の光で目が痛くなる。
それと同時に飛び出た場所が海の真上だったらしく、船体の底が海に入りザパン!!と大きな音と振動を起こした。
その衝撃でがよろけて倒れそうになったが、操縦桿を片手で握っているセッツァーが彼女の腕を掴み、自分に引き寄せた。
「大丈夫か?」
「・・・ありがとう」
はセッツァーにそう礼を言い、段々と浮上していっているファルコンに気付く。
セッツァーに掴まったまま、辺りを見渡すとセリスも先程の衝撃でよろけたのか、マッシュが支えているのが見えた。
他には、段々離れていく海、陸。
ファルコンは大空に舞い上がった―。
久々に感じる空の風を心地よく感じ、は微笑む。
そんなを見つつ、セッツァーは舵を緩やかに切る。
二人の傍にセリスとマッシュも近付いてきて、正面からの気持ちの良い風を受ける。
「今度は俺達の夢を、だな」
マッシュがそう言うとセリスが頷く。
そして遠くに見えるケフカの居るであろう邪神の塔、もとい瓦礫の塔を横目で見ながら言う。
「瓦礫の塔のケフカを倒しに行きましょう」
「ファルコンでならあそこに乗り込めそうだな」
「ああ、そして俺達の仲間を探そう」
の言葉に頷いてセッツァーが操縦桿を握りながら言う。
彼の言葉に全員が頷く。
そんな中、がセッツァーから離れ、風に舞う金色の髪を押さえながら微笑んで言う。
「そう、私達にもまだ夢はある・・・、否、夢を創り出せるんだ」
そう言った後、甲板から地上を見下ろす。
下には荒れ果てた大地が広がっているが、それだけではない。
緑もまだ生きているし、希望を失っていない人だって、居る。
きっと、仲間の誰かも空を駆けるファルコンを見、思っているはずだ。
は頭の後ろに両手を回し、シュルリと布音を立てて髪を解く。
そして手の内に青いバンダナを納め、愛しそうにそれを見詰める。
(ロック・・・、)
お前は今、何処にいるんだ?
長らく会っていない彼に恋焦がれつつ、は瞳をゆっくりと伏せた。
墓碑名ですっけ、BGM。(Epitaph)
これかなり好きなんですよ・・・!セッツァーのテーマのアレンジですよね(ともよやすらかにねむれ)