準備が整ったのでリノアに声をかける。
リノアは緊張した面持ちで「準備・・・OK?」と聞いてきた。
それにスコールは「OKだ」と答え、大統領の居る列車へと続く扉を見た。
SeeD四人は歩を進めるが、リノアだけは思い足取りでゆっくりと進み、止まる。
そんなリノアに、が止まり振り返る。
それにリノアは慌て、「あ、ご、ごめんね?」と言い震える手を、ぎゅ、と握り気丈に笑う。
は彼女に微笑みを向けると、其の手をそっと握った。
「・・・?」
「リノアさん、緊張してるからおまじないです」
ニコリ、と微笑んでは「大丈夫」と言った。
優しい微笑みにリノアは瞳を丸くして仄かに頬を朱に染めたが直ぐに元気良く笑い、頷いた。
そして「ありがとう」と言い先頭を歩き大統領専用列車へ入っていった。
二人の様子をさり気無く見ていたスコール達はに視線を向けるが彼女に「ほら、クライアントを一人にしない!」と言われて背を押され、大統領専用列車へと足を踏み入れた。
中に入ると、踏み心地の良い絨毯の感覚に思わず眉を潜めた。
豪華な飾りの装飾が部屋一面に施されており、ソファの上には余裕の表情のデリングが居た。
何かが可笑しい、とは思い、誰にも気付かれぬ様に、何時でも抜刀出来る様にと双剣の鞘に触れた。
リノアが一歩前へ足を踏み出し、「デリング大統領!」と声をかける。
「無駄な抵抗を・・・しなければ、危害を・・・加えないわ・・・」
少し震える声で言う。
緊張と恐怖、そして怒りが入り混じった様子のリノアには少しだけ心配気に瞳を細める。
「抵抗したら・・・どうなると言うのかね・・・お嬢さん」
「!!」
明らかに様子が可笑しいデリングにリノアがある事に気付き口元に手を当てて数歩後ろへ下がる。
そんなリノアにが「どうしたの?」と声をかけるが、彼女からの返事は無かった。
「残念だったな・・・」と言いデリングがゆっくりとした動作で立ち上がる。
「私は大統領では無い・・・。世間で言う影武者という奴だ」
そう言いデリング―、否、 影武者は歩を進めてリノアの前へと近付く。
そして辺りを見渡し、鼻で笑う。
「ティンバーにはレジスタンスが多いと専らの噂だったが・・・・・・軽く偽の情報を流しただけであっさり引っ掛かるとは・・・。
程度の低いレジスタンスしか居ないようだな」
「程度の・・・低い・・・?!」
瞳に怒りの色を露にしたリノアが思わずそう言う。
が、直ぐに彼女はまた数歩後ろへ下がる―。
影武者の様子が可笑しかったからだ―。
影武者は「ずっと座っているのも疲れたな・・・」と言い身体を震わせた。
震える―、痙攣という物に近かった。
明らかに様子が可笑しい事にセルフィとゼルも何かと反応を起こす。
「お嬢・・・サ・・・・・・ン・・・、無駄な抵抗をしタラ、どう料理スルつもりだったノカ・・・・・・教えテくれナイか・・・?
程度ノ低いワリ、ニ・・・面白イ、事ヲするジャないカ・・・!! アノ方を侮辱スル奴は、ゆるサん!!」
そう言いリノアに飛び掛ろうとした影武者。
それにリノアは驚いてしゃがみ込んでしまう。
準備をしていたはいち早くリノアと影武者の間に入り込むと双剣を交差させて影武者の攻撃を防いだ。
防いだ次に、足を振るい影武者の脇腹へ食らわせる。
それに後ろへ飛んだ影武者。
はその隙にリノアの腕を掴んで立たせてソファの後ろへ押しやった。
そんな二人を狙い走ろうとした影武者だが、横から行き成り現れた刃のせいで飛んで避け、二人の下へ行く事は出来なかった。
攻撃を外したスコールは軽く舌打ちを一つし、ガンブレードを構える。
ゼルも構え、影武者と対峙する。
はセルフィを呼び、リノアの事を頼んでスコール達の所へと走る。
「スッコー、お待ちー」
「良いから早くライブラをしろ」
「ぶー。ゼルもスッコーも持ってないからって酷くない?」
がそう言い魔法を使う準備をしようとした其の時、もの凄い速さで影武者がに襲い掛かってきた。
肩に鋭い痛みが走ったと思った次の瞬間は既に影武者は離れていた。
ゼルが殴りかかったのを避けて飛び去ったのだ。だが、影武者が着地した瞬間の隙を見逃さず、スコールがガンブレードを振るう。
見事に決まった其れに影武者が吹き飛んで壁に身体を打ち付ける。
斬られた箇所からは紫の液体が流れ出ていた。
口元には―、鮮血。
其れには「ゲ」と声を上げて恐る恐る自分の肩を見た。
「・・・・・・まさか、噛んだ・・・・・・!?」
怖ッ!!とが付け足してそう言っているとスコールに「馬鹿言ってないで構えろ」と言われてしまった。
分かってるって、とは言い自分にケアルをかけた。
そうこうしているとゼルが「おい、」と声をかけてきた。
「何か様子が変だぜ・・・」
「「?」」
ゼルの言葉にスコールとは影武者を見やる。
影武者はビクビクと痙攣を繰り返した後、自らの身体から流れ出る紫の液体に飲み込まれていった。
煙が立ち昇る中、異臭が鼻についた。
「何・・・?」とが声を上げた其の時、閃光が舞い、煙の中から何か大きなものが姿を現した。
腐った皮膚、大きな手足に尖った爪、剥き出しの身体。
ぐちゃり、と嫌な音が耳についてはぞわり、と鳥肌を立てた。
「きっ、気持ち悪ッ・・・・・・!!」
「化け物か・・・」
スコールがそう呟き視線だけでに訴えをかける。
は「分かってますよー!」と言い今度こそライブラを放つ。
「・・・名前は、ナムタルウトク・・・やっぱり見た感じ通りアンデッドの魔物みたい。
弱点は聖・火・土・・・・・・、此処は炎魔法の出番ですかねースッコーはんちょー」
「そうだな・・・。アンタはファイアを頼む。状況を見てG.F.も使っても良い。ゼルと俺は時間稼ぎだ」
「了解」
「オウッ!任しとけ!」
ゼルはそう言い自分の方に伸ばされたナムタルウトクの爪を避け、バックステップを踏んだ。
スコールは攻撃しながら相手の注意を自分に引きつけ、走る。
は意識を集中させてナムタルウトクの隙を見てファイアを放つ。
―が、火力が足りないのか余り怯む様子は見せない。
此処はG.F.かな。と思うがはいやいや、と首を振る。
(・・・場所が悪い・・・イフリートじゃ駄目かー・・・、・・・そうだ、)
はある考えが思い至り双剣をクロスさせてナムタルウトクからドローを試みる。
何か良い物があると良いんだけれど・・・!と思い相手から奪った魔法は・・・・・・、
「来た!来た来た来た!!」
ラッキー!とは思いながら一度クルリと回ってドローしたばかりの魔法を自分に放つ。
最初こそ何だと思ってみていたスコールだったがが何をしようとしているのかを理解し、再度ナムタルウトクの注意を引き付ける。
ナムタルウトクがスコールとゼルに狙いを定めた時、大いに隙は出来る。
はその隙を見逃さずに素早く魔法を放つ。
「行っけー!ファイア二連発!!」
振るった剣先から炎の塊が二つナムタルウトクに襲い掛かる。
ドン!と大きな音を立てて炎はナムタルウトクに命中し、勢いを増して炎上させる。
苦しみもがくナムタルウトクを、スコールはガンブレードを横に構え、一気に斬りかかった。
「チェッ、大統領が偽者だったなんてなあ」
再度戻ってきた作戦会議室でゾーンが言う。
次にリノアが「あんなのに騙されるなんて悔しいわね」と言い瞳を細める。
そんな中、外に情報収集に行っていたワッツが戻ってきた。
「情報!情報ッスー!
大変ッス!大統領の目的がわっかりましたー!大統領は放送局に行くみたいッス!警備の兵士達がすんごい沢山ッス!」
「・・・放送局?どうしてわざわざティンバーかなあ?ガルバディアからだって放送出来るよね?」
小首を傾げるリノアの後にセルフィがスコールに近付いて見上げて言う。
「あのさ、はんちょ。ドールの電波塔関係あるのかな?」
「なんだ、それ?」
セルフィの言葉を聞いていたゾーンがそう言うと、スコールが口を開いた。
「ドール公国には電波塔があって、電波の送信と受信が出来るらしい。長い間放置されていたけど、昨日ガルバディア軍が再起動したんだ」
「ははーん・・・なるほど・・・。電波放送に対応できる放送局は今じゃティンバーしか無いからな・・・。
他の放送局じゃH・Dケーブルを使ったオンライン放送しか出来ないんだ」
「んで、如何いう事?」
「奴等は電波を使って包装する気なんだ。ケーブルで繋がっていない地域にも番組を放送する事が出来るってわけだな」
「そんな事分かるわよ〜。私が言いたいのは大統領が何を放送しようとしているのかって事!わざわざ電波を使う意味よ。ケーブルに繋がっていない地域にも伝えたい事があるんでしょ?それは何?」
それが分かったら苦労しないよ・・・、とは思いリノアの言葉を聞いていた。
(でも・・・何だろう・・・?)
余り良い予感はしないけれども、と思っていると何かを思いついたらしいセルフィが手を打って口を開いた。
「世界の皆さんっ! 仲良くっ!」
可愛らしい動作つきでニコリと笑ってそう言ったセルフィ。
だが絶対ありえない事なのでゼル、ワッツ、ゾーンは俯いて手を顔の前で振った。
「・・・確か電波が使えなくなってから17年・・・だっけ?」
特に語呂良い数字でもないし・・・何だろう、とが考える。
の言葉に反応したリノアが「17年ぶりね〜」と声を上げる。
「記念すべき最初の放送がティンバー独立宣言だったら凄いのにね!」
「おっ!其れ不可能じゃないかもよ!」
「考えてみよっか!ちょっと待っててね!」
リノアの言葉に賛同したゾーンとワッツを含め、三人は端っこの方でしゃがみ込んで何やら話し始めた。
顔は真剣そのものだったり笑顔だったり、傍から見ると唯の雑談にしか見えなかった。
ゼルが思わず「おい・・・あれが作戦会議だとよ・・・」と呟く。
セルフィは少しの間外を見ていたがスコール達を見て「未だ帰っちゃ駄目なのかな?」と言った。
「あたし達の契約、どうなってるの? スコール班長、確認する?」
セルフィの言葉にスコールは頷き、リノア達に近付いた。
そうすると振り返ったリノアと目が合い、「あ、丁度良かった、作戦決定!」と言われた。
それに眉を潜めるスコールには「オイコラスッコー」と言い彼を押しのけてからしゃがみ込んでリノアに話しかけた。
「その前にガーデンとの契約書、見せて貰えませんかー?」
「ん?いいよん」
リノアが持っていたらしく、彼女はに契約書を渡した。
は其れを受け取り、少し離れた位置にしゃがんだまま移動する。
「何て書いてあるんだ?」と言いゼルとセルフィも近付いてきての近くに膝を折って中腰にしたりしゃがんだりする。
スコールもしゃがんでを見た。
「じゃあ、読み上げるね。
バラムガーデン"以下、甲"は森のフクロウ"以下、乙"との間にSeeD"以下、丙"の派遣に関する契約を締結する。
・・・甲は乙に本契約締結後、丙の派遣を即時行う物とする。丙は乙の戦闘行為を含むと予想され命令に従う。
ただし、甲の判断により乙に通達の上で丙を・・・・・・、」
「タンマ。訳解かんねぇよ・・・」
が読み上げているとゼルがストップをかけてそう言った。
セルフィもややこしくなったのか「どーいう?」と言う。
もスコールも途中から良く分からなくなってきていたので少し困った表情を浮かべる。
そんな四人にリノアが声をかけてきた。
「あ、それ解らないよね。 全然解らないんですけど、って言ったらもう一枚紙をくれたの。シドさん、親切よね」
リノアはそう言いもう一枚貰ったという紙を差し出した。
はそれを受け取り、再度音読する。
「えーっと・・・。『森のフクロウさんへ。皆さんとSeeDの派遣契約期間はティンバーの独立までです・・・(うっそ!?)
・・・。・・・SeeDを有効に使って、是非目的を果たして下さい。尚、本件は例外的な契約でありますからSeeDに欠員が生じても補充は出来ません。
他言も無用に願います。 署名:バラム・ガーデン学園長シド・クレイマー・・・』・・・、・・・・・・なんぞ、これ・・・」
「ティンバー独立まで!?」
「もしかしてすっごいテキトー?」
思わず脱力、プラス、呆れてしまう契約内容に全員が溜め息を吐く。
そんな四人にリノアが「プロなんでしょ?文句言わないの!」と言い実行部隊を決める為に辺りを見渡す。
それにワッツは「情報収集なら任してくれッス!」と言いゾーンはまた腹部を押さえて蹲った。
オイ、またか。とが内心思っているとリノアが溜め息をまた落とした。
落としたくもなるよねー、っていうかリーダーが仮病使って実行部隊に入らないってどうなのよ。
はそう思い瞳を伏せた。
「・・・と、いう訳で放送局へ向かう実行部隊は私達五人の中から・・・、三人が打倒かな?」
私は居なきゃいけないから確定ね、とリノアが言う。
次に決定したのはスコールだった。班長という意味もあり、別行動を取る少人数を纏める必要もあるからだ。
後一人は・・・、とリノアが言った時、スコールが口を開く。
「残りの一人は此方で選んで構わないか?」
「んー、いいよん。選んじゃって?」
リノアからの許可を貰い、スコールは三人の方を向いた。が、考える素振りを見せずに直ぐに口を開いた。
「、一緒に来てくれ」
最初から決めていた様子のスコールに、は苦笑して「了解」と言った。
其れと同時にある考えに思い至り「あ」と短く声を上げる。
そんなに両側に居たゼルとセルフィが何事かと見てくる。
スコールとリノアまで見てくるのでは慌てて「別に何でも?!」と言い手を振った。
「嘘っぽ〜い。何かに気付いたの?」
「任務関係か?」
セルフィとゼルに言われは「いやいや、」と手を振るがリノアが「何を思ったの?」と言って来た。
それにも首を振って苦笑するにリノアが「はーい、気になるんで言って下さーい!」と言い笑った。
そんなリノアには苦笑を濃くし、「大した事じゃあ無いですよー?」と言う。
「唯・・・、二回目だなーって思って、それだけ」
「二回目?何が?」
「・・・名前・・・」
はそうポツリと呟き、「だー!!もう!」と言い勢い良く立ち上がって背を向けた。
「放送局、行くんでしょ!?だったらさっさと移動移動!大統領が先に入っちゃっても良いんですか!?」
はそう言い部屋から出て行ってしまった。
そんなに呆気に取られていた全員だが、直ぐに回復したゼルが先程のの言葉からある考えを出し、スコールを見た。
「スコール・・・お前どんだけの事名前で呼んで無いんだよ・・・」
「・・・機会が無いだけだ」
「嘘〜。何時もスコールっての事『アンタ』とか『オイ』とか『お前』呼ばわりだからね、機会は幾らでもあるじゃん!」
「・・・・・・」
そう言われてみれば、とスコールは思い考える。
二回目、とは言っていたが恐らくドールの実地試験での事だろう。
X-ATM092に追われている時、彼女を銃撃から助けた事があった。
其の時、確かに名前を呼んだ記憶がある。
それ以外は?今が初めて?
何故?
スコールはそう思ったが直ぐに首を振って立ち上がった。
「今は、如何でも言い話だ。行くぞ」
「あ、スコール!」
ドアに手をかけるスコールをリノアが呼び止めた。
何だと視線だけで訴えてくるスコールにリノアは口を開いた。
「名前、呼んであげなよ。一人だけ名前を呼ばれないのは寂しいよ、きっと」
「だったら・・・、(俺を"スッコー"とアイツは呼んでいる。其れはどうなるんだ?)」
最初は苗字から取ったレオン君だった気がする。
そして次にはスッコー。 思えば、自分なんか一度も名前で呼ばれていない。
そう思うの胸の辺りが酷く靄が掛かったような感覚になり、少し息苦しかった。
「? スコール?」
「・・・行くぞ」
スコールは雑念を払うように首を振り、ドアを開けた。
それは一線の距離というのだよ。