黒のキャミソールを着た上に紺のジャケットを羽織る。
短いズボンの上にベルトを巻いて、其処の金具を弄り双剣を下げる。
首にベルト型のチョーカーを巻き、腕にはアームウォーマーを着け、手が滑らない様に手袋も嵌める。

最後にパチン、と音を立てて蝶の髪留めを着けて、終わり。


鏡を見て自分の身だしなみを確認した後、は「よし」と言い部屋を出た。

向かうはカードリーダー前。

SeeDになって初めての任務の説明を受ける為に、は歩を進めた―。


先程セルフィが部屋に来て報告をしてくれた。 私服でカードリーダー前集合、初任務だ。 と。
彼女の話ではティンバーへ向かうようだった。


ティンバーって事は、反大統領思想を抱くレジスタンスの依頼かな?


そんな事を考えながらはカードリーダーの老人に挨拶をして集合場所へと辿り着いた。

其処には既にシド学園長とガーデン教員、それとスコールとセルフィが居た。
は全員に挨拶をしてセルフィの横に行った。


「おはよ、セルフィ」

「おはよ〜。 ね、ね、ゼル知らない?」


セルフィにそう言われは「ゼル?」と言い小首を傾げた。
どうやらゼルを混ぜた四人で任務に向かうようだった。

ナンテコッタイ。新任だらけじゃないの。

はそう思ったが表には出さず、首を振った。
そんなを見てセルフィは軽く足踏みをし、カードリーダーへ視線を移す。


「遅いよ〜ゼル〜」

「ていうか私も遅かった?」

「遅かった!スコールと二人とか会話弾まないし、沈黙が重かったから凄く遅く感じたー!」

「・・・悪かったな」


セルフィがそう言うとスコールが眉を寄せて呟く。
そんな二人にがクスリ、と笑った時、ガーデン教官が自分の腕時計を見て呟く。


「・・・あと一分、」


そう言った瞬間、カードリーダーから何かが物凄い速さで飛び出してきた。
目の前で止まった其れは、Tボードに乗ったゼルだった。
Tボードから下りたゼルは「間に合った!」と言い安堵の表情を浮かべていた。


「ガーデン内でのTボードは禁止。忘れたのか?」


ガーデン教員にそう注意され、ゼルは「あ、すみません!」と言い、続けた。


「でもこれ便利なんすよ。きっとSeeD任務でも役に立ちますって!」

「役に立つかどうかは我々が決める、没収だ」


ガーデン教員はそう言うとゼルのTボードを没収した。
すると他のガーデン教員が来て、其れを持って行ってしまった。


「君達はSeeDだが、同時にガーデン生徒である事には違い無い。
 否、SeeDだからこそ一般生徒の手本になるようにガーデンの規則に従わなければならない。分かったな?」


ガーデン教員はゼルにそう言うとシドの方へと下がって行った。
其れを見たシドが、入れ違いに前へ出て口を開く。


「さて、初任務ですねえ。
 君達にはこれからティンバーへ行ってもらいます。其処で、ある組織のサポートをする事が君達の任務です。
 ティンバーの駅で組織のメンバーが君達に接触する手はずになっています」

「その者は君達に話しかけてくる。『ティンバーの森も変わりましたね』と。
 その時君達はこう答える事、『まだフクロウは居ますよ』これが合言葉になっている」

「後は組織の指示に従いなさい」


シドと教員が交互に説明した後、ゼルが口を開いた。


「あの・・・俺達四人だけ?」

「そうだ。この任務は極めて低料金で引き受けている。本来なら相手にしない様な依頼なのだが・・・」


教員がそう言う言葉を遮る様にシドが「まあまあ」と声を発する。
そして「そういう話はいいでしょう」と言った後にスコールを見た。


「さて、スコール。君が班長です。 状況に応じて的確な判断を下すように。
 、ゼル、セルフィ。君達はスコールをサポートし、組織の計画を成功に導くように頑張りなさい。
 ああ、そうだスコール。これを」


シドは何かを思い出した様にそう言いスコールにランプの様な物を渡した。
其れを見てが小首を傾げていると、シドが「呪われたアイテムです」と言った。

待て、何故そんな物を渡す。

スコールとの心の声が重なった時、シドが「ですが、」と言った。


「力ある物が使えば大きな助けになる筈です」


シドはそう言い「では、初任務頑張って下さい」と言った。
其れに四人は敬礼をしてガーデンを後にした。





















ティンバーへ向かうには、大陸が違うのでバラムから列車を使うしか無かった。
達はバラムへ行き、列車に乗り込み街を後にした。


セルフィが列車の窓に手を付いて外を見ながら「この列車凄いね〜」と言う。
其れに続いてゼルが口を開く。


「流石大陸横断鉄道だよな。
 ティンバーへ行くのだって海底トンネルで海を越えちまう。すげぇだろ?」


ゼルがそう言い、壁に寄りかかっているスコールとに言うが二人の反応はイマイチな物だった。
スコールは「そうだな」と適当に返しただけであったしは苦笑を返すだけだった。
其れにゼルはがっくりと項垂れ、「興味、無いのね」と言った。


「・・・ってか、私これ乗ってバラムガーデン来たからさ・・・?」


がゼルにそう言うと彼は今気づいた様で「あ、そっか」と言った。
次にゼルは「そういえば」と言いスコールを見やる。


「おい、スコール。チケット使わないと中は入れないぜ」


ゼルがそう言うとスコールは壁から離れ、チケットを使いドアのロックを解除した。
「さあ、中に入れるぞ」と、スコールが言うとセルフィが直ぐに窓から放れてドアに近付いた。


「前の方も見に行こう〜っと!」


そう言いドアを開けてニコリと笑う。
「お先〜」と彼女は言い前へと行くが、途中で止まる。


も一緒に見ようよ〜!」


そう言うセルフィには頷きを返し、「私もお先ね!」と言いセルフィの後に続いた。

セルフィの後に続いていくと、反対側にある窓にセルフィは張り付いて景色を見ていた。


「あたし、乗り物大好きなんだ〜」

「そうなんだー、私は・・・・・・普通かな?」


はニコリ、と笑みをセルフィに向けて彼女と同じように外の景色を見た。
二人で外の景色を見ていると、ゼルとスコールが何やら話しながらやって来た。


「おい、此処がSeeD様の専用キャビンだぜ!」


ゼルはそう言い後ろにあった部屋へ続くドアを潜り入っていった。
直後、「うおっ!うっひゃー!スゲェー!」という声が聞こえてきた。

は中の様子が気になったのでセルフィに一言告げてから、スコールと共に部屋へと入った。

中に入ると、ソファの上で飛び跳ねているゼルが居た。


「ははは! こいつはいいぜ」

「・・・・・・喜んで貰えて何よりだ」


スコールがそう返す中、は室内を見渡していた。
ソファにベッドもあるし、明らかに壁やら床やらが普通の物とは質が違った。
スコールもソファに腰を下ろし、辺りを少しだけ見渡した。


「す・・・げぇよな、この客室。 SeeDになって良かったぜ。
 な、スコール。ティンバーの事知ってるか?」

「如何でも良い」

「・・・スッコー、如何でも良いは無いっしょ、どーでもいいはー!」


耳ざとく聞いていたがそう言いスコールの横に腰を下ろした。
これから任務で行く所だよ?と言うとスコールは瞳を細めたが、直ぐにそれを戻しに視線をやった。
其れには瞳を丸くして「ん?」と問うが、ゼルの声によって其れは掻き消された。


「そりゃ無いぜスコール。そう言わずに説明させろよ!」

「・・・否、別に良いよ」

「なあ!知ってる事、話したいんだよ!」


話したいだけかい。

はそう思ったがあえて言わない事にして近くにあった雑誌、ペット通信をパラパラと捲った。


「仕方ない・・・。話せよ」


明らかに上から目線の物言いだったがゼルは気にせず(気付いていないのか?)「うんうん、そう来なくっちゃ」と言った。
そして嬉しそうに笑いながら言葉を続ける。


「じゃあ、手短に説明させてくれ。ティンバーは森林に囲まれた国だった。
 ところが十八年前、ガルバディアが攻め込んできたんだな、うん。そしてアッサリ占領されちまった」

十八年前のティンバー侵略・・・


ゼルの説明を聞きながらは瞳を少しだけ伏せた。
そして雑誌のページを握る手に少しだけ力を込める。


・・・お兄ちゃん、

「それからガルバディア領ティンバーって訳だ。デカイの小さいの合わせて沢山のレジスタンス組織が居るって話だぜ」

「・・・・・・それで?」

「いや、そんだけ」


アッサリとそう言うゼルにスコールは溜め息を吐きながらも余り詳しく無かったティンバーの事が聞けたので礼を言う為に口を開いた。


「・・・ありがとう、物知りゼル」

「おお!任せてくれって!」


ゼルがそう返すと、スコールは横に座るを見やった。
先程から雑誌のページを捲る音が聞こえないので少しだけ気になって見た彼女は、顔を俯かせていて表情が読めなかった。


・・・何だ? 読んでいる・・・訳では無さそうだな・・・


スコールはそう思い少しだけを見ていたが、微動だにしない彼女に声をかける事にした。
「おい、」と声をかけるとはゆっくりと顔を上げてスコールを見返した。
その表情は、何時もの表情だった。


「なーに?スッコー。 あ、これ読みたかった? 意外、スッコーって動物好きだったんだねー」


ペット通信読みたいなんて。と、は言い思わず噴出して笑った。
それにスコールは眉を寄せ、「違う」と答えた。


「? じゃあ何?」


小首を傾げるを見、スコールは昨夜の事を思い出した。

真っ暗な廊下で一人膝を抱えていた少女。

何時もの元気な姿とは遠く離れた姿が、妙に印象に残った。


・・・何かあったのか?


自分と別れてから、とスコールは思いを見やる。
するとスコールの視線を感じたは何処か気まずそうに視線を彷徨わせて雑誌を閉じて脇に置いた。
ずっと自分を見ているスコールに気まずさを感じ、は「あのさ、」と声を発した。


「スッコー、何か言いたい事であるんざんしょか?」


見られてるのって落ち着かないんですけどい?と良く分からない言葉で喋るにスコールは「否。唯・・・」と言い言葉を選ぶように少しだけ黙ったが、直ぐにまた口を開いた。


「(
調子が・・・、)・・・平気なのか?」

「えっ?」

「(
身体の・・・、)・・・体調とかだ。昨日元気が無かったから・・・」


其処まで言うとは瞳を大きく開いて、頬を紅潮させた。
そんなにスコールは首を傾げ、「熱でもあるのか?」と言い彼女に手を伸ばすが、その手は虚しくもにぺしんと叩き落とされてしまった。
叩き落とされた事にスコールがショックを受けているとは「あああああごめん!」と両手を前でブンブンと慌てた様子で振りながら言った。


「ダイジョブ!ダイジョブだから! ね!?」

「・・・しかし顔が、」

「顔が悪いのは何時もの事!」

「・・・そんな事、」

あーあーあーあーあーあーあーあー! もうっ!」


は手を振り下ろしてソファから立ち上がり、そっぽを向いた。
そんなの様子にスコールは小首を傾げる。


・・・私は何をやっているのでしょうかねい


はそう思いながら落ち着きを取り戻す為に深呼吸をした。
幾分落ち着いた頭になった頃、スコールを見返す。

彼の瞳には、心配の色が浮かんでいた。


・・・そんな目で見ないでよ〜・・・、


不謹慎だけれども、嬉しくて仕方が無い自分が居る。

どうして彼はこんなにも優しいのだろうか?


・・・止められるの? 私


この友情と恋情のど真ん中で立ち往生している私は、この気持ちを止められるんでしょうか?


はほうっと息を大きく一つ吐いた後、ニッコリと笑ってスコールを見た。


「うん、大丈夫。心配してくれてありがとうね、スッコー!」

「・・・否、別に。 ・・・そうだ、任務に、支障が無いんなら良いんだ。別に、」

「・・・うん、ありがとう」


不器用でも、真っ直ぐな彼の想いを受けて、は心からの笑みを浮かべた。

―其の時、

ドアが開いてセルフィが入ってきた。 が、彼女の足取りは覚束なかった。
ふらふら、と部屋に入ってくるセルフィには近付き「どうしたの?」と問うた。


「なんか・・・・・・変なの」

「疲れたの? それだったら少し休むと良いよ?」

「すっごく眠いの・・・」

「え? あ、ちょ! セルフィ!」


セルフィはそう呟くと倒れこむ様にソファに横になった。
直後、ゼルも「あ、あれえ?」と声を上げる。


「な、なんだあ!? あ・・・・・・・・なんか、俺も変だ・・・ね、ねむい・・・」


ゼルはそう言うとソファに思い切りボスンと寄りかかり、瞳を閉じた。
其れには驚きゼルとセルフィを交互に見やる。

の横に来ていたスコールも二人を交互に見やり「どうした?」と声をかけるが、彼も行き成りふら付き始めた。
「スッコー!」とが声を上げるがスコールは頭を抑え、何処か辛そうに頭を押さえていただけだった。


「うっ・・・、・・・なんだ、これは・・・」

「スッコー!!」


膝を折り、倒れそうになったスコールの前に慌てて回りこんで正面からスコールを受け止めた。
が、


「キャッ!」


力の抜けた男性の身体は重くて、も膝を折り床に腰を下ろしてしまった。
正面にはスコール。彼の体重と重力のせいで背は反っている。

キツイ、この体制馬路でキツイって!!

は心の中で叫びつつ、「スッコー?スッコー?」と彼を呼びつつ背をバシバシと容赦無く叩く(体制がキツくて手加減する余裕がありません)
だが、スコールは瞳を閉じたままだった。

は取り敢えずスコールをゆっくりと横にさせてから彼の様子を確認した。


「・・・寝てる・・・?」


様子は何処からどう見ても眠っているだけにしか見えなかった。
は慌ててソファに近付いてゼルとセルフィの様子も確認するが、二人とも如何やら眠っているだけの様子だった。


「・・・何で? 何が起こったの・・・?」


は一人、小首を傾げた。




ラグナ編に行ったのですよ。
次回スコール視点というか・・・何と言うか・・・。