「お願い!フンババを倒して!!」
大きな瞳に不安の色を濃く浮かべ、子供がを見上げる。
他の子供達もに寄ってきて「ねぇ、」と声をかけてくる。
「お姉ちゃん、この前だって強かったじゃん!今回も追い払ってよ!」
「お願い!」
は見上げてくる子供達を視線だけで見た後、大きく息を吐いてティナを見た。
その視線にティナはビクリと肩を揺らしたが、を見る視線は外さなかった。
はそんなティナを安心させるように微笑み、背から銃を降ろす。
「ティナは此処で皆を守ってやれ。 フンババなら倒してきてやる」
「・・・」
「ディーンとカタリーナも居るんだ、大丈夫。守ってやるから」
はそう言って微笑むと、金色の髪を舞わせながら駆けていった。
そんなの後姿を見ながら、ティナは胸の前できゅ、と手を握り、俯く。
俯いたティナの傍に居た子供達が「ママ?」と言いティナのスカートの裾を握る。
(私は・・・、)
何時から、こんなに弱くなってしまったの・・・?
お互い預け合っていた背を、今は見ている事しか出来ない。
ティナは今の現実に歯痒さを覚え、唇を噛み締めた。
一緒に戦ったら、足手まといになる。
なら、せめて、
ティナはそう思いディーンとカタリーナに顔を向けた。
近付いてくる物体に標準を合わせながら、は自嘲気味の笑みを浮かべた。
それは自身に対する笑みだった。
(本当に、あいつのせいでとんだお人好しだ)
そう思い、彼の事を思い出す。
そうすると、先程の自嘲じみた笑みは消え、穏やかな笑みを自然と浮かべていた。
彼の事を思い出している内に、先程自分が言った言葉を思い出す。
先程自分はティナに守ってやると言った。
考えてみればその言葉はロックの専売特許のような感じの言葉だったな、と思いは引き金を引いた。
ガウンッ!と大きな音を立ててフンババの巨体に銃弾が命中する。
組み立て式のバズーカを予め準備しておいて正解だった。と、は考えながら地面に刺しておいたライフル銃を手に取って走る。
銃撃を喰らってよろけたフンババに一気に近付き、飛び蹴りを食らわす。
その丁度当たったフンババの頭を台にしてまた飛び、銃を撃つ。
着地をする際にズザ、と足の裏が地面の上を擦れる感覚がした。
片手を地に着きながら滑りを止め、すぐに体勢を立て直して今度は意識を集中させる。
(今は一人だ・・・! 頼む、力を貸してくれ!)
心の中でそう言うと、胸の辺りが急に熱くなった気がした。
これは、彼の者が答えてくれた合図―。
パリ、と音を立てて身体から電流が出て、走る。
目を閉じて、手を前に出す。
「サンダガッ!!」
がそう叫ぶように言った瞬間、爆音が響きフンババに雷が落ちた。
パリ、と身体から放たれる電流。
それを気にする事無く、は銃口を焦げたフンババに向けた。
そして、容赦無く発砲する。
フンババを撃ちながら、身体の心地よさを感じていた。
以前は、この状態になれば唯苦しくて、痛くて、酷く辛かった。
でも今はどうだろう。
苦しいどころか、逆に酷く心地良いのだ。
ケツァクウァトルの気が流れ込んでくる。
それは以前とは違い酷く安定していて、何だか胸が熱くなった。
―がそう思いながらフンババにトドメを刺そうとした瞬間、最後の力を振り絞ったのか、急に起き上がってきた。
ハッとして直ぐに銃を再度構えようとしたが遅く、フンババの拳が繰り出された。
「!!」
その声に唖然としかけていた自分に気付き、は地面を蹴って後ろへ飛ぶ。
先程までが立っていた所に、フンババの大きな拳が埋め込まれていた。
それと同時に飛んだ地面の破片がに襲い掛かり、は腕を顔の前でクロスさせて防ぐ事しか出来なかった。
ズザ、と擦れた音を立てて地面に背から落ちる。
背から勢い良く落ちたせいで、一瞬息が出来なくなる。
息を詰まらせ、苦しげな表情をするを見、先程彼女の名を呼んだ人物は思わず駆け出した。
「!!」
「ッ・・・! ティナ!来るな!」
駆け出してきたティナの姿を視界に納め、はそう叫ぶように言い近くに落ちた銃を手探りで取る。
そして拳を再度繰り出して来たフンババに身体を向け、拳を足と銃で受け止める。
上半身は起こしていたが、力押しをされは再度地に背を着けてしまう。
―足と手に激痛が走る。
フンババの拳を必死に受け止めながら、は苦痛に眉を顰める。
そんなを見ながらティナは焦った様子でまた駆け出そうとしたが、足を止める。
無意識の内に、以前自分が武器のソードを仕舞っていた場所に手を回したが、其処には何も無かったのだ。
「ぁ・・・、」と短く声を上げ、瞳を大きく開く。
―その時、
「ッ、あああっ!!」
「! !!」
ぐ、と上から強く押されての身体が地面に埋まりかけていた。
フンババの拳を止めている腕と足は限界なのか、ガクガクと震えている。
身体に走る激痛には堪らなくなって声を上げた。
ティナは苦しむを助け出す術を持たない自分を、呪いたいほど悔やんだ。
両掌を前に出して、何とか魔法を放とうとするがどうしても何も出ない。
何も、感じない―。
その事実に更に歯痒さを覚え、ティナは奥歯を強く噛んだ。
「・・・・・・して、・・・、」
「私、友情とかそういうの、分からないの」
「・・・当に忘れていた感情だ」
「・・・友達に、なれるのかしら」
「ん?」
「私とレイナ、友達に、なれるのかしら・・・?」
そう言った私に貴女は、
「なれたらいいな」
私の肩を叩いて、すれ違い様にそう言った。
「・・・ど、・・・・・・して・・・、」
「如何やらこの娘は帝国に操られていた様です」
「伝書鳥の知らせで、大凡は聞いておる。
―帝国兵50人をたったの3分で皆殺しにしたとか――・・・「いやああぁぁぁ!!」
その言葉を聞いた瞬間、閃光が走ったかの様に目の前が真っ白になって、脳裏に色々な光景が浮かんだ。
堪らなくなって、私は隣に居たレイナに抱き着いてしまった。
は黙って支えてくれて、私を落ち着かせる為に背を撫でてくれた。
「バナン様っ・・・!酷すぎます!」
「逃げるな!」
その言葉に、また肩が跳ねる。
そんな私の背を、はずっと優しく撫でててくれた。
「こんな話を知っておるか?
未だ邪悪な心が人々の中に存在しない頃、開けてはならないとされていた一つの箱があった・・・・・・。
だが、一人の男が箱を開けてしまった。中から出たのは、あらゆる邪悪な心・・・・・・。
嫉妬・・・妬み・・・独占・・・破壊・・・支配・・・・・・。だが、箱の奥に一粒の光が残っていた。希望という名の光じゃ。
どんな事があろうと、自分の力を呪われたものと考えるな。おぬしは世界に残された最後の一粒。「希望」という名の光じゃ。
其れは狙撃の・・・・・・お前もじゃ」
に抱きついたまま、言葉を聞いていたら間近から小さな溜め息が聞こえた。
希望、希望って、一体何なの?
そう疑問を抱いていたら、間近から酷く冷たい声色が響いた。
「下らない」
言葉とは裏腹に、酷く優しい手つき。
「聞こえなかったか? 下らないと言ったんだ。
結局お前は何が言いたい?私とティナにお前等の希望とやらになれとでも言いたいのか?
・・・そうだろうが、私から見ればお前の思考はお前の言った邪悪な心なのだが」
「ッ・・・!・・・してっ・・・!」
「あの・・・・・・!」
「その、」とまで言うけど、口篭ってしまう。
そんな私にはにこりと微笑んで手を差し出してくれた。
「おかえり」
「・・・・・・ただいま・・・!」
じわり、と視界が滲む。
「会いに行くから!!」
向こう岸で、叫ぶ。
が叫ぶところ、初めて見た。
は何度も咳き込んだけど、私に向けて何度も何度も言ってくれた。
「必ず・・・必ず行くから!!」
苦しそうに、喉を押さえながら、はとても綺麗に微笑んで、
「会いに・・・行くから・・・!」
そう、言ってくれた。
「どうしてっ・・・!!!」
何も、出来ないの・・・!
ティナはそう苦しげに呟き、手を震わせた。
はあんなに何度も私を助けてくれた。
私に希望をくれた、何時だって、私を支えてくれた!
なのに、なのに、
私は、何も出来ないなんて!!
ティナはぎゅ、と強く瞳を閉じて指先にまで力を入れる。
助けたい、を、私は・・・、貴女を助けたい!
強くそう思った瞬間、指先から風が巻き起こった気がした―。
「それが、友達という物さ、」
の言葉が、心を温かくした。
ティナはゆっくりと瞳を開け、地を蹴った―。
次回、ティナ覚醒。