「ねえ、レインはラグナおじちゃんと結婚しないの?」
ウィンヒルのパトロールが終わりラグナ如く隊長と副隊長(レインとエルオーネ)に報告に戻って、パブの二階に上がった所でエルオーネのそんな声が聞こえてきた。
先頭に居たラグナがその声を聞いて足を止める。そんなラグナにキロスが「どうした?」と問う。
「いや、レディ同士がお話し中だ。出直しだな、こりゃ・・・って、おい!」
「私の中の何かが聞けと命じるのだ」
キロスは立ち去ろうとするラグナを掴んで階段の手摺りの陰に身を屈ませた。
掴まれているラグナも当然、身を屈める事となる。
クロスのみ、階段の中間でぼうっと突っ立っていたが前に居るラグナとキロスに小さく溜め息を零した。
そんな事は露知らず、レインはエルオーネの問いかけに答える。
「あ〜んな男と? 痛い痛いってヒイヒイ泣きながら此処に運ばれて来て、それからずっと看病させて・・・。
ジャーナリスト志望の癖に言葉遣いは汚いし間違えるし、真面目な話になると直ぐに逃げ出そうとするし、
イビキは五月蝿いし寝言だって・・・・・・」
「でも、エルはラグナおじちゃん大好きだよ。レインとラグナおじちゃんとエルと三人一緒がいいよ。
それと、一人暮らしのクロスおにいちゃんも入れて、楽しく過ごしたいよ」
エルオーネの言葉にレインは少しだけ微笑んだが、直ぐに顔を背けて「・・・でもね、」と言った。
「・・・あの人、本当は世界中の色んな所へ行きたいんだと思うのね。
こんな田舎の村で静かに暮らすなんて出来ないと思うの。そういうタイプの人、居るのよ。
・・・何か腹立って来ちゃった」
「・・・嫌いなの?」
「・・・。 ・・・エルオーネと同じ気持ちよ。 あら?」
レインが少しだけ俯いてそう言葉を発したその時、
ラグナがキロスの腕を振り払って静かに階下に下りて、ドタドタとわざと音を立てながら階段を上りきり彼女達の前へと姿を出した。
そしてわざとらしく、正にたった今帰ってきました。とでも言うような様子で口を開く。
「ぜぇぜぇ・・・大急ぎで帰ってきました〜!」
「お帰りなさ〜い! はい、隊長に報告〜!」
エルオーネの言葉にラグナは笑みを向けて返すとレインに向き直る。
そんな彼の後ろにキロスとクロスも続く。
「パトロールとモンスター退治の報告をします!
エルオーネ副隊長が嫌いなぶちゅぶちゅとブンブンを合わせて・・・二十六匹退治しました!」
「は〜い、ご苦労様。じゃあ、次のパトロールの前に食事にしましょうか。
用意が出来たら呼びに行くからあなたの部屋で待っててね。何だか疲れて見えるから一眠りして待ってるといいわ」
「ごっはん、ごっはん! 一緒に食べようね!クロスおにいちゃんもキロさんも一緒に食べようね!」
レインの言葉を聞いたエルオーネが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねてそう言う。
キロスはキロさんと呼ばれた事が不満なのか、複雑な表情をした。
クロスは「俺も良いんですか?」とレインを見やる。
「良いのよ。帰って自分で作るより良いでしょ?」
「はい、ではお言葉に甘えて」
レインの言葉にクロスは微かに笑みを浮かべて言う。
大勢の食事は嫌いでは無かった。それも、ラグナと、そして再会出来たキロスが居るなら尚更だ。
微笑んでいるクロスに気付いたラグナが口の端を吊り上げ、彼に近付く。
「何だよークロス君、可愛く笑っちゃってー」
「・・・俺が未だ十代の時はその言葉を許しましたけど、今はもう俺は二十歳です。止めてください」
「何で俺が声かけるとそんな直ぐぶったくれんだよ・・・」
「態度で分かりませんか?」
クロスは冷ややかな目でラグナを見、そう言うと階段を一人で先に下りていった。
そんなクロスの後姿を見ながら、ラグナは「ははーん」と言い腕を組む。
そんなラグナと同じような表情をしたキロスが、口を開く。
「クロス君は、ああいう所は相変わらずだな」
「そうだよなー。でも最近はデレが少ないんだ。何か元気無いんだよなー・・・」
「ツンばかりだと?」
「そうそう。何か悩んでっのか〜?」
ラグナが首を捻りながらそう言うとレインが「あまり構うのも良くないんじゃないの?」と言う。
それにラグナは更に首を捻り、「うーん」と唸り声を上げた後、「・・・考えとく」と呟いて彼も階段を下りた。
階下に下りるとクロスが壁に寄り掛かって二人を待っていた。
「何話してたんですか」
遅いじゃないですか、とでも言いたげな視線を向けられてラグナは「悪い悪い」と言う。
それに「行きますよ」と短く言いクロスは歩を進める。
不満を露にしているが、それでもちゃんと待っていてくれたクロスに気付いたラグナが横に居るキロスの腕を突付く。
「・・・これはデレに入るか?」
「難しい所だな。・・・微妙だが、入るんじゃないか?」
「・・・レウァールおじさんにキロさん、馬鹿な事ばかり話してると本気で置いていきますよ?」
じろり、と睨まれてそう言われた二人は苦笑を彼に返す事しか出来なかった。
何だかんだやりつつ、ラグナに与えられた部屋に行く。
キロスは椅子に座り、ラグナは疲れた身体を休める為ベッドへ向かう。
が、そのベッドの前でふと、何かを考えるかのように止まり、小さなベッドを見下ろした。
「ん? どうした?」とキロスが問うとラグナは口を開く。
「時々恐くなるんだよな。目が覚めたら此処じゃない何処かでエルオーネが居なくて・・・・・・」
「レインさんも居なくて?」
部屋の入り口の壁に寄り掛かっているクロスがそう言うとラグナは小さく頷く。
「俺、どうしちまったんだろうな・・・、こんな気持ち・・・何だこれ?
ああ、目が覚めてもこの部屋でありますように!このちっこいベッドで目が覚めますように!」
「変わったな、ラグナ君」
ふ、っと意識が浮上する。
目を開けた先に広がった視界は、見慣れぬ天井だった。
スコールは横になっていた身体を上半身だけ起こし、辺りを見渡す。
何処か狭い部屋―、独房の中にスコールは居た。
(此処は・・・?)
辺りを見渡しながらそう思うが、分かる訳が無かった。
(・・・俺は・・・・・・イデアと戦って・・・、酷い傷を・・・)
其処まで考え、身体に痛みが無い事を感じ、スコールは自分の身体を見る。
傷は、綺麗に消えていた。
(・・・? 傷は・・・無い・・・何故・・・? 俺達は取り囲まれた・・・ガルバディア兵・・・・・・、
そうだ・・・サイファーがニヤついて俺を見下ろしていた・・・)クッ! サイファー!」
スコールは其の時のサイファーの表情を思いだし、苛立ち、拳を独房の壁へ当てた。
自分の手を見て、スコールはもう一つの事を思い出す。
そうだ、夢の中でも気になっていた事だ、
(・・・は、無事だろうか・・・・・・)
確か、自分の傷を癒そうとフラフラしながら近付いて来た彼女。
だが、魔女の攻撃を受けて自分はパレード車から落ちそうになった。
そこでが、走って来たんだ。
自分だって、身体中に傷を負ってたのに、
後ろから、俺を支えてくれようとした。
一度は止まったが、魔女の追撃の攻撃が、来て――、
其処まで考えて、スコールは強く拳を握った。
そうだ、と思いスコールは其の時目の前に広がった緑の光の壁―、リフレクを貫通し、己の目の前に降りかかったモノを思い出す。
あの生暖かい液体は、の血だ。
自分に襲い掛かろうとした追撃の刃を、最初はリフレクで防ごうとしたが失敗し、己の手を壁にして刃を防いだのだ。
あの刃は自分の身体を貫通した、それならばの掌だって穴が開いてしまっているだろう。
スコールはそう考えると自分に段々腹が立ってきた。
(俺は何の為に、アイツに傍に居ろと言ったんだ・・・?
俺の壁になってもらうわけなんかじゃ、ない! 俺は・・・!!)
スコールが其処まで思った時、ガクンと部屋全体が揺れた。
突然の振動でスコールは床に膝を着く。
何だと思い辺りを見渡すが、自分の居る場所が動いている事しか分からなかった。
「・・・ん、」
微かな声を上げ、震える瞼を開く。
最初に視界に入ったのは自分の膝。
どうやら座っているようだ、自分は。
そんな事を思いながらはゆるゆると顔を上げ、辺りを見渡す。
(・・・何処、此処・・・?)
立ち上がろうとしたが、くん、と後ろから引かれる感覚のせいで立ち上がれない。
見ると、手は後ろで縛られ、身体も椅子に括り付けられていた。
それには眉を寄せ、再度辺りを見渡す。
が、特に何も無く、ゆるりと首をまた下げる事しか出来なかった。
(・・・スッコーとか、皆は無事かなー・・・? リノアも・・・)
そう思っていると、近くのドアが開き、人が近付いて来た――。
ガクン、とまた衝撃が部屋全体に走った。
その衝撃でスコールは立っていられず、バランスを崩して床に膝を着く。
それとほぼ同時に、ドアが開いて見知った顔が入ってきた。
「スコール、惨めだな」
サイファーだった。
サイファーはスコールの肩を掴み、無理矢理立たせて身体を反転させて自分の方へ向かせた。
次にスコールの胸倉を掴み、思い切りブンと降る。
壁に打ち付けられ、床に落ちるスコールを一瞥し、サイファーは入り口で待機している赤と橙が混ざった毛色の獣に「連れて行け!」と命令した。
スコールは連れ出され、壁へと貼り付けられた。
「何が始まるのか想像出来るよな?」
壁に貼り付けられたスコールを見上げ、口の端を吊り上げてサイファーが言う。
明らかな電気拷問器具に括り付けられたスコールは、眉を寄せ、サイファーを見下ろす。
「・・・何が知りたいんだ?」
「SeeDとは何だ? イデアが知りたがっている」
「SeeDとは・・・、(・・・SeeDはバラムガーデンが世界に誇る傭兵のコードネーム・・・SeeDは戦闘のスペシャリスト・・・。・・・??)
・・・あんたも知ってるだろ?」
これは基礎知識だ。もとい、ガーデン生徒の中では常識の情報のはずだ。
何故それをサイファーに問われるのか、と疑問に思いながらもスコールはそう言った。
「俺はSeeDじゃない。SeeDになってから知らされる重要な秘密があるんじゃねぇのか?」
「残念ながら・・・無い。あったとしても言うと思うのか?」
「お前は"骨のある奴リスト"に入ってるぜ。簡単に喋るとは思っちゃいないさ」
「・・・光栄だな」
「だから、これだ」
サイファーはそう言うと機械の前に立っている男に手を上げて合図を送った。
其れを見て男が機械を操作する――、すると、
「ぐわああぁぁ!!」
電流が身体全体に流れた。
威力の強い機械なのか、目でも確認出来るくらい電流が走った。
電流が止められ、スコールはがっくりと項垂れる。
「まあ、お前が言わなけりゃ、他の奴らに吐かせるさ。先生、伝令の女、チキン野郎・・・、
チキン野郎なんか3秒持たねえぞ」
「(み、んな・・・)・・・いる、の・・・・・・か?・・・・・・、・・・は・・・?」
名を出されなかったの事が気にかかったのでスコールが途切れ途切れの声でそう言う。
するとサイファーはその言葉に満足そうに笑い、パチンと指を鳴らした。
「おお、居るぜ。でも、俺はお前が大好きだからよ、こうして一緒に来てもらった訳だ」
こいつもな。と最後にそう着けたしてサイファーはある方向を見やった。
力ない動作でスコールもサイファーの視線を辿る、と、其処には先程から心の中でずっと気にかかっていた彼女が居た。
「・・・・・・!」
「っつ・・・!! んんんんー!!」
はスコールに向けて駆け出そうとしたが、背後から男に拘束され、口を塞がれた。
それでもその手に噛み付いて抵抗をするが、手袋を嵌めている男はびくともしなかった。
手は相変わらずきつく結ばれており、抵抗した事を真っ赤な手首が物語っていた。
「お前が言わなきゃ他の奴等の番になるんだ。こんな風にな」
サイファーがそう言うとを拘束していた男が彼女の頭を掴み、近くに用意されていた水が溢れんばかりに入っている大きな容器に彼女の顔を押し付けた。
其れに瞳を見開いたスコールを見、サイファーは口の端を吊り上げる。
水の中に突然顔を入れられたは上に上がろうともがくが、上から押さえられているのでどうにも出来なかった。
苦しげに足が動いているのを見たスコールが「サイファー!!」と擦れた声を荒げる。
サイファーが合図を出すと男はの頭を引っ張り、水から出した。
放されたは床に尻餅をついて、苦しげに咽る。
それと同時にカシャン、と音を立てての髪飾りが床に落ちた。
「分かったかスコール。 さっさと吐いた方がコイツの為にもなるぜ?」
「っつ・・・ケホッ・・・! スッコー・・・、」
はスコールを潤んだ瞳で見詰め、ゆるゆると首を振った。
そんなにサイファーは近付き、彼女の前に身を屈める。
「会いたかったぜ、スコール、。俺の晴れ姿、どうだった?俺は魔女の騎士になったんだぞ。ガキの頃からの夢だったぜ」
「魔女の、騎士・・・? それが、夢・・・?」
(ロ・・・マン・・・・・・ティックな夢、か? でも・・・サイファー・・・これじゃ、ただ、の・・・・・・)・・・拷問、係だ」
スコールは最後にそう呟くとがくり、と項垂れた。
どうやら先程まで無理して何とかしていたが、限界が来たらしく気絶をしたようだ。
そんなスコールにサイファーは眉を寄せる。
「何だって? ・・・あっさり気絶しやがったのか?
此処は、お前が俺への憎しみを募らせるシーンなんだぜ? 魔女の騎士と悪の傭兵が戦う宿命の物語。
一緒に楽しもうぜ、スコール。俺をがっかりさせるな!」
サイファーがそう言い電流装置を動かす男に合図を送る。
男が機械を弄ると、再び気を失ったスコールに電流が流れる。
苦しそうに呻くスコールに、が「スッコー!!」と彼を呼ぶ。
そしてサイファーを見上げた。
「ねぇ、止めてよサイファー!!」
「、お前はイデアのお気に入りになったみたいだぜ」
サイファーはを見ずにそう言い、合図を出す。
すると後ろに居た男がの後ろ手を掴み、立たせる。
「だから、生贄の儀式の再開はお前でやるそうだ」
「生贄・・・!」
「其れまでは上で休んでな。・・・連れて行け!」
「サイファー・・・!駄目だよ!!魔女の言いなりになってちゃ!
こんなのが夢?こんな拷問係りが夢だなんて、馬鹿げてるよ!!」
「違う!! 俺は魔女の騎士になったんだ!!」
「サイファー! ・・・スッコー・・・!!」
の訴えも虚しく、彼女は男に連れられて行った――。
クッ!サイファー!(くさいふぁー)
どうしてもゲーム中そう思ってしまう、同意者はおりませんか!?(…)