ケリを着けたかったのかもしれない。
否、しれないでは無くて、したかったんだ。
愛していた彼女へ、犯してしまった過ちの清算を。
そして、今愛する彼女を、守る決意を。
其れを、ハッキリさせたかったんだ。 きっと、
元帝国空軍の機体を使用して、とティナはロープを使ってフェニックスの洞窟に降り立った。
上空に留まる機体では元帝国軍兵とレオが待っている。
は軽く手を振って、行って来る、と合図を送ると歩を進め始めた。
それにティナも続きながら、魔物の気配を感じるので腰に下げていたソードを抜く。
(こんな魔物の気配が沢山ある中、お前は一人で進んだのか・・・?)
愛しい彼女の為に、
そう考えると、胸が内側から痛んだ。
(ロック・・・)
早く、お前に会いたい。
何処に居るんだ? お前は―――、
はそう思いながら、真っ暗な闇の中へと躊躇無く足を踏み入れた―。
相手の懐に飛び込んで、短刀を一気に貫き立てる。
そしてそのまま真上へと切り上げて、後ろへ飛ぶ。
先程まで俺が居た場所には魔物の身体から噴出した血が降り注いでいた。
今更、大量の魔物を相手にして返り血だらけの自分だけど、出来れば避けたかった。
そう思いつつ静かになった辺りに、もう魔物の気配が無い事を確認して俺は短刀を腰の鞘に刺す。
大分奥まで来た。
何日か前からこの洞窟に入って、片っ端から探して探して、宝を手に入れた。
でも一番欲しい宝は未だ見つかっていない。
もう何日、この暗い洞窟の中に居るだろう。
真っ暗な、中、一人で、
そう思うと、何だか急に身体に力が入らなくなってその場に座り込む。
ジャラジャラと腰に下げていた袋が金属音を立てる。
それが酷く耳障りで、それでも静寂の中に自分以外の音を感じる事に、酷く安心した。
(独りだ)
そう思い、ゆっくりと目を閉じる。
閉じても、暗闇があるだけで大して変わらなかった。
寧ろ、自分は今目を閉じているのかさえよく分からなかった。
また目を開けてみると、チカリ、と暗闇に慣れた目を刺激するライトの光。
これが消えれば、それこそ目を開けているのか、いないのかが分からない暗闇の世界になるだろう。
黄色いライトの光に視線を移し、俺は瞳をまた閉じる。
そうしたら、残像が瞼の裏に残る。
淡い、金色の光―、
「・・・後で・・・、話したい事があるんだ。 たくさん、」
「・・・・・・うん、私も、お前に言いたい事がたくさん、ある」
そう言った俺に、お前は微笑んでそう言ってくれた。
言いたい事は沢山あるんだ、
レイチェルに関して、に関して、まだまだ、沢山、
「・・・だから、 死なないで――――、」
――俯き気味にそう言ったが、何だか酷く儚く見えて、消えてしまいそうで、
酷く、不安になった事を覚えている―。
(・・・俺は、死ぬ訳にはいかないんだ・・・)
フェニックスの魔石を手に入れて、生きて戻って、真剣にレイチェルと向き合うんだ。
もう、逃げたりなんかしないで、真正面から向き合うんだ。
そして、願わくば―――、
君をもう一度、抱き締めたい。
脳裏に浮かぶ彼女の姿、
それを想うと、不思議と何度でも頑張れる気になれた。
「、貴女は本当に良いの?」
真っ暗な洞窟の中、達はランプを使用して進んでいた。
辺りを警戒しながら進むに、後ろを歩いていたティナが呟くように言う。
それにが「何が」と問えばティナは「良いの?」と再度問うてきた。
そんなティナには溜め息を吐いて口を開いた。
「言っただろう・・・?想えるならロックがレイチェルさんの所へ行っても良いと」
「それは唯の強がりだわ」
ティナはキッパリとそう言い、「私、ずっと考えてたの」と言ってを真っ直ぐに見る。
考えていた、とは恐らくナルシェで話していた内容についてだろう。
何故愛し合っているのに、はそんなに諦められるのか。
ティナにとってずっと其れは疑問であったし納得出来ないものだった。
「、貴女は何時も溜め込みすぎだと思うわ。もっと自分に正直になって、気持ちをぶつければ良いと思うの」
「そんな事は無い」
「いいえ。 何時も溜め込みすぎなの、だから爆発しちゃうのよ・・・」
「・・・ティナ、」
は何処か困ったように笑みを浮かべていた。
が、それはランプが傾けられた事により彼女の表情を確認する事は出来なくなってしまった。
ランプの明かりが傾けられた先を照らす。
ティナが其方に目をやると、明らかにトレジャーハンティングされた形跡があった。
「これは・・・」とティナが呟くとは頷いた様子だった。
荒々しく荒らされた箇所。
それは、彼がどれだけ必死でどれだけ焦っているのかが見て取れた。
レイチェルさんの為に―、
そう思ったティナはハッとしてを見やった。
が、相変わらずの表情は暗闇に飲まれていて確認は出来なかった。
表情は確認出来ないが、のランプを掴む手が小刻みに震えているのに気付き、ティナは「・・・」と彼女の名を呼ぶ。
はそれに答えず、踵を返して「行くぞ」とだけ短く言った。
そんなの後を着いて歩きながら、ティナはずっと考えていた。
どうして、貴女は何時もそうなの?
どうして、自分に素直になれないの?
どうして、ロックに想いを伝えないの?
貴女が想っている事を、どうして―――、
「ティナ、」
そう考えていると、がポツリ、と小さい声を零す様にティナの名を呼んだ。
無言でティナはを見ていると、肩を微かに震わせながらは呟いた。
「私は、皆が思っているよりずっと醜くて我が儘だよ・・・」
だって、こんなにも――、
そこまで言い、は言葉を噤んだ。
うじうじ。
彼女は突然ネガティブになる←