最初、魔女と共にが出てきた時は隣に居るアーヴァインに悟られない程度に目を見開いた。
は不自然に片手を前に出して、其れを必死に引こうとしていた。
魔女に操られている事は見るからに明らかだった。
「・・・! お、おい、何でがあんな所に居るんだ!?」
「俺が聞きたい・・・!」
スコールはアーヴァインにそう返し、魔女の演説を聞く事しか出来ない自分に舌打ちをした。
暫くして魔女がデリングを殺し、演説を終えた。
そして、魔法を使いを宙吊り状態にさせると「魔女には生け贄と残酷な儀式が必要らしい」と言うと姿を消した。
生贄。という言葉にスコールが眉を潜めていると背後から物凄い速さで何かが迫ってきて、身動きが取れないに襲い掛かった。
驚愕に見開かれた瞳。彼女が大蜥蜴の魔物・シュメルケに押し倒された直後に、悲鳴が響いた。
「いやああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!」
悲痛な叫び声を聞いても民衆たちはすっかり魔女に魅了されてしまったせいか気にも留めていない。
瞳を見開いているスコールの肩を掴み、アーヴァインが焦った様子で口早に喋る。
「やばいぞまずいぞ何とかするぞ!!」
「・・・まだパレードが始まらない・・・門が開かない」
「マジかよ!?」
助けに行きたくても行けない状態をスコールとアーヴァインは酷く歯痒く感じ、拳を握り締める。
今か今かとパレード開始で門が開かれるのを待っていた二人。
そんな二人の前でダンサー達が踊り出てきて門の前で踊る。
パレードが始まる事を理解した二人は目配せをし、構える。
魔女の乗った車がダンサーが躍り移動する後を着いて行く。
民衆の目がパレードに向いている隙に、スコール達は動く。
「さ、行こう!助けに! 悩むなよっ!死んじゃうぞ!」
「悩んで無い・・・」
直ぐに駆け出したアーヴァインの背を追う形でスコールも走り、呟いた。
魔女の車の直ぐ横を駆け抜ける時、スコールは視線を感じてそちらを一瞥する。
通り抜ける一瞬の間だったが、視線の主と目が合った―。
魔女のパレード車の上で、魔女の傍らに立っていた者は、
(・・・サイファー・・・!)
処刑されたと聞かされていたサイファー・アルマシーその人だった。
スコールは何故此処に、と思ったが直ぐに雑念を払うように首を振り、アーヴァインと共に大統領官邸の門を潜った。
そして裏口に進み、荷物を使って官邸内へと進入をする。
裏口のドアは開かなかったので梯子を使い、屋根の段差を利用して先程魔女が演説していたテラスへと行く。
其処では先程確かにが襲われていた筈なのだが、残っているのは血痕だけで彼女の姿は無かった。
床に落ちている血痕に視線を送りつつ、スコールとアーヴァインは官邸内へと続くドアへ近付く。
―其の時、
ドアが開き、丁度開けようとしていたスコールの腕の中に誰かが倒れこんできた。
「! リノア!」
「ス、スコール・・・」
黒い髪に青い服、スコールの腕の中に倒れこんできたのはリノアだった。
何故此処に、と思っているとリノアは瞳を潤ませ、身体を震わせた。
「が・・・がぁ・・・!!」
「・・・落ち着いて話せ、がどうしたんだ」
「私を、守る為に・・・!」
カタカタと身体を震わせながらそう言うリノア。
スコールは彼女の言葉を聞いて大体察しが付き、震えるリノアの肩に優しく手をかけて「もう大丈夫だ」と言う。
そして彼女を放し、「俺はを助けに行く」と言った。
そんなスコールを見上げ、リノアは頷きゆるゆると立ち上がる。
「わ、私も行く・・・!」
「無理はするな」
「私だけだったら足手纏いだった、一人じゃ怖くて何も出来なかった・・・。
でも、スコールとアーヴァインが居るから、戦える!」
「・・・無理はするなよ」
スコールが先程とは別の意味でそう言うとリノアは大きく頷いた。
三人で官邸内に入ると、其処は薄暗い部屋だった。
は何処だと思いスコールが一歩部屋に入ると同時に点く証明。
明るくなった室内で、は直ぐに見つかった。
「!!」
身体中に傷を作り、立っているのもやっとな様子な。
それでも双剣を構えてシュメルケの攻撃を何とか防いでいる状況だった。
スコールの声を聞いて其方に目をやった瞬間に隙が生じ、シュメルケの尻尾がの鳩尾に入った。
「!!」
吹き飛んだの落下位置に素早く回り込み、片手で彼女を支えて空いている手でガンブレードを構える。
スコールに支えられたは「イタタ・・・」と声を漏らし、スコールをぼんやりとした瞳で見上げた。
「スッコーだぁ・・・、」
「・・・アーヴァイン、を回復してやってくれ」
スコールを見上げて微笑んだに安堵の息を吐き、彼女をアーヴァインへと渡す。
アーヴァインは頷き、少しだけスコールから離れると彼女に回復魔法をかける。
そんな彼の横では、心配そうにリノアがを覗き込んでいる。
「・・・、ケアルラ持ってたね。借りるよ」
「どーぞどーぞ・・・」
「ドロー! ケアルラ!」
紫の光が舞い、アーヴァインの中に入った直後に魔法を放つ。
緑の光がを包むと、傷が塞がっていった。
キツそうに閉じていた瞳をパッチリと開けるとは起き上がった。
「アービンありがと!!」
「動いて大丈夫なの・・・?」
「うん、リノアも。大丈夫だった?」
「私は・・・!!」
リノアが何かを言いかけた時、ズガンという大きな音が響く。
シュメルケの尻尾が壁に当たった様だった。
は立ち上がると再び双剣を構える。
「スッコー、このままじゃ流石にきっついでしょ? 行こっ!」
はそう言うとスコールの背後に迫っていたシュメルケに斬りかかる。
其の後にスコールの背に自分の背を合わせて口を開く。
「スッコー、こいつ等なんとリフレクがかかってたりしちゃうんだよねー」
「あぁ。さっき魔法を弾き返された」
「うん・・・実は私も、それでヘマしちゃってさー・・・。
・・・・・・感じるんだ、どっちか分かんないけど、多分中に居る・・・」
チャ、と金属音を出しながら双剣をクロスさせるにスコールは「G.F.か・・・」と呟く。
は「せーかーい」と言いニコリと笑うとスコールの横へ移動して意識を集中させる。
「どっちだと思う?スッコー」
「俺に分かる筈無いだろう」
「・・・ノリ悪いよー。 ドロー!」
は取り合えず自分達が相手にしている方のシュメルケからドローをする。
すると、運良く当たりだったようだった。の中にG.F.が入ってくる感覚がした。
「合ったりー! ラッキーだったね、スッコー!」
「・・・なら、もう魔法は使っても大丈夫なんだな?」
スコールの言葉にはシュメルケを少しだけ見た後に頷く。
此方の様子を見ながらあちらでもう一匹のシュメルケを相手にしていたアーヴァインとリノアもその言葉を聞いて魔法を使う体制を取る。
「なら、」と言いスコールはを守る様に彼女の前へ出てガンブレードを構える。
「お前は下がって魔法で援護しろ」
「・・・ラジャー」
未だ万全では無いだろうから無理はするな。
目の前にある背中がそう言ってるような気がしては微笑んでそう返した。
リフレクの解けたシュメルケは簡単に倒せた。
硬いだけだったんだね、とは思いながらリノアに近付く。
彼女の身体の様子を確認しながら「リノア、」と声をかける。
「大丈夫だった? 怪我は?」
「・・・私は、が守ってくれたから・・・!」
「そ、っか・・・。良かった」
リノアに怪我が無い事を確認するとは安心したように微笑んだ。
そんなにリノアも「は?大丈夫なの?」と問う。
「うん、バッチリ!! アービンが治してくれたからねー」
「そうじゃなくて・・・!」
「リノア」
反論しようとするリノアの言葉を遮り、はリノアに近付いて彼女の頭を撫でた。
「よしよし」と言いながら微笑んで、彼女を安心させるように優しく撫でる。
「怖かったね、」
でももう大丈夫だからね。
がそう言って微笑むとリノアはくしゃりと顔を歪ませ、「うん」と言い頷いた。
そんな様子のリノアの頭を撫でていると横にスコールが来た。
「・・・所で、アンタは何で魔女に捕まってたんだ?」
裏口で待機じゃなかったのか?
スコールがそう続けるとは「う゛」と言い固まる。
が、直ぐに恐る恐るとした様子でスコールを見上げる。
「エート・・・。 ごめんなさい班長、クライアントの護衛を優先しまし、タ・・・」
「・・・・・・」
「ヒッ! ゴメンって!リアルにゴメンって!だからそんな睨まないで下させぇスッコーハンチョ・・・!」
「スコール!を責めないで!」
無言で睨み下ろしてくるスコールにがビクついてそう謝っていると横からリノアが口を挟んできた。
スコールは視線だけはリノアに移したが、身体はに向いたままだ。
怖いよ。と思いつつは肩を竦める。
「私が勝手にカッとなっちゃって・・・それで魔女の所に一人で行って、オダイン・バンクルを着けようとしたの!
裏口でに会って・・・それで、私を守る為に着いてきてくれたの!!」
だからは悪くないの、私が悪いの!と、リノアは言いスコールを真っ直ぐに見上げる。
そんなリノアの様子にスコールは溜め息を吐く。
「・・・任務に支障は無かったが、下手したらパレードが中止になって全ての作戦がパーになっていたかもしれない」
「う゛・・・おっしゃるとおりで・・・」
ゴザイマス。とが続けようとした時、「だが」という声が響く。
「俺達にとって魔女暗殺任務とクライアントの護衛は対等の仕事だ。
の行動を・・・咎めるつもりは無いさ」
「スッコー・・・!」
「だが俺は頑張れとは言ったが無理をしろとは言ってないぞ」
「・・・スッコー・・・!」
瞳を輝かせた直後、焦った様子になるにアーヴァインとリノアはくすりと笑う。
やっぱお説教ですかい。とが思っていると前から大きな手が伸ばされた。
その手は少しだけ迷った後、の頭の上にポンと乗せられた。
え、何?ワタクシ今スッコーに頭撫でられてる!?とが半ば混乱状態に陥っていると上から声が降ってきた。
「・・・死んでたかもしれない」
「・・・そう、だね。過去の人になってたかもしれないね」
「俺は前にアンタに言った・・・。
俺はアンタが過去になっても、絶対話さない。だから過去なんか良いと思うなと・・・」
「・・・別に死にたがってた訳じゃないよ?
お兄ちゃんに会いたいし・・・。それに今回はリノアを守ろうと、」
「分かってる」
の言葉を遮ってスコールはそう言う。そして再度「分かっているんだ・・・」と呟く。
言葉を捜しているのだろうか、俯いてしまったスコールには少しだけ背伸びをして彼の頭を撫でる。
「よしよし」とが言って彼の茶の髪を撫でていると、スコールと目が合った。
「・・・何を・・・、」
「うーん・・・取り合えず、スッコーは私の心配をしてくれたんでしょ?」
がそう言うとスコールは目を反らす。あっ、図星だねコノヤロー。
そう思いつつはニコリと笑って続けた。
「大丈夫、スッコーの想いは何時も毎回、ビシバシ凄く伝わってくるって。
慣れない事、させちゃってゴメンネ?」
「・・・そう思うなら、そうさせるな」
「ハーイ」
「・・・アンタは、目の届く範囲に居ないと何をするか分からないな・・・」
「人を歩く危険物みたいに・・・!!」
酷くないですかい!?とがスコールに反論しようとした瞬間、
此方を真っ直ぐに見詰める青の瞳に見惚れた―。
黙ってしまったを気にせず、スコールは「だから」と言い言葉を続けた。
「アンタは俺の傍に居ろ」
完璧に、落ちる音がした―。
何にって、恋に。
ずっとずっと落ちないようにと頑張ってたのにパーです。