「ティンバーに派遣されたのがスコール達四人だけだと聞いて怒ってたわ」


二階の部屋に案内された後、落ち着くまで其々が各場所へと腰を下ろしたり壁に寄りかかったりしながら唯ガルバディア兵がこの家から去るのを待っていた。
そんな中、キスティスが口を開く。
誰の事かは言わずもがな、全員が分かっている事だ。

そう、サイファーだ。

キスティスは一回言葉を切った後、腰に手を当てて続ける。


「『ガルバディア全軍と戦う事になるかもしれないんだぞ!それなのに派遣されたのは新人SeeD四人だけかよ!
 くそっ! 俺がティンバーへ行ってやる!』・・・・・・まさか本気だとは思わなかったわ・・・」


サイファーの真似をしつつそう言った後に呟く。
そんなキスティスの言葉を聞いたスコールは短く息を吐くと腕を組んで壁へと寄りかかった。


あいつは何時でも本気だろ? それくらい分かれよな

サイファー、何時も一本勝負っぽいしねー・・・。 何て言うの? 思い立ったら即行動?


スコールとがそう思っている事を知らないキスティスは息を吐いてから「サイファー、どうなるのかしら」と呟いた。
其の言葉を聞いたスコールは淡々とした様子で「もう殺されている可能性もあるな」と返した。

それに反応したのは言葉を返されたキスティスではなく、部屋の壁に寄り掛かって座っていたリノアだった。


「そんなあっさり言わないでよ・・・。 なんか、あいつ・・・・・・かわいそ・・・」

「リノア・・・」


が近くで腰を下ろしているリノアを見下ろす。
リノアは何処か潤んだ様子の瞳を細め、ぎゅ、と膝を抱えた。


こういう時、自分は役立たずだ。とは思う。

「大丈夫」とか「きっと無事だよ」とか言うのは簡単だ。

其れで不安も少し解消されるかもしれない。

でも、信じて、裏切られた時は? どうなる?


・・・凄く、痛いよ、胸が・・・


だから、私は何も言え無いんだ。

はそう思いゆっくりと瞳を伏せた。
―次の瞬間、リノアの怒った声が聞こえて瞳をゆるりと開けた。


「何が可笑しいのよ!酷い人ね!」


何だと思って辺りの様子を伺ってみるとリノアがスコールをキッと睨んでいるのが見えた。
目を閉じていた為に何が起きたか分からなかったは唯小首を傾げる事しか出来なかった。
スコールに視線を送っても、どうでも良さげに視線を反らされるだけだ。

無視ですかい。とが思っていたらベッドで横になっていたセルフィが身体を起こして口を開いた。


「ね、どうしてサイファーは死んでるかもって思うの?」

「(
それは・・・)ガルバディア大統領と魔女は手を組んだ。その大統領をサイファーは襲った。
 魔女にとっても、サイファーは敵だ。だからサイファーがあの後に始末されたとしても不思議じゃない」


スコールの淡々とした言葉を聞いたリノアは「そうだとしても!」と言い立ち上がった。
そしてスコールの前まで真っ直ぐに進むと彼の顔を覗き込みつつこう言った。


「生きてて欲しいって思うよ」


は心の中で「そうだね」と言った。
だが、彼女は何処か辛そうに瞳を伏せて、唯、考えた。


・・・希望を抱く事は、決して悪い事じゃない・・・

思えば良いさ・・・現実はそれほど優しくないんだ。思い通りになんかならないよな?
 、アンタも同じ考えを今思っているんだろ? ・・・だから・・・、


・・・でも、やっぱり怖いよ、辛いよ?

「期待しなければどんな事でも受け入れられる・・・。傷が浅くて済む。
 まぁ、あんたが何を望んでも俺には関係無いけどな」

「・・・・・・やさしくない・・・」

傷は浅くて済む・・・か・・・。 そうだよね、そうなんだよね、でも、

「優しくない!!」

「(
何だよ・・・)・・・・・・悪かったな」


ポツリと呟いた後にそう言ったリノアは、ふい、とそっぽを向いてしまった。
悔しそうに細められた瞳には酷い不安の色があって、スコールは謝罪の言葉を入れた。

それから少し間が空いた後、階下から首領が上がってきた。


「ガルバディア兵達は引き上げたよ。常駐部隊以外は撤退したそうだ。街を出るなら今がチャンス!
 もう少ししたら常駐部隊のねちっこ〜いレジスタンス狩りが始まるかもしんないからね!」


取り敢えず下に下りておいでよ。と首領は言い階下へと下りていった。
其れにゼル、セルフィ、キスティスが続いて下りていくのをは唯黙って見ていた。

スコールを一瞥した後、階段を下りようとしたリノアが壁に寄り掛かったままのに気付き、寄って来た。
そして身を屈めての顔を覗き込んで「?」と彼女を呼んだ。

そんなリノアにはにこり、と微笑んで「なーに?」と言った。


「・・・未だ、具合悪いの・・・?」

「・・・ん、大丈夫。結構落ち着いてきたみたい」


は「ん、」と言い手を合わせて頭上へと腕を伸ばしてそう言った後、またにこりと笑った。
そして自分達を階段の前で待っているスコールを見た後、リノアを見た。


「・・・ね、リノア。スッコーって優しくないかな?」

行き成り何言ってるんだ、アンタ


スコールが眉を寄せた事には気付いたが敢えて触れず。
は黙ってしまったリノアを見ていた。

静かな空間で、は「私ね、」と呟く。


「スッコーは、優しいと思うんだ」

「・・・どうして?」


先程のスコールの言葉を聞いて、冷淡な人という印象が残ってしまったからか、リノアは少しだけ瞳を細めてそう言った。
は「それはねー・・・」と言い意味深に笑った後、ビシッと指を天上へと向けた。


私の為に特大フルーツパフェを頼んで残してくれた事があるからです!!

「「は?」」


真剣な表情から行き成り何時もの明るい笑顔に戻ってそう言ったにスコールとリノアは同時に声を上げた。
何の事?とリノアは思い、スコールは、何時の話だ、と思っていた。


「あの時は私の奢りって約束でさーあ、SeeDの筆記勉強見てもらったからなんだけど!!
 それでね、食堂で特大フルーツパフェをスッコーが頼んで・・・って、今思うと似合わないね、スッコー。
 ・・・。 ・・・まぁいいや! それでね、そのパフェをスッコーはデザート無しだった私にくれたの!
 半分以上残った美味しい特大フルーツパフェを!!
 私前々から食べたいなって思ってたんだけど一人じゃ確実に太るし食べきれないしねー
 ちょっとスッコーにボヤいた時があったんだ、それをスッコーは覚えててくれてねー
「ちょ、ちょっと待って!!」


ペラペラと喋りだしたにスコールは呆れて言葉も出ず、だったがリノアは違った。
リノアは思わず両手を前へ突き出しての言葉を遮った。

言葉を止められたはさして気にした様子も無く「ん?」と小首を傾げてリノアを見た。


「どしたのリノア? あ、それと実地試験の時もスッコーって助けてくれたんだよ、私の事。
 スッコー居なかったら私確実に死んでたよね?」

「・・・それはこっちの台詞だ」

「・・・まぁ、カードバトルしてる時はぜんっぜん優しくなんか無いけどね」

・・・今思い出した。アンタ何時になったら俺とカードするんだ?


思わずポロッと言ってしまった言葉に反応したスコールは階段の手摺りから手を離すとにゆっくりと近付いて来た。
ドッキーンとしたは内心「ヤバイ!!」と思いつつ手を振った。


い、いやいやいや? ガーデンの人とか相手にしなよ!」

「キスティスのカードならもう手に入れた」

こ、このカードキャプターめ!!


思わずデッキの入った場所をサッと手で隠しながらそう言うと其処を凝視しているスコール。
そんな二人を暫くリノアは唖然とした様子で見ていたが、プッ、と噴出して「あはは!」と笑い声を上げた。

突然笑い出したリノアにスコールとは瞳を丸くしてお腹を抱えて笑っている彼女を見た。

二人の視線に気付いたリノアは「ご、ごめ・・・あはは!」と言い深呼吸を繰り返した後、口を再度開いた。


「スコールとって、仲良しなんだね」

「うん、バラムガーデンに編入してからの初めての友達なんだー!」


にこにこと笑って言うにスコールは額に手をあてて溜め息を吐いた。
そんなスコールを見たリノアは、少しだけ嬉しそうに言う。


「・・・スコールって、さっきの言葉聞いただけだと友達とかあまり作らなそうだなって思ったけど、が居るのね」

「あ、でも暗黙のルールってヤツ? そこら辺は大丈夫だよ?」


の言葉にリノアは「暗黙のルール?」と言い瞳を丸くしたが、直ぐにある考えに思い至りハッとした。


「・・・期待、してないって・・・事・・・?」

「・・・俺にとっては同僚だ。それ以上でもそれ以下でも無い」

「せめて友達にしようよースッコー」


冗談でそう言うにスコールは溜め息を吐き、腕を組み、階段の方へと戻っていった。
スコールの後姿を見ながらは「どうにかカードの事からずらせた」と安堵の息を吐いていると腕をリノアに掴まれた。


「? リノア?」

「・・・も、・・・ううん、は、あいつ無事だと思う?」


何処か言い辛そうにそう問うて来たリノアに、は一瞬表情を失った。
が、直ぐに何時もの表情に戻ると悲しげに瞳を伏せた。


「・・・私も、悪いけどスッコーの意見に、同感かな・・・」

「・・・どうして? だって・・・」

「失うのは、怖いの。 でも、一人も嫌なの、私は・・・。 ・・・・・・我が儘だね、」


そう言って笑うにリノアは「ううん、」と言って首を振り、の手を、そっ、と握った。
それに瞳を丸くする。そんな彼女の手を握りつつ、リノアは口を開いた。


「誰だって、一人は嫌だよ・・・」

「・・・そうだね、寂しいもんね。
 ・・・でも、期待して、裏切られた時はすっごく辛いんだよ?」

「・・・・・・」


の言葉に、何も言えなくなってしまったリノアは、ぎゅ、と彼女の手を握り締めた。


自分は此処に居る事を、は一人では無い事を、証明させるかの様に―。


私が・・・・・、二人の為に、何か出来る事は無いのかな?


リノアはそう思い、瞳を伏せた。




(傷は浅くて済む・・・か・・・。 そうだよね、そうなんだよね、でも、


  一人は、怖いよ・・・)






最初は衝突が多いなぁ・・・!