「怖かったね、」
アンタはそう言ってリノアの頭を撫でた。
身体を震わせているリノアと、辺りの気配を探っていたアーヴァインは気付かなかっただろうが、アンタ、手、震えてたぞ。
(其の後のアーヴァインは分からないがな)
「でももう大丈夫だからね」
そう言って微笑んだアンタ。
リノアはアンタの言葉に安心してたけど、それはアンタ自身の為の言葉だったんじゃないか?
もう大丈夫だと、再確認したかったんじゃないか?
其の後に俺が声をかけるとわざとらしくビクビクして、明るく対応してくる。
未だ先程の恐怖を引き摺っていると悟られない様に。
そんな様子に何だか苛ついて俺は眼前のアンタを見下ろした。
「・・・任務に支障は無かったが、下手したらパレードが中止になって全ての作戦がパーになっていたかもしれない」
「う゛・・・おっしゃるとおりで・・・」
「だが」
アンタの言葉を遮って俺は言葉を放つ。
それを聞いたアンタは俺の言葉を待つように開きかけた口を閉じて俺を見上げる。
「俺達にとって魔女暗殺任務とクライアントの護衛は対等の仕事だ。
の行動を・・・咎めるつもりは無いさ」
そう言うとは何処か瞳を輝かせ、「スッコー・・・!」と俺を呼びその瞳で見詰めてくる。
だが勘違いはしないで欲しい。俺はアンタの行動を咎めるつもりは無いが、
「だが俺は頑張れとは言ったが無理をしろとは言ってないぞ」
頑張れ。確かに言った言葉。
デリングシティに来た時から様子が可笑しかったアンタに、何の言葉も浮かばなかった俺が言った台詞だ。
アンタからすればクライアントを守った、頑張ったんだろうが俺から見たら唯の無理だ。
(その証拠にアンタは酷く―、)
ぽん、とアンタの頭の上に手を置く。
さっきアンタがリノアにやっていたみたいに―。
グローブを着けているせいで少し撫でにくかった。
サラサラと靡く銀の髪が、指に絡まってくる。
瞳を丸くして俺を見上げてくるアンタ。
そんなアンタを見て俺は「死んでいたかもしれない」と言う。
そうするとアンタは「・・・そう、だね」と言い少しだけ俯いた後、俺をまた見上げて笑う。
「過去の人になってたかもしれないね」
「俺は前にアンタに言った・・・。
俺はアンタが過去になっても、絶対話さない。だから過去なんか良いと思うなと・・・」
「・・・別に死にたがってた訳じゃないよ?
お兄ちゃんに会いたいし・・・。それに今回はリノアを守ろうと、」
「分かってる」
理屈では。
唯、何でだかどうしても上手く納得出来ないんだ。
そう思いつつ、其の後、この感情をどんな言葉で表したら良いか分からずに「分かっているんだ・・・」と呟いく事しか出来なかった。
(次に何て言えば良いんだ、)
元々誰かと話をする事はしなかった。
だから、会話をするにも適当に、端的に返せば良い、深い関係を持たない為に。
そう、思っていたから、アンタとこうして話す時になんて言ったら良いかが分からなかった。
自分からこうも自分の感情を表現する話なんて、全くだ。
ガルバディアガーデンでと過去になる事について話した時のようには、今回は何でか全然上手く行かなかった。
寧ろ、あの時あんな上手く話せた方が奇跡に近いんじゃないか、と考える。
そうこうあれこれ考えていると頭に温かい感覚が下りてきた。
何だと思い意識を前に向けると、アンタが背伸びをして俺の頭を撫でていた。
傍から見れば頭を撫であっている実に滑稽な図だろう、と俺は思い知らずの内に眉を潜める。
「よしよし」と言って頭を撫でてくるに「何を・・・」と言えばアンタはニコリと微笑んで口を開く。
「うーん・・・取り合えず、スッコーは私の心配をしてくれたんでしょ?」
心配、なんて、
と、其処まで思い俺は先の自分の言動を思い出し、間違いでは無い事に気付く。
馬鹿な、俺は他人を心配していたのか・・・。
当然、心配はしない訳ではない。
唯、誰か個人の身や心について、此処まで深く相手に入り込んだ事など以前にあっただろうか?
答えは否だ。
何時か離れる存在なら、最初から深く関わり合わなければ良い、そうすれば失う時に傷付かなくて済む。
それなのに、何故。と今更ながら思う。
前ティンバーの放送局でも似た様な感情を抱いた。
もっと前、SeeD実地試験に行く為の課題についての時も、彼女との事で不安を抱いたりした。
(俺は・・・・・・、)
こんなにも、アンタに、
そう思い、目の前に居るアンタを見やる。
笑みを浮かべ、紅紫の丸くて大きな瞳を細めてアンタは俺を見上げる。
「大丈夫、スッコーの想いは何時も毎回、ビシバシ凄く伝わってくるって。
慣れない事、させちゃってゴメンネ?」
「・・・そう思うなら、そうさせるな」
「ハーイ」
心配していた事を肯定する返事をした後、しまったと思ったがが特に気にかけていない様なので其の侭流す事にした。
「・・・アンタは、目の届く範囲に居ないと何をするか分からないな・・・」
「人を歩く危険物みたいに・・・!!」
俺の物言いに不満を感じるのか、は少しだけショックを受けた様子で俺を見上げてくる。
そんなを俺は見下ろす。
俺は間違った事は言っていない。
アンタが視界に入ってないと、きっとこれからもっとこの感情の渦に飲み込まれていく。
突き放さなければ、と思うのに俺の口は気付けば全く間逆の事を言葉にしていた。
「だから、アンタは俺の傍に居ろ」
そう言うと、アンタは瞳を更に大きくして、頬を仄かに朱に染め上げた。
ドキドキドキドキ。
(心音が半端無い・・・!)
そう、半端無く五月蝿いのだ、心音が、
はそう思い上着の下に着ているキャミソールの胸の前の部分を、ぎゅ、と両手で掴む。
こうして心臓が落ち着く訳では無いのだが、気休めにこうしてしまう。
真っ直ぐに見詰められた、あの空色の瞳に。
自分を真っ直ぐに見詰めながら、彼は傍に居ろと言った。
(・・・だめだよ・・・)
そう、駄目なのだ。
と、頭の中ではそう言っている。理屈では分かっているのだ、凄く。
スコールは他人の干渉を嫌う。
他人と深い関わりを持たないようにしている。
理由も知っている、そんな自分が今よりもっと深く彼との関わりを求めてしまっている。
(だめだめだめ・・・!)
ティンバー行きの列車内で止められるのかと思った感情。
けど、初任務のデリング大統領(偽だったが)拉致の列車切り離しミッションの時に突っかかった感情。
スコールと居ると、変に緊張する。
それは間違いでは無い。そう、きっと世間一般ではこれは甘い恋というやつだ。
けど、とは思い己の両頬を両手で包む。
あの時より膨らんだこの想いは、どう名付ければいいものなのか、
それが分からなかった。
此処でこううだうだ考えてても仕方ない。
よし今は考えないようにしよう、無理だけど。
はそう心の中で自己完結して辺りに視線を走らせる。
今居る場所はライフルが隠してあった時計部屋だ。
大統領官邸の廊下の床から移動出来る場所だと説明された通りの場所。
20時になればギミック時計全体が迫り上がり、開かれる場所の前にアーヴァインがライフルを手に持ち腰を下ろしていた。
スコールとリノアは其々の場所で落ち着いている。
静かな部屋の中、はポツリと「・・・静かだね」と呟く。
それにリノアが反応して「外、どうなってるんだろうね」と言う。
「スッコー、今パレードってどうなってんだろうね?」
「さぁな・・・。 ・・・そうだリノア、サイファーは生きているぞ。あいつ、魔女とパレードしてる」
「・・・え? サイファーが・・・?」
瞳を丸くしたリノアと。
は驚きつつも嬉しそうな表情をしているリノアとは裏腹に、サイファーが魔女と一緒にパレードというスコールの言葉が気になっていた。
「つまりはあれですかい?・・・サイファーも踊ってるってヤツ?」
「否・・・魔女の車に乗ってた」
「そ、そっか、そうだよね・・・!(想像しちゃったじゃないか!)」
は頭に浮かんだ煌びやかな服を着てエイホエイホ踊っているサイファーを首をブンブンと振って掻き消した。
とんでも無い物を想像してしまった。と自己嫌悪しているの横に来たリノアが「それって、どういう事なんだろ・・・?」と言う。
それに対し、スコールは「知るか」と答えただけだった。
「(もし、俺が魔女と直接バトルをする事になったら・・・サイファーともバトルする事になるのか?
・・・敵を選べないSeeDの宿命か・・・)俺の手でサイファーを死なせる事になるかもしれない」
「・・・スッコー・・・」
少しだけ瞳を伏せて言うスコールにが気遣わしげな視線を送る。
しかし、彼女の思っていた事もスコールと一緒だったのではあえて何も言わず、リノアを見た。
ライトの上に腰を下ろしたリノアは足をプラプラと上下に動かしながら、口を開く。
「覚悟、してるんだよね・・・お互い。そういう事、あっても普通の事。
そういう世界で生きてるんだもんね。 心のトレーニング、たくさんしたんだよね。
でも、でも、もちろん・・・・・・避けられたらなって思うよ・・・」
「(避けられたら、か・・・)・・・キニアス次第だ」
スコールはそう言うとアーヴァインの様子が気になったのか、彼の方へと歩いていってしまった。
はリノアを見やり、口を開く。
「・・・ま、なんとかなるっしょ。 ・・・にしても、サイファー生きてたって、良かったね!」
「・・・うん」
リノアの頷きを見た後、「さーって」と言い伸びをした後、もアーヴァインの様子を覗き見に行く。
すると訝しげに眉を潜めるスコールとアーヴァインの姿が視界に入った。
そんな二人を見たはあれ?とある事を疑問に思いアーヴァインを見る。
彼のライフルを握る手が、微かだが震えているのだ。
(まさか・・・こいつ、ビビってるのか!?)
横に居るスコールはそう思い、何処か怖怖と、否定して欲しい問いかけをアーヴァインにした。
「・・・まさか、怖じ気付いたんじゃ・・・・・・」
「や、やっぱり、駄目みたいだ・・・!」
少々上ずった声でそう言うアーヴァインに、スコールは頭を抱えた。
オイオイオイオイオオイオイ!とは心の中で思い二人に近付く。
そしてアーヴァインの前に行って、彼に目線を合わせる様に屈む。
「どしたの?アービン・・・らしくないよー?」
「らしく、ない・・・か・・・ハハ、僕は大抵こんなんさ」
カタカタ、と震える己の手を見ながらアーヴァインが自嘲する。
そんなアーヴァインの様子にも眉を潜め、スコールと顔を見合わせる。
(可笑しい、何だかアーヴァインビビってるっていうか、怖がってるみたい・・・)
何を? 外す事の恐怖?
はそう思い首を捻った。
彼女が考えている間にスコールはどうしたものか、と思いアーヴァインを見ている。
そんな事をしていると、20時になったのかガチガチという音が響き床全体が上に上がる感覚がする。
スコールとは辺りを見渡していたが、アーヴァインは依然俯いたままだった。
完全にギミックが上に上がり切った時、とスコールはハッとして魔女の乗るパレード車を見やる。
視線の先のパレード車は丁度凱旋門の下を通る所だった。
両側から鉄格子が下り、魔女の乗ったパレード車が凱旋門に閉じ込められた。
後は此処から狙撃するだけだ。
「アーヴァイン・キニアス!!」
焦った様子でスコールがアーヴァインを呼ぶ。
アーヴァインは依然俯いた儘まま、「だ、駄目だ、済まない、撃てない!」と首をゆるゆると振って言った。
「僕、本番に弱いんだ。ふざけたり、カッコつけたりして何とかしようとしたけど、駄目だった・・・!」
「良いから撃て・・・!」
「僕の銃弾が魔女を倒すんだ。歴史に残る大事件だ。
このガルバディアの、世界の未来を変えてしまうような事件だ。そう考えたら僕は・・・・・・!」
アーヴァインは悲痛な顔持ちでそう言った。
俯いているせいでスコールからは表情が見れないだろうが、目の前で屈んでいたは違った。
彼の表情を見たは瞳を丸くして、彼を見やる。
「もう喋るな! 撃て!」
「撃てないんだッ!」
彼は何にこんなに怯えてるの?
はそう思いながら彼の手をそっと握った。
「アービン、落ち着いて。 大丈夫、外しても大丈夫だから!」
「・・・・・・」
「私たちが何とかするから! ・・・ねっ?」
アーヴァインに優しい声でそう言うに続き、スコールも再度口を開く。
「みんながお前を待っている。 外してもいいから撃て。先の事は俺達に任せればいい。
ただの合図だと思えばいいんだ、俺達に行動を起こさせるサインだ」
「・・・ただの、サイン・・・」
「(そうだ、アーヴァイン・キニアス)・・・頼む」
「・・・ただの、合図・・・・・・」
アーヴァインはポツリとそう呟き、身体を動かす。
そしてライトとライトの間からライフルを構え、標準を魔女にピタリと合わせる。
震える身体は彼が唇を噛み、息を止める事で一瞬収まる、其の時――
バァン!!
一発の銃声が響いた。
だが、弾丸は真っ直ぐに魔女へと伸びていったが魔女が手を翳した瞬間、銃弾は弾けて消えた。
魔女の前では現代科学はまるで歯が立たない。はそう思い瞳を細めた。
ドサリ、と音を立てて地に座り込んだアーヴァインが「すまない・・・」と言う。
それに対してスコールは手を振り「気にするな」と言う。も頷いて立ち上がる。
「狙いは正確だった。後は俺達に任せればいい」
スコールもそう言い立ち上がる。
そして自分の装備のチェックを簡単に済ませ、アーヴァインを見下ろす。
「俺とは今から魔女に突っ込む。アーヴァインとリノアも念のため装備をしておけ。・・・リノアを頼んだぞ」
スコールはそう言いへ視線を送る。
も装備のチェックを済ませたらしく、「何時でも行けますぜー!」と言い大きく頷きを返す。
彼女の言葉を聞いたスコールは、ギミックから飛び降りる。
彼の後を続くようにも飛び降りた先は、官邸のテラスだった。
其処に着いたらスコールはガンブレードを出し、も彼に習って双剣を構える。
一瞬だけ顔を見合わせた後、二人は同時に己の武器を振り翳しながらパレードで興奮している民衆と、其れを抑えるガルバディア軍の混雑の中へと飛び降りた―。
スコール→←です、何処から見ても(…)
此処のムービー無茶苦茶好きなんですが・・・!スッコーカッコイイですよな!