トン、とは地に足を着く。

そして、心配げに此方を見詰めてくるセリスに苦笑を返す。

ごめんと、ありがとう。 その両方の意味を込めて。


































ゾゾでカイエンと再会した後、はティナの様子が気がかりになっていたのでモブリズへ行く事を提案した。
だが、それと同時にジドールの富豪、アウザーの所で絵描きの少女が居るという情報も入手した。
別に片方に行ってからでも良かったのだが、はどうも嫌な予感がしてならなかった。

という事で、はモブリズへ連れて行ってもらう事にした。
ティナの様子を見た後、獣ヶ原でガウとウーマロと合流して此方は此方で他の仲間を探す、という事だ。
それにセッツァーとセリスはあまり良い顔をしなかったが、渋々了承してくれた。

は一人、モブリズで降ろしてもらう事になった。
モブリズからニケアへ行けば船に乗せてもらえる。頼んでナルシェへ行き、またレオの手を少し借りて獣ヶ原に向かいガウとウーマロと合流すれば・・・。
と、は思い荷物を纏めていた。

一人で行こうとするにシャドウが声をかけたが、それをはやんわりと断った。
理由は一つだ。これは予想でしかないが、きっとシャドウはあの子をずっと影から見ていたから。
マッシュやエドガーもに声をかけたが、こっちはキッパリと断られた。
そんな様子を見ていたセリスとセッツァー、カイエンは絶対無理はしないようにと強く言い、に注意した、

心配性だな、と笑って言ったらセリスが物凄い勢いで迫ってきて「当たり前でしょ!?」と言った。

酷く、驚いて、セリスの剣幕に思わず一歩後ず去ってしまった。

そんなにセリスは腰に手を当てて迫り、「良い!?」と問うてくるのでは条件反射で「はい」と返事してしまう。


「絶対に一人で突っ走った行動は取らないでよ! 貴女は前科があるんだからね!!」


「分かったなら絶対に無理しないでよね!」と言われた。
は瞳を真ん丸にしたまま口元を少し引きつらせ、「は、はい・・・」とだけ答えた。

正直セリスの剣幕に押されたとも言う。

そう答えたに「本当に分かってるの?」と言って見てくるセリスに困っていると、マッシュが苦笑して近付いてきて彼女を落ち着かせてくれた。
そんな彼もを見下ろすと、「気を付けるんだぞ」と優しく言った。

自分を見てくる他の仲間に、大きく頷きを返しては微笑んだ。

そして「気をつけて、行って来る」と言った。





























そんな事を思い出しながらは離れて行く飛空挺・ファルコンを見送った。

さて、と思い取り合えず地に置いておいた荷物を手に取る。
辺りを見渡して、何の気配も感じ無い事から自分が今、一人なのだと改めて実感する。


(久しぶり、だな。 一人は)


ナルシェでの依頼を受けてからずっとロックやティナ達と一緒に居た。

一人で居る機会なんて、思い返せば無かった。

何時も傍に、誰かを感じていて、


其処まで考え、は(嗚呼、)と思い空を仰ぐ。


(これが、人と生きるという事か、)


気付けば当たり前になっていた。

周りは皆敵、気を許してはいけない、決して。

幼い頃からそう自分に言い聞かせてきて、其れをずっと守ってきていた。

でも、今は、


(昔とは違う)


そう思い、銃を背負い直す。


黒ずんだ世界にしか見えなかったが、皆と出会えて、黒の中にある白を見つけた。

闇の中で輝く宝石とも言える。

全部が闇では無かった、

自分で耳を、目を塞ぎ、闇の中にまた闇を作っていたのだ。

そのせいで、周りで輝く宝石に気付けなかったんだ。

でも、今は違う。 ハッキリと見える。


(人の心の中にある、輝く宝石、)


首が痛くなってきたので、顔を俯かせてはゆっくりと瞳を伏せる。


(世界も、捨てたもんではないんだな、やっぱり)


以前の自分だったらこんな崩壊した世界を見てどう思っただろうか、

きっと「仕方ない」と割り切って放置していただろうな。


そう考え、はクスリと笑みを零して首を動かす。

取り合えず、視界に入っているモブリズへ行こうか。
そう思い、は歩を進めた。




















モブリズに足を一歩踏み入れた時、村の中の騒がしさに気付いては足を止めた。

バン!と大きな音を立てて以前入った家の中から男の子が出てくる。
彼はと目が合うと「この間の・・・」と呟く。

覚えているなら好都合だ、とは思い彼に近付きつつ「どうしたんだ?」と問いかける。
優しく問いかければ、男の子は焦った様子で、瞳を微かに潤ませながら拳を振り下ろして口を開く。


「カタリーナが居なくなっちゃったんだ!!」


切羽詰った表情で、そう言われる。
はそれに小首を傾げ、「カタリーナ?」と問い返す。
すると彼は「ディーンの彼女だよ!居なくなっちゃったんだよ!!」と言い走り出した。

どうやらこの騒ぎはカタリーナを探しての騒ぎらしい。

は取り合えずティナに話を聞こうと先程男の子が出て行った家へ入る。

中に入ると、以前此処に来た時に会ったディーンが居た。

ディーンは誰かが入ってきた気配にハッと顔を上げるが、の姿を確認した途端に落胆の表情を浮かべた。
その状態のまま、「確か、前に来た奴だよな」と言う。
はそれに頷き、腕を組んでディーンを見下ろした。


「少し様子を見に来たんだが・・・。何だか騒ぎになっているようだな」

「・・・・・・」

「恋人が居なくなったのだろう? 探しに行かないのか」


がディーンを見下ろしたままそう言うと、彼は膝の上で組まれていた手をぎゅ、と強く握り、眉を潜めた。
微かに口元を動かし、ディーンはを縋るような目で見上げる。

それには小首を傾げ、「どうした」と短く問う。

そんなにディーンは「カタリーナは此処の地下に居る・・・」と呟く。
ティナも一緒だ、と付け足してディーンは瞳を細める。


「俺・・・どうしていいかわからなくて・・・・・・。 カタリーナのお腹には俺の子が・・・・・・!」


はディーンの言葉に瞳を大きくした。

が、直ぐに何時もの表情に戻ると、「・・・それで?」と言いディーンを見下ろす。


「お前とカタリーナの間に子供が出来た。それは喜ばしい事じゃないのか?」

「嬉しいさ!!決まってるだろ!!」


の言葉にディーンは声を張り上げて即答したが、直ぐに消沈した様子で「でも・・・」と小さな声で言い俯く。


「・・・どうしていいか、分からないんだ・・・・・・!!」


子供が出来たと言われた。

嬉しかった。

でも、酷く戸惑いを感じた。


ディーンは途切れ途切れにそう口にした。

そんなディーンの様子を見ていたは大きく息を吐き、一歩彼に近付く。

「よし」と言いディーンの目の前に立ったは彼が自分を見上げた事を確認し、握り拳を彼の顔の前に出す。

そして、ニコリ、と微笑んで口を開く。


「大馬鹿者め」


天使のような微笑を浮かべつつ、酷く冷めた声でそう言い放った

彼女の拳はディーンの鳩尾に見事に決まった。


ガタンと大きな音を立てて床に転がるディーンを冷めた目で見下ろし、は「フン」と鼻を鳴らす。

そして腰に手を当てて、口を開く。


「こういう時に男のお前がうじうじぐだぐだしていてどうする、馬鹿男め」

「ッツ・・・・・・!」


何も反論せず、涙目で自分を睨み上げてくるディーンには意外と効いたのか、と思いつつ続ける。


「カタリーナのお腹に、お前との間に出来た赤ちゃんが居るんだろう?」


腰を折って、ディーンを覗き込むように座っては言う。


「・・・赤ちゃんは、お前等の愛の結晶だろう?
 母親の胎内で育ってから、外に出てきて、初めてご対面だ。その瞬間を考えてみろ」


きっと、酷く嬉しい気持ちになるんだろうな。

はそう言い、「母親は、」と続ける。


「今、初めての体験に戸惑っているのだろうな。
 お腹の中に、もう一つの命があるんだ、自分の子供の。 ナーバスに陥ったりだってするだろう。

 それを今お前が支えないで、更に追い討ちをかける行動をしてどうするんだ」


大馬鹿男め。

は最後にそう言い捨てると、奥へ進んだ。

確か地下に居るんだったな。と思い歩を進めていくと、ティナとカタリーナの姿が見えた。
「ティナ」と声をかけると彼女は直ぐに振り返り、「!」と言い近付いて来た。

彼女の様子も、何処か不安げだ。


「どうして此処に・・・」

「少し様子を見に来たんだが・・・」


そう言い、椅子に座っているカタリーナの方を見やる。
の視線を追ったティナは、少しだけ俯いたが、嬉しそうに微笑んだ。


「カタリーナに子供が出来たの」

「おめでただな」


微笑んではカタリーナを見やる。
カタリーナはそんなに少し照れたようにはにかんで、「ありがとう」と言う。

だが、直ぐに表情に影を落としてしまう。


「赤ちゃんが出来たのは凄く嬉しい・・・。 でも、それを言ったら、ディーンが冷たくなって・・・」


ディーンは、迷惑だったのかしら。


目元をひくつかせてそうポツリと呟くカタリーナ。

恋人にこんな顔をさせるなんて、とは思いながらカタリーナに一声かけようとする。

が、直ぐに其の必要は無い事を理解し、口を閉じる。

それと同時に、「カタリーナ!」と言いディーンが室内へ入ってきた。

彼は一直線にカタリーナの下へ向かい、彼女の手を両手で包み込んだ。

カタリーナの少しだけ潤んだ瞳を見、ディーンは「カタリーナ・・・」と酷く申し訳無さそうに言い、きゅ、と彼女の手を握る力を込める。


「ごめんよ・・・、俺、どうしたらいいか分からなくなって・・・。
 ・・・自分が情けないよ。 俺、しっかりする。だから、一緒に頑張ろう!」


真っ直ぐにカタリーナを見詰め、そう言うディーン。

そんな彼の言葉を聞いたカタリーナはとても嬉しそうに瞳を細め、小さく頷いた。

その拍子に、瞳に溜まっていた涙がぽろりと落ちる―。



なんて、うつくしいのだろう。



はそう思い、目の前で行われているディーンとカタリーナの愛を見詰めていた。

美しいと思うと同時に、酷く羨ましく感じる。

が、自分はそれは望めない事だと理解しているは、何処か諦めた様子で瞳を伏せて微笑んだ。


(赤ちゃん、か)


愛するもの同士が愛を育んで、出来る愛の結晶。

なんて愛しい存在なのだろう。


そう思いつつ、何処か遠くをぼう、っと見詰めていたの耳に、急に慌しい足音が入ってきた。

何だと思いつつ部屋の入り口の方を見ると、一人の男の子が肩で息をしながら酷く焦った様子で「大変だ!!」と言う。



「フンババがまた攻めてきた!!」




此処はディーンの馬鹿!って言いたくなるところですよねー

さぁ次はフンババ戦ですよ。