「ドロー、ケアル!」


狭い部屋の中にソプラノボイスが響く。
それと同時に淡い光が舞い、ゼルを包んだ。
セルフィがゼルに、先程看守の男達に蹴られた所に回復魔法を放ったのだ。
しかしゼルは「痛たた・・・」と声を漏らすだけで効果はあまり見られなかった。


「・・・駄目ね。 此処、魔法の効果を押さえるフィールドがあるみたい」


キスティスが溜め息交じりにそう言う。
セルフィはゼルに再度手を翳し、回復魔法を試みる。
が、あまり効果が見られないのでゼルが彼女の手をやんわりと押し戻した。


「いいよ、其の内治るだろ」

「でも、大丈夫なの?」

「平気だって。ありがとな!」


ゼルが心配げに自分を見てくるセルフィにそう言い笑う。
其の後にキスティスが「それにしても、」と言う。


「リノアは大丈夫かしら」


先程までリノアも居て、四人だったのだがゼルを蹴った男が上からの命令なのか、リノアを連れ出していってしまったのだ。
キスティスは連れて行かれたリノアの身を案じていた。
それと同時に、此処に来てから姿が見られない二人の事も案じていた。


「スコールとも居ないし・・・、それに、アーヴァインなんて最初から居ないし」

「・・・さっきの嫌な感じの奴、拷問がどうとか言ってたしな・・・大丈夫なのかよ、アイツ等・・・」


ゼルが苦々しげにそう言った時、ガシャンと音を立ててドアが開いた。
すると赤と橙の毛が混じった獣が、よたよたと歩み寄ってきた。
手には食事のトレーが乗っかっている。

獣はよたよたと真っ直ぐに進んできたが、自分の足に躓いて転んでしまう。
ガシャン!!と大きな音を立ててトレーが床に落ちる。
転んだ獣は痛がる箇所を押さえつつ、ゆっくりと身体を起こす。

其処に、「何だ今の音は!!」と言い嫌な感じの奴、もとい看守が入ってきた。
看守は中に入り、床に散らばった食事とトレーを見て全てを察し、獣の前まで行って獣を見下す。
そして、「またテメェか!」と言い獣の腹部を容赦無く蹴り上げた。
獣が吹き飛び、床に叩き付けられる。

それを見たゼルが、苛立って拳を握る。


「(
クソッ・・・気に入らねぇ!) てめぇ! いい加減にしやがれ!」

「そ〜よ! やめなよ〜!」


ゼルが立ち上がるとセルフィとキスティスも其れに続き、看守を見る。
キスティスは倒れてる獣に近付いて様子を見やる。
看守は反抗的な態度が気に障ったのか、持っている銃をゼルに振り下ろすがゼルは簡単にそれを止め、看守を睨む。
それにビビッたのか、看守は「こ、後悔させてやるからな!」と言い去っていった。


「酷い事するよね〜」


セルフィはそう言い起き上がった獣に近付いて手を翳す。
それに獣は一瞬だけビクリと怯えた様子を見せたが、セルフィがニコリと笑って「大丈夫よ〜」と言うと大人しく彼女に身を任せた。


「あんまし、効かないけどね。ケアル!」


セルフィがケアルを獣にかけると、光に獣が包まれる。
最初こそ驚いていたが、身体の痛みが無くなったのか、獣は嬉しそうに両手を上げ、元気良く跳ねて立ち上がった。





























































「さあ、スコール。もう一度質問だ。SeeDとは何だ?何故魔女に抵抗する?」


一方その頃、拷問室では気絶から起こしたスコールにサイファーがそう問いかけをしていた。


SeeDが、魔女に・・・抵抗・・・?


何を言っているんだ? と、スコールは思う。
そして理解出来ない事だらけで、何も答える事が出来なかった。

其の時、一人の男がサイファーに近付いて来た。


「サイファー様、ガーデンへのミサイル発射準備が出来たとの報告です」

「わかった。反魔女軍のSeeDを育てている罪でバラム・ガーデンは破壊される」

・・・馬鹿な・・・

「俺もあそこで育ったからな。少々名残惜しいが・・・・・・まあ、イデアが決めた事だから仕方無いってヤツだ」


溜め息交じりに言うサイファーにスコールが掠れる声で「・・・・・・や・・・め、ろ・・・」と言うが彼の耳には届かなかったようだ。


「ガーデン破壊後はSeeD狩りが始まる。俺はイデアの猟犬となってお前らを追い回してやるぜ。
 楽しみだろ、スコール。それまで死ぬんじゃねえぞ」


サイファーはスコールにそう言った後、高笑いをした。
其の後、機械を操作する男に「拷問を続けろ」と言い部屋から出て行った。

サイファーが去った後、機械を操作していた男がスコールに近付き、彼を見上げる。


「喋る気になったか?」

「・・・質問の、意味、が・・・分から、ない」

「ふざけるなぁー! イデア様が、お前達なら知ってると仰ったんだ! さあ言え!SeeDの本当の意味を!」


男はそう言うと機械に走り寄り、操作をする。
するとまたスコールの身体に電流が走る。


SeeD・・・の・・・本当の、意味・・・、SeeD、は・・・バラム・・・・・・ガーデン、が、誇る・・・、精鋭、傭兵、部隊・・・・・・違う、の・・・か?

「ん〜、どうだ〜?」


「(
俺、は・・・何・・・も、知ら・・・・・・・ない・・・。いつ、まで、続け、る・・・気だ・・・・・・、楽、に、なりたい・・・
 ・・・・・・・・・・・・、」


電流のせいで薄れ行く意識の中、スコールはそう思い、微かに口を動かす。
其れを見た男は電流を流す事を止め、スコールに近付く。


「ん? 何だ?」

「臭い・・・」

「何だって?」

「臭い・・・、息を・・・・・・吐きかけ、る、な・・・」


スコールは口の端を吊り上げ、挑発的な笑みを浮かべてそう擦れた声で言う。
男はそれに怒り、「くぬやろ・・・こうしてやる!!」と言いまた機械を操作する。

先程より強い電流を流し、スコールを見返す。


「どうだ! 私を馬鹿にするとこうだぞ!」

・・・おやすみ


スコールは電流が途切れると同時に、其の瞬間を待っていたかの様に意識を手放した。


「ちっ、完全に気を失い矢がった。 おい!そこのムンバ二匹!!此処を見張ってろ!」


男は獣―、ムンバにそう言い部屋から去った―。

完全に意識が落ちる前、スコールは頭の片隅での事を考えていた。


・・・・・・、


無事で、

そうとしか思えなかった。
































































どうするよ・・・・・・


腕を組んで、ゼルは首を捻って考えていた。
円形に三人と一匹で座り、これからの事を考える。


「どうする? ここでじっとしてる? ・・・拷問だよねえ、きっと。どんな拷問かなあ、痛いのはやだよねえ」

「このままじゃどうしようもないわ。ゼル、脱出、考えるわよ」

「何か作戦ありか?」


ゼルの言葉にキスティスは「そうね・・・」と言い考える動作をする。
セルフィは暫くじっとムンバを見詰めた後、口を開く。


この子の皮をべりべりって剥いでそれを着て逃げるのは?


セルフィがぱん、と手を叩いてにっこりと笑って言う。
其れにムンバが怯え、思わず後ずさる。そしてブルブルと身体を大きく震わせ、首をブンブンと振った。

そんなムンバを見てセルフィはけらけらと笑い「冗談だってば!」と言う。
が、そんなセルフィを見、ゼルは(
冗談に聞こえねぇんだよな・・・)と思う。


「ここでは魔法に期待出来ないから先ず、武器よね。何とかして取り返さないと・・・」

「(
武器かよ・・・。俺の武器はこの拳だぜ!俺なら武器なしでも結構いけるかもしれねえ。俺の出番だぜ!
 俺が行く。武器を取り戻してくるぜ。」

「そっかあ! ゼルはウォードの時此処に居たんだよね!詳しいんだよね!」


キスティスの言葉を聞いてゼルがそう言うと、セルフィが立ち上がった彼を見上げて言う。
先程スコールはラグナになった夢を見ていたが、ゼルはあの時ウィンヒルに居なかったウォードになっていたのだ。
ウォードはD地区収容所でクリーンアップサービス・・・、もとい、清掃する人となっていたのでこの中の記憶はゼルにはある。


よく知らねえんだよな、ホントは。ウォードは掃除してただけだからな・・・


ゼルはそう思ったが、これを放して彼女達を不安にさせる事は良くない、と思いセルフィの言葉に頷いた。


「おう! 任せとけ! 二人共ちょっと倒れてろ」


ゼルはそう言うとゆっくりとドアに向かって歩き出した。
そんな彼の後姿を見つつ、セルフィとキスティスは床へ身体を倒す。


「ゼル・・・」

「何か頼もしいよ〜」


二人はゼルの言動に安堵の息を吐き、ゆっくりと瞳を閉じた。


「看守! 看守! 大変だ! 開けてくれ!」


ゼルがドアに向かってそう叫ぶと外に居た看守が少々鬱陶しそうにドアを開けて顔を覗かせた。


「どうしたんだ?」

「女子が倒れた! 毒蛇に咬まれたらしい!」

「馬鹿な・・・!」


ゼルがそう言い中に入っていくと、看守の男も続いて入って来た。
男が倒れている二人に近付こうとした瞬間、ゼルは素早く行動し、看守の鳩尾に拳を繰り出した。
看守はまともにそれを喰らい、倒れた。
それを見て起き上がるキスティスとセルフィにゼルは「じゃあ行って来るぜ!」と言い歩を進める。
そんな彼の後にムンバがちょこちょこと続いて歩く。

それに気付いたゼルは「ん?」と言い振り返る。


「何だ? お前も行くってのか? ・・・ま、いっか。邪魔すんじゃねぇぞ?」


頷くムンバにゼルはそう言い、外へ出た。
辺りを見渡しつつ、慎重にムンバと共に進む。

広いフロアには真ん中に穴が開いており、何かクレーンで動かす為のモノだったな、確か。とゼルは思いながら通り過ぎる。
階段を上って行くと、兵士の姿が見えた。

ゼルは素早くムンバを掴み、物陰に隠れて敵の兵士の様子を見やる。


「見ろよこれ、SeeDの武器だぜ」


兵士はそう言いスコールの武器、ガンブレードを振って見せた。
それに一緒に居た他の兵士が「ガンブレードってヤツか?」と言う。


「他にもあるぜ。鞭だろ、ヌンチャクだろ、それに双剣なんてのもあるぜ」


俺らの武器じゃねぇか!!と思ったゼルが素早く物陰から出、覗き込んでいた男に後ろから蹴りを入れる。
突然の事に驚いたもう一人の兵士が「き、貴様、脱走か!?」と言ってくるがゼルは相手が構えるより早く拳を食らわせ、相手を地に沈めた。
呆気なく倒された兵士を見下ろし、「どんなもんだってんだ!」とゼルは言いムンバを呼ぶ。
近付いてきてムンバにヌンチャクや鞭を手渡し、危険なガンブレードと双剣は自分が持つ事にした。


「じゃあ、返してもらうぜ!!」


ゼルはそう言いムンバと共に先程まで自分が居た部屋へ戻る。

部屋に武器を持って戻ると、キスティスとセルフィがゼルに駆け寄ってきた。
「待たせたな」と言いゼルがムンバから武器を受け取りキスティスに鞭、セルフィにヌンチャクを渡す。


「凄い、凄〜い!!」


ゼル、やるじゃん!とセルフィは言いヌンチャクを手中に収める。
セルフィに笑みを返し、ゼルは「おっしゃ、反撃開始だな!」と言い拳を握る。
それに、


「ええ!」

「おっけぇ〜」

「やるるる〜!」


と、キスティス、セルフィ、ムンバが声を上げて反応した。
―其の時、


「此処か、態度の悪い囚人がおると言うのは」


そんな声が響いてきた。
其の後に「はい、此処です」と言う先程の看守の男の声も響く。


「貴方方の腕前で思い知らせてやって下さい」

「・・・良いのかなぁ、左遷させられた腹癒せに囚人イビろうなんて・・・」

「余計な事は言うな!」


声の後に、看守がドアを開けて入ってくる。
そしてゼル達を見ると、「こ、こいつらです、ビッグスさん、ウェッジさん!」と言って後ろを振り返る。
ビッグス? ウェッジ?)と、ゼルは何処かで聞き覚えのあるような無いような名前に突っかかりを覚えていた。
それはどうやらセルフィも同じなようで小首を傾げていた。

誰だっけ? さぁ? と、セルフィとゼルでアイコンタクトを取っていると、室内にガルバディア軍の男二人が入ってきた。
一人は赤い軍服を着た上級兵。もう一人は青い軍服の下級兵。
二人が中に入ってきて、バッチリと目が合った瞬間、ゼルとセルフィは瞬時にドールの電波塔の事を思い出した。
そして、



「「「「あああぁぁーーーーっ!!!」」」」



と、ゼル、セルフィ、ビッグス、ウェッジが同時に大きな声を上げた。


「こ、此処で会ったが百年目!!ドールで着かなかった決着、今此処で着けちゃろう!
 刑務所ゆえ武器も持たぬ輩を相手にするというのは、些か、卑怯であるかもしれぬがこれも勝負の世界、悪く思わ・・・」


ビッグスが其処まで言いかけ、ポカンと口を開けて止まる。
キスティスは鞭を振るい、ピシン!という音を立て、セルフィはヌンチャクを振り回して構えの体制を取り、ゼルは指をバキバキと鳴らし、ファイティングポーズをとったからだ。
そんな囚人達を見、ウェッジが「しっかり武器持ってるんですけど…」と複雑な表情をして言う。
ゼル達を見て焦ったのか、看守は走って逃げて行った。


「何ー!? ぬ、ぬ、ぬ、ぬ、ぬぅ〜・・・!ええ〜い! 行くぞウェッジ。貴様らのせいで降格されたんだ!
 少佐から二等兵にされたんだぞ、おい! 今こそ、その恨み晴らしてくれる!!」

「これ以上、降格されるのは嫌っす!」



そう言い二人は掛かってきたが・・・・・・、





「だから嫌だって言ったのに・・・」


「これで、三等兵か・・・・・・」


武器も持った精鋭部隊に勝てる筈も無く、アッサリと倒された。
倒れる二人を無視し、ゼル達が外へ出た瞬間、


「・・・い、いい気になりおって簡単に逃がすと思うなよ・・・ポチッ」


ビッグスがそう呟き、何かのボタンをおして操作し、倒れた。

外に出たゼル達は、ムンバを見やる。
ゼルがムンバに「スコールとってヤツがどっかに居る筈なんだ。お前知らねぇか?」と問うていたのだ。
ムンバは暫く「ゆるる、ゆるる」と鳴き、首を傾げ、手を上げた。
其れにゼルが「知らねぇみたいだな」と言うと、ムンバはふと上を見上げた。
階段の上からもう一匹ムンバが降りてきたのだ。


「ラグナ!!」

「ラグナ!?」


ムンバとムンバがそう言いあい何やら跳ねている。
そして暫くラグナラグナとお互いに言い合った後、階段を上って行った。


「ラグナ〜?! 良くわからねえけど何かラッキーな予感だぜ!あいつらの後を追ってみようぜ。それで良いな?」


ゼルの言葉にセルフィとキスティスは頷き、ムンバ達を追った。
ムンバを追って一フロア上に上がった時、けたたましく警報が鳴り響いた。
其れに思わずゼル達と、前に居たムンバ達も足を止める。

「何だ!?」

『脱走警報です。各フロアには魔物が放たれます。脱走者が速やかに投降しない場合生死を問いません。
 魔法アンチフィールドが解除されます』


「ちっ、もう見つかったのか!?」


兎に角急げ!!とゼルが叫ぶように言って走る。
それにキスティスとセルフィが続いて走り出す。

途中何度か敵と遭遇したが難なく倒し、ゼル達は上へ上へと上がって行くムンバを追った。
上って上って、何階かももう分からなくなった頃、開けたフロアに出た。
が、上に上る為の場所が塞がっていた。


ちっ、蓋が閉まってやがる。まぁ、これより上には、牢はなさそうだけどな

「ラグナ!」

「ラグナ!」

「何だよ、お前ら。 何かあるのか?」


ゼルがムンバ達に言うとムンバはガリガリ、とドアを弄りロックを外した。
奥に入っていくムンバを追いかけたゼル達は、中に入って歓喜の声を上げた。


「スコール!!」


其処にはスコールがムンバに囲まれて座っていた。




最後文章見るだけだと何かメルヘン(笑)
SeeDのお仕事は種を沢山蒔いてお花いっぱい癒し効果を作る事さ!!(メルヘンスコール)
好奇心に負けてこっちを選んだのは私だけじゃないはず。

ムンバって無茶苦茶可愛いと思うんですよ!!(ムハー!)
確かシュミ族の進化系でしたよね、ラグナ〜