ふるり、と身体を震わせた後リノアは一歩踏み出した。
そんなリノアの背を見ながらは己の身体が震える事を耐える様に唇を噛んだ。


何ていうプレッシャー・・・!


大統領官邸の裏口から侵入に成功した後、はリノアと共に魔女の部屋へ来ていた。
以前ティンバーの放送局で会った時の比なんかじゃない、とは感じていた。

実際は同じ程度のプレッシャーなのだろうが、何故か今は酷く恐ろしく。巨大な物に感じる。


皆が・・・、スッコーが、居ないから・・・?


でも、と思いは首を振る。
今この場でリノアを守れるのは自分しか居ない。自分がやらなければいけないのだ。
彼女を止めた所で結局は一人で魔女の所に向かったであろう。
そんな危険な事はさせられなかった。

また一歩、踏み出してリノアが此方に背を向けて椅子に座っている魔女に向かい、「あの・・・」とか細い声で言う。


「私、このガルバディアの、軍の、大佐の、カーウェイの娘です・・・」


声と身体を震わせながらも、真っ直ぐに魔女を見て口を動かす。
リノアは今恐怖に包まれている、それでも懸命に魔女に声をかけているリノアは、酷く強く見えた。


「これからは、父がお世話になると思って・・・、本日は、ご挨拶に、来ました・・・あ、参りました。
 それで、あの・・・、私から贈り物があるので、あの、ぜ、是非・・・」


そう言い終えた後リノアは震える足取りでゆっくりと魔女へ近付く。
後ろ手の中にあるオダイン・バングルを強く握り締めながら―。

リノアが魔女の背後に近付いた瞬間、物凄い魔力を感じては咄嗟に動いた。


「リノア!!」


そう叫んで手を伸ばしたと同時に、閃光が走る。
パァン!という何かが破裂した様な音が響いた直後、リノアが吹き飛んできたのでは身体で彼女を受け止めた。
彼女の肩を支えてやるとリノアはゆるりと起き上がる。


「大丈夫・・・? リノア・・・」

・・・。 ・・・あっ!」


リノアが短く悲鳴を上げた瞬間、彼女の身体が宙へと浮いた。
片腕だけ不自然に上へ伸びており、宙吊り状態になっていた。
リノアは顔を痛みで歪めながら、恐怖の色を宿した瞳で魔女の後姿を見やる。


―直後、


「うっ!」

!!


リノアが呻き声を上げた。
そして気絶したらしく、力無い身体が落ちてきた。

はリノアは支え、彼女の様子を見やる。
息はしている、呼吸も整っている。だが、何をしたのか。
はそう思い前に座っている魔女へ視線を移した。


ふわり、と室内なのに風が舞ったかと思うと、床にまで伸びていた魔女の黒髪が風に舞いながら短くなっていった。
被っている覆いは外れ、顔の横にある貝の様な髪飾りに吸い込まれるように消えていった。
露になる魔女の顔を見ては息を呑んだ―。


酷く、美しい容姿だった。

けれど、開かれた瞳はとても冷たい色をしていた―。


「・・・!! えっ!?」


そんな事を思っていると、くん、と腕を引かれる感覚。
其処には誰も居ないのにの右手は前へと引っ張られているのだ。
逆らおうとしても、あまりの引力の強さには逆らえず、はとうとう立ち上がり、引かれるままに動くしか出来なかった。


「は、放して!!」


ティンバー放送局での得体の知れない恐怖感情を思い出し、が叫ぶように言う。
だが魔女は其れに対して反応せず、両手を広げる。
魔女が両手を広げると同時に、魔女の背に綺麗な飾りが出現し、レースのマントの様な薄く綺麗な布が舞う。
魔女はマントを翻し、壁に向かって歩を進め、手を翳す。

それと同時に壁をすり抜けて行った。

それにが驚いていると、もまた力に引かれ、壁をすり抜けて姿を消した―。

驚いて目を強く瞑ったが、衝撃は来なかった。
代わりに耳に入ってきた来たのは民衆の歓声―。

それにハッとして見えない力に引かれている為不自然に手を前に上げながらは辺りを見渡す。

其処は魔女の演説が行われる官邸のテラスだった。


咄嗟にまずい、と思ったは抵抗をするが、見えない力は更に強くの腕を締め付けた。
それに「痛ッ・・・」と短く声を漏らすが魔女は気にした様子も無く、民衆を見下ろしていた。


「・・・臭い」


ポツリ、と魔女が呟く。


「・・・薄汚れた愚か者共。古来より我々魔女は幻想の中に生きてきた。
 ・・・お前達が生み出した愚かな幻想だ」


魔女が言葉を続ける。
そんな魔女の様子に異変を感じ取ったデリングが不思議そうな顔をしながら魔女を見やる。
だが、それも気にせず魔女は続けた。


「恐ろしげな衣装に身をまとい残酷な儀式で善良な人間を呪い殺す魔女。
 無慈悲な魔法で緑の野を焼き払い温かい故郷を凍てつかせる恐ろしい魔女。・・・くだらない」

「・・・?(
何が・・・言いたいの・・・?)」


魔女の言葉を聞きながらは眉を潜める。


「その幻想の中の恐ろしい魔女がガルバディアの味方になると知りお前達は安堵の吐息か?
幻想に幻想を重ねて夢を見ているのは誰だ?」

「イ、イデア・・・、一体何を・・・?」


魔女、イデアの言葉を黙って聞いていたデリングが焦った様子で魔女に近付く。
彼が再度「イデア?」と彼女の名を呼ぼうとした瞬間、


ザクッ!という生々しい音と同時に鮮血が舞った―。


魔女の鋭く長い爪がデリングの胸を貫いたのだ。
一瞬の出来事を間近で見てしまったは息を呑んだ。

魔女は手をゆっくりと掲げ、民衆にデリングを見せるようにする。
直後、デリングの足元から青白い炎が燃え上がり彼を焦がしていく・・・。


「現実は優しくない。現実は、まったく優しくない。
 ならば、愚かな者、お前達! こうするしかない」


魔女がそう高々に言った瞬間、デリングの身体がドサリと地に落ち、煙を上げながら消滅していった。
―直後、湧き上がる大歓声。

何故!?とが思い民衆の様子を見てみると、彼らの様子は如何見ても正気の様子ではなかった。


マインド・コントロール・・・!


この美しい魔女の魔力に魅了されてしまったのか!

はそう理解し、目の前に居る魔女を睨みつける。

彼女は今現実は優しくないと言った。まったくもって其の通りだ。
今現在、魔女を我が軍に引き入れ勝利を確信していたデリングだって、抱いていた幻想の夢を現実に打ち砕かれたのだ。


「自らの幻想に逃げ込め! 私はその幻想の世界でお前達のために舞い続けよう!
 私は恐怖をもたらす魔女として未来永劫舞い続けよう!
 お前達と私。共に創り出す究極のファンタジー。その中では生も死も甘美な夢。
 魔女は幻想と共に永遠に! 魔女の僕たるガルバディアも永遠に!」


両手を広げ、そう言い放った魔女に対し、またしても民衆が大歓声を上げた。

は瞳を見開き、目の前で陶酔している魔女を見詰める。


・・・未来・・・永劫・・・


未来永劫、現世に舞い降り続ける―。

には其れが何だか酷く恐ろしい物に感じた。



怖い、



怖い!



何時の間にかカタカタと足が震えていた。
目の前で皆の思い描いている魔女になろうとしているこの魔女が酷く恐ろしい!

そう思っていたの腕が先程のリノアのように上へと強い力で引っ張られた。
「いっ・・・!」という痛み声を上げるは、宙吊りにされていた。


「魔女には生け贄と残酷な儀式が必要らしい」


残酷な、儀式と、生贄。

魔女が冷たく言い放った言葉には全身を震わせた。
そんなには目もくれず、魔女は片手をひらりと舞わせると満足したように歩を進めて去って行った。

何だとが思っていると、前方で民衆がどよめいている声が聞こえた。
直後、大統領官邸の門を飛び越えて来た物は、大蜥蜴の魔物・シュメルケだった。
二匹の内一匹が動けないへと一直線に襲い掛かった。

それと同時に頭に流れてきたあるモノ―。





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未来永劫、貴方を探す。




っつ・・・! 
いやああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!」




大統領官邸前で待機していた狙撃チームのスコールとアーヴァインの耳に、
耳を劈く様な悲痛な悲鳴が響いた―。




何というプレッシャー・・・!
自分でやっといて何だけどガンダムと思ってしまった\(^p^)/←分かる人居るのか?