ゾゾ山を登って行くと、人の痕跡がある開けた所に出た。
ベッドもあるし、机もある。
此処で誰かが暮らしている事は間違い無い様だ。
が中へ入り、辺りを見渡すと机の上にある物が気になった。
沢山の真っ赤な色の造花に囲まれた机の中心に、手紙があったのだ。
手紙を手に取り、が見ていると後ろからセリス達も覗き込んできた。
字が汚い所や、汚れがある所を見るとこれはどうやら下書きのようだ。
そう思いつつ、は手紙を読んだ。
『ローラへ。
これまで、嘘を書き続けてきた拙者を許して欲しい。
もう真実から目を逸らすのは終わらせなければならぬと思い、今は筆を執っている。
モブリズのあの若者はもう、この世にいない。拙者が代わりに手紙を書いていたのだ。すまない・・・。
過ぎ去った事に縛られ、未来の時間を無駄する事は容易い。
だが、それは何も生み出さぬ。前に進む事が出来ぬ。
もう一度、前を見る事を思い出して欲しい。愛するという事を思い出して欲しい・・・。
カイエン』
手紙を読み終わり、は「やっぱり・・・」と呟く。
下書きの手紙は元あった位置に戻し、はもう一つの出口の方を見やる。
―人の気配がする。
そう感じて進むにセリス達も続いて歩き出す。
奥へ出ると、其処は丁度崖になっている場所だった。
其処の先端に立ち、鳩の足に今正に手紙を括り付けている、彼人の後姿は――、
「壊滅直前の世界・・・。 だが夜明けの光は変わらぬ。人の心も、決して変わらぬ・・・」
「そうだ、人の心は強さを失っていない」
が彼の言葉の後にそう言うと、彼は物凄い勢いで振り返った。
目を丸くしている彼を見て、笑みを浮かべながらは言葉を続ける。
「弱さは克服出来る・・・、希望も、持てる。
世界が壊れかけていても、皆の心が前を向けば、必ず希望の光が差し込んでくるのさ」
そうだろう? カイエン。
そう言ったにカイエンは「殿・・・!」と驚きの声を上げる。
「皆も・・・! 無事であったか!!」
カイエンのその言葉にマッシュが笑みを浮かべ、「当たり前だぜ!!」と言う。
カイエンは嬉しそうに笑った後、達に手を差し出す。
「拙者も行くでござる! 世界をこのまま放って置くわけにはいかないでござる!」
「あぁ、当たり前だ」
はそう言いカイエンの手を取る。
再会の握手を交わしながら、相変わらず察しの良い侍だ。と思い久しぶりに見る気がする仲間の顔を見やる。
彼に会えて良かった。
少しの間、其処に居た全員で再会を喜んでいたのだが、ある疑問を持ったカイエンが小首を傾げる。
「でもどうして、此処が・・・?」
そう問うカイエンにとマッシュは苦笑を浮かべ、セリスは腰に手をあて、普通に笑っている。
シャドウは相変わらず無表情で黙ったままだ。
其々の反応を見、ある予想がついたカイエンが焦った様子で「ま、まさか!!」と言う。
「拙者の書いた手紙を読んだでござるか?!」
カイエンの言葉が終わると同時に、思い切り頷く四人。
そんな彼らにカイエンは物凄い速さで走りだし、室内へと入っていった。
何だと思い中を覗いてみると、高速で室内の造花や手紙を片付けているカイエンが居た。
そんなカイエンを見、マッシュが笑って言う。
「悪いカイエン、全部もう見ちまった!」
「手掛かりは手紙だけだったからな」
「でも、中々素敵な手紙だったじゃない?」
マッシュ、シャドウ、セリスの順でそう言うと、カイエンは「ええと・・・」と口ごもる。
どうやら必死で言い訳を考えているらしいが、そんな彼を達は微笑んで見るだけだった。
「これは・・・、いや・・・、その・・・、ちょっとした趣味の一つでござるよ・・・」
そう言うが達の反応を見、がっくしと項垂れた。
耳も頬も赤い、真っ赤だ。
は笑みを浮かべ、床に落ちた造花を一つ手に取る。
「造花も中々上手く出来ているしな」
「・・・むむっ!おぬしらー!! ほんとでござるか?」
顔を上げてそう言うカイエン。
手紙は恥ずかしいが造花を褒められて嬉しいようだ。
それにマッシュは豪快に笑い、セリスとは「プッ」と噴出して笑う。
そんな中、シャドウが足元に落ちていた本を手にとってみる。
とマッシュ、セリスがそれは何だ?と思い三人がシャドウの後ろから拾った本を覗き込む。
「こ、これは・・・!」とマッシュが驚きの声をあげる。
『誰にでもわかる機械』『マンガでわかる機械』『これで機械音痴が直る!』
という、物は良かった。
以前帝国基地で魔導アーマーの操縦が出来ずにドカドカした男だからな。と、は思い三人の視線が釘付けになっている本を見やる。
『ちょっとエッチな本』って、何だ。
はそう思いシャドウが床に再度落とした本を見やる。
ついでに機械関係の本もばっさり落とすシャドウ。
それに気付いたカイエンが「あ!」と言い近付いてくる。
「駄目でござる! それは、拙者の大切な・・・!」
果たして大切なのは機械本か、ちょっとエッチな本か・・・。
は白い目でカイエンを見つつ、そんな如何でも良い事を考えていた。
セリスも同じ視線を送っていたらしく、カイエンはそんな女性二人の視線に耐えかねて「オホン!」と大きく咳払いをすると身体を此方へ向ける。
「いつぞやの手紙を待っていた娘が気になってマランダへ行ってみたのでござる。
娘は、返事はもう来ないことを知っていながら、それでも毎日手紙を書いていた・・・。
わしは、見るに見かねて・・・、 だが、手紙を書きながら自分でもあの娘と同じことをしていることに気づいた。
本当は前を向いていないと・・・。 もう、目を逸らすまい」
話を良い具合に誤魔化したな。
とはあえて言わず、はカイエンの言葉を聞いていた。
カイエンは妻子の事、ドマの事が忘れられないのだ。
そんな後ろばかり振り返っている自分と、ローラを重ねて同情の意で今は亡き恋人に成りすまして手紙を書いていたのだ。
でも、それだって彼女の逃げを作るという事。
それに気付いたカイエンは、あの終わりを告げる手紙を書いたのだろう。
カイエンは言葉を口にした後、机の上にある綺麗に封をされた手紙を手に取る。
「どうせ下書きは見たから分かるでござろうが・・・。
この手紙には真実を告げる内容が書いてあるでござる。拙者はこれをマランダのローラという女性に届けたい・・・」
「だったら、届けに行けば良いじゃないか」
はそう言い短めになったマントを翻し、出口へと向かい歩く。
そんなのセリスは「そうね」と言い微笑み、カイエンを見た。
「伝書鳩を飛ばして、まだ時間は経ってないわ。
ファルコンで追って、手紙を摩り替えてくれば良いのよ」
そう言いセリスはの後を追う。
そんな二人の言葉にカイエンは最初こそポカンとしていたが「名案でござる!」と言い自分も歩を進める。
カイエンの後に歩を進めたマッシュが彼の肩をポンと叩く。
「じゃあ、皆で行こうぜ!」
「応! でござる!
ほれ、シャドウ殿も行くでござるよ!」
手紙を大事そうに手の内におきながら、カイエンはシャドウを振り返った。
マランダの、以前訪れたローラの家に行くと、丁度彼女がまた伝書鳩から手紙を受け取る所だった。
ローラは達に気付くと「あら、」と言い微笑む。
「皆さんこんにちは。また少しお話して行かない?」
そう言い家のドアを開けるローラに、も微笑みを返し「では、お言葉に甘えて」と言う。
ちなみに今回はシャドウは飛空挺で待っているらしかった。ので今居るのはセリスとマッシュ、そしてカイエンだ。
四人でまたローラの家にお邪魔して、室内に綺麗に飾られている造花の花をまた見る。
ローラは入って直ぐにある所の机に手紙を置き、造花を飾りに奥へ一人で進んで行った。
その隙にカイエンが手紙を摩り替えた。
がカイエンを見、小声で「良いのか?」と問う。
それに彼は静かに首を振って答えた。
丁度その時に、ローラが奥から戻ってきた。
「・・・私、前に彼が手紙を書いてくれてるって、貴女に言ったわよね。
・・・でも、ほんとはね、このお花や手紙が彼からの物じゃないの。その事は分かっていたの。
でも、それを認めてしまう事が怖くて・・・自分に嘘をついていたの・・・」
彼はこんなに手先は器用じゃないもの。
ローラはそう言い、それでも嬉しそうに微笑みながら今送られてきた造花の一つを持つ。
「でも、もう大丈夫。どなたかは分かりませんが、その人が書いてくれた手紙を読む内に心の傷が癒えてきて・・・。
・・・きっと、その人も同じ様な傷を心に持った人・・・。出来れば、お会いしたい・・・。
そして、ありがとうとお礼を言いたい・・・」
ローラは最後はそう呟くように言い、ゆっくりと瞳を伏せた。
長い睫毛が小刻みに震えているのを、は黙って見ている事しか出来なかった。
少しだけ、沈黙が空間を支配していたが、カイエンが一歩前へ出てローラの肩に優しく手を置く。
そして、とても優しい口調で、こう言った。
「前を向いて生きなされ。 光は前からやって来る・・・」
カイエンの言葉にローラは瞳をゆるりと開き、「前を向いて・・・、」とカイエンの言葉を反復する。
胸の前で造花をきゅ、と握り締め、ローラはカイエンを見やる。
「光の来る方へ・・・・・・・。 私、頑張ります」
ありがとう。
最後にそう微笑んで、ローラは言った。
なんか当サイトで優遇されているローラ(何で)
カイエン加入!このままジドール行っちゃいなよ的なノリです。
カイエンが加入しましたのでドマ城にも行きます、でも子供組も拾います。
順番なんて言えない←
ていうかそろそろバンダナの男・・・!(おま、)