「本当にこっちかい? ラグナさんよ」
―男の声が響いた。
続いて其れより低めの呆れ声が響く。
「またやっちゃったんじゃあ・・・」
「呆れる前にお二方。敵さんが来たようですよー?」
パッという感じで、行き成り視界がハッキリとした。
それと同時に靄が掛かっていた様な声もハッキリと聞こえる様になった。
何だ何だと思っていると辺りの景色は森。
そして目の前には魔物が居た。
其れに驚いている内に、ガルバディアの青の軍服を身に纏った男達があっという間に其れらを片付けてしまった。
一人は褐色の肌を持ち、細身で高い背を持ち二本の短剣を持つ男。
一人は大柄の男で、頭にバンダナを巻き、手には巨大な銛の様なものを持っていた。
その二人を見ていただけの人物が二人。
内の一人は男としてはやや長めの髪をしており、邪魔なのか片方の髪を耳にかけている若い男だった。
手には銃を持っていたが、大柄の男と細身の男が直ぐに魔物を片付けてしまったので少々不服そうに彼は其れをしまった。
「何だよーお前ら、俺にも敵を残しておいてくれよ!」
「其の前に。ラグナ君」
細身の男に"ラグナ"と呼ばれた男は其れに暢気に「ん?」と返事をする。
そんな彼の様子に大柄の男が呆れの色を瞳に浮かべつつ、口を開く。
「俺達は戦争に来たんだよな? ティンバー軍の屈強な戦士達相手に」
「それが何でこんな動物たち相手にチマチマやってなきゃならない?」
不服そうに言葉を漏らす二人。
彼らの様子を見る限り、戦闘はかなりの間連続で行われていたようだった。
ラグナは彼らの言葉に少しの間だけ固まったが、直ぐに何故か「うん」と頷き口を開いた。
「兎に角帰還だ。デリングシティへGO!」
「レウァールさーん、また誤魔化しですかーい?」
男にしては少々高めの声が響くと、ラグナは肩を大袈裟なくらいビクリと揺らした。
彼の背後に立っていた青年は口の端を吊り上げて前に居るラグナの肩にポン、と手を置いた。
「そ、そそそそそそんな事は無いよ? クロス君?」
「そっすか。でも俺は明らかに地図から外れた場所に居ると思うんですがね」
クロスと呼ばれた青年はそう言いニコリと微笑んだ。
整った顔立ちに笑みは良く栄え、輝きがオプションで見えそうなほどだったがラグナにはそれは悪魔の微笑みにしか見えなかった。
何故なら―――、
「何回間違えたら気が済むんだアンタはァァ!!」
「ごめんなさいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!」(!!!)
見事に決まった右ストレート。
クロスの拳を思い切り食らったラグナは思い切り吹き飛んで思い切り木に激突した。そう、思い切り。
其れの様子を見ていた細身の男と大柄の男が「おお、」と感嘆の声を上げる。
クロスは手をパンパンと叩き何事も無かったかの様に地図を出し、口を開く。
「何時の間にか戦場から外れてしまっていたようですね。(誰かさんのせいで)
取り敢えず、レウァールさんの言うとおりデリングシティに戻った方が良いですね。
他の隊も皆帰還してしまったと思われますし」
「そうだな・・・。所で、クロス君」
「何でしょう? キロスさん」
キロスと呼ばれた細身の男は溜め息交じりにクロスを見て言った。
「・・・あまりラグナ君を苛めてやるな、君の悪意の篭った敬語のせいでもうビビリという域を超えてしまいそうだ」
「いっそ越えてしまえば良いですよ。・・・そうしたらこの様な失敗だって無くなるってモンだ」
今小声で何か言った。とキロスとウォードは気にしたがこれを口に出したらとばっちりが自分達にまで来てしまうかもしれない。
そう思い彼らは黙ってクロスの行動を見る事にした。
クロスは未だに木に寄りかかったままのラグナに大股で近付いて手を差し出した。
そんな彼にラグナは嬉しそうに瞳を輝かせながら其の手を取って立ち上がる。
直後―。
バキャアァ!!と大きな音を立てて先程までラグナが居た場所に魔物が攻撃をしかけた。
其れに驚いて瞳を丸くする皆だが、クロスだけは違った。
直ぐに腰にあった双剣を抜いて一気に魔物に詰め寄り切り裂いた。
魔物は耳障りな悲鳴を上げ、土へと還る。
クロスは双剣を振り、魔物の体液を落としてから鞘へと収めた。
そんなクロスに後ろからラグナが飛びつく。
「クロスくーん!! 助けてくれたんだね、うん。」
ありがとう、と言うラグナに鬱陶しそうに「はいはい」と返事をしながらクロスは「ウォードさん、」と言い大柄の男を見た。
ウォードと呼ばれた男は頷きを返すと、銛を草むらへと投げた。
すると其処に隠れて此方の様子を伺っていた魔物が倒れる。
クロスはウォードに「ありがとうございます」と言い微笑み自分の肩口に顔を埋めているラグナを見やった。
「ほら、何時まで引っ付いてるんですか。鬱陶しい」
「何で未だ敬語!?」(・・・ん?)
ラグナの中の意識に入り込んで彼を中心に辺りの景色を見ていたスコールは、クロスの武器に視線を向けた。
彼の腰に下がっている武器は、何処かで見たことのある物だった。
其れをもっと見ようとスコールがした時、ラグナの身体はクロスから離された。
クロスがラグナを押しやったのだ。
「いいから、離れて」
「つ、冷たい!」(あれは・・・、蝶の模様・・・)
微かだが、見えた。
スコールがそう思っているとクロスは何処か面倒そうにラグナを見、溜め息を一つ吐いた。
「取り敢えず、デリングシティに戻りましょう」
「そうだな。じゃあ車に戻ろうぜ!」(と同じ・・・、否、似た物か?)
「何処に止めたかは覚えてる?」
「・・・・・・(やばいやばい、分からないかもしれないような気がしてきた)」(・・・分からない、俺は今のこの状態が、分からない)
黙ったラグナにクロスはまた溜め息を一つ吐くと「北の方」とだけ呟いた。
其れにラグナはハッとし駆け出した。そんな彼に慌てて三人は着いて行く。
「ばっか!覚えてたに決まってるだろ!クロス君ったらー」
「ソウデスカ」
「・・・信じてないね」(俺はこの状態を信じたくない)
「別に? ・・・あ、ほら。見えた」
前方に見えたガルバディア軍の車に全員が乗り込み、車を発進させた。
車内で「街に戻ったらバー行くぞー」と言うラグナにキロスとウォードはクスリと笑った。
クロスは揺れる車内で膝の上に肘を着き、頬杖を着いて外を見ていた。
デリングシティの街へ着くと、ラグナは車を道路のど真ん中に止めた。
そして下りる。流石に其れにはキロスもウォードも、クロスも慌てた。
「お、おい!こんな真ん中に止めるなよ!」
「気にしない気にしない! さ〜て!飲みに行っか〜!」
運転をして疲れたのか、伸びをしながら笑って言うラグナ。
そんなラグナにキロスが笑みを浮かべつつ口を開く。
「目当ては酒だけじゃ無いだろ?好い加減行動に移れよ」
「酔っ払って、その勢いで突入するってのはどうだ?」
「けど酔っ払いの勢いって結構怖いモンがあるっすよ?此処はやっぱり順序を踏んでからでしょ」
「・・・キロス君、ウォード君、クロス君。君達は何か勘違いしている様だ。僕は君達と一緒に楽しくお酒が飲みたいだけなんだよ」
「・・・果たして、それは如何かな?」
本当かな?と言い面白そうに笑みを浮かべるクロスにラグナは大いに頷きを返し、バーへ向かって足を進めた。
クロスは彼の後を追いつつ「俺は未だ19なんですけどねー」と言い頭の後ろで手を組んだ。
そんな彼の頭を撫でつつ、ウォードが「まぁ、良いじゃないか」と言い歩を進める。
キロスもクロスの横を歩き、ラグナを追った。
(何だこれは・・・!)
状況に着いて行けなくなって、スコールが思わずそう零す。
するとラグナに其れが伝わったのか、彼は瞳を丸くした。
頭の中がザワついた感じがしたラグナは「なんだ?」と言い辺りを見渡した。
其れに気付いたクロスが「如何した?」と声をかける。
「あ・・・、んと、何だろうな」
曖昧な返事を返すラグナにクロスは小首を傾げるだけだったが、キロスとウォードは違った。
ウォードが「もしかして、」と言い言葉を続ける。
「頭ん中、ザワザワするんじゃないのか?」
ウォードがそう言うとラグナは目を丸くしてぎこちなく頷きを返した。
「お、おう・・・・・・。 お前もか?」
「ティンバー辺りからなんだよなぁ・・・」
「私もだ・・・」
「俺ら、疲れてるな。うん。 飲めば治る、飲めば治る」
半ば自分に言い聞かせるようにウォードはそう言い、雑念を払うように頭を振った。
ラグナとキロスも其れに同意し、歩を進めようとしたが、後ろからの視線が気になってラグナは振り返った。
「・・・何だ?クロス?」
「・・・別に、」
ラグナがクロスにそう聞くとクロスは瞳を少しだけ伏せ、ポツリと呟いた。
「・・・大丈夫、なのか?」
「え?」
「三人共、どっか怪我したとかじゃ無くて・・・?」
心配そうに自分より背が高いラグナ達を見上げるクロスに、ラグナ達は微笑みを浮かべた。
そしてラグナが「もちろん!」と言いクロスの頭に手を置いた。
「平気だぜ?何っか分かんねーけど頭の中がザワついてるだけだ。飲めば治るよ」
「・・・そ、う・・・? 病気にだけは、気をつけて下さいよ?」
少しだけ微笑んでそう言うクロスにラグナは彼を安心させる様に笑みを浮かべる。
(クロスって、普段はあんなんだけどこういうホントの部分が可愛いんだよな。
何っつーか?弟分みたいな?)(クロスとかいう奴・・・何だかに似てる・・・)
ラグナはクロスの赤茶の色をした指通りの良い髪を撫でつつ、思う。
(でもこれを言ったらツンデレなクロスは(ツンデレ?)ツンMAXでブッ叩いて来るだろうなー
にしても病気、ねー・・・。そういえば、クロスの親は病死と事故死・・・だっけ・・・?
・・・そんで、軍部の親戚に引き取られて、軍に入ったんだっけ?
・・・・・・兄どころか俺が親になってやりてぇなー、こんな子供居たら嬉しいのに、)
何処かずれた事を考えつつラグナはクロスの頭を撫でていた。
暫くクロスはされるがままになってたが鬱陶しそうにラグナの手を払い始めた。
「あ、出たなこのツンデレ!」
「は? 何?ツン・・・? 馬鹿なこと言ってないでさっさとバーにでもカーにでも弾かれたらどうですか?」
「今ドサクサに紛れて車に弾かれろ的な感じだったよね・・・? ・・・まぁ良いや!行こうぜ!」
どうせ何時ものツンだ。ラグナはポジティブにそう考える事にしてバーへ向かい足を再度進めた。
お兄ちゃん登場。