荒廃した大地。
進んでも進んでも、先なんて見えない。
唯、廃れている場所。
雲が立ちこめ、砂煙が起こる中、
進んでも進んでも、進んでも進んでも、
先なんて無い。
歩いて歩いて歩き続けて、
もっと歩いて歩いて、
歩き続けて、
見えたのは断崖絶壁。
振り返れば来た道も消え、段々と狭くなる世界。
覚える感情は、"絶望"のみ。
疲れ果てた彼は、その場に座り込んで、瞳をゆっくりと閉じた―――。
(どこ、どこにいるの?」
心の中の声か、口に出しているものか、
それすらも自分で区別が出来ない。
雲が立ち込める、暗い世界の中、彼女は胸で揺れる指輪を両手で包み込んだ。
祈るように、瞳を閉じた彼女は紅紫の瞳を瞼の裏で揺らした。
(スコール、)
彼の名。
祈りながら呼びかける彼女は、その場に膝を着いて、
ただただ、彼を待ち続けた。
ふわりふわりと、
一粒の光が彼の目の前まで落ちてきて、揺らめいた。
その光に何処か懐かしさと暖かさを覚え、彼は思わず手を伸ばした。
手に其れが触れた瞬間、
身体に電流が走ったみたいな衝撃が襲ってきた。
唐突に様変わりした暁の景色。
花畑の中、海を見詰めて立っている彼女の後姿。
「!」
思わず嬉しさを覚え、彼女の名を呼ぼうとするが、一瞬迷った。
が、直ぐに彼女の名を思い出し、口に出す。
「!」
その声が聞こえたのか、別の理由か、彼女はゆっくりと振り返った。
だが、彼の目には彼女の表情がはっきりと見えなかった。
どこか、ぼやけていて、はっきりと思い出せない。
彼女の顔は、
と、思った瞬間に目の前の景色が一瞬にしてまた様変わりする。
ガーデンの教室、
隣で授業を受けている彼女。
海の見える街で、ドレスを見に纏っている彼女。
パーティ会場。
彼女は此方に気付いて真っ直ぐに近付いてくる。
グラスを傍に居る人に預けて、此方へ来た彼女。
思い出せない。
どうしても彼女の顔が思い出せない。
宇宙をバックに此方に手を伸ばす彼女。
夜の街で、必死に此方に手を伸ばし、掴んでくる彼女。
誰だ、誰だ、誰なんだお前は、
彼女がどうしても思いだせない。
表情は? 声は?
思い出せない。
はじめからそんな人物なんて居なかったのでは?
そう思った瞬間、ガーデンの教室内の隣の席が空き席に思えてくる。
思わず其方に手を伸ばした瞬間、
迫り来る敵軍の機械、急げ、と言いハッチを開けて待っていてくれる仲間。
そうだ、これはゼルだ。
ドール実地試験で追いかけられている時に、キスティスが撃退してくれて、
セルフィも待っていてくれて、
そう思うスコールに、次に脳裏に過ぎったのはガルバディアガーデン。
そこである意味再会した、アーヴァイン。
次に浮かんだのはサイファーの嫌な笑み。
そして、最後に浮かんだのは初めて出会った時にダンスをしたリノア。
悪戯っぽく笑む彼女が指した先には、
思い出せない。
サイファーに連れ去られた彼女は?
ガーデンのハッチで潮風を浴びて振り返った彼女は?
落ちる自分と一緒に、落ちて、抱き締めてくれた彼女は?
どうして彼女だけを思い出す事が出来ない!?
そう考えていると、城の広間へと景色がうつり変わった。
歩み寄ってくる彼女。
手を取り、お互いにステップを踏む。
楽しそうにダンスをしている事は分かるが、肝心の顔が思い出せない。
どうして彼女だけ思い出せない?
思い出そうとするほど、自分の中の何かが拒んでいる気がした。
段々と思い出そうとする事が苦痛になってきた。
浮かぶ事、魔女、イデア、アルティミシア、倒すべき敵、
それと一緒に浮かぶ彼女、思い出せそうだ、彼女の顔は、表情は、瞳は、髪の色は?
もうすこし、もうすこしで、
スコールがそう思った瞬間、脳内に浮かんだ映像は、
『スコール・・・寒いよ・・・』
届かない手は空を切って、彼女は永遠の塵となる。
こんな未来は無かった!!
自分の見た未来は―――、
『だって私を倒しに来るでしょ?
SeeDのリーダーはスコールだから。皆と一緒に来て、スコールの剣が私の胸を・・・、
スコールならいいから。うん、スコール以外ならやだな。ね、スコール。もし、そうなった時はちゃんと私を・・・、』
―――!!!!!!!
『殺してね』
『此処が、私とスコールの、待ち合わせ場所!』
アルティミシア城のあった場所、
本当に全てを理解し、表し様のないショックと絶望に、
スコールは意識を手放した。