「あ゛―――――終わった―――」
SeeD実地試験を受ける為の筆記の試験が終わった後は机にグデンと身体を伸ばした。
伸ばした、というより倒れこんだ、という表現の方が等しい気がする。と隣の席で片付けをしているスコールは思った。
が伸びを続けていると、サイファーが近付いて来た。
「おい、」と声をかけての頭を小突く。
は頭を押さえて「何よー」と語尾をだらしなく伸ばして立っているサイファーを見上げた。
「何だお前、筆記駄目って意味の"終わった"か?」
ガルバディアからの編入生も大した事無いな。と付け足して言うサイファーには明らかにムッとした表情を見せた。
が、直ぐに其れは収まり何時もの表情に戻るとサイファーを見上げて「そういうアンタが危ないんじゃないのー?」と言い返した。
「私はかったるい筆記の試験が終わって良かったって意味で言ったの!しかもアンタに聞いて欲しくって言ったんじゃないの!!」
はそう言いぷいとそっぽを向いた。
サイファーが「何だと?」と少々低めの声で言うがは動じず、隣のスコールの様に片付けをし始めた。
無視するにサイファーは頭に来て「オイ!」と声を張って机をバンと叩いた。
が、其れにもは動じず「なぁに?」とゆっくり言いサイファーを見上げた。
彼を見上げる瞳には、不安も焦りも、恐怖の色も無かった。
寧ろ挑発的に、挑戦的にサイファーを真っ直ぐに見上げていた。
其れに隣の席で二人のやり取りを見ていたスコールも、其の目を真っ直ぐに受けているサイファーも少しだけ瞳を瞬いた。
(そんな目も、出来るのか・・・アンタ)
スコールは少しだけ意外だった。
今まで彼女は自分にしつこく付きまとって来た為に結構な時間を共に過ごしたが、一度もその様な表情を見たことが無い。
訓練施設に一緒に行った時も、魔物相手にそんな目を見せる事は無かった。
スコールは、何時もニコニコ笑っている彼女がこのような表情をする事が少し意外だった。
サイファーも同じ事を思っていたのか、スコールと同じような表情をしていたが直ぐにニィ、と口の端を吊り上げた。
「お前、結構良い度胸してるな」
「オホメノコトバヲドウモー」
「無茶苦茶棒読みじゃねぇか!」
「当たり前じゃない、本当にそう思ってないもん」
「・・・・・・テメェ」
眉を寄せて拳に力を込めたサイファーには「プッ」と笑みを零して「アハハ!」と笑った。
其れに対してサイファーは更に怒りを露にしたのだが、は気にせずに笑い続けた後、口を開いた。
「サイファーって結構・・・ハハッ、やっぱ良い、言わない」
「・・・何だよ」
「言わないってばー」
気になるのか、瞳を細めて聞いてくるサイファーには手をブンブン振って言った。
スコールは「(案外子供、って思ったんだろうな・・・)」と思い完璧に片付けを終えた。
其れを視界の端に留めたは「あっ」と短く声を上げてスコールを見た。
「ねぇスッコー。この後お昼食べるんでしょ?一緒に行こう?」
「・・・・・・」
スコールは昼食の誘いを出してくるに無言のまま視線を移した。
はもう既に何時もの笑みを浮かべて再度口を開いた。
「結構試験勉強お世話になったからねーありがとう。
其処でッ!デザートだけ奢ってあげます!!」
お礼でね、あ、デザートだけだからね!と言って来るにスコールは奢ってもらえるなら。と思い「好きにしろ」と言った。
其れには嬉しそうに微笑みを返した。
其の後に彼女は「あ」と言いまたサイファーを見上げた。
「サイファーも一緒に行く?」
「「コイツと一緒はゴメンだ」」
がそう言った直後に彼女の前と後ろから同時に全く同じ声が上がった。
最初こそ彼女はキョトンとしていたが直ぐにスコールとサイファーのハモリ声が脳内で再度響き渡り見る見る内に表情を歪めていった。
笑ったら怒られる!(二人のオーラがそう)と思いは直ぐに自分の口元に手を当てて勢い良く俯いた。
見るからに笑っているにスコールとサイファーは微妙に鋭い視線を向けた。
「・・・・・・テメェ・・・」
「ブッハ!! だって二人綺麗にハモってるんだもん!!あはははっ!! 其処まで嫌なのー!?」
ばれたからには思い切り笑うにサイファーはその頭にゴンッと拳を落とした。
が、は痛がりつつも相当ツボに入ったのか笑い続けている。
暫くサイファーの怒り声との笑い声が響いていたが、やっと落ち着いたのかがヒーヒー言いながら笑いを止めた。
「っあー、涙出て来たよ、どうするのよスッコー」
「俺が知るか」
「冷たいなー私だってスッコーに筆記試験勉強で教えてあげた事もあったのにー」
「其れには感謝しているが今は関係無いだろう」
スコールにスッパリとそう言われは唇を尖らせたが直ぐに片付けを再開させた。
「クサイファーが来ないなら来ないで別に良いんだけどね」
「オイお前今何て言った」
「さてと、片付け終わり!スッコー待っててくれてありがとう!行こ!」
「あぁ」
「オイ!無視すんな!!」
は教材を手に持って歩くスコールの後を同じようにスタスタと進んだが後ろからしつこく声をかけてくるサイファーに顔だけを振り向かせて口を開いた。
「じゃあバイバイ、また明日ね!」
「・・・テメェ・・・・・・ッチ、明日覚えてろよ!」
はサイファーの言葉を聞いた後スコールの横に並んで歩いた。
「ていうか絶対明日忘れてそうなんだけど、まーいっか・・・」と呟いている少女を横目で見つつスコールは小さく溜め息を零した。
そうしたら行き成り此方を向いた少女と目が合って内心スコールはドキリとしたけれども表には出さず、彼女の言葉を待った。
「ねぇスッコー、先に寮戻って荷物置いちゃおっか?」
「・・・あぁ」
確かに、荷物にもなるしな。とスコールは思い頷いた。
は「決まりね」と言い大股に歩いて少しだけ前に行ってしまっていたスコールに追いついた。
「そういえばさ、私編入したばっかだから寮一人なんだよねー。
トラビアからの編入生が同室になるらしいんだけど・・・ちょっと其れまで寂しいよね」
「二人部屋も楽じゃないぞ」
「そう? あ、でもスッコーは一人部屋の方が好きそうだね」
「あぁ・・・」
「そういえばSeeDになれば寮部屋は一人になるんでしょ?スッコー、なりたい理由増えたね」
はそう言いニコリと笑った。
其の後に「でも私は微妙だなー一人部屋に逆戻りでしょ?寂しさも戻ってくるって事じゃん」と零した。
スコールは彼女の言葉に瞳を細めて、口を開いた。
「・・・アンタは、何で一人だと嫌なんだ?」
「えっ?」
はスコールの問いかけに瞳を丸くして彼を見上げた。
質問自体も驚いたが、スコールがにこのような自分に関しての質問をしてくるのは初めてだったので、は結構驚いていた。
が、直ぐに表情を直すと答えを待っているスコールに「寂しいからだよ」と返した。
しかし、その答えは彼にとって不満な物なのか、彼は眉を潜めた。
「・・・私はね、一人になりたくないの。・・・もう寂しい思いは嫌なの」
はそう言って苦笑をスコールに向けた。
瞳は酷く悲しそうで、不安の色で染まっていて、スコールは少々驚いた。
「私、最初は誰も寄せ付けなければいいかなって思った。でも、其れじゃ寂しいまんまだって思ったから、何時も独りにならない様にしてたんだ・・・」
「・・・其れは唯の気休めだろ?」
「・・・そうかもね。でも、私こうでもしないと寂しさに押しつぶされちゃいそうだから、さ・・・。
でも、現実は現実として受け止めるよ。期待もあんまりしない様に、してる」
は「だって、」と呟いた後スコールにとってはとても衝撃的な言葉を口にした。
「信じてて、裏切られた時の思いは、すっごく痛いから――、」
「!!」
の言葉にスコールは思わず足を止めた。
今、彼女は何て言った?
全く自分と同じ事を考えている、目の前のこの少女は、
唯、少しだけ違う事がある、
(裏切られて傷付く事を恐れつつ、人の傍に居る。これは俺とは違う点だ、俺は最初から他人を寄せ付けなければ裏切られない、そう確信しているから誰も寄せ付けなかった)
「・・・? スッコー?」
(でもコイツは五月蝿い位付きまとって来た。俺は、筆記試験のテスト内容の為に、コイツの傍に居た、SeeDになる為に・・・)
「どうしたの?」
(利用しようとしただけだ、俺は。今日の昼食を食べたら、終わりにするつもりだった。・・・・・・俺は、)
「スッコー?」
(自分が恐れている事を、コイツにしようとしているのか、)
裏切られて、傷付く事――。
スコールがそう考え事をしていたら大きな声で「スッコーってば!!」と呼ばれ腕を捕まれて揺さぶられた。
彼が少し目線を下にずらすと、心配気に見上げてくるが目に入った。
「どうしたの?トリップしてたよ?」
「・・・別に」
「・・・そう?」
はそう言いスコールから腕を放して彼を見上げた。
そんな彼女の様子にスコールは理解した。
今此処で深く追求してこないのは、他人のテリトリーに深く入り込まない為。
自分がやられて嫌な事は、多分無意識の内に他人にもやらない様にしているのだろう。
別の意味も取れる、深く他人に関わると、裏切られた時辛いから、だ。
其れなのに一人を嫌がる彼女は酷く矛盾した考えを持っている。
そして――――、
(脆い・・・)
細かい硝子細工の様な脆さだ、とスコールは思った。
互いに気になり始めてる、うん、早い(笑)