森を抜けると、視界にガルバディアガーデンが入った。
本当に直ぐ近くにあるんだな、とスコールは思いつつ歩を進める。
少し歩いたら、ガルバディアガーデンに着いた。
赤を基準とした色合いのガルバディアガーデン、足を踏み入れた瞬間、上空から何かの音が響いた。
上を見ると飛行の訓練をしている者が居た。大きな機械が数個、空に浮いている。
スコール達が上を見ている反面、は辺りに視線は向けず、唯淡々とした様子で歩を進めていた。
カードリーダー前に着いた所で、セルフィが辺りの様子を見ながら思った事を言う。
「かなり雰囲気が違うなあ」
バラムガーデンは賑わいがあり、ほのぼのとした空気もあった。
セルフィの言い方によると、彼女が前居たトラビアガーデンも明るいガーデンだったのだろう。
反面、しん、と静まり返っているガルバディアガーデンの雰囲気はとてもバラムガーデン等とは似つかない物だった。
「静かだな」
「・・・良い所だ」
ゼルが周りの空気につられ、小声で言った後にスコールが複雑な顔をしている二人とは正反対の表情で呟く。
そんなスコールの様子にセルフィが「ええ〜」と反論の声を上げ、リノアはクスクスと笑みを零した。
そんな様子を見ていたキスティスが、に視線をやる。
が、はキスティスの視線には気付いていない様子で、何処かぼう、っとした様子で俯いていた。
の様子にキスティスは彼女に此処のガーデンについてを頼るのは良いかもしれないが、彼女にとっては良くない事を瞬時に理解し、カードリーダーに進み出、口を開いた。
「ねえ、此処は私に任せてくれる? 何度か来ているから学園長も知ってるし」
そう言いカードリーダーを越えるキスティスに、ゼルが小首を傾げ、「それだったら・・・」と言いを見やる。
キスティスはゼルが何かを言う前に「事情を説明して来るわね」と言い足早に歩を進めて行った。
そんなキスティスにスコール達は小首を傾げる。
スコールはチラリ、とを一瞥してから腕を組んだ。
珍しく俯いているの様子を察し、スコールは放っておく事にした。
だが、リノアは違ったらしく彼女に一歩近付いて、腰を屈めて顔を覗き込む。
「・・・?」と優しく問いかけるが、はリノアをちらり、と力なく見ただけだった。
「具合でも悪いの?」とリノアが問うとは弱弱しく微笑み「ううん、違うの」と言い首を振った。
「・・・何かごめんね?行き成り沈んでさ・・・。 取り合えず中に入ろうよ?多分応接室で待つようにって言われるよー」
多分だけどね、多分。とは言いつつカードリーダーを越える。
そして慣れた様子で進んで行った。
ガルバディアガーデンに慣れていないスコール達は、取り合えずの背を追う事にした。
「・・・ぁ、」
少しだけ進んだ時、小さい声が聞こえた。
スコール達は最初こそ気のせいか、と思っていたがどうやらそれは違ったらしい。
は少しだけ瞳を細め、拳を握った。
「・・・見ろよ、アイツだぜ」
「特待生でSeeD試験に行った奴が何で此処に戻ってきてるんだ?」
「ひょっとして、追い戻されたのかもよ?」
「えーマジでー?」
こそこそ、ひそひそと小さな声で話されている内容。
其れを聞き取れたスコールは眉を寄せ、気付かれない様に声のする方を見やる。
少し離れた位置で、嫌に笑い合いながらコソコソ話している生徒に、スコールは嫌な気分だ、と思いを見やった。
自分にも聞こえているのだから、当然にも聞こえている筈だ。
「追い戻されたんだとしても、此処のガーデンには戻ってきて欲しく無いよな」
「そうそう。ガルバディア軍の親戚が居るからってだけで優等生さんだもんな。羨ましいぜ」
その言葉を聞いて少しだけ俯き、悲しげに瞳を細めたを見てスコールは更に眉を寄せた。
思わずに手を伸ばしかけた時、ピンポン、という放送の音が響いた。
『バラムガーデンから来たSeeD部隊は2F応接室で待機していて下さい』
その放送を聞いていた他の生徒達が「SeeD、だって」と呟く。
スコールはこれ以上にそんな会話を聞かせたくなくて、彼女の腕をぐい、と引っ張って歩を早めた。
突然の事で驚いたは少しだけバランスを崩すが、何とか持ちこたえて丸い瞳でスコールを見やる。
「・・・スッコー?」
「放送を聞いただろ? 2Fの応接室だ」
暗に目で「案内しろ」と言っているスコールにはふわり、と嬉しそうに微笑み「りょーかい!」と言った。
不器用な彼の優しさに触れ、は先程の嫌な心のつっかえが取れた気がした。
(・・・やっぱり、ああ言われる事は想像してたけど、辛かった)
でも、と思いはスコールに握られている腕を見やる。
グローブ越しに伝わってくる、スコールの体温がを酷く安心させた。
(ありがとう・・・スッコー)
心の中で彼にお礼を言ってはゆっくりと瞳を伏せた―。
その後、ガルバディアガーデンの生徒が応接室の前に立っていて、此方の姿を目に留めると「此方です」と言い扉を開けて中に入るように促す動作をした。
達が中に入ると生徒は「マスターの指示があるまで此処でお待ち下さい」と言い扉を閉めた。
セルフィは壁の傍に立ち、室内の様子を眺めている。
ゼルはソファに腰を下ろし、顔を俯かせた。リノアは席には着かず、セルフィと同じように室内を見渡していた。
セルフィはに顔を向け、「此処も学園祭とかあるの?」と問うた。
そんなセルフィの問いには首を振って答えを返し、ソファへ腰を下ろした。
「無いよ。 多分、だけどね・・・?此処って徹底主義だからさ」
「お堅い感じが目に見えるからね〜」
「でも、ってそんな感じしないよね」
肩を竦めてそう言ったセルフィの後に、リノアが続ける。
リノアの言葉には「どっかな?」とおどけた様子で言い、肩を竦めた。
ソファの背凭れに思い切り寄り掛かって、は口を開く。
「此処ってお堅いって言うより心の距離がありすぎるんだよねー。
友達付き合いも表面だけ。心を許せる人なんて居ない、クラスメイトは皆ライバル。
・・・そんな感じなんだよね。 だから、バラムガーデンに言った時、凄く明るい場所だなって思ったの」
(クラスメイトは皆ライバル、か。 ・・・確かに、SeeDを目指す者が周りに溢れているんだ・・・)
の言葉を聞いていたスコールはそう思い腕を組む。
でも、と思いスコールはちらりとを一瞥した。
(・・・言われるまで、考えもしなかった事だな)
寧ろどうでも良かったのかもしれないが。
スコールはそう思い今度は、じ、とを見やる。
そんなスコールの視線に気付いたは「ん?」と言い小首を傾げスコールを見やる。
「何ですかい? スッコー?」
「・・・アンタも周りはライバルだと思ってるのか?」
「ううん。ぜーんぜん?」
はそう即答して膝の上で組ませた己の手を見下ろした。
サラリ、と銀の髪が揺れて、光を反射させる―。
髪の隙間から覗く紅紫色の瞳が少しだけ揺れた。
「だから・・・ガルバディアガーデンは、ちょっと辛かった・・・カナ・・・?」
ポツリとそう呟き、膝の上でぎゅ、と拳を握る。
そんなの様子にリノアは悲しげに瞳を細める。
スコールは唯、を真っ直ぐに見詰めていた。
(・・・アンタは、其処で人を求める事を覚えたのか?)
「私こうでもしないと寂しさに押しつぶされちゃいそうだから、さ・・・。
でも、現実は現実として受け止めるよ。期待もあんまりしない様に、してる」
以前彼女が言っていた言葉を思い出しつつ、スコールは考える。
(そして、其処で何かを失ったのか?)
彼女は、もう寂しいのは嫌だと言った。
もしガルバディアガーデンで人を求める事を知り、人を失う怖さを再度認識したのなら、バラムガーデンでのとの会話には頷ける。
そうスコールは思い、を見た。
彼女の高度な拒否反応を見るからに、恐らくは前科があるのだろう。
そう解釈したスコールは彼女が今どれだけ心の均衡が保てて居ないのか、と思い額に手を当てた。
今きっとは酷く不安がっている、トラウマの場所に居るのかもしれないのだから。
だったら、出来るだけ早く此処から離れなければ。と、スコールは気付けば思っていた。
しん、とした室内。そんな中が「でもね!」と明るい声を出し、顔を上げて笑顔で続ける。
「嫌な事ばっかだった訳じゃないんだよ? 良い事だって沢山、あったよ?」
ニコニコとわざとらしく明るく笑いながら言う。
明らかに無理をしているのは目に見えていて、スコールは眉を潜めた。
―其の時。
扉が開き、キスティスが入ってきた。
は顔をキスティスに向け、「どうだった?」と声をかける。
キスティスは疲れたのか、溜め息交じりに「私たちの事情は理解して貰ったわ」と言う。
そして歩を進め、ゼルの前まで行くと身を屈めて口を開く。
「それから、バラムガーデンも無事」
キスティスの言葉にゼルは思わず立ち上がり安堵の息を吐く。
それはスコール、、セルフィも同じ気持ちだった。
「ティンバーでの大統領襲撃事件は犯人の単独行動だと判明したそうよ。
バラムガーデンの責任は問わないという、ガルバディア政府からの通達があったって」
「犯人ってサイファーか!?」
ゼルの問いかけにキスティスは頷き、ほうっと大きく息を吐いてから言葉を紡ぐ。
「裁判は終わって・・・・・・刑も執行されたそうよ」
キスティスの一言で、セルフィ、ゼルが「ええっ!?」と声を上げて瞳を丸くする。
スコールは冷静に事実を受け止めている様に見えるが、腕を組んでいる手の力が強まっていた。
は俯き、リノアは身体を震わせ、大きく息を吐いてから震える声で呟くように言った。
「・・・処刑されちゃった・・・?」
―その言葉に異を唱える人は居なかった。
リノアはガクリと膝を折ってその場にしゃがみ込んだ。
瞳には段々と水分が溜まるが、其れを零さない様に瞳を細めながら彼女はゆるゆるとした動作で俯いた。
「・・・そうだよね・・・大統領を襲ったんだもんね。
私たち『森のフクロウ』の身代わりに、アイツは・・・・・・、」
震える声で、か細い声で肩を震わせながら言うリノアを見、キスティスが口を開く。
「確かにサイファーを巻き込んだのは貴女たちよね。
でもレジスタンス活動してるんだもの、最悪の事態の覚悟はあったんでしょ?
サイファーだって考えてたと思うわ。だから自分の身代わりになったとか、そういう考えはしない方が良い」
キスティスの言葉に、更に俯き調子になったリノア。
そんなリノアを見てキスティスは口を噤み、瞳を細めて少しだけ俯いてこう言った。
「・・・・・・ごめん、全然慰めになってないね」
キスティスはそう言いソファに力なく腰を降ろした。
少し間が空いた後、ゼルが口を開く。
「・・・嫌な奴だったけど、こういう事になるとなぁ・・・。 あの・・・野郎・・・」
「ゼルなんか、サイファーのこと大嫌いだったよね」
「そりゃそうだけどよ・・・。同じガーデンの仲間だったからな。 悔しいし、出来るなら仇討ってやりたいぜ」
ゼルの言葉の後に、またキスティスが口を開く。
「私、彼の事で良い記憶なんて全然無いの。
問題児ほど可愛いって言うけど、彼はその範囲を越えてたわ。ま、悪人では無かったけれど。
結局、SeeDにはなれなかったわね・・・サイファー」
溜め息交じりにそう言い、キスティスは天井を仰いだ。
ぼう、としながら皆の話を聞いていたは色の無い瞳で唯自分の拳を見詰めていた。
(・・・サイファー・・・、死んだの?)
「・・・私は、」
がぼんやりとそんな事を思っているとリノアがポツリと呟く。
首を少しだけ動かしてリノアの方を見ると、相変わらず彼女は俯いていたが何時の間にか立っていた。
「・・・あいつの事、大好きだった・・・。
何時でも自信たっぷりで、何でも良く知ってて・・・、あいつの話を聞いてると、何でも出来るような気持ちになった」
「彼氏?」
セルフィが小首を傾げながらそう問うとリノアは首を傾げ、「どうだったのかな?」と言った。
リノアは少しだけ笑みを浮かべ、「私、恋してたんだと思う」と言い、顔を上げた。
「あいつはどう思ってたのかな?」
「今も、好き?」
「そうだったらこんな話出来ないよ。あれは1年前の夏の日々、16歳の夏、良い思いでよ」
リノアは少しだけまた微笑み、そう言った。
つまりは一年前は付き合ってたんだね、お二人さん。とは何処かぼうっとしながら思っていた。
(大好きだった、SeeDになれなかった、仲間だった、大嫌いだった、
・・・過去になる、って、何か、凄く、アッサリしてるなー・・・、意外に、こんな、)
こんな、
簡単に、
人は過去になるの?
は何処かぼう、とした頭でそう思いながら「あー」と無意識の内に声を出していた。
だが、皆各々何か思う事があるのか、の方を向く人は居なかった。
(私も、死んだりしたら、こう思ってもらえるのかな?
はこうだったーああだったーって、 皆の記憶に残るのかな?)
そう考え、ふふっ、と笑みを零しては嬉しそうに笑った。
嗚呼、だったら何て素敵な事だろう、
私を思ってくれる人が居る、
たとえ過去の人物になろうと、その人は離れて行かない。
私を思ってくれる時がある、時々でも、絶対、思い返してくれる。
会話の中にも出てくるかもしれない、「はああだったよねー」とか、
クスリ、と笑みを零しては膝の上で何時の間にか力が解けてやんわりと絡まりあっている己の手の指を見詰めた。
(なんて、素敵な事なんだろう―)
―――と、が思った瞬間、
ダンッ!という音と共に何時も冷静な彼の、珍しく張り上げるような声が響いた。
何かヒロイン病んでないか・・・?(汗)