(好きだった・・・悪人じゃなかった・・・仲間だった・・・。 サイファー、アンタすっかり思い出の人だ。
俺も・・・死んだらこんな風に言われるのか?スコールはこうだった、ああだった、過去形で・・・・・・好き勝手言われるのか?
・・・そうか、死ぬって、そういう事か・・・、俺は、嫌だな・・・俺は、嫌だ・・・!!)
サイファーについての皆の話を聞いていたら、そんな考えが浮かび、気付いたら机に拳を打ち付けていた。
ダンッ!!という大きな音が響き、その場に居た全員が驚いてスコールを見やる。
スコールは眉を吊り上げていて、瞳を細めて立っていた。
何時もと様子が違う彼に、キスティスが「どうしたの?」と声をかけるがスコールはそれを無視し、珍しく声を張り上げた。
「俺は嫌だからな!!」
「な、なんだよ?」
「怒ってるう!?」
突然の事に驚いているゼルとセルフィがそう言うが、それさえもスコールは無視し、言葉を続けた。
―否、聞こえていないのかもしれないが。
「俺は過去形にされるのはごめんだからな!!」
「――えっ?」
スコールはそう叫ぶと、勢い良く応接室を飛び出して行ってしまった。
短く声を上げたは瞳を丸くし、思わず立ち上がる。
そんなにゼルが「?」と動揺した様子で声をかける。
はゼルを見下ろすと、彼を安心させるようにニコリと笑い、歩を進めた。
「スッコー何か情緒不安定っぽいし、様子見てくるよ。
皆はそこら辺ウロウロしてて良いと思うよー。何かあればどーせ放送で連絡されるだろうしね」
はそう言うと「じゃ!」とロボットの様な完璧な動作で片手を上げて挨拶の様な事をすると、応接室を後にした。
応接室から出たは前にある階段を下りながら(さーって、スッコーはどちらに行ったんざしょんかね?)と思った。
同時に、彼が出て行く直前に言っていた言葉を思い出す―。
(・・・過去形にされるのはごめん、か・・・)
ナンテコッタイ。さっき自分が思っていたのと正反対じゃないの。とは思いながら少しだけ歩く足を速めて廊下を進んだ。
(スッコーは、どうして過去形が嫌なんだろう・・・?)
思い返して欲しくない?ううん、それはちょっと違う気がする。
なら何故? 好き勝手に語られるから? だった、が嫌だから?
其処まで考えは「う゛ーん・・・」と唸り声を上げた。
駄目だ、どうしても正反対の考えを持った自分には分からない。
此処は本人に聞くのが一番だろうとは脳内整理をし、緩まった速度を先程の速度に戻してスコールを探した。
―がそうしていると、前方から見知った影が接近して来る事に気付いた。
「あ!」と声を上げては小走りで二人に駆け寄った。
「風神!雷神!」
其処に居たのは風紀委員の風神と雷神だった。
近付いて来たに風神は軽く会釈をし、雷神は口を開いた。
「おお、今度はだもんよ!」
「今度?」
「さっき其処でスコールに会ったもんよ」
小首を傾げたに雷神が自分達が来た方向を指しながら言う。
は「そっか」と言い雷神と風神を交互に見て口を開いた。
「スッコー、落ち込んだり不機嫌じゃなかった?」
「そんな事はなかったもんよ」
「通常、同」
「あれー?おっかしーな・・・。・・まさかもう気持ち切り替えたとか? ナンテコッタイ」
だとしたら切り替え早すぎだしょ。・・・ま、いっか。とは言い「此処のガーデンに何しに来たの?」と問いかける。
それには風神が「伝令」とだけ短く答えた。
は「何の?」と気になったが恐らく内容までは二人は知らないだろうと思い「そっか」とだけ返事をした。
「で?用事が終わったからバラムガーデンに戻るの?」
「否。サイファー、訪問」
「・・・サイファーに会いに行くの?」
「勿論だもんよ!サイファーが大人しく処刑なんて受ける筈無いもんよ!」
雷神の言葉に頷く風神を見て、は「・・・そっか、」と言い微笑んだ。
この二人はサイファーが死んだ事を信じていないのだ。
それは悪あがき等の愚の思考ではなく、仲間として信頼しているサイファーを思っての事だった。
考えてみれば、確かにサイファーが大人しく刑を受けると思えない。
何て言ったって懲罰室を抜け出した奴だ。今も刑務所内で暴れているかもしれない。
はどうしてそう思えなかったんだろうと不思議に思い、笑った。
「じゃ、ガルバディアに行くんだね?色々危ないかもしれないから二人とも気をつけてよー?」
「心配、感謝」
「おうよ!」
が軽く手を挙げると二人は同じく返してくれて、カードリーダーの方へと去って行った。
二人を見送った後、は「さて、」と言い腰に手を当てて辺りを見渡す。
(後はスッコーですねー)
確か雷神はさっき其処で会った、と言っていたので近くに居そうだ。
はそう思い歩を進めた。
歩を進めていると、ホールの端にスコールは立っていた。
はわざと靴音を立てて、彼に近付く。
隣に立って、身を少し屈めて「スーッコー?」とおどけた声色でそう言い彼を覗き込む。
スコールはに視線を向けて、「・・・何だ」と短く言った。
は身体を真っ直ぐに伸ばすと彼を見上げて口を開いた。
「突然出てっちゃうから皆ポカンとしてたよ?」
「・・・悪かったな」
「うん。 で?何考えてたの?」
アッサリとした様子ではそうスコールに問うた。
スコールは少しだけ迷うようにを見たが、直ぐに口を開いた。
「・・・サイファー、皆の中ではすっかり思い出の人だ」
「そうだね。ああだったこうだった言われまくってたもんね」
「・・・俺も、死んだらああ言われるのかと考えた。 そしたら、酷く嫌な気持ちになったんだ・・・」
「・・・どうして?」
真剣な眼差しを向けてくるに、スコールは気付けば全ての気持ちを吐露していた。
彼女の紅紫の瞳に見詰められると、隠し事は出来ない。そんな気さえした。
「俺は・・・スコールはああだった、こうだったって過去形で好き勝手言われたくないんだ・・・!」
「・・・だから、どうして?」
「嫌なんだ、酷く、嫌な気持ちになる。 どうしてかなんて、解らない・・・・・・」
唯、嫌なんだ、俺は。
スコールはそう途切れ途切れに言葉を紡ぎ、を見た。
其れは何処か迷子の子供の様な、縋る様な瞳だった。
はスコールを安心させる様に微笑み、彼の手に自分の手を重ねた。
「・・・スッコーは、真っ直ぐな人なんだね」
「・・・そんな事は無い・・・」
は「ううん、凄く真っ直ぐだよ」と言い自分の手よりも大きいスコールの手を両手で包み込むようにした。
は瞳を少しだけ伏せ、「だって、」と呟く。
「私は、過去になったら皆に思い返して貰える、って曲がった考えを持ったから」
「・・・?」
小首を傾げるスコールに、は力なく微笑み、続ける。
「皆の記憶に残るのなら、その人は決して離れて行かないでしょ?
私を思ってくれる時がある、時々でも、絶対、思い返してくれる。
会話の中にも出てくるかもしれない、「はああだったよねー」とか、さ・・・」
目の前のスコールを見詰めている筈なのに、何処か遠くを見詰めている様な瞳に、スコールは少しだけ焦りを感じた。
其れと同時に、彼女の言葉の意味を理解し、眉を潜める。
「思い返して貰う事は、良い事なんじゃないかって、思った」
「・・・ふざけるな、人の記憶なんて上に新しい物が積もれば過去の事は忘れていくんだ」
「・・・そういえばそうだね・・・。思いつかなかったや」
パチパチと大きな瞳を瞬かせて言う。
其の後クスリと笑うに、スコールは何だかとても遣る瀬無い気持ちになり、自分の手を包んでいる彼女の手の上に、もう片方の手を重ねた。
「・・・アンタが過去になっても、俺はアンタの事なんか絶対話さない」
「スッコーに話して貰えないのはちょっと寂しいんですけどー」
やっぱ私ってスッコーにとってどうでも良い存在?
そう思い少しだけ頬を膨らましておどけた様子で言うにスコールは彼女の手を強く握る事で答を返した。
「・・・俺はアンタが過去になっても、絶対話さない、だから過去なんか、良いと思うな」
「・・・・・・」
不器用な彼の優しさ、そして真っ直ぐな彼の想いを感じ、はくすりと笑みを零す。
単に自分が嫌だと思っている事を良しと思っている人物が身近に居るからそう言っている。
それでも構わない。
「スッコーは、やっぱり真っ直ぐな人だね!」
はニコリ、と笑みをスコールに向けてそう言った。
また一歩、近付いた二人。