「お、梯子だ梯子。下に繋がってるみたいだぜ!」
下りてみようぜ!と言い梯子に手をつけてカンカンと音を立てて既に下りて行っているラグナを見ながらクロスも梯子に手をかけた。
梯子を下りながらクロスはエスタ兵の増援が来ないかを心配していたが、それは杞憂に終わった。
梯子を四人が下り終えた時、ラグナが急に「イテテ!!」と言い足を押さえて蹲り始めた。
其れにクロスは先の戦闘で彼が何処か負傷したのかと思い慌てて駆け寄り、彼の傍にしゃがみ込む。
「レウァールさん!?」
「イテテ・・・!! あ、」
「・・・あ?」
「足攣った!!」
「・・・は?」
ラグナの様子を見ていたクロスは彼の一言で一気に冷めた視線を彼に向ける。
クロスの視線に気付かないラグナは足を少しだけ摩った後、「ふぅ!」と言い何事も無かったかの様に普通に立ち上がった。
「治った治った!急に運動すっと身体に悪いぜ、全く」
「・・・さっきの戦闘でもう既に運動してただろうがアンタはァ!!!」
「ギャアア!?」
爽やかに微笑んで言うラグナに殺意を覚えたクロスは拳を握り、一気にラグナの頬へと一撃を繰り出した。
モロにヒットしたラグナはズザーと地面に擦れる音を出しながら離れた位置へ倒れこんだ。
手をパンパンと叩きながらクロスは「全く・・・」と呟く。
「馬鹿な事やって阿呆な心配かけさせないで下さいよ」
「ご、ごめんごめん」
起き上がって手を合わせて謝るラグナにクロス達は重い溜め息を吐いた。
そんな中、キロスが「取り敢えず奥へ行ってみよう」と言うので四人は通路を通って奥へと進んだ。
奥へ進んでも、クロスはまた重い溜め息を吐いた。
またラグナが馬鹿色々やったのだ。
奥へ進んだ所に古い鍵が落ちていたので一応拾っておく事にしたのだ。
だがラグナは其れを尻のポケットに入れた途端、穴が空いていたポケットから鍵が落ちたのだ。
それに気付いたのは少し進んだ後。当然、鍵は失くした。
次に、また他の鍵が落ちていたので其れも拾っておく事にした。
ラグナは「次は胸ポッケに入れるから大丈夫!」と言って鍵を胸のポケットに入れようとした瞬間、
「ぶぇーっくしょい!!」という豪快なくしゃみをかましてくれたお陰で鍵は彼の手から離れ何処かへ飛んで行ってしまったのだ。
当然、鍵は失くした事になる。
結局両方の鍵、失くしたよこの人。と、クロスは思いながら前に居るラグナの背を呆れの目で見る。
「・・・まぁ、いっか。タダより安いもんは無ぇって言うしな」
「・・・タダより・・・」
「・・・安い・・・?」
「・・・・・・まぁ、確かに、無いけど・・・」
どうしてこの人はこう知ったかをするのだろう。
クロスはそう思いつつまた溜め息を一つ零した。
でも、先程のレバーは良かったかもしれない。と思いクロスは先程の事を思い返す。
先程ハッチのレバーが壊れかかっているのを発見したのだ。
そのレバーを少しだけ緩めておいたら、増援で来たエスタ兵がハッチの上を通った瞬間落ちたのだ。
最初こそエスタ兵がこんなちゃっちぃ罠に引っ掛かるかと思っていたが普通に引っ掛かったエスタ兵を見たクロスは複雑な思い出いっぱいになったが、少しだけラグナを見直した(色々な面で)
「何事もやってみなきゃ分かんねぇ! だから、やらない奴には一生分かんねぇ!」
彼の言った言葉を聞いて、珍しくも感心した。
其の時に「天才を馬鹿にする奴は天才に泣く」とか意味不明な事を言っていたが其れに関しては記憶の底に封印する事にしたクロスだった。
(・・・まぁ、天才と何とかは紙一重って言うし・・・)
等と思いながら進んでいたらラグナが「おっ」と言いしゃがみ込んだ。
何かを発見したようだ。
今度こそ馬鹿やりませんように。と思いつつクロスは「如何したんですかー?」と言い近付く。
ラグナが見ていたのは、青と赤のスイッチ。それと、導火線だった。
「・・・見るからに、ダイナマイトの作動装置ですね」
「なるほどなるほど〜。青い導火線は短いから・・・其処の岩用で・・・?赤いヤツは長いから遠くの岩に繋がってる・・・ってとこか?」
フム。と言いながら導火線を視線で辿っているラグナに嫌な予感を感じたウォードが口を開く。
「おい! ラグナ・・・お前まさかっ!どんくらいの破壊力があるか分からんダイナマイトを今此処で使う気か!?」
「どーせ大した破壊力は無ぇはずさ。差動装置が此処にあるって事は此処に居りゃ、被害が無いってこった」
珍しく正論を言うラグナにキロスが「一理あるな・・・」と言いダイナマイトを見やる。
ウォードも納得した様子で、「確かに・・・」と言う。
異論が無い事に気を良くしたラグナが笑い、「さぁってと、どうすっかなぁ〜」と言い赤と青のスイッチを見やる。
少しだけ考えた後、ラグナは遠くの岩のダイナマイトを作動させる赤のスイッチを押した。
「此処ならそんなに爆風も来ねぇからな。ふつ〜〜に待機だ」
と、ラグナが言った瞬間―。
ドオオオォォン!!
―という大きな音と共に地面が大きく揺れた。
突然の事で四人共バランスを崩しかけたが咄嗟の事に順応し、膝を折らずにすんだ。
ラグナが「うお!?」と言い慌てる中、クロスは何かが転がる様な音を聞き取り辺りを見渡す。
音は段々遠ざかっていき、やがて止まった。
其れと同時に、地面の揺れも止まる。
しん、と静まり返った空間で、キロスがポツリと呟く。
「・・・思いの他、大きい音だったな・・・」
「普通に待機だったんじゃないのか?」
ウォードが腕を組んでラグナにそう言うとラグナは「う、」と最初こそ言葉に詰まったが直ぐに真っ直ぐにウォードを見返して口を開く。
「だから、最初に言ったろ? 破壊力が分かんねぇものは、よく確かめてからだな・・・・・・」
「其れはウォードさんの言葉ですけど?」
「・・・・・・ま・・・まぁ、良いじゃねっかよ。こうしてピンピンしてんだからよ!」
まぁ、これ以上言っても無駄だろう。と思ったクロス、キロス、ウォードは溜め息を吐いてまた装置に向かうラグナを見ていた。
懲りない男だな、アンタ。とクロスは思ったが上に同じ。あえて言わない事にした。
青いスイッチを押したラグナが勢い良く振り返り、「爆風が来るぞ!逃げろ!」と言い走り出す。
ラグナに続いて三人も走り、前にあった階段を登って爆発に備える。 が。
ボムッ。
「?」
小さな爆発音の後、ゴゴゴ、と岩の転がる音。
其の音は段々遠ざかって行き、やがて止まった。
お互い顔を見合わせた後、キロスが呟く。
「・・・思いの他、小さい音だったな・・・」
「爆風が来るんじゃ無かったのか?」
ウォードが腕を組んでラグナにそう言うとラグナは「う、」と最初こそ言葉に詰まったが直ぐに真っ直ぐにウォードを見返して口を開く。
その様子を呆れの目で見ていたクロスは「あれ?デジャヴ?」と思ったが敢えて突っ込まず。
「だから、最初に言ったろ? 大した破壊力は無いってよ!!」
「まぁ、結局はそうなるんですね」
ハァ。と溜め息交じりにクロスはそう言い腕を組んだ。
―が、次の瞬間急に顔色を変えてクロスはラグナとキロス、ウォードの背を押した。
直後、銃声が響いて先程まで彼らが立っていた場所に弾が飛んできた。
「そりゃあ、あんだけ騒いだら敵さんも来ますわな」
クロスはそう呟き素早く辺りを確認する。
此処は道が狭い、戦うには不利だと判断したクロスは舌打ちを一つし、走り出した。
それにラグナ達も慌てて続く。
「に、逃げるの!?」
「広い所に行かないと戦えないという事だ。 そうだろう?クロス君」
「当たりでございまーす」
クロスはそう言い足を速める。
―が、前からもエスタ兵が走ってくるのに気付き四人は脇にあった道へ進んだ―。
其処を通っていくと、吹き抜けに出た。
目の前は断崖絶壁。ビュウビュウと風が吹いてきた。
四人は辺りに他に道が無いかと探したが何処にも無く、エスタ兵に崖へ追い詰められる形となった。
「・・・もしかして、」
「・・・最悪な、」
「・・・パターン?」
ラグナ、キロス、ウォードという順で仲良く言葉を発した直後、エスタ兵が襲いかかってきた。
クロスは双剣を抜いて一気に走り、エスタ兵に切りかかった。
足場は悪いが、先程の場所より広いので戦いやすい。
が、敵の数が多すぎる。
クロスは横からの敵の攻撃を防ぎながら、どうしたものかと考える。
が、元々力が強い方では無い彼は敵との鍔迫り合いで押し負けそうになる。
「くっ・・・!」
其の時、真横からクロスに切りかかろうとした敵が居たが、ラグナの銃による援護で倒れた。
クロスは咄嗟に身体を回転させて回し蹴りを目の前の敵に食らわせて間合いを取って再度構える。
「レウァールさん、どうも」
「ん!助け合いが仲間ってヤツよ!」
「・・・仲間・・・」
そう呟いたクロスの背に、キロスの背がぶつかる。
背中合わせで構えるキロスが、「クロス君」と名を呼んでくる。
「・・・こういう時は約束をすると生きて帰れるという話じゃないか」
「むしろ死亡フラグじゃないですか?」
「生存フラグだ。 帰ったら、また三人で飲もうじゃないか」
キロスがそう言った後、ウォードが「そうだな」と言い銛をエスタ兵へ投げつける。
「デリングシティの、何時ものちっこいバーで、ジュリアのピアノでも聞きながら語り明かそうぜ」
「・・・・・・」
クロスは生命の危機という状況なのに、心が温まるのを感じた。
(・・・あったかい・・・)
思えば、彼らに会ってから自分はある事をずっと忘れていた。とクロスは思う。
親が死んで、ガルバディア軍の親戚に引き取られてからずっと一人だった。
幼い頃から親の為に役立ちたいと思い戦闘訓練を受けていたので腕は良かった。
親戚の家柄や腕前も十分だったので、上級兵にもなれたがクロスは下級兵としてガルバディア軍へ入った。
まだ十九の若造が行き成り入隊直後に上官になるという事に耐えられなかった兵の事もある。
が、クロス自身が上官になる道を拒んだ事の方が大きかった。
親の為に、もう自分は何も出来ない。
軍に入る意味だって、本当は無い。
そう、思っていた。
『おっ、お前が新しく入ったって奴か?』
若いなー。と言って人懐っこそうな笑みを向けて近付いて来た男。
最初こそクロスはにこりともせず、素っ気無く『よろしくお願いします』と言っていた。
だが、彼は気にした様子は無く、笑みを浮かべたまま手を差し出してきた。
『俺はラグナ。 ラグナ・レウァールだ、今日から同じ部隊だぜ!よろしくな!』
『・・・クロス・・・、クロス・リーディです。よろしく』
自分はリーディ家に引き取られたんだから、そう名乗った。
でも、今は違う。
彼らの前では、自分自身で居たい。 親戚に引き取られた戦う人形みたいなものじゃなくて、
クロスは過去の事を思い浮かべながら、双剣を振るった。
目の前に迫る敵を薙ぎ払い、其の侭ラグナを狙う敵に切りかかる。
(俺を、仲間だと言ってくれる人が居る、初めてだ、親が死んでから・・・こんなに温かかったのは・・・!)
ずっと、孤独な心だった。
けど、彼らが自分を光の道へと戻してくれた―、だから、
「うわああ!」
「!!」
ウォードの悲鳴を聞き取り、クロスはハッとして其方を見る。
エスタ兵の攻撃をまともにくらい、倒れるウォードが視界に入った途端、クロスは身体中の体温が一気に下がった気がした。
「ウォード!」
ラグナが叫ぶように彼の名を呼んだ後、キロスが自分の傍に居た敵を切り倒してウォードに駆け寄ろうとする。
が、彼も其の後に地に伏す事になる。
背後からエスタ兵が銃を放ったのだ。
脇腹に銃弾を喰らったキロスは腹部を押さえ、苦しげに眉を寄せながら短剣を投げた。
其れは敵に当たり、敵も地へと伏した。
ラグナが「キロス!」と叫び彼らに駆け寄る。
そして彼らの周りに居るエスタ兵を倒し、彼らの様子を見る。
二人はラグナに任せ、クロスは双剣を再度握り直し、未だ建物の入り口に沢山居るエスタ兵へ向かい走り出す。
そんなクロスに気付いたラグナが「! 駄目だ、クロス!」と叫ぶがクロスは真っ直ぐにエスタ兵を見据え、双剣を振るった。
―彼らが自分を光の道へと戻してくれた、だから、
(この人達は、死なせない!!)
「だああああああぁぁぁぁ!!!」
―鮮血が、舞った。
トラウマの場所(オイ)
「何事もやってみなきゃ分かんねぇ! だから、やらない奴には一生分かんねぇ!」これは名言!
兄君頑張ってます。
次で今回のラグナ編は終了します、ガ、ガルバディアガーデンだ・・・!