「放送局ッスね!確かローカル線で行けば直ぐなんスけど・・・、今はローカル線も大陸横断鉄道も街中の列車が全部運休中らしいッスから・・・。
でも、大丈夫ッスよ!リノアが知ってるッス!」
ワッツはにこり、と笑ってそう言い達を見送った。
それから暫く経って、達はパブに居た。
別に酒が飲みたいからとか休憩がしたいからでは無い。
冒頭のワッツの言葉通り、ローカル線が止まっているからティンバー放送局へ行くにはビルとビルの間を通って行くしか方法が無いのだ。
当然、建物の中を横断したり細い裏道を通ったりもした。
放送局までの道はリノアも曖昧な程度にしか知らなかったのだが、彼女の知り合いから話を聞いて、此処に来たのだ。
其処の人の家を通して貰い、裏道へ出て前は通れた道を今は塞いでいるパブに来たのだ。
其処のパブを横断すれば良いのだが・・・、問題が一つあった。
「うぃ〜、ひっく。マスター酒!」
ドアに寄りかかってそう空瓶を仰ぐ男を見、は誰にも気付かれない様に溜め息を吐いた。
そう、酔っ払いの男が裏口へ出る為のドアに寄りかかっているせいで先へ進めないのだ。
(なーんっか、トラブル多いなー)
はそう思い腕を組んだ。
ティンバーのゲートの前を通ったらティンバーの警備兵を脅しているガルバディア兵に会った。
其処でティンバーの警備兵がガルバディア兵にある事を言われ、カッとなってつい反論してしまったのだ。
当然、支配下にあるティンバーの警備兵の口答えが気に食わなかったガルバディア兵は怒り、警備兵に掴みかかったのだ。
そのガルバディア兵に、リノアは「駄目!」と言い腕に装備してあった彼女の武器、ブラスターエッジを放ったのだ。
放たれた刃の部分は綺麗な弧を描いてガルバディア兵に命中し、カション、と音を立てて彼女の腕に再度収まった。
リノアの行動の後、は直ぐに足を踏み出し、ガルバディア兵に踵落としを食らわせて気絶させた。
次に、パブの前に居たガルバディア兵の不穏な会話を聞いてしまった事だ。
如何やらティンバー市民の誰かから金やカードを巻き上げたらしくガルバディア兵達は嫌な笑みを浮かべて其の事を話していた。
それを聞いてしまった達に気付いたガルバディア兵達は口封じの為に襲い掛かってきた。
だが、SeeD二人が居た事もあり呆気無く撃退した。
だが、クライアントを危険な目に合わせる事は避けたい。
だから、トラブルも出来るだけ回避出来れば、と思った矢先にこれだ。
は酔っ払いの男と何やら話しているスコールを見つつ、再度溜め息を吐いた。
「へっ・・・どいつもこいつも・・・。俺はただドールから旅行に来ただけだってのに・・・。
大統領が帰るまで列車は動かねぇし、ホテルもお偉方の関係者が使うから一般の客はお断りだと〜?」
酔っ払いの男はそう言い近くにあったグラスを取ると其れを一気に仰いで飲み込んだ。
そして眉を潜め、苛立った様子で続ける。
「ガルバディア兵には因縁つけられるし・・・俺の大事なカードを持っていかれるし、ロクな事ねぇや・・・」
酔っ払いの男のボヤキを聞いてはある考えに思い至り、リノアを見やった。
それは彼女も同じだった様で、丁度此方を向いていた。
恐らく、彼がパブの前でガルバディアの兵士に金を巻き上げられた人物だろう。
「何時もそうさ・・・。 あいつらは、他人の物は自分の物。力さえありゃ何でも手に入ると思っていやがる。
この街でさえ力で手に入れたんだ。そりゃー金でもカードでも何でも手に入れるさ」
男は俯き、何処か諦めた様子でそう言った。
が、直ぐに顔を上げて「そう、そう、そうなんだよ!!」と言い声を張り上げた。
「大体、大統領を拉致しようなんて企みやがったレジスタンスが悪い!」
男の其処の言葉を聞いた瞬間、リノアの顔色がサッと変わった。
だが男はそれに気付かず、続ける。
「あいつらが騒ぎを起こしたせいで列車は止められるし・・・ガルバディア兵がウロウロし出して・・・この様だ!!」
男はそう言い、ダン!という大きな音を立てて拳を床へ打ち付けた。
それにリノアの肩がビクン、と跳ねる。
其れを見たは少しだけ俯いて、そ、っとリノアの手に自分の手を重ねた。
手の感触に、リノアがを瞳だけで見る。
リノアは何か言おうと口を開きかけたが、男が次に発した言葉のせいで其れは音として出る事は無かった。
「失敗するならやるなってんだ!!
他所から来た一般市民に迷惑がかかるのが分からねぇのか〜!」
男の言葉にリノアは唇を噛み、の手を、ぎゅ、と握った。
そして真っ直ぐに男を睨み、口を開きかける。
が、其の言葉もまた音として出る事は無かった。
それはがリノアの手を彼女より強く握って制した事と、もう一つの声が理由だった。
「分かってないのはあんたの方だ!!」
テーブルに手を着いて勢い良く立ち上がってそう言った男が居た。
ティンバー市民であろう男の突然の言葉に、パブの中に居た全員の視線が其方へ向く。
「レジスタンスはティンバーの未来の為にクソ大統領の勝手な行動を阻止しようとしてるんだ!
あんなクズ大統領が頭だからガルバディア兵もクズ野郎なんだよ! レジスタンスとは関係無い!!」
男はそう言った後、幾分か落ち着いたのか、深い息を吐いて席へ腰を下ろした。
酔っ払いの男は少しの間が空いた後に「ケッ」と短く声を発すると俯いて静かになった。
はゆっくりと瞳を伏せて、男の言葉を考えていた。
(・・・クズ大統領が居るから、ガルバディア兵もクズ・・・・・・か・・・)
それは、悪いものばかりに目が行っている証拠だ。
正の行動より、悪の行動の方が人の心に深く残り、嫌な印象を与えてしまう事は分かる。
分かるけれど、は思った。
(少ないかもしれないけれど、ほんとに、一握りかもしれないけど、良い人、居るよ・・・)
そう思い悲しげに瞳を伏せ、心の中で呟いた。
(―――そうだよ、ね・・・? お兄ちゃん・・・)
「・・・?」
真横から声を掛けられ、はゆっくりと其方を向いた。
其処には心配そうに自分を見るリノアが居た。
彼女は「どうしたの?」とに聞いたがはゆっくりと首を振って「何でもありません」と言った。
それにリノアは余り納得の行かない表情をしていたが、はニコリと笑って誤魔化した。
「それより、スッコーが退かしたみたいですぜー」
明るく笑いはそう言いリノアの手を離して歩を進めようとしたが、くん、と後ろに引かれる感覚に其れを中断する事になる。
リノアがの手を握り、じ、と此方を真っ直ぐに見詰めていたのだ。
それには「何ですかー?」と言う、すると―、
「駄目!!」
「え?」
リノアにそう言われビシリと顔の前に指を突きつけられてしまった。
それにが瞳を丸くしているとリノアは「!」と綺麗な顔に怒りの色を滲ませてそう力強く名を呼んできた。
そんなリノアにはつい引け腰になってしまい「は、はいっ!?」と上ずった声を上げてしまった。
「スコールやゼル、セルフィはちゃんとそうなのに!」
「な、何がですかー?」
完全に心の中で白旗を上げているは一人でヒートアップしているリノアに引きつった笑みを浮かべた。
クエスチョン。彼女は何でこんなに怒っているのだろうか?
アンサー。全くわかりまへんがな。
心の中でそんな自問自答を繰り返しながらはチラリ、とスコールを見た。
が、スコールは我関せずの様子で腕を組んでわざとらしく視線を逸らしていた。
いやいや、何処見てるのよあんさん。とは思いスコールに対して口を開こうとしたがリノアに突然、ガッ!と肩を捕まれて驚き、反射的に視線をリノアに戻してしまう。
其の時にタイミングを計ったかのように(寧ろ計ったでしょうね!この!)スコールが此方を向いた気がしたがはスコールに構っていられる余裕は無かった。
「リ、リノアさん・・・?」
「」
リノアは少しだけ悲しそうに瞳を細め、眉を下げてを見た。
目の前で、整った顔をした人にそんな表情をさせてしまう事は忍びないはおどけた様子を止め、リノアを見詰め返した。
自分は何か彼女を傷つける様な事を言ってしまっただろうか、
はそう思いながらリノアの言葉を待った。
「・・・は、どうしてそう他人と距離を置くの?」
「・・・・・・え?」
リノアにそう言われ、は瞳を丸くした。
他人と、距離を?
そう言われは瞳を大きく開き、唯リノアを見詰め返している事しか出来なかった。
「何だか、会って間もないけどそう見えて・・・」
(他人と、距離? 置いてる、誰が? 私?)
「未だ良く解からないんだけど・・・」
(お兄ちゃんが居なくなって、私は一人ぼっちになった・・・。その寂しさを知って、私は他人と距離を置いた。
・・・また失うのが、怖かったから)
「って、スコール達には凄く砕けた感じなのに、私達には他人行儀だし・・・」
(でも、私は一人に耐え切れなくって、バラムガーデンに編入した時から友達を作り始めた。
温かさを、求めた、失う事を、恐れながら、温かさを唯求めた)
「・・・敬語だし」
(・・・・・・そっか、)
は伏せ目がちだった瞳をゆるりと上へ向け、リノアを真っ直ぐに見た。
そして、理解した。
自分は、無意識の内にまた他人との関わりを浅くしようとしていた、という事を。
(外に、出たからかな、寧ろ初任務だから変に緊張してるのかな、)
そんな事は、如何でも良いんだけれども。とは思いリノアに未だ握られていた手を、きゅ、と力なく握り返した。
リノアは其れに少しだけ瞳を丸くして其れを見た後、を見た。
「・・・ごめんね、無意識、だったっぽい」
「・・・何だか、とスコールって似てるね」
「・・・・・・そうかも・・・ううん。やっぱ違う。根は同じかもしれないけど上のほうは結構違うから」
の言葉にリノアは小首を傾げたが、はニコリと笑ってリノアの手を握ったまま前へと上げた。
「取り敢えず。此処で駄弁ってても時間の無駄だからさっさと行っちゃって皆に朗報を知らせるとしましょうか!!」
「! ・・・私の事は――」
はリノアの言葉を止める様に口の前で指を一本立ててウィンクを一つした。
「スッコー、待たせると怖いんだよ? 行こう、リノア!」
「! ・・・うん!」
リノアは表情を明るくし、嬉しそうに微笑んでと共に歩を進めた。
スコールが空気だ(爆)