「変化は特には無いおじゃ。バングルは変わらずに着けておくおじゃ!」

「うん、ありがとう」


診療台の様なカプセルが開き、中で寝そべっていたが体を起こす。
脇にある椅子に腰を下ろしていたスコールは、彼女の姿を目に入れて初めて安堵の息を吐いた。
そんなスコールに、同じように椅子に座っていたクロスが笑みを零す。


「お前は相変わらずだな」

「・・・・・・」


視線こそ向けるが、何も言わないスコールにクロスは笑む。


を心配してくれてありがとうな」

「当然の事だ。俺はと約束をしたからな」


「約束、ね」と呟いてクロスは膝に肘を着く。
頬に手をあてて、最終チェックを受けている自分の妹を見つつ、クロスは「なぁ」とスコールに小さく声をかけた。


「お前も無理はあんまりするなよ」


彼の小さな呟きに、スコールは顔を其方に向けた。
橙色の髪の隙間から見える若草色の瞳は、真っ直ぐにを見詰めていた。
スコールも視線をに戻し、「・・・あんたもな」と小さく返した。

そんな二人の所に、検査を終えたが駈けて来る。


「終わったよ!」

「ああ、平気だったか?」


スコールがそう問うとは頷き、「異常無しであります!」と言ってSeeDの敬礼をしてみせる。
そんな彼女にスコールは少しだけ笑みを零し、手を伸ばした。
頭を軽く撫でてくれる彼に、は嬉しそうに微笑んだ。










検査の後、はエスタの大統領官邸の一室に案内された。
これも毎回の事だが、一日此方で療養をしている。
ガーデンに戻るのは、明日の迎えを待ってからだ。
ベッドに腰を下ろし、は思い切り伸びをした後、音を立てて後ろに倒れこんだ。
ドリンクを片手に近付いてきたスコールは肩を竦めてみせて、隣に腰を下ろす。


「疲れたか?」

「んー、ずっと寝てたから気疲れかな?」


スコールからドリンクを受け取ると、軽く礼を言ってからストローを咥えた。
寝たままのに、行儀が悪いとスコールが注意すると彼女ははにかんで起き上がった。


「ごめんちゃーい」

「・・・まったく」


えへへ、と笑う
出会った頃と比べると、随分と柔らかい笑顔を浮かべる様になった。
スコールはそんな事を思いながら、彼女の肩まで伸びた銀の髪をそっとかきあげた。
そのまま耳にかけてやると、不思議そうに丸く開かれた紅紫の瞳が良く見える。

スコールは少しだけ笑み、そのまま彼女に軽いキスをした。

突然の事にが頬を赤くして「え、何?何?」と言っている。
それが、スコールにはとても愛しく感じた。
慌てる彼女を優しく抱き締めると、とても柔らかな感触がした。
間近で香る、のそれはとても落ち着く。
スコールはゆっくりと瞳を閉じて、腕の中のを想う。


彼女は美しく成長してきている。
二年前は髪も短く、明るくかわいらしい少女の外見をしていた。
が、月日が経つ中で彼女は19歳になり、大人の女性へと成長をしている。
きゅ、と体も締まり、顔つきも大人びてきた。
髪も今は肩まで伸び、それが更に大人らしさを強調させているようにも見えた。


・・・


ママ先生との戦闘の後、意識を失ってしまった
そんな彼女を助けたくて、無我夢中だった頃をふとスコールは思い出した。
あの頃は若かった。
そう思えても来るが、あの頃の自分でした選択は全て間違いではなかったと思っている。
ひとつ間違いがあるとすれば、一度彼女の手を放してしまった事だった。



「私、笑ったスコールって格好良くって、すき」

「何時も気にかけてくれるスコールも、すきだし、こうやって抱き締めてくれるのも、すき」

「ずっと、傍に居てくれたスコールが、大好きだった」

「ごめんね、スコール、折角助けてくれたのに、折角、想ってくれてるのに、」

「さようならなんて。 ごめんね」



宇宙で漂っていたラグナロクの中で彼女が言った言葉。
もう何があっても腕の中の彼女だけは放さない。
スコールは強くそう思い、腕に力をこめた。










「クロスくーん!」


どたどたと音を立てて誰かが走ってくる。
誰か、なんてクロスには分かりきった事だったが。

大きく息を吐いて、クロスは振り返る。


「何ですか、レウァールさん」


廊下を走ると怒られますよ。
最後にそう付け足し、現エスタ大統領であるラグナ・レウァールにそう告げた。
ラグナはたははと笑みを零し、頭をかく。


「いいじゃねっかよー!お前が見えたからせっかく走ってきたってのに!」

「はいはいありがとうございます」


そう言い「じゃ」と踵を返すクロスに「待て待て待てぇーい!」と慌てて声をかけるラグナ。
勢いに任せて、彼の後ろで一つ結びにされている橙色の髪を思わず掴むと、さすがに振り向いた。


「何ですか、髪を引っ張らないで下さいよ」


子どもじゃないんですから。
そう思いながら若草色の瞳をラグナに向ける。
ラグナは手にクロスの髪を留めたまま、いいじゃねっかよーと言う。


「会うの一週間ぶりくらいだろ?だから話とかしようぜ!」

「貴方が仕事しないから一週間会えなかったんですけどね」

「息抜きも必要だってば」

「キロスさんとウォードさんも嘆いてましたよ」


クロスの言葉にラグナは苦笑を零しながら頭をかく。
彼が誤魔化す時によくする仕種にクロスは腕を組んで息を吐く。


「いい歳のおっさんが何してるんですか」

「ちょ!おっさんって言うなよな!」

「間違いじゃないでしょう」

「精神年齢38歳め!」


お前も充分おっさんだ!と言うラグナの言葉にクロスは肩を竦めてみせる。


「外見は20代ですから」

「・・・綺麗な外見のまんまだもんな、クロス君、イケメンの部類だもんな」

「馬鹿な事ばっか言ってないで、さっさと部屋に戻ってくださいよ」


溜め息交じりにクロスが言うとラグナは「えええー!」とブーイングをする。
そんな彼の背を押しながら、クロスが口を開く。


「スコールやに会いたいんでしょうが、今は疲れてるんで休んで貰ってます。
 明日に朝食でも一緒にとって下さいよめんどくさい」

「そりゃねぇぜクロス君よぉ〜」


腰まで伸びた橙色の髪を揺らしながら、クロスはラグナの背を押し続けた。
無視を決め込む彼に、ラグナは「おい!無視すんなよ!」と抗議の声をあげるがそれもまた無視された。
が、部屋の前まで無視をきめこんでいたクロスだが、ラグナの「スコールの」という真剣な声には反応をした。


「あいつの、様子はどうだったんだ?」

「・・・・・・」


真剣な空色の瞳で、真っ直ぐ此方を見て問う彼に、クロスは小さく息を吐いてから大統領の部屋のドアをあけた。
中に入って彼がドアを閉めた事を確認してから、口を開く。


「きっと予想通りですよ」

「・・・・・・そっか」


ラグナは近くにあったソファに腰を下ろし、頭の後ろで腕を組んで天井を見上げる。


「孤児院で彼はエルを失った。そしてその恐怖を眠ったままのを失うかもしれない恐怖で思い出した」


イデアから聞いた話、スコールは幼少の頃、毎日一緒だったエルオーネという"姉"を失って深く傷付いた。
誰かを失う恐怖を幼少の頃から覚えてしまった彼は、再びその恐怖に見舞われる事を恐れて他者を遠ざけた。
それがという存在が現れて、一気に崩れた。
クロスやラグナはイデアからその話を聞いていたので、の魔女としての力等についても気にかけていたが、
スコールの心情についても、同じだった。


「ほんと、俺たちがちゃんと見てあげないといけませんね」


親として。
クロスの言葉にラグナは小さく頷いて、困ったように笑った。


「そう、だな」

「しっかりして下さいよ?」


そんなラグナを見て、笑みを零しながらクロスが言った。




外見は20代前半で精神年齢が40近くという謎。
まるでどこかの名探偵みたいな(ry