武器の調整やらアイテムの振り分けやら魔法のストック、G.F.の確認やらをした後、達はカーウェイ邸へ入った。
前に通された部屋へ案内されると、既に大佐が其処で待っていた。
達の姿を視界に留めると「さて、チームの編成に移ろうか」と言い大佐は口を開く。
「狙撃チームは狙撃手とリーダーで構成してくれ、リーダーは総攻撃の指揮を執ってもらう」
(総攻撃・・・?)
「何らかのアクシデントで計画が進められない場合・・・・・・。
或いは狙撃に失敗した場合。リーダーの指揮下で魔女に総攻撃をかけてもらう。
我々は全てを秘密裏に勧めたい。その為の複雑な暗殺計画だ。しかし、最終目的は魔女の排除。
あらゆる犠牲を払っても目的を果たさねばならない。たとえ私の存在や、君達の所属が明るみに出ても、な。
・・・リーダーは?」
カーウェイの問いにスコールが「俺です」と言い一歩前へ出る。
そんなスコールを見、大佐は「後は君が決めたまえ」と言い黙る。
「(・・・狙撃チームは決まりだな)俺とアーヴァイン・キニアスが狙撃チームとして行動する。
凱旋門チームは・・・・・・」
スコールはそう言いキスティス、ゼル、セルフィに視線をやる。
それに三人は頷き、其々に「了解!」と返事を返す。
「凱旋門チームのリーダーは?」
そうセルフィがスコールに小首を傾げながら問いかける。
その言葉に反応したゼルが、じっとスコールに視線を送りつつ自分の万全な状態をアピールする。
拳を握りシュ、シュ、と空を切る音を出す。
そんなゼルを一瞥し、(悪いな、ゼル)と心の中で謝った後、スコールはキスティスを見た。
「トゥリープ先生、 ・・・キスティス・トゥリープ、頼む」
「OK!任せといて!」
スコールの言葉とキスティスの了承の声を聞いた途端、ゼルががっくりと項垂れた。
そんなゼルに苦笑していたを、スコールが見やる。
「残りの裏口から大統領官邸へ潜入するのは・・・・・・、」
「おっけいーおっけー!私だね!」
了解!と元気良く言い敬礼をするに、スコールは瞳を細めて言葉を紡ぐ。
「・・・一番危険かもしれない配役だ。油断せずに常に辺りに気を配っておけ」
「うん。頑張る!」
さっき、頑張れって言ってくれたしね!と付け足してはニコリと微笑んでスコールを見上げた。
配役が決まったのを見計らって、大佐が「さ、計画実行だ!」と言い扉を開ける。
其れにスコール、アーヴァイン、が続いて出て行く。
外に出て、アーヴァインとスコールの後を着いていくは大佐から渡された地図を見ながら歩いていた。
「総攻撃の時は先ず俺が突入する。出来るだけ時間を稼ぐつもりだ」
「あ、それだったら私も連れてってねー。役には立てるっしょ?」
「総攻撃は必要ないってばさ〜。俺が決めてやるから安心してろよ」
地図を見ながらスコールの言葉に反応した。
そんな二人にアーヴァインは余裕ぶった笑顔を浮かべてそう言う。
は(無理しちゃって・・・)と思い前を歩くアーヴァインの背を見詰めた。
そうして歩いていると後ろからキスティス達が少し遅れてカーウェイ邸から出てきた。
「あのさ・・・・・・、SeeDは任務に関して『何故』って質問しないって本当か?」
少し歩いた所で、アーヴァインが少しだけ言い辛そうにそう問いかける。
その問いにスコールは「知って如何する」と答える。
(知りたくない時だってある。例えば今がそうだ。でも・・・・・・、)
「例えばさ、敵がすっげえ悪い奴だと分かればバトルにも弾みがつくだろ?」
(・・・敵が悪い奴? 恐らく・・・敵と俺達を分けているのは善悪じゃない。お互いの立場が違うだけ。
どっちも自分が善だと思っている。善い奴と悪い奴が居るわけじゃない。
敵と、敵じゃない奴が居るだけだ)
アーヴァインの問いかけには答えず、スコールはそう考えているだけだった。
アーヴァインの言葉を聞いていたは小首を傾げた後、少しだけ小走りになってアーヴァインに近付いて彼のコートを引っ張る。
「アービンにとって悪い奴じゃないと、抵抗があるって事?」
何で今こんな事言うの?はそう思いアーヴァインを見上げる。
するとアーヴァインは何処か悲しげに微笑み、の頭に手を乗せた。
「そうだね」
アーヴァインはそう返しただけだった。
も、それ以上彼の領域に踏み込もうとはしなかった。
彼女にとってこれが他人との関わり合いのルールだからだ。
そうしている内に、凱旋門へと着いた。其処でキスティス達が足を止める。
「私達が此処で足止めしておく。そしたら後は貴方達の出番よ」
「20時きっかりだ。任せとけって」
「こんな簡単なミッション、三人も要らないのにね」
キスティス、ゼル、セルフィという順でそう言う。
そしてカーウェイからの説明を簡潔にもう一度受けた後、凱旋門へと入っていった。
キスティス達と別れた後、達は大統領官邸へと向かい歩を進める。
「ガルバディアは完全に魔女の手中にある。この国は、最早魔女の道具にしかすぎんよ。
世界は魔女に対する恐怖から、団結する。ガルバディアは世界中を敵に回す事になる。
魔女戦争の悪夢が繰り返されるだろう・・・。かつての敵国エスタを率いていたのも魔女だ。
そんな魔女をガルバディアに取り込めるとでも? 愚かな事だよ、デリング。
東の大国エスタは最大の脅威だよ。
かつて魔女アデルと共に世界中を侵攻した国。突然の終戦以来、エスタは沈黙を続けてきた。
魔女アデルの消息は未だわからない。エスタの実体は今も昔も厚いベールの向こうだ。
エスタが再び攻めて来る可能性は大きい。我々は力を蓄えるために他国を占領していった。
・・・だが、その頃から何かが狂い始めてしまった。」
大佐の独り言を聞きながら歩を進めていた達。
大統領官邸が見えた所で、大佐がを振り返る。
「君は渡した地図通りに行動してくれ」
「・・・了解です」
はそう答えてスコールとアーヴァインを見やる。
「じゃ、後でね」
「気をつけろよ」
「そっちこそねー」
はそう言い片手をひらひらと振りながら去って行った。
再び歩き始めるスコール達、無言だった中、カーウェイが口を開く。
「・・・あの娘は、以前の知り合いに酷く似ている。
ガルバディア軍に身を属しながら、ガルバディア政府を嫌った男。
武器も双剣と同じ物だしな、何処か動作も似ている・・・」
大佐の言葉にスコールは眉を寄せる。
一体誰の事を言っている?と最初こそスコールは思ったが直ぐにある人物が脳裏に浮かんだ。
双剣使いで、ガルバディア軍に属していたといったら、記憶に残る限り不思議な夢に出てきた登場人物の一人が当てはまる。
(・・・クロスか)
音を立てない様、はコソコソと移動していた。
は今大統領官邸の裏に居た。
大佐から貰った地図通りに来たのだが、は目の前に広がる光景に溜め息を吐いた。
(裏口ってか・・・これは・・・)
其処にあるのはトラックと大きな荷物。
不自然さを表さない様な感じに、壁沿いに荷物が積み重なっている。
其処を上っていくと、上の方に非常用の扉があるのが確認出来た。
(・・・裏口?)
はそう思いつつ荷物に寄り掛かった。
まだ行動時間では無い。今は取り合えず待機だ。
は脳内の作戦をおさらいしながらぼんやりとしていた。
―其処に、
「・・・あっ! ・・・!」
「ん?」
名を呼ばれたので其方の方向を見ると、両手を胸の前で組んでいるリノアが居た。
―って、リノア?
はリノアが此処に居る事に疑問を覚え、小首を傾げる。
リノアは何処か挙動不審で、「えっと、」やら「その、」やら言葉を濁した。
そんなリノアには微笑んで近付き、彼女の肩に手を置いて優しい声を出す。
「リノア」
落ち着いて。という意を込めて彼女の名を呼ぶ。
リノアはそれでもまだ何処か焦った様な、申し訳無さそうな表情をしていたが、幾分か落ち着いたのか、大きく息を吐いてからを見詰めた。
落ち着いた様子のリノアには「どうして此処に?」と問いかける。
すると、リノアは大佐に部屋に閉じ込められそうになったから逃げてきた。と言った。
当然、それだけのはずが無い。は、じ、とリノアを見詰めた。
「うん。 ・・・で? どうしたの?」
優しくそう問いかけるとリノアは俯き、胸の前で組んだ手をぎゅ、と強く握った。
その手の内に何か、輪の形の物が握られている事には気付いたがあえて其処には触れず、リノアの言葉を待った。
「・・・私、あの男の部屋でオダイン・バングルを見つけたの」
リノアはそう言い手の内にあった物、オダイン・バングルをおずおずとの前に差し出した。
は差し出されたリノアの両掌の上にあるバングルをしげしげと見て「へぇ・・・?」と声を出した。
「これ、魔女の力を制御するバングルらしいの・・・。でも、効果、分からないから今回の作戦では使わない事にしたらしいの・・・」
「・・・思い出した。オダインっていうブランドって魔法アイテム系じゃ一番効き目があるヤツなんだよね?
でも効果が分からないなら使わなくって正解かもね・・・。誤って暴発したら大変だし」
「でも!! ・・・良い結果に繋がるかもしれない!」
そう言い、真っ直ぐにを見詰めるリノア。
そんなリノアにはある考えが思い当たって、ほうっと大きく息を吐く。
「リノア、」と少々厳しめの声色で彼女の名を呼ぶとリノアはビクリ、と肩を震わせた。
はそんなリノアを真っ直ぐに見詰めて、口を開いた。
「これ持って魔女の所行こうとしてたでしょ?」
「・・・・・・」
少しだけ怒った声色のに、リノアは何も言えずに俯いた。
そんなリノアには小さく溜め息を漏らすと「駄目でしょーが」と言った。
「そんな危ない事、駄目だよ?」
「危ないって、分かってるもん・・・」
「分かってるだけじゃ駄目なの。寧ろ、分かってるからこそ止めなきゃ駄目なの」
「私だって!!」
リノアが突然バッと顔を上げて涙が溜まった瞳でを見やる。
酷く悔しそうに、唇を噛んだ後、肩を震わせて彼女は「私だって・・・」と繰り返す。
「・・・子供じゃないもん・・・」
「・・・・・・」
「遊びじゃ、無いのだって分かってるもん・・・、・・・私だって、出来るんだから!!」
そう叫ぶ様に言い、頭を振ったリノア。
その拍子に瞳に溜まっていた透明な雫が舞う―。
再度俯き、押し黙って肩を震わせるリノアに、は一歩近付いて彼女の頬に落ちた雫を指で掬う。
そして、驚いて顔を挙げたリノアと視線を合わせてニコリと微笑んだ。
「前にも、言ってたね。『子供の遊びじゃない、痛いくらい本気なんだ』って」
そう言いはティンバーの街頭テレビでの前での会話を思い出す。
「傍から見たら、確かに子供染みた物に見えるかもしれない。
でも、私は知ってるよ? リノア達の気持ち。
最初はやっぱ床で作戦会議とか見て、ちょっと、って思ったりしたけどねー・・・」
タハハ、と笑いながら頭をかくをリノアは唯唖然として見ていた。
そんなリノアに視線を戻し、は再度口を開く。
「でも、一緒に居る時間が増えるにつれて、理解してった。
確かに、子供の遊びに見られるかもしれない。それはリノアが戦闘のプロじゃないからだよ。
周りは精鋭部隊に軍人。戦闘のスペシャリストばっかり。そんな人から見たらぜーんぶ子供同然かもね。
・・・リノア、私今ちょっぴり、・・・ううん。結構怒ってるんだ。 如何してだか分かる?」
微笑んだままそう言ってくるは決して怒っているようには見えなかった。
その事に関して戸惑いと、何を言われるのか分からない不安を抱きながらリノアはゆるゆると首を振った。
「・・・怒るよそりゃー。 だってリノア、一人でこんな危ない事しようとしてるんだもん。
私を頼ってくれてもいいのに、最初逃げようとしたしー」
腰に手を当ててそう言うに、リノアは呆気に取られた。
瞳を丸くしているリノアには優しい笑みを浮かべると、リノアの頭に手を置いてぽんぽんとかるく叩く。
「誰に何言われたのかとか、そういうのはいいや。 兎に角、リノアは今如何したいの?」
はそう言い、己の武器やら魔法ストックを再チェックしている。
そんなの様子にリノアは「えっ!」と声を上げてを見る。
「クライアントの命令は何でも聞きますよー?」
「で、でもっ! 任務中なんでしょ!?」
「ガーデンからの任務もリノアからの命令も、私にとっては同等価値。 今は取り合えず目の前の事を優先するよ」
ニッコリ笑ってそう言うにリノアは「でも・・・!」と言い表情を歪ませる。
そんなリノアの頭を撫で、はリノアの顔を覗き込んで言う。
「前にも言ったよね? クライアントを必ず守るって・・・。 何が起きても、リノアを守る。って」
だから、ね?と最後に付け足してそう言うにリノアは胸いっぱいになって思わず目の前のに飛びついた。
自分に抱きつきながら、ポロポロと涙を流すリノアには「よしよし」と言って彼女の頭を撫でた。
だからこれじゃ相手がリノアに・・・!(爆)