完全な、八つ当たりじゃない、アレ、
はそう思いはぁ、と重い溜め息を吐いた。
あの後訓練を続ける気分にも食事をする気分にもなれなかったので自室で仮眠を取っていたら朝になってしまっていた。
朝にシャワーを浴びて、は一人しか使っていない二人部屋をぐるりと見渡して、ベッドに再度ダイブした。
「あ゛――――――ッッ!! ヤダヤダヤダ!!」
枕に顔を埋めて、足をバタバタさせる。
酷く子供染みた行為だが、今のはそうでもしなければやっていられなかった。
―ゼルの言っていた、スコールは一匹狼だという事。
大して彼を理解していない人が、勝手にそう解釈しているのが何となく嫌だったのだ。
(・・・私だって、スッコーの事あんま知らないのに・・・、)
それでも、他の誰かよりは、知っている。
はそう思い枕からゆるゆると顔を上げた。
「・・・スッコー・・・、」
そう呟いて、ゆっくりと瞼を下ろした―――。
スコールは、一人で食堂に居た。
珍しくが来なかったので、久々に感じる一人での食事を取っていたのだ。
そんな彼の眉間には、皺。
すれ違う人がほとんど自分に好奇の目を向けてきていたからだ。
今日はが一緒ではないのか、そんな目ばかり―――。
それにうんざりしていたのだ。
スコール自身も少しだけ気になっていたのだ、の姿が見えない事に。
何時もなら食堂に行く途中に「オハヨースッコー!」と声をかけてきて其の侭朝食を取る。
しかし今朝は其れが無かった。
既に炎の洞窟に行ってしまったのだろうか?と考えが過ぎった。
が、担任のキスティスは筆記試験に受からなかった生徒達と今教室に居る。
は編入した来たばかりなので、良く知らない先生より担任であるキスティスに同行を頼むだろう。
そう思いスコールは食事を取り続けていた―。
―其の後も、スコールはずっと一人だった。
訓練施設で汗を流した後、する事も無いので部屋で休もうか、と思い足は寮に向かった。
(・・・今日は、アイツを見ないまま終わりそうだな・・・)
そう思いスコールは渡り廊下に差し込んできている夕焼けの光を見る。
(・・・炎の洞窟に行く準備でもしてたのか?朝は、 それで今日、行ったのか?)
朝はキスティスの姿を見たが午後からは彼女の姿を見ていない。
課題の為に誰かの付き添いで出て行った。という噂話も聞いた。
が担任と一緒に今日炎の洞窟に課題をクリアしに行ったと言っても何も可笑しくは無い。
(・・・・・・アンタ、結局誰でもいいのか)
課題を一緒にクリアしに行かないか、と彼女は言って来たが案外アッサリ引いた。
結局、一緒に居る相手は誰でも良かったのか、やはり。
スコールはそう思っていたが彼女の性格を考えて其れは無い。と理解するが自分の中の何かが如何しても不安がる。
(俺は・・・・・・、)
どうしてしまったんだ、
今までは一人で居ても、こんな考えなんか浮かんでこなかったのに、アンタのせいだ。
スコールがそう思い渡り廊下の角を曲がろうとした時―――、
ドンッ!!
「!」 「キャッ!」
誰かとぶつかった―。
スコールは驚いて片足を一歩下げる程度だったが、相手は自分より身体の大きなスコールにぶつかり尻餅をついていた。
スコールは相手を確認して、瞳を大きくした―。
下を向いているせいで表情は伺えないが、銀の髪を持つ少女なんて、彼女しか居ない。
「イタタ、」と言い腰を摩っているのは、朝から姿が見えなかったその人だった。
は呆けているスコールを見上げて、「あ!スッコー!」と笑顔を向けてきた。
「何してるの? ・・・って、そりゃ寮に戻るんだよね?」
「・・・・・・その、つもりだった・・・」
はスコールの言葉を聞いて「そっか」と言うと片手を上げて別れようとする。
何時もならなんてこと無い彼女の動作だが、今のスコールには酷く寂しい物に感じた。
気付けばスコールはの腕を掴んでしまっていた。
「・・・? 何?スッコー?」
「あ、否・・・・・・(何やってるんだ、俺)」
「???」
疑問符ばかり飛ばすを見て「飛ばしたいのはこっちだ」とスコールは思いつつもある考えが浮かんだ。
朝からずっと考えていた事―――、 そう、
「(課題は・・・・・・)・・・何処行くんだ?」
「えっ? あーお恥ずかしながら・・・、 ・・・今まで爆睡してまして、ワタクシ」
「は?」
「アハハハハー」と明らかに誤魔化しの笑みを浮かべる彼女に、スコールは溜め息を一つ落とした。
爆睡?今まで?じゃあ朝姿が見えなかったのも寝てたから?
そう思った途端、どっと疲れが押し寄せてきた感覚に襲われてスコールはまた一つ、重い溜め息を吐いた。
「・・・あんさあんさ、其処まで溜め息吐く事、なくないっすかい?」
「・・・アンタが悪い」
「そーれは、そうだけどっ! 疲れてたの!色々!」
ぷくっと頬を膨らまして言うにスコールは「で?」と再度聞いた。
だが其れには「ん?」と小首を傾げた。
そんな彼女に呆れの色を見せながらスコールは「何処行くんだ?」と聞いた。
「あ・・・あー、うん。寝てたからお腹空いちゃって。食堂にでも行こうかなって思ってたの」
「・・・・・・俺も行く」
「うん。 ・・・・・・。 ・・・・・・? ・・・・・・エッ?」
返事を返した後ニコニコと笑っていただが不意に瞳を丸くして短く声を上げた。
スコールは相変わらず表情がコロコロ変わる奴だ。と思ったがあえて口には出さず、「行くぞ」とだけ言い動かない彼女を引っ張って歩かせた。
直後に手を放し、歩く。
そんなスコールに呆気に取られていただったが直ぐににぱーっと太陽のような笑みを浮かべてスコールの隣に並んで歩いた。
「ねぇねぇ、スッコーは今日何してたの?」
「・・・別に」
「何もして無いって事は無いっしょ?」
「・・・・・・本当に何もして無いんだ」
「・・・・・・マジですかい」
そう言ってくるにスコールは心の中で(ああマジだ。悪かったな)と返し食堂への渡り廊下を進む。
其の時にも朝とは少し違った視線を感じ、スコールは眉間に皺を寄せた。
はそんなスコールに気付きつつも、話を続けた。
「じゃあさ、課題受けには行ってないんだ?」
「・・・あぁ」
「そっかー・・・ちょっと安心。 私が寝てる間にスッコー課題受けに行っちゃったら私一人だし」
はそう言い苦笑を見せた。
「アホ過ぎるもんね、それじゃ」と言い食堂へ入って行くにスコールは外面には現れていなかったが、酷く驚いていた。
彼女も自分の事を考えていてくれた。そう思うと何だか心が温かくなった。
それと同時に、何だか申し訳ない気持ちにも見舞われた。
先程確かに自分は彼女を疑った、それが今酷く申し訳ない。
スコールはそう思いつつもの後を着いて行った。
食事を取りつつがコーヒーを飲んでいるスコールに視線を移し、「ねぇ」と声をかける。
「課題受けに行って無いんでしょ?」
「・・・・・・あぁ。(誘いの言葉をかけなければ・・・)」
「そっかー。 ね、何時行く予定なの?」
「(何だよ、今日はえらく干渉して来るな。 でも今回は好都合か) 準備が整い次第、だ」
「・・・そっかー」
はそう言い脇に置いておいたグラスを手に取り、水を口に含む。
そんな彼女を見つつ、スコールは手の内で指輪を転がして考えていた。
(・・・そもそも、何で俺は誘おうとしているんだ?)
唐突に浮かんだ疑問。
思い返してみると・・・そう、サイファーに何か言われて。
(・・・そうだ、点数の、為だ。)
スコールはそう思い少しの間視線を逸らした後、再度を見た。
すると丁度彼女が顔を此方に向けた瞬間で、彼女はニコリと笑うと「スッコー、」と呼んできた。
「さっきから何かソワソワしてない?」
(ソワソワ・・・しているかもしれない)
「何かさ、私に用事でもあったんでしょ?」
(・・・そうだ)
「で? なーに?」
頬杖をついて笑顔を此方に向けてはスコールの言葉を待った。
スコールは少しの間考えたが、此処でこうしていても時間の無駄だと思い口にする事にした。
「・・・アンタは何時炎の洞窟に行くんだ?」
「ん? 未定。 しいて言うならスッコーと同じかな?準備が出来次第」
「・・・そうか・・・」
「うん」
そこで会話が途切れて、は「まさか、そんだけ?」と思ったが未だ何か言いたげなスコールを見、言葉を待つ。
何だろう。とは考えた。
まさかキスティス先生からの言付け等?否、でも悪い事なんてしていない、寝坊しか。
はそう思い他に何かスコールが自分に言いたい事は無いか、と考えた。
一瞬自分にとっても都合の良い考えが浮かんだが其れは都合が良すぎる、と思いはグラスを仰いだ。
其の時、スコールが漸く口を開いた。
「・・・炎の洞窟、一人で行くのか?」
「んー? ・・・今の所はね」
スッコーに振られちゃったし。と少々冗談めかしてが言うとスコールは視線を逸らしてポツリと一言呟いた。
「・・・別に、断った訳じゃない」
「・・・・・・え゛っ!?」
スコールの呟きを聞き取ったが瞳を大きくしてスコールをじっと見詰める。
スコールは慣れない事をするのに何処か緊張や恥ずかしさがあるのか、そっぽを向いた儘だったがは別に構わなかった。
「いいの!?」
「あ?」
「一緒に行ってくれるの!?一緒に行っていいの!?」
「(・・・何だよ、騒がしい) ・・・嫌なのかよ」
「ぜんっぜん!!」
は首をブンブンと振って嬉しそうに微笑んで言った。
とても嬉しそうなを見ていると、不思議と此方まで温かい気持ちになれる。
スコールはそう感じつつも、気付かない振りをして目の前でニコニコと嬉しそうに笑うを見た。
(やった!スッコーからの初お誘い!! これは日記にちゃんと書かなきゃー!)
はそう思いつつも足を引っ張らない様にしなきゃ、と自分に活を入れた。
次はスコールとサイファーの訓練。
炎の洞窟にも入る、予定(…)