スゥ、と寝息を立てて眠る彼女の横顔を気付けばじっと見ていた自分に気付いた。
心中では慌てて、しかし周りに悟られない様な動作で視線を逸らす。
気付けばコイツを気にかけていた。
ガルバディアの追跡機械・・・、X-ATM092から逃げて海岸へ向かっている途中、視界からアイツの姿が消えた瞬間に直ぐに辺りを見渡した自分。
其の侭逃げなければ、下手すれば逃げ遅れるというのにアイツは暢気にも犬を逃がしていた。
そんなアイツの後ろにX-ATM092が迫ったのを見たら――、
身体は勝手に動いていた。
アイツに駆け寄って、腕を引いて、走っていた。
海岸でもそうだ。
俺の背を押してX-ATM092の攻撃を自分だけ食らったアイツ。
俺は如何して直ぐにアイツを助けなければ、と思った?
アイツが俺を助けたせいで、死ぬのは後味が悪いからか?
・・・・・・よく、分からない。
視線を眠る彼女に再度移す。
疲れきっているのか、熟睡している彼女。
もしこれがゼルやらサイファーだったら、絶対振り払っている。
(・・・アンタはそうやって、人の心の中に入ってくるんだな)
ズカズカと、それでも、やんわりと。
気付かない内に奥深くまで入って来ていた。
出会ってまで間も無いのに、
他人との接触は拒んできた。
何時か失うという事に嫌な思いをするくらいなら、最初からそんな風に心を許せる人なんていらない。
ずっと、そう思って一人で居たのに、コイツは・・・、
深く、入り込んで来ようとしたら、容赦はしない。
何時だったか、自分の脳内にそうインプットさせた。
けれど、
(・・・・・・分からない、)
彼女を追い出す事は、もう出来ない気がした―。
「ふ、ああああぁぁぁ〜〜」
大きく開いた口を隠す様に手を当て、欠伸をする。
それを見ていたサイファーは「でっけぇ口」と言いに「何か?」と言われていた。
バラムに戻ったB班(セルフィも都合により入っている)を雷神と風神が出迎えた。
船から下りてきたサイファーに気付き、雷神が声をかける。
「サイファー!どうだった?」
「皆で俺の足を引っ張りやがる。全く、班長ってのは大変だったぜ」
「良く言いますねー。一番足引っ張ったのはアンタでしょうが!!」
腰に手を当ててサイファーの横に立って言うに風神が諌める用に手を出す。
「、静」
「でもね風神!この戦い馬鹿何とかしないとずっとこーだって!」
「サイファー、其処良所」
「・・・そうかもだけど・・・」
風神にそう言われては何処かしょんぼりとした様子になった。
そんなに風神は苦笑を送り、サイファーを見上げた。
「無事?」
「ああ」
風神の問いにサイファーは頷き一つを返した。
其れに風神はほっと息を吐いた。
歩き出したサイファーに続くように雷神と風神も歩く。
は風神に手を振って「後でねー」と声をかけておいた。
後でSeeD試験合格者発表がある。
恐らくサイファーに着いて来るのだろう、とは思いそう言ったのだ。
風神は小さく手を振り返し、歩いて行ってしまった。
そんな二人のやり取りにゼルが「、風紀委員と仲良いのか?」と聞いた。
は「風紀委員ってか、風神とね」とニコリと笑って返した。
「バラムガーデンって広くってさ、私プチ迷子になってしまった時があったんでございましてー?」
「あ、分かる〜!」
「だよねだよね!広いんだもんね! 其処で助けてくれたのが風神でさー」
何処か誤魔化し等を入れつつ話すの言葉にセルフィが同調の声を上げる。
其れにはそう返した後、其の時の事を思い出しながら話す。
「最初何言ってるか全然分かんなかったんだけど、取り敢えず案内してくれてさ、
それ以降私が風神見つけたら話しかけてー・・・結構仲良くなった感じかな?」
「ってよ、スコールといい風神といい・・・、手懐けるの得意だな」
「手懐ける? 違う違う、そんなんじゃないよ、 ね? スッコー?」
はそう言いスコールを見上げた。
スコールは頷きだけを返しただけだったが、は其れで良いのか「ほら」とゼルに言った。
其の時に、キスティスがやって来た。
「お疲れ様! ・・・あら? サイファーは?」
「風紀委員三人であっち行きましたけどー・・・?」
がそう返して彼らが去って行った方へ指を向ける。
キスティスは「そう、」と返し言葉を続けた。
「日が暮れるまでにガーデンに戻る事。それまでは自由行動よ。
お土産買って行くのも良し。反省会するのも良し。まあ、早く帰って休むのが一番だけどね。
じゃあ、解散!」
キスティスにそう言われ、達はバラムの街へ向かって歩を進めた。
そんな彼らの視界を横切って行ったのは――、ガーデンの車。
しかも、B班の。
四人は暫く唖然としてバラムの街を出て行く車を見送っていたが、ゼルの声で三人はハッとした。
「あの野郎!またやられたぜ・・・お得意の個人行動・・・!」
「仕方ない。歩いて帰ろう」
苛立つゼルとは対象的に、諦めた感じのスコールがそう言った。
バラムで少しカードゲームやら買い物やらをして四人はバラムガーデンへ帰って来た。
(ちなみにカードゲームはスコールの圧勝。は自分のカードを取られたくないのでもう一度、と言って来るスコールから逃げた)
ガーデンに帰った途端、ゼルが「やっと着いたぜー!」と言い伸びを一つする。
セルフィも其れに習うように同じ事をし、「ほんとほんとー」と言う。
「さてと、後は試験結果を待つのみ。 んじゃ、スコール。また後でな」
「そんじゃねぇー」
ゼルとセルフィはそう言ってガーデン内へ入っていってしまった。
残ったはスコールを見て、「私も・・・」と言うが彼に「待て」と止められた。
「・・・カード、まだ決着が付いていない。アンタレアカード出してないだろ」
「・・・よ、良く分かったねー?」
は笑顔でそう返すが正直もうカードはスコールとやりたくなかった。
イフリートやらコモーグリやら、レアカードばかり持っているスコールに勝つだなんて出来る訳が無い。
というか、其れを奪ったというのなら自分のレアカードだってアッサリ奪われてしまうに違いなかった。
カードキャプターか、アンタ。
は心の中でそう思いながら片手を素早く上げた。
「じゃ!!!」
「待て」
「嫌だーヤダヤダヤダヤダ!! 絶対スッコー私のレアカード狙ってるでしょ!?」
「当たり前だ」
「このカードキャプターめ!
キスティス先生のファンクラブのあれ!食堂でだれてる奴が先生のカード持ってるって言うから其処行きなよ!
レアカード狩りたいなら其処でいいじゃんいいじゃん!」
捕まれた腕をブンブンと勢い良く振りながらは大声で言った。
スコールはの言葉に少しだけ思案し、「分かった」と短く言いパッと手を放した。
突然の事に暴れていたはバランスを崩したが、前のめり体制になっただけだった。
その体制のまま、スコールを見やると彼は珍しく微笑んでいた。
嫌な笑みだが!
「先ずはそいつをターゲットにする。
アンタのレアカードも何時か貰うからな。勝負しろよ」
「・・・・・・い、何時か、ね、うん。何時か・・・」
ハハ、ハハハ。とは乾いた笑い声を上げてガーデン内へと歩を進めた。
其の後ろをスコールが着いて来るが、カード勝負を挑まれる事が無さそうなのでは安堵の息を吐いた。
ホールの案内板前に着くと、シド学園長とキスティス、シュウが何かを話していた。
「任務成功。めでたしめでたしってとこね。候補生達も無事に帰って来たんでしょ?
まぁ、ガルバディア軍の目的が廃棄された電波塔だったとは気付かなかったけど」
シュウの言葉に、シドがこう返す。
「たった今、ドール公国から情報が入ったんですよ。電波塔を整備して、発信可能にしておくという条件で、ガルバディア軍は撤退したそうです」
「うーん、何はともあれガルバディアは撤退しちゃったって訳か。
もう少し暴れてくれればSeeDの出番も増えてお金も稼げたのにね」
そう言ったシュウが最後に「あーあ」と付け足して辺りを見渡す。
そこでスコールとの姿を視界に留め、声をかけてきた。
「君達、中々やるじゃない?」
「でしょ? 私の自慢の生徒なの。スコールは無愛想なのが珠に瑕だけどね」
「せんせー私は?」
「は元気だし何時も笑顔だし、良い子よ?」
キスティスがにそう言うとはニコリと嬉しそうに微笑んだ。
スコールはの笑顔を見、何処か納得いかない気持ちを抱えていた。
そんな彼にシドが近付いて声をかけた。
「戦場の雰囲気は如何でしたか?」
「・・・別に」
「別に? 其れは良いですね! 別に、ですか!」
何が気に入ったのか、シドは楽しそうに、興味深そうにスコールに視線を送った。
其れには小首を傾げるが、聞いても意味の無い事であり、自分には無関係の事なので口は挟まないでおいた。
「まあ皆怪我も無く何よりですね」
シドは微笑んでそう言った。
キスティスに「試験結果の発表はもう直ぐだから、この辺に居るといいわ」と言われたのでとスコールは廊下のベンチに腰を下ろしていた。
は内心またスコールがカード勝負を挑んでくるのでは無いかとヒヤヒヤしていたが彼にそんな様子が無いのを見、安心した。
二人の前に、靴音を響かせながらサイファーが近付いて来た。
「よお。聞いたか?ドールの電波塔の事。
撤収命令さえ無ければ俺達は今頃ドールの奴等から感謝されてたのにな」
「貴方、何も考えて無かったでしょう?」
サイファーの後ろから現れたシュウとキスティス。
キスティスがそう言い「暴れたかっただけの癖に」と続けた。
其れにサイファーは何処か苛立った様子でキスティスを振り返った。
「・・・・・・先生。そういう決め付けが生徒のやる気を無くすんだ。 半人前の教官には分からないかもしれないがな」
「サイファー、いい気になるんじゃないよ。B班が持ち場を離れた責任はアンタが取るんだからね」
「戦況を見極め、最善の作戦を取るのが指揮官ってもんだろ?」
シュウの言葉にサイファーはそう返すが彼女は動じず、呆れの瞳をサイファーに送った。
「万年SeeD候補生のサイファー君、指揮官だなんて笑っちゃうわ」
呆れ声でそう言われ、サイファーは苛立った様に拳を強く握る。
否、あれは苛立ちというより、悔しさ―。
はそう思い前に立つサイファーの後姿を見ていた。
そうしていると、シドが来て声をかけてきた。
「サイファー、君は今回の件で懲罰を受ける事になるでしょう。集団の秩序の維持の為には、仕方の無い事です。
でも、私には君の行動が分からないでも無いのです。君達に単なる傭兵になって欲しくはありません。
命令に従うだけの兵士にはなって欲しくないのですねえ。私は・・・・・・」
「シド学園長」
シドの言葉を遮る様に、ガーデン教員が現れた。
余りにもわざとらしいのでは訝しげに瞳を細めて、黄色の帽子を被り、袖も裾も長い服を着ているガーデン教員を見た。
「そろそろ学園長室へ」
「・・・まあ何と言うか、色々ですねえ」
シドの言葉にサイファーはずっと黙っていた。
彼が去った後も、ずっと。
シドを先に行かせ、残ったガーデン教員が口を開いた。
「SeeDは、契約及び与えられた命令以外の行動はしてはいけない。
SeeDはボランティアでは無いからな。今回の件はドール公国にとっては、素晴らしい教訓となるだろう。
SeeDを雇うのに金を惜しんではいけないという教訓だ」
先程のシドとは全く真逆の事を言ってガーデン教員は去って行った。
チラリ、とまたサイファーを見やると、先程より強く拳を握っていた。
あまりの強さの為か、拳が震えている―。
暫く辺りを無音が包んでいたが、校内放送が流れた。
『本日のSeeD選抜実地試験に参加した生徒は速やかに二階廊下教室前に集合せよ。
繰り返す、本日のSeeD選抜実地試験に参加した生徒は速やかに二階廊下教室前に集合せよ』
その放送を聞き、スコールは椅子から腰を上げて歩を進めた。
も立って歩を進めるが、サイファーは動かなかった。
はゆっくりと来た道を戻り、サイファーの色々な感情が入り混じって震える手をそっと手に取って、拳を解した。
「・・・。 ホラ!サイファー、合格発表だって!何時まで其処でそーしてる気?」
早く、と言い手をグイグイ引っ張ってくるに、サイファーは何も言わずに従った。
スコールの趣味って、カードですよね(笑)