やったのか!?
そう思いスコールが瞳を開くと、其処には暗闇しかなかった。
何事かと思うと、隣にはが同じ様子で立っている。
自分だけが引き込まれた状態ではないらしい。
と、すると。
(これは時間圧縮の現象か、)
スコールはそう思い、付近で倒れている仲間達にも視線をやった。
リノアが皆の傷を癒している最中で、特に問題は無さそうだった。
辺り一面暗闇なのに、床は絨毯のような踏み心地。
不思議な感覚だ、と思いながらスコールはガンブレードを構えた。
前方に気配を感じたのはも同じだったようで、同じく双剣を構える。
前方に現れた者は、恐らくアルティミシア。
先ほどまでの憎しみに満ちた表情が、寧ろ顔が消えた。
顔の部分には金色の光が舞うだけで、表情は伺えなかった。
身体も、大きくなり、手も長く、指先は長い爪で尖っている。
どうやら自分達が立っているのは彼女のドレスの上らしい。
それを理解したは、双剣を構えつつもアルティミシアを見やる。
「私はアルティミシア。すべての時間を圧縮し、すべての存在を否定しましょう」
アルティミシア。
果たして上にある動いている其れが本体か。
それとも身体の下のほうで、唯ぶら下がるだけの存在が本体か。
それは彼女自身にしか分からない事だろう。
(・・・魔女の、意思・・・)
魔女、ハインの意思としてのアルティミシアか。
それとも、騎士を想うアルティミシアか。
その、唯紅紫の瞳を真っ直ぐに此方へ向けて、長い髪を無造作に揺らし。
身体に戒める様に巻かれて拘束されている彼女。
は何だか段々やりきれなくなり、戦闘へ意識を戻した。
アルティミシアは両手を広げ、魔法を放つ。
"ヘル・ジャッジメント"
それは背後に居た仲間達に襲い掛かり、光が弾け飛ぶ。
それは致命傷を与える魔法のようで、命は奪われない様だったが、
「ッ〜!待ってらんない!ケアルガ×3っ!」
痛みを耐えながら、セルフィがスロット魔法を放つ。
それにより傷を癒したアーヴァイン、リノア、キスティスが立ち上がる。
アーヴァインはすぐさま倒れたセルフィに駆け寄り、回復魔法を放つ。
キスティスは未だに立てないリノアをその場に置き、ゼルの回復を始めた。
は兎に角アルティミシアに攻撃をしかけようと魔法を放とうとしたが、
時間圧縮の空間の中へ、ファイガやブリザガの魔法が吸い込まれていった。
スコールも同じのようで、徐々にアルティミシアに力を奪われていっているようだった。
「思い出した事があるかい、子供の頃を」
(お兄ちゃん・・・)
アルティミシアがぽつりと呟く。
「その感触、その時の言葉、その時の気持ち」
(お兄ちゃん、「待っててな」、寂しいよ・・・)
魔法攻撃を放ちながら、彼女は続ける。
「大人になっていくにつれ、何かを残して何かを捨てていくのだろう」
(私はお兄ちゃんを探す。村を出て、SeeDになって・・・)
ぽつりぽつりと呟かれる言葉。
は魔法のダメージを喰らいながらも、反撃の手を緩めない。
「時間は待ってはくれない」
(・・・私は、今が凄く好き)
スコールも、ガンブレードを振るう手を止めない。
「握りしめても、開いたと同時に離れていく」
(皆が居て、こうしてスッコーに触れていられる今が、ずっと続けば良いのになって何時も思う)
奪い取られたせいで、ストックが空になった魔法。
アルティミシアから直々にドローをし、は精神を集中させた。
「そして・・・、」
(でも、そんなの、)
「私は」
がくるりと回って魔法を放つ。
「分かってる。 時間は待ってなんかくれないって」
痛いくらい、分かってる。
「だから、"今"が大好き。"今"を大切にしたい。
・・・消させないよ、時間圧縮なんて、絶対させないんだから!!」
アルティミシアからドローした魔法・アポカリプス。
究極魔法を放ち、アルティミシアを閃光に包ませた。
大きな爆発があった後、辺りは一面、反転して真っ白な世界へと様変わりする。
キラキラと舞う光が、皆の傷を癒していく。
真っ白い世界の中、声が響く。
「終わった? 帰ろ〜! 僕達の時代へ帰ろうよ〜!」
「落ち着いて!落ち着いて帰る場所を思い浮かべろ!」
「時代を間違えないように〜!」
「時間の歪みに落ちないように!」
「みんなの場所、みんなの時代へ!!」
それぞれ、仲間の声が響く。
「約束の場所へ! スコールと約束した、あの場所へ!」
最後に愛しい人の声を耳にして、スコールは落ちた。
気がつけば、スコールだけが暗闇の中を走っていた。
『スコール!』
どこからか自分を呼ぶ声がする。
『どこ!?スコール! 一緒に帰ろうよ!』
約束の場所へ向かわなければ。
そう思っても、
(・・・どこだ?)
兎に角走ってみるが、何処へも辿り着かない。
その時、
「スコール!何処へ行くの!?」
昔、慣れ親しんだ優しげな声が響く。
暗闇の中、背後から過去の自分が走ってきた。
子どものスコールは腰に手を当て、「おねえちゃんをさがすんだ!」と言い切った。
そのまま走っていったが、彼がこの後如何する事かなんて、スコールには分かりきっていた。
「スコール!」
(・・・ママ先生・・・)
過去のイデアが、其処には居た。
彼女がゆっくりと此方へ歩み寄ってくる中、周りの景色が段々と現れてくる。
そう、過去の孤児院へスコールは居た。
イデアはスコールに「すみません、」と声をかけてくる。
「小さな男の子が来ませんでしたか?」
そう尋ねてくる。
これはエルオーネの力でジャンクションした時とはまるで違っていた。
そう、これは"過去"であり、スコールにとっては"今"なのだ。
「心配しなくても大丈夫。結局、あの子は何処へも行けないんだ」
過去の自分の行動なんて、自分が一番良く分かっている。
「私もね、そう思うわ。可哀想だけど仕方がないもの」
そう言いイデアが哀しげに微笑んだ直後、
背後で紫の噴煙が起こり、其処からアルティミシアが姿を現した。
「・・・生きていたのか!?」と言いスコールは思わずガンブレードを構える。
イデアは瞳を細めて、アルティミシアを見やる。
「・・・魔女ね?」
「そうです、ママ先生。俺達が倒したはずなのに・・・ママ先生、退がってください」
「大丈夫。もう戦う必要はありません」
そう言いイデアはスコールを制してアルティミシアに一歩ずつゆっくりと近付いていく。
「その魔女は力を継承する相手を捜しているだけ。
魔女は魔女の力を持ったまま死ねません。私も・・・魔女だからわかります」
ふらつきながらも歩くアルティミシアに、イデアは近付いていく。
「私がその魔女の力を引き受けましょう。子供達を魔女にしたくありません」
そう言いイデアが近付くが、アルティミシアはそれを拒んだ。
「まだ・・・消える訳には・・・いかぬ・・・」
が、既に消滅しかけているその身。
光が舞い、イデアの中へと一気に吸い寄せられていった。
「ママ先生!」
光の粒となって消滅したアルティミシア。
魔女の力の継承を受け、倒れ込んだイデアにスコールが駆け寄る。
「これで・・・終わりかしら?」
「・・・恐らく」
「あなたは私をママ先生と呼んだ。あなたは・・・誰?」
今は過去。
そして今でもある。
スコールは瞬時に全てを理解した。
イデアが言っていた事も、白いSeeDから聞いた話も。
ガーデンを作ったのはイデアとシド。
「SeeDを作る時に敬礼だけは決まってたってママ先生が言ってたよ」
「あなたの戦いの物語を終わらせなさい!それが誰かの悲劇の幕開けだったとしても!」
それらを思い出しつつ、スコールはイデアを支えながら答えた。
「SeeD。バラムガーデンのSeeD」
「SeeD? ガーデン?」
「ガーデンもSeeDもママ先生が考えた。ガーデンはSeeDを育てる。SeeDは魔女を倒す」
「あなた、何を言ってるの?」
最初こそ、訳が分からない、という表情をしていたイデアだが、
スコールの顔を真っ直ぐ見詰めている内に、ハッとした様子で口を開いた。
「あなたは・・・あの子の未来ね?」
「・・・ママ先生」
「さあ、帰ってちょうだい。ここはあなたの場所じゃない」
イデアがそう言った丁度その時、過去のスコールが走ってきた。
「・・・おねえちゃん、いないよ。・・・僕、独りぼっち?」
そう言う過去のスコールにイデアが視線を合わせる様にしゃがみこむ。
そんな中、スコールの存在に気付いた過去のスコールが「あの人、だ〜れ?」とイデアに問う。
「あなたには関係ないの。あなたは何も知らなくていいの。此処に居てもいいスコールはあなただけよ」
イデアはそう言い、過去のスコールの頭を撫でた。
そして、振り返り、スコールを見詰める。
「帰る場所、わかってるの?どうやって帰るか、わかってるの?独りで大丈夫?」
そう問うイデアにスコールは敬礼をし、
(・・・大丈夫だよ、ママ先生)
過去に別れを告げた。
直後、景色がまた様変わりし、暗闇の世界へ戻る。
イデアと過去のスコールも消えて、自分ひとりになる。
(俺は独りじゃないから)
そう、自分は一人ではない。
(・・・独りじゃないから)
真っ先に愛しい彼女の顔が浮かぶ。
(呼べば答えてくれる仲間がいるから)
次々に浮かんでくる仲間達。
スコールは叫んだ。
「みんな!何処だ!?」
そう言い、辺りを見渡す。
「! 何処だ!
ゼル! セルフィ!キスティス!リノア!アーヴァイン!」
走り出し、仲間の名を呼ぶ。
「!」
腕を振り下ろして、立ち止まる。
(・・・俺、独りなのか?)
いいや、と首を振って再度走り出す。
右か左か上か下か、分からない暗闇を。
(? 声、聞かせてくれよ)
そう問うても、何も聞こえない。
無音の世界、唯闇が広がるだけ。
(俺、どっちへ行けばいいんだ?)
足が縺れて、その場に膝を着く。
両手も闇に着いて、顔を上げる事が出来ない。
(独りじゃ・・・帰れないんだ・・・)
また立ち上がり、彼女を思い浮かべて走り続ける。
「!!?」
走って、
走って、
走って、
また、立ち止まる。
(? 俺・・・また、独りぼっちか?)
そう思った途端、身体が一気に真下へ落ちる感覚に見舞われた。
(此処は・・・何処だ?)
そう思ったことを最後に、スコールの意識は闇に飲み込まれた。
EDです。