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私は此処に居る。 私を連れ戻して。 私を忘れる事は決して許さない。
街頭テレビの画面いっぱいに敷き詰められた文字を見、三人は眉を潜めた。
三人がティンバー放送局の壁に付いている街頭テレビを見上げる中で、リノアが口を開く。
「これ、気持ち悪いよね？ 何なの？」
気持ち悪い？
リノアの言葉には自分の心がどのように目の前のノイズを受け止めているかを考えて、ううん、と首を振った。
（違う･･･でも、良く解らない･･･、何なの･･･？この感情は･･･）
怒り？ 悲しみ？ 憎悪？
考えれば考えるほど良く解らなくなっていき、は雑念を払うように首を振った。
幸い、上を見上げていた二人には気付かれなかった様で、スコールがリノアの問いに口を開く。
「このノイズがほとんどの周波数帯で流されているんだ。これを何とかしないと電波放送なんて出来ないはずだ」
スコールがそう言った時、背後の鉄の階段から誰かが上がってくる音がした。
其方を振り返ってみると、ワッツが居た。
「大統領がスタジオ入りしたッス！警備兵が物凄く増えてるから突入は無理ッス！」
ワッツはそう言い、何処か慌てた様子で階段をまた下りていった。
其の言葉を聞いたリノアは「突入は無理か〜･･･」と呟き少し考える動作を見せた。
其の後に、口を開く。
「ね、作戦変更しよう！大統領、帰っちゃえば警備の兵士、ほとんど居なくなるじゃない？
だから、それから私達の放送をするの。ちょっとインパクト減るけど仕方ないよね？まともに突入してもやられちゃうよね？」
リノアの言葉を聞いたスコールは明らさまに眉を潜め、腕を組み視線を彼女から外す。
はある考えが頭に思い浮かび、眉を少しだけ下げる。
少しだけ二人が黙った後、スコールが口を開く。
「俺達の事は気にするな。俺達はあんたの決定に従って、あんたの敵と戦う。それが俺達の仕事なんだ」
「行けって言われたら行くよ。何処へでも。 それが私達の今の任務だからね」
スコールとがSeeDの敬礼をしてそう言うとリノアは眉を潜め、二人を見返す。
そして、「カッコ悪ぅー」と言い視線を外して言葉を続けた。
「それが仕事？任務？ 命令に従うだけなんてとーっても楽な人生よね」
リノアの言葉にスコールは苛立ちを見せたが、腕を組んで冷静に言葉を返した。
「何とでも言えよ。アンタは俺達を使って最高の結果を出してくれれば良い。
･･･アンタたちに出来るとは思えないけどな」
スコールの言葉にリノアの眉が上がる。そして彼女はスコールを強く見返す。
不穏な空気を感じ取ったがスコールとリノアの間に素早く入り、「スッコー」と言い彼を諌める。
が、の後ろに居るリノアは「何かあるなら･･･言いなさいよ！」と言い悔しげに拳を握り、スコールを真っ直ぐに見た。
スコールはの肩の先に居るリノアを真っ直ぐに見返して、口を開く。
「アンタたちは何処まで本気なんだ？ 三人で床に座って作戦会議？ 其の作戦も直ぐに変更だって？
しかも、俺達の意見が無いと決められないだって？ そんな組織に雇われるこっちの身にもなってくれよ」
「･･･スッコー･･･！」
は顔を少し動かし、リノアの悔しそうに俯き、唇を噛み締める姿を見、視線を外したスコールの肩を掴む。
スコールは未だ怒った様子だったが、は彼の肩を数回軽く叩き、口を開く。
「気持ちは解らなくも無いけれど、言い過ぎ。 ･･･リノアも、」
はそう言いリノアを振り返り俯いている彼女の両肩へ、そ、っと手を下ろす。
リノアは少しだけ潤んだ瞳をに向けてきた。
「･･･私たちは、其れが仕事であり、任務なの。
SeeDは訓練された精鋭傭兵部隊。命令なら、例え勝ち目の無い戦場でも、命を失う可能性のある所へも、行くの。
それが私達、闘う事を決意した、SeeDとしての誇りでもあるの。
･･･リノアは、優しいからね。理解してくれだなんて言わない、けど･･････」
は其処で言葉を止めて、少しだけ俯いた。
此処まで言っておいて、次に何て言ったら良いのかが良く解らなかったのだ。
そんなを見、リノアは大きく息を吐いてから口を開いた。
「･･･なーんか、なんか、私、勘違いしてた。
SeeDが来てくれたら、何もかも上手く行くと思ってた。 でも、そんなん簡単じゃないよね。皆は雇われただけだもんね。
仲間って訳には･･･行かないよね」
リノアは寂しげに微笑んでそう言うと、二人から一歩離れてから再度口を開いた。
「えっと、作戦は変更します。 一時解散にしましょう。 まともに突入してもやられちゃうよね？」
そう言った後に、少しだけ何かを躊躇う様子を見せ、を見やる。
リノアに見られたは出来るだけ優しく微笑み、リノアを見た。
其れにリノアが瞳を潤ませ、見詰める。
が、直ぐに視線をの後ろに居るスコールに移して口を開く。
「･･･あのね･･･、やっぱり子供の遊びに見えちゃう？ でも、本気なんだよ･･･痛いくらい･･･本気なんだよ･･･」
リノアはそう言うと走って鉄製の階段を下りて行ってしまった。
其の時階段を上がってきていたゼルとセルフィが「あれ？」と言い小首を傾げる、が、に呼ばれたので素直に上がってきた。
二人が近くに来た時、タイミング良く街頭テレビにノイズが走り映像が映し出される。
多くのマイク、ガルバディアの国旗、豪華なカーテンが目に入る。
それらを設置していたスタッフ達が下がると、一人の金髪でスーツを着た小太りな男が出てきてマイクの前に立つ。
そして少しの間マイクテストをしていたが、放送されている事に気付いたのか画面を見て「あ！」と声を上げた。
『せ、世界の皆さん！私の姿が見えますか！？私の声が聞こえますか！？
感激です！これはオンラインではありません、電波による放送です！！実に17年ぶりに再会された電波による放送なのです！！』
男は其処まで口早に言い、幾分落ち着いたのか深く息を吐いてから『申し訳ありません、』と言い落ち着いた様子を見せた。
『興奮のあまり我を忘れていました･･･。
本日はガルバディアの輝ける星、ビンザー・デリング終身大統領による世界の皆様への報告を放送します。
では、デリング終身大統領、どうぞ』
そう言い男は恭しく礼をすると壇から去った。
そんな男と入れ替わるように、ガルバディアの大統領、ビンザー・デリングが画面に現れ壇の上に上がり、口を開いた。
『この電波を受け取っている世界の国民諸君。私、ガルバディアの終身大統領ビンザー・デリングは此処に提案する。
世界中の全ての争いを終わらせる用意が我々にはある』
デリング大統領が両手を大きく広げてそう言った言葉に反応し、セルフィがぱちん、と手を叩く。
「やっぱり！世界の皆さん平和に暮らそう宣言なんだ！」
「そうだったら良いけどねー･･･、」
は街頭テレビを見上げたままセルフィにそう返す。
彼女の瞳は街頭テレビに釘付けで、その目は真剣なものだった。
（･･･何だろ、嫌な予感がする･･･）
瞳を細めつつ、デリングの言葉を待つ。
『しかし、遺憾ながら、我々ガルバディアと各国の間には解決を必要とする幾つかの些細な問題がある事も事実。
私はこの問題を解決する為の対話を各国指導者とするつもりだ。その対話に私の代理として参加する大使を各国指導者及び国民全員に紹介したい』
「おーい！大使を紹介すんのにこの騒ぎかよ！」
ゼルが溜め息交じりにそう言うのに、三人が頷いた。
でも、とは思う。
これだけの事をしたのだ、きっと未だ何か大きな事がある。
まさか大使は、何か強大な力を持つ者なのでは無いか？
はそう思いつつ、テレビ画面を凝視した。
『彼女は魔女･･････』
「･･･魔女･･･？」
デリングの言葉に反応してスコールが呟いた時だった。
画面が、大きく揺れた。
直後、画面に映った男を見、達は瞳を大きく見開いて短く声を上げた。
ガルバディア兵に抑えられ、暴れて次々とガルバディア兵を倒していくその人物は――、
「サイファー！！」
ゼルがそう声を上げた。
そう、其処で下がっているデリングにガンブレードを向けている男はサイファーだった。
サイファーはガルバディア兵を全て蹴散らすと、素早くデリングに近付いて彼を拘束し、首元にガンブレードを宛てた。
それにガルバディア兵達の動きが止まる。
其の直後、またある人物が画面に現れは「あ！」と声を上げた。
「キスティス先生！？」
『無暗に近付かないで！！』
鞭を構え、ガルバディア兵の前に立ち彼らに口を開いているのはキスティスその人だった。
キスティスはそれでも尚、サイファーに近付こうとするガルバディア兵に『彼を刺激するだけなのが解らないの！？』と言った。
ゼルが画面を見たまま「ど、どうするスコール！？」と焦った様子で声をかける。
それにスコールは冷静に返した。
「俺達は森のフクロウの連中に雇われているんだ。俺達には関係無い」
そう言った直後、ガルバディア兵を諌めていたキスティスが画面に視線を移し、口を開く。
彼女の良く通る声が、合図だった。
『ティンバー班、見てる？ 此処へ来てちょうだい！ 許可は得ています、手を貸して！』
キスティスがそう言った途端、物凄いノイズが画面に走り、真っ暗になった。
ゼルとセルフィが同時にスコールを振り返る。
「スコール！！」
「はんちょ！」
そんな二人に頷きを一つ返し、スコールは走り出した。
其れに達三人も続いて走り出す。
目の前にあるティンバー放送局に向かって走る途中、ガルバディア兵が立ち塞がってきたが詠唱を済ませていたのファイアをくらい道を開ける事に成功した。
其の侭進むと先程画面に映っていた場所へ着いた。
其処に居たのはデリングを拘束しているサイファー。そしてそんな彼を諌めようとしているキスティス。
達が来た事に気付いたキスティスは「彼の身柄を拘束します！」と言った。
デリングを捕らえているサイファーを見てスコールは呆れの目を彼に向けて溜め息交じりに口を開く。
「何してるんだ、アンタ」
「見りゃ分かるだろうが！ さぁ、こいつをどうする計画なんだ？」
サイファーの一言には小首を傾げ、「計画？」と呟くが直ぐにある考えが思い至りハッとした。
彼はリノアの知り合いらしかった。
今回のSeeD派遣だって、サイファーがシド学園長に取り持ったらしかったし、とは思いつつ双剣の柄に手をかける。
（リノアの為に来たんだね、サイファー）
がそう思い彼を諌める為に口を開こうとしたが、それより早くゼルが口を開く。
「分かったぜ！！ お前はリノアの･･･！」
「チキン野郎！喋るんじゃねぇ！！」
リノアの、という辺りでサイファーの怒号が響いた。
其れにゼルは納得のいかない表情をしたが、はほっと一息を吐いた。
今此処にはガルバディアの頭のデリング大統領が居るのだ。
リノアの事や自分達ガーデンの事が万が一ばれたりすると、大変な事になる。
がそう思っていると、キスティスが「彼は懲罰室を脱走したの」と言い言葉を続けた。
「何人にも怪我を負わせてね」
それはそれは、とが思っていたら次はゼルの怒号が響いた。
ゼルはサイファーに「この大馬鹿野郎！」と言い強く握った拳を前に突き出した。
熱くなり始めているゼルが余計な事を言わない様に黙らせようとスコールが口を開く。
「（ゼル、頼むから）黙ってろ」
「先生、分かったぜ！」
だが、スコールの声を掻き消すようにほぼ同時にゼルがそう言う。
「この馬鹿野郎をガーデンに連れ戻すんだな！」
「やめろ！言うな！」「駄目！！」
続けてそう言ったゼルにスコールとが彼の言葉を掻き消す様に叫ぶが、遅かった。
ゼルの言葉を聞いた途端、デリングはニィ、と口の端を吊り上げて全員の顔を見回した。
其の時にやっと自分が言った言葉の意味に気付いたのかゼルが「あ･･･」と声を上げ、サッと顔色を変えた。
「なるほど･･･。君達はガーデンの連中か。
私の身に何かあったら、ガルバディア軍は総勢力を挙げてガーデンを潰しにかかるぞ。さぁ、離して貰おうか」
デリングはそう言い自分を拘束しているサイファーを見るが、彼は舌打ちを一つし、「面倒な事になっちまったぜ」と言い眉を吊り上げた。
彼はゼルに怒りの色が強い瞳を向けながら「誰のせいだ？ん？」と言いデリングを拘束したまま後退し始めた。
「後始末は任せたぞ！先生と班長さんよ！」
サイファーはそう言い走って奥へと行ってしまった。
それにスコールやキスティス達は唖然としていたが、は違った。
は「ちょっと！」と言い、機材やらを跨いでサイファーを追った。
最後は他人任せかお前！！と思いサイファーを追ったの後をスコール達も少し送れて追った。
がサイファーの後を追い、奥の部屋に入った時、辺りに紫の煙が漂っていた。
反射的に口を塞ぎ、警戒しながら数歩進む。
（･･･何･･･？この空気･･･、この部屋だけ、空気が重い感じがする･･･、）
そう思いつつは前にあった台に足をかけた。
其の時、前方からサイファーの声が聞こえた。
「俺に近付くな！！」
「？（サイファー？）」
はサイファーの声が聞こえた方向へと歩を進めた。
煙が霧の様に濃くて、前が良く見えない。
足元に注意しながら進んでいると、女性の声が響いた。
「･･･可哀想な少年」
（誰？）
全く聞き覚えの無い声には小首を傾げながら声のする方へと進む。
段々近付いて来た、と思った時にまた先程の女性の声が響いた。
「混乱している可哀想な少年。 さあ、行くの？退くの？ お前は決めなくてはならない」
淡々とした声色でそう問いかける声。
直後にサイファーの「来るな！」という声がまた聞こえる。
「お前の中の少年は行けと命じている。お前の中の大人は退けと命じている。
どちらが正しいのか、お前には解らない。 助けが欲しいでしょう？ この窮地から救い出して欲しいでしょう？」
「黙れ！」
「助けを求める事は恥ではありません。お前は唯の少年なのだから」
女性の声とサイファーの声だけを頼りに、漸く彼らに近付く事が出来た。
が、行き成り前方から飛んできた光にの身体は拘束された。
（な、何これ･･･！）
光は足、腰、両手に絡みつき離れず、声も何故か出なかった。
「俺は･･････、俺を少年と言うな！」
「もう少年ではいたくない？」
「俺は少年じゃない！！」
目の前でサイファーがそう叫ぶ。
すると、今までサイファーの影で見えなかったが、彼の奥に声の主の女性が居たらしく、細くしなやかな手が伸びてくる。
其れがサイファーに伸びたと同時にデリングが解放され、走って何処かへ逃げていく。
追いかけなければならないのに、身体が動かない。
は奥歯を噛み締め、悔しさに耐えた。
デリングは逃がしてしまったが、サイファーは、
そう思い動かない身体を叱咤して無理に手を前へ動かそうとする。
ガクガクと大きく震える手足に、後ろに引かれる感覚と前へ行こうとする動作の為、酷い痛みが走った。
それに眉を潜めつつも、痛みに耐えて心の中で彼を呼びつつ手を伸ばす。
（サイファー･･･！！）
痛みと良く分からない力の為に震える手を、柔らかな何かが包んだ。
其れにハッとして俯きがちだった顔を上げると、目の前には女性が居た。
大きな貝の様な形をした髪飾りを頭に付けていて、目の横や頬辺りまでに伸びている髪飾りの先端。
否、寧ろ其れは皮膚の下にある様に見えた。
彼女がつけている真っ赤な仮面の下に見えた彼女の色の無い瞳に、は息を呑んだ。
の目線に合わせる様に彼女がしゃがむ。
其れと同時に女性の真っ黒なドレスが、ふわりと舞う。
女性はの手を握ったまま、口を開く。
「何に怯えているの？」
（お･･･びえ･･･？）
「愛を知った後の恐ろしさ･･･心の中に渦巻くこの感情･･･。そう、お前は愛を手に入れる事を求めながら失う事を恐れている」
女性の言葉には唇を噛み、彼女を睨むように見返す。
解ってた、自分でも、十分に解っている事だ。
（アンタに･･･言われる筋合い無いっつーの！）
「･･･お前は･･･」
女性はそう言うとの両頬へと手を伸ばした。
柔らかな掌が、頬を包んだかと思うと―、
「ッ･･･！！ いやああああああ！！！」
胸の奥が焼けるように酷く痛んだ。
反射的に胸を押さえ、痛みに苦痛の声を上げる。
瞳を見開いて苦痛の声を上げるの脳内に、あるモノが浮かんだ。
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私は此処で待っている。 貴方は何処に居ますか？ まだ？ 貴方が居ない、 寂しい、 貴方を見付ける事が出来ない、
もう全てが解らない、 私は･･･、
は瞳を大きく開いたまま、口も開いたまま、静かになった。
女性が手を離すとを拘束していた光が弾け、光の粒となって消える。
其れと同時に支えを失ったはガクリ、と膝を着いて手を床に着く。
ハァ、ハァ、と乱れた呼吸を繰り返し、時たま咽て苦しげに咳をする。
気付けば背も首の裏も、額も汗で濡れていた。
「はっ･･････！ は･･･ぁ･･････！！」
声が、出せなかった。
何だか良く分からないけれど、身体がガクガクと震えた。
酷い寒気を感じたからという理由もあったが、今一番心を支配している恐怖という感情。
何故か脳裏に浮かんだモノに酷い恐ろしさを覚え、は身体を震わせた。
女性はそんなを一瞥すると、手を翳してサイファーと共に姿を消した。
が、今のは其れに気付く余裕すら無かった。
最後、女性の手が離れる瞬間に脳裏に浮かんだモノ。
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私は約束の場所で待っています。
思い出したらまた其れが浮かんできては「いやっ！！」と声を上げて震える手で己の両耳を塞ぎ床に蹲った。
そんなの声に反応して、追いついてきていたがと同じく女性の光の攻撃を食らって身動きが出来なかったスコール達がハッとした。
スコールは直ぐに痛む身体に鞭を打ち立ち上がり、に駆け寄った。
「おい！」
直ぐ傍まで行って声をかけるが、は震える手で己の両耳を塞いだまま、動かない。
スコールがの様子に少しだけ焦りを抱き、彼女の肩に手をかけるが、
「ッ！ 嫌っ！」
パシン、と乾いた音が響く。
がスコールの手を叩き落したのだ。
其の後に何かから逃げる様に立ち上がって何処かへ行こうとするの肩に再度手をかけると、は酷く暴れた。
スコールの手を振り払う為に身体を捻らせ、手でも剥がそうとしてくる。
こんなは初めてだった。
何かに怯えきった瞳をしていて、触れるだけで大袈裟な程の拒否反応を表す。
恐らく先程の女性に何かをされたのだろうが、今は取り敢えず彼女を落ち着かせなければ、とスコールは思い再度口を開く。
「･･･おい！落ち着け！」
「嫌！離して！」
「！！」
ジタバタと暴れるの両手を押さえ、自分の方へ向かせてそう叫ぶように言うとは急に暴れるのを止め、瞳を大きくしてスコールを見上げた。
そんなにスコールは内心疑問を抱きながらも再度彼女を落ち着かせる為に「、」と今度は幾分優しい声で呼びかける。
するとはみるみる内に安心し切った笑みを浮かべ、頭をポスン、とスコールの胸に預けてきた。
「！？」
「スコールだ･･･ね、スコールだよね？」
カタカタ、と未だ小刻みに震えながらはスコールの胸に頭を預けながらそうか細い声で呟いた。
其れにスコールは瞳を少しだけ大きく開く。
初めて、彼女に名前を呼ばれた瞬間だった。
けれども、スコールはちっとも嬉しくなかった。
スコールの力が緩んだ為、は手を動かしスコールの背に回した。
其れに彼は驚き身体を硬くするが、は何故か其処に彼が居るのを確認する様に何度も何度も「スコール、スコール、」と呟いた。
そんなの背と頭に手をぎこちなく回し、スコールは少しだけ困った表情をして「？」と彼女を見る。
―其の時、スコールの背に回されていた手が力無く解かれた。
同時には、かくん、と膝を折り身体が真下に下がる。
其れにスコールは驚いたが、元々彼女に回していた腕に力を込めて倒れこむを支える事が出来た。
何だと思いの表情を伺うと、彼女は瞳を閉じていて、紅紫色の丸い瞳が瞼の裏に隠されていた。
スコールは、が気絶しているだけと理解すると、ほっと安堵の息を吐いて彼女を抱え上げた。
そうすると、心配そうにセルフィが近付いてくる。
「はんちょ！ ･･･大丈夫･･･？」
「あぁ･･･。酷く混乱した様子だったが、休めば少しは楽になるだろう」
スコールがそう返すとセルフィも先程の彼の様に安堵の息を吐く。
キスティスはを気にしつつ、女性とサイファーが消えた場所を調べていた。
が、何か魔法を使ったのか、消えた形跡も何も残っていなかった。
其れをスコールが見ていると、カタン、と近くで物音がした。
其方を見てみると、裏の方からリノアがひょっこりと顔を出してきた。
リノアはスコール達に気付くと「こっちこっち！」と言い手を振りつつ近付いて来る。
そして直ぐにスコールに抱えられているに気付くと「どうしたの！？」と問うて来た。
スコールは眉を潜めながら「わからない」とだけ返した。
リノアは納得のいかない表情でを心配げに見詰めていたが、もう一つ気になった事を今は口に出す事にした。
「･･･じゃあ、サイファーは？」
リノアの問いにスコールは壇上で辺りを確認しているキスティスに視線を送る。
キスティスは瞳を伏せ、ゆっくりと首を振った。
其れを見たスコールはリノアに先程と同じく、「わからない」と返した。
リノアはその答えに俯いたが、直ぐに顔を上げて笑った。
「ま、アイツならきっと大丈夫だよね！ 取り敢えず今は此処から脱出しましょう？ ガルバディア兵が沢山来ちゃうから」
リノアはそう言い再度「こっち！」と言い先頭をきって走り出した。
其れにゼル、セルフィ、キスティスが続いて走り出す。
スコールはを抱え直し、彼女に負担が掛からない様に気を遣いながら走り出した。
走りながら、瞳を閉じているの顔を見てスコールは眉を潜める。
（アンタ･･･何があったんだ、あそこで･･･）
自分があの部屋に入り、達の傍までに辿り着いた時には既にサイファーとデリングの姿は無かった。
光に拘束されているを助けようとした瞬間、光が迫ってきて動けなくなったのだ。
其の間、良く解らなかったがと女性―、魔女に何かやり取りが交わされていた。
魔女がの手を握った後、彼女の両頬を両手で包んだのだ。
直後、は悲鳴を上げて膝を折った。
その間訳5秒位だろう、その間にが何かをされた事は確かだった。
が、肝心の何をされたかは見当もつかないのだ。
スコールは無意識の内にを抱える手に力を込め、足を動かす。
魔女と接触。