スコールとダンスの輪に混じり一曲踊った後、二人はテラスに出ていた。

唯、無言で会場から聞こえてくる音楽に耳を傾けていた二人。


・・・何やってんだろ、私


そう思いは瞳をゆっくりと伏せた。

如何してスコールの挑発に乗ってしまったのか、そもそも何故スコールはあんな事言って来たのか。
ダンスは得意じゃないとか言いつつ彼は上手くステップも踏んでたしターンも何もかもが完璧だった。
別に問題無いと思ったは小首を傾げていた。


そう、問題無かったんだよねー・・・。じゃあ何で私を誘ったんだろ?


ダンスが上手いから?いやいや、スッコーの方こそお上手で。

はそう思い何となくスコールへ視線を向けた。
そして、驚いて瞳を大きくした。


彼も、自分に視線を向けていたから―。


「・・・・・・」

「・・・・・・あ、」


何となく開いた口から、短い音が発せられる。
は何かを言いかけ、口を噤んだ。が、視線を少し彷徨わせた後、スコールを再度見やり「あのさ、」と声をかけた。


「・・・ダンス、スッコー上手かったじゃん」

「・・・アンタも、口だけじゃなかったみたいだな」

「逆に試したって事?私を」


ふと思いついた事を言ってみるとスコールは無言で視線を外してしまった。
当たったのか違ったのか、曖昧なスコールの態度には少しだけ悩む。

そんな二人の背後で、靴音が響いた。


「ほんと成績優秀よね、貴方と。 さっきのダンス、満点よ」


来たのはキスティスだった。

キスティスは靴音を静かな空間の中、響かせながら近付いてきてスコールを見やった。
彼女の言葉にスコールは「おかげさまで、」と言い何処か落ち着かない様子で彼女を見やる。


「何か用か?」

「知らない女の子とは踊るのに、私と一緒に居るのも嫌なの?」


何処か拗ねた様な、悲しそうな、それでもからかいも混ざった様な声でスコールにそう言うキスティス。
そんなキスティスを見たは「あ、」と二人に聞こえないくらい小さな声を上げた。


キスティス先生って・・・、スッコーの事・・・・・・?


其処まで考えて「まさかね」と思う。
教師と生徒、これは恐らく禁じられているはずだから。
はそう思いつつもスコールに恋情の色の視線を向けているキスティスを見、少し気まずそうに視線を彷徨わせた。


恋に年齢も、教師も生徒も関係無いか。


そう思いは一歩だけ下がった。


「あれはコイツが勝手にやったんだ。俺が好きでやった訳じゃない」

「困ってたみたいだからいいじゃん?」


眉を寄せつつ言うスコールにはそう返した後、「それより」と言い足す。
そして、


「スッコー、キスティス先生と居るの嫌なの?」


と、問うた。

キスティスにとっても気になる答えだろうが、自身も気になっていたのだ。
何せキスティスは美人だ。ファンクラブだってあるくらい。
そんな彼女と一緒に居るというのが嫌だと言うのならスコールを男子として疑う。

はそう思いながら少しだけ間の空いた距離にあるスコールを見た。


「・・・アンタは此処の教員で、俺はアンタの生徒だろ? 先生が自分の横で黙っているのは嫌な気分だ」

「ほんとね、私もそうだったわ。 ・・・すっかり忘れてた。これから大丈夫なのかな、私・・・」


何処か虚ろな視線で夜空を見上げつつ、キスティスは最後の方は呟くように言った。
そんなキスティスの様子には小首を傾げつつ、こっそりとまた二人から離れた。


「・・・命令を伝えに来たの。貴方は私と一緒に通称"秘密の場所"へ行きます。
 消灯時間が過ぎてから、生徒達がこっそり会って話をする所よ。訓練施設を越えた所にあるの」


キスティスがスコールにそう言うのを聞いていたは「そんな場所あったんだ」と思いつつまた一歩下がる。
貴方、とキスティスは言ったから自分には関係無い事。それとの予想ではそのような場所へ想いを寄せている男性を呼び出すと来た。


「其処で何をするんだ? 規則違反だから部屋に戻れって皆に言うのか?
 俺はそんなの嫌だからな。風紀委員にやらせろ」

「私服に着替えたら訓練施設入口集合、良い? これは私の最後の命令よ」


キスティスの言葉に引っ掛かりを覚えたとスコールは、ほぼ同時に眉を潜めた。
彼女の最後の言葉が気に掛かったからだ。

二人の様子に気付いたキスティスが「何?質問?」と問うて来たのでスコールは口を開く。


「最後の命令って?」

「ま、色々ある訳よ」

私服で訓練施設? 一体何の任務なんだ?


そう思い腕を組んだスコールを見、は呆れの目を彼に向けた。


きっとどんな任務か考えてるんだろーなー。あーなんてニブチンさんなんでしょ、ニブイ、ニブイよスッコー


秘密の場所と言われている所への呼び出しの時点で予想出来そうな事なのに、

彼女の態度で予想出来そうな事なのに、

夜の密会って事ですよ? スッコー君?


はそう思いながらわざとらしく欠伸を一つ零し、伸びをした。
そして二人に視線を送り、スコールに軽く手を振った。


「じゃ。おやすみスッコー! 任務頑張ってね!」

「・・・・・・あぁ」

「せんせーも、頑張って下さいね」


がキスティスにそう言うとキスティスは瞳を丸くした後、柔らかい笑みを浮かべた。
キスティスは「ありがとう」と言いに手を振った。


パーティ会場を通り、は寮へ向かう為に廊下へ出た。

其処で教官が何やら新任のSeeDの一人の男子に声をかけて何かを説明しているのを見、は小首を傾げる。
そうしているとも教官に呼ばれた。


・・・、か?」

「はい」


名を呼ばれて近付くと、教官は横に立つ新任SeeDの男子に「彼女に説明しておくように」と言い去って行ってしまった。
自分で呼んだくせに、とは思いながら男子に視線を移した。


「説明って?」

「あ、俺ら晴れてSeeDになった訳だろ?知っていたと思うけど、部屋が個室に移ったんだ。それの説明」

「あー忘れてたわー。じゃあ説明頼みます!! ニーダ君!」


が男子―ニーダにそう言うと彼は驚いた様に瞳を丸くした後、微笑んだ。
整った顔立ちに浮かんだ笑みは、ゼルやサイファーとは違い爽やかさを持った物だった。


「俺の名前覚えててくれたんだ!!」

「うん?だって、ついさっき挨拶したばっかだよ?」

「それでも!! スコールの奴とか絶対覚えて無いからな!ゼルも! 君は良い人だね!」


名前覚えてただけで良い人って言われても、とは思い苦笑を返した。
ニーダは「あ、説明説明」と思い出した様にそう言った後、個室の場所の説明やら何やら色々教えてくれた。
は彼に礼を言い、歩を進めようとしたが、止められる。


「あ、!」

「ん?」

「悪いんだけど、スコールに寮の説明頼めるかな? 俺これから少し用があって・・・」

「あ、オッケー! じゃ、スッコーに伝えておくね?」

「ゴメンよ」


ニーダはそう言うとそそくさとパーティ会場へと戻って行った。
彼の後姿を見送ったは「さて」と言い歩を進める。

目指すは以前使っていた寮の渡り廊下。

今スコールはキスティスの言った任務を全うしているだろう。秘密の場所で。
終えて何も知らない彼が帰ってくるのは恐らく前の寮。
それだったら闇雲に探したり訓練施設前で野暮な待ち方するよりは良いはずだ。

はそう思い寮へ続く渡り廊下の壁へ背を預けた。


そういえば、と思いは、ふ、と空を仰ぐ。


スッコー、先生に告白されたらどうするんだろ?


付き合うのかな? そう思ったは小首を傾げた。
確かに傍から見ればお似合いカップルになるかもしれないが、キスティスの事を教師としてしかスコールは見てなかった。
希望は薄いのかな、それとも、先生は分かってるから告白はしないのかな?

取り敢えず、キスティスはスコールに何か話があったのは確かだ。

どんな事話したんだろう? はそう思い、少しだけ思案するが直ぐに雑念を払う様に首を振った。


駄目駄目駄目!何考えちゃってるんだか!


そう思い壁に思い切り寄りかかり、瞳を伏せる。

そうしていると次第に身体は下へ下へとずり落ちて行き、は廊下に膝を立てて座り込んだ。

膝に腕を回し、顔を埋めては、きゅ、と瞳を閉じた。


何勝手に考えてるんだろ、私・・・。 そういう風に考えたりされるの、スッコーはきっと嫌うのに、


でも、


は、ぎゅ、と手に力を込めて目を強く瞑った。


気付いたらスコールの事を考えている、そんな自分が居る―。


・・・スッコー、


彼の事を考えると、胸の辺りが温かくなる。

酷く、安心する自分が居る。


・・・・・・まだ、大丈夫、


まだ、そう自分に言い聞かせる様に強く思い、は、きゅ、と腕を掴む。



まだ、止められる。



そう思い、瞳をまた強く閉じた時――、


ふわり、と髪に何かが触れた。


!!


思わず驚いて顔を勢い良く上げてしまう。

そんなに相手も驚いた様で、彼は瞳を丸くしていた。

相手の姿を視界に納めた瞬間、は瞳を大きく見開いた。


「・・・ス、ッコー・・・?」

「・・・アンタ、こんな所で何してんだ?」


何処か心配と呆れの色が混じった瞳で見詰められ、は思わず俯いた。
先程とは全然様子が違うを不思議に思ったスコールは、彼女の頭にまた、そ、と手で触れて顔を少しだけ覗き込んだ。


「・・・体調が、悪いのか・・・?」

「・・・・・・別に、」


何でも無いの。 そう言いたかったが言葉になる事は無かった。
というかこれでは普段のスコールではないか。はそう思い更に俯いてしまった。

そんなを更に疑問に思ったスコールは座り込んでいるの肩に軽く手で叩いた後、其の手を差し出してきた。


「・・・具合が悪いなら、部屋まで送る」

「・・・・・・」



嗚呼、お願い、優しくしないで、




心の中でそう叫びながら、は一度だけ強く瞳を閉じて、開くと同時に顔を上げた。
そしてスコールを真っ直ぐに見詰め、少しだけ笑みを浮かべた。




引き返せなく、なっちゃうでしょ、




は力なく首を振り、「大丈夫、ちょっとスッコーに伝言頼まれて此処で待ってただけだから」と言った。
スコールはそんな彼女に眉を寄せると、膝に回っていたの手を掴んで引き、立ち上がらせた。

其の時に少しだけよろけたの肩に手を回し、支える―。

は直ぐにスコールから離れ、彼を見上げて微笑んだ。


「SeeDになったから何と部屋が個室に移動になったっていうね! スッコーの部屋は今まで居た所の丁度反対側。
 間違えないで行ってね?」


そう手短に言い、「じゃ」と言い去ろうとしたをスコールは呼び止めた。


「おい、」

「スッコー、大丈夫、眠いだけだから・・・」


おやすみ。

はニコリと笑ってそう言いひらひらと手を振った。




スコールももモヤモヤ。