手を振り上げると、その掌から魔力の渦が生まれた。
突然の衝撃に吹き飛んだは地に座り込みながら、唯それを見ていた。
手をゆっくりと、フンババに向けて降ろすと物凄い炎がフンババを襲った。
最高級の魔法であろう炎はフンババを包み込み、轟々と燃え盛った。
(何て、威力・・・!)
炎が消えた時には、フンババの姿は消えていた。
倒したのだ、と安堵すると同時に、は眼前にふわりと舞い降りてきた存在を見上げる。
その姿を見、は吃驚して瞳を大きくする。
「ティナ・・・!」
其処に居たティナは、以前なった幻獣化―、トランス状態になっていた。
トランス化したティナは、に向けてそっと手を差し伸べて来た。
何時もとは違い桃色の毛並みの手を掴み、は立ち上がる。
「ありがとう、ティナ。 ・・・・・・魔力が戻っ――「ママ!!?」
の言葉を遮って、子供達が続々と家の中から出てきた。
カタリーナもディーンに支えられて出てきている。
子供達はとティナに走って来たが、ティナの姿を目に留めると肩をビクリと跳ねさせて立ち止まる。
その目には、怯えの色が浮かんでいた。
「また怪物だあ・・・」
一人がそう呟き、縮こまる。
それに他の子供達も続くように「怖いよー・・・」と、口にしてしゃがみ込んだり、逃げようとする。
そんな子供達の様子に、ティナは悲しげに瞳を伏せた。
はそんなティナに気付き、口を開こうとするが、子供達を見た時にあるものが目に入り、其れを止めた。
一人の女の子が、ティナを丸い瞳で見上げていたのだ。
その子の瞳には不安も、怯えの色も無く、唯純粋にティナを見ているようだった。
女の子は怯える子供達の間を通り、真っ直ぐに俯いてしまったティナに歩み寄った。
そして背伸びをしても届かないティナの手に触れようと、懸命に両手を伸ばしてにこりと微笑んだ。
「ママでしょ?」
子供の高い声に、ティナはハッとしてその女の子を見る。
ティナが自分を見た事が嬉しいのか、女の子は更に微笑み、「あたし、分かるよ!」と言ってティナに手を伸ばす。
それを唯呆、と見ている事しか出来なかったティナの肩をがポンと軽く叩く。
ティナは直ぐにハッとして、怖怖と女の子に手を伸ばす。
手が届く範囲になると、女の子は小さな掌を両方使って、ティナの手を包み込んだ。
そしてまた、にこり、と笑った。
そんな二人の様子に、怯えていた子供達が「えっ、ママ?」と言い恐る恐る近付いてくる。
カタリーナも「ティナ?」と言いディーンと共に歩み寄る。
ティナはその言葉に頷き、嬉しそうに微笑んだ。
そんなティナに、子供達が「ママ!」と口々に言い駆け寄る。
ディーンも嬉しそうに「ティナ!」と言いカタリーナと共に近付く。
一時はどうなるかと思ったが、良い方向に傾いたみたいだ。
はそう思い、安堵の息を吐いてその場を去ろうとする。
数歩歩いた時に、背後から「待って!!」という声がした。
は首を少し動かし、何時の間にかトランス状態から戻っているティナを見る。
「何だ?」と問いかければティナは胸の前で手を組み、一歩踏み出してくる。
「・・・その、・・・!」
「ティナ」
は顔を前に戻し、口の端を上げて言う。
此処、モブリズにはティナを必要としている人が沢山居る。
たとえ力が戻ったからと言っても、共に行く事を強要する事は出来ない。
だから、
「ティナの好きにすると良いさ」
そう言うの背後で、地を軽く蹴った音がした。
何かと思いが振り向いた瞬間、正面からティナが飛びついてきた。
突然の事に驚き、が目を見張っていると、ティナはの両肩に手を置いて真正面から彼女を見た。
「、私の意志はもう決まっているの」
「・・・子供達や、其処の夫婦は良いのか?」
がそう言うと、ティナは微笑んで振り返った。
子供達を見ながら、ティナはゆっくりと口を開く。
「私ね、何となくだけど分かりかけたの。
私の中に芽生えていたのは、きっと・・・愛する』と言う事・・・。
今ある命だけじゃなく、これから生まれてくる命も沢山ある。 それを守るためにも、私は戦う!」
ティナがそう言うと、子供達は「ママー!」と言い駆け寄ってきた。
その顔には悲しみが浮かんでいたが、子供達は口々に「行ってらっしゃい!」「気をつけてね!」と言った。
ティナはそれに頷き、口を開く。
「ディーン・・・カタリーナと彼女のお腹の子は貴方が守るのよ!
皆・・・、ママは皆の未来を守りに行く。 そして、必ず帰ってくる!」
「ママ・・・僕泣かないよ!」
「私も!!」
「必ず帰ってくるんだもんね!」
「だったら・・・頑張る!」
子供達にそう言われ、ティナは頷き、「ありがとう」と言い微笑んだ。
「皆のおかげで、分かりかけてきた・・・。
私、戦える。皆の命を守るため! そして新しい命をこの世界に育むため!」
ティナはそう言い、を見た。
そして少しだけ笑い、の手をそ、っと取る。
それにが小首を傾げていると、ティナが「、」と呼ぶ。
「私、の為にも戦うわ。 私、貴女の手助けをしたいの、ずっと!」
「ティナ・・・」
「何時も守って貰ってばかりだった、ずっと・・・。
だから、私は守ってもらった分、を守るわ!」
ティナは其処まで言い、が申し訳無さそうな表情をしている事に気付き、「あ、」と言い少しだけ悪戯っぽく笑う。
「別に、恩返しがしたいから、とか義務だからとか、お堅い理由じゃないの」
「え?」
ティナはの手をきゅ、と握り綺麗に微笑んで言った。
「友達を助けたい、唯それだけなの」
そう微笑んで言ったティナに、は何だかたまらなくなって正面から抱きついた。
きりが良いので此処まで。
次回はもっと長いです(笑)