保健室へ続く渡り廊下を通っていると、前方から何やら小競り合いの音が聞こえてきた。
前を見ると、教師を庇うようにガーデン生徒が立っていて、その前の保健室へ続く道は二人のSeeDが塞いでいた。


「シド学園長め、意外といい駒を持ってる・・・!埒があかん、魔物を呼ぶぞ!」


そう言い教師がまた笛を吹くと、何処からか魔物が現れた。
グラッドも当然居るのだが、其の中で大きな蜂の様な魔物が混ざっていた。

何あのでっかいの!とが思っていると横に居たスコールが「あれは・・・!」と呟く。
小首を傾げてスコールを見やると、彼は舌打ちをし、ガンブレードを出した。


「助けに入るぞ!」

「OK!!」

「此処にもSeeDが居たか!」


教師はそう言うと残りの生徒に後を任せて逃げて行った。
残ったのはマスター派の生徒と魔物。

はスコールと共に大きな蜂の魔物、グラナルドと対峙する。


「ゼルとリノアはあっちのSeeDを助けてあげて!」

「うん、分かった!」


あちらの援護に回ったリノアとゼルを見ながら、は「スッコー、」と彼を呼ぶ。

見覚えのある魔物のようなので、「この魔物知ってる?」と問う。
すると「訓練施設で以前戦った」と言いガンブレードを構えての前に立つ。

こんなの居たっけな・・・?とが小首を傾げていると、スコールが口を開く。


「こいつはグラナルドという古代生物の生き残りだ。 武器の攻撃などほとんど効かない硬さを持つ」

「じゃあ私が魔法で攻撃するから、スッコーはあれの注意を引くって作戦だね?」

「あぁ、風の魔法があるなら使え。確かあいつは風属性に弱い」


スコールに言われ、は「風、かぁ・・・」と呟く。
風神が居れば、凄く簡単に片付いたんだけどな、と思いつつストックしている魔法を思い出す。

既に前方でグラナルドに斬りかかっているスコールを見、は意識を集中する。


風の魔法、これしか無いけどまぁいいか


そう思いは風の魔法、エアロを放った。


















確かにスコールの言った通り、硬さは凄かったが魔法防御は全然だったらしい。
グラナルドを難無く倒した二人はリノア達に近付く。

壁に寄り掛かって肩で息をしているマスター派の生徒に、「全く・・・」と溜め息交じりの声を漏らして近付く人物が居た。
保険医のカドワキ先生だ。

カドワキ先生は「ほら、立てるかい?」と言い生徒に手を差し出す。
それを見た生徒は荒い呼吸を繰り返しながら、「俺は、マスター派だぞ・・・」と言う。
生徒の言葉にカドワキ先生は大きく息を吐いて、腰に手を当てて生徒を見下ろす。


「馬鹿言ってるんじゃないよ。怪我人に学園長派もマスター派もないだろ。
 ほら、スコール。アンタもボサッとしてないで手伝いなさい」


結構保健室でお世話になっているスコールはカドワキ先生にそう言われ、渋々ながら動く。
はSeeD達に近付き、怪我をしている彼らの傷を癒す。


「ありがとう、


腕を怪我しているSeeDにケアルをかけているとそう言われ、は「ん?」と言い顔を上げて目の前の人物を見やる。
少しだけ間が空いた後、「あ!」と言いが治療している彼を見て声を上げる。
そんなの反応に気絶した生徒を肩に担いだスコールが「知り合いか?」と問う。


なっ! ひでぇなぁ、俺だよ、俺!!


スコールの言葉に彼は相当ショックを受けた様子だった。
俺だよ、俺!と言っても尚首を傾げるスコールに彼、ニーダはがっくしと項垂れた。


一緒に、SeeD試験に合格したじゃねぇか・・・


それで私に伝言を頼んだニーダ君!とが付け足して言うがスコールは既に興味を失ったのか、「忘れてた」とだけ短く言うと保健室へ入って行った。
そんなスコールの様子に、ニーダは更に項垂れる。


「ガクッ。・・・ま、まぁ、スコールけどな・・・。
 、此処は俺に任せとけよ。きっちり敵を引き付けてきっちり守ってやるさ!」

「うん、よろしくね!」


はそう言い治療を終えたニーダの傍から離れる。
他のSeeDの傷も癒し、ゼルとリノアの傷も治しては保健室へ入った。

既に治療を終えたのか、カドワキ先生は教員用のデスクの前の椅子に腰を下ろしていた。


「マスター派だ学園長派だって、一体、何をやってるんだろうね、全く」

「先生、シド学園長を知りませんか?」

「シド学園長かい?見ての通り、此処には居ないよ」

「一体、何処に・・・」


が問うとカドワキ先生はそう言い包帯やら消毒液やらを箱に仕舞う。
額を押さえて呟くスコールの声を耳に入れたカドワキ先生は「さぁねぇ・・・」と言い彼を見やる。


「シュウなら知ってるんじゃないのかい? ・・・と、言っても、そのシュウも何処にいるか分からないけどね。
 そうだ、学園長に何の用だい?」

「ここにミサイルが飛んでくるかもしれない。先生も逃げた方がいい」


スコールがそう説明をすると、カドワキ先生は驚きの余り椅子から立ち上がって「何だって!?」と声を上げる。
だが、直ぐに落ち着きを取り戻し、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
そんなカドワキ先生の行動にゼルが小首を傾げていると、先生が口を開く。


「それだったらますます逃げる訳にはいかないね。私がいなくなったら誰が怪我人を診るんだい?」


カドワキ先生はそう言って、引き出しからエリクサーを出すとスコールに差し出した。
薬がいるだろう?持っていきな。と言って笑う先生に、スコールは礼を言いエリクサーを受け取った。






























































其の後、食堂、図書館、訓練施設、校庭、駐車場。

全ての施設を回って学園長派の生徒やSeeDを助けたが、シド学園長の姿は何処にも無かった。

一体何処に、と思いホールに戻った時に、行き成りスコールが駆け出した。
スコールが突然駆け出した事で、何事!?と思いは条件反射で慌ててスコールを追う。


「ちょっとスッコー!! どうしたの?!」

「シュウ先輩が居たんだ!」

「えっ?」


スコールの返答を聞き、前を見るが既にシュウの姿は其処には無かった。
達はスコールの後を追い、エレベーター前で立ち止まる。


「上か?」


スコールがそう言いエレベーターのスイッチを押すと案外直ぐにエレベーターは来た。
それに乗って上に上がる中では段々静かになっていく様子に小首を傾げる。
一階の各フロアでは喧騒が酷かったのに、今ではもうしんとしている。

無音だなぁ、と思いながら二階で止まったエレベーターからは出る。
教室前の廊下を見てみると、SeeD服を身に纏った女性の後姿、見覚えのあるその姿は間違いなく―、


「シュウ先輩!」


がそう呼びつつ近付くが、振り返ったシュウは戦闘態勢を直ぐに取って達を見返す。


「あなた達、どっち!?」


眉を吊り上げ、睨みつけてくる瞳には警戒の色が濃く滲んでいた。
それを見たスコールはその場を動かずに両手を少しだけ広げて戦意が無い事を表して「どっちでもない」と言う。


「俺達はシド学園長に報告がある。学園長は何処だ」


スコールはそう言いつつも、視線でシュウに訴えをかける。
その目を見返し、真実かどうかを見極めた後、シュウは警戒を解く。
だがまだ眉を吊り上げたまま、スコールを見返した。


「私から伝えるわ。此処で言って」

「此処を狙ってガルバディアのミサイルが飛んでくるかもしれないんです!」


スコールの代わりに、が彼に目配せをした後にシュウに言う。
その言葉を聞いたシュウは瞳を大きく見開き、「此処に!?」と酷く驚いた様子を見せたが、直ぐに何時もの表情に戻り、「そう・・・」と呟く。
そして少しの間を開けた後、「分かったわ、学園長に伝えましょう」と言った。

スコール達を信じた様子のシュウには礼を言った後に「そういえば、」と言い言葉を続ける。


「学園長は何処に?」


の問いにシュウは歩きながら簡潔に「学園長室よ」と短く返す。


「逃げたと見せて何処にも行っていない、王道よね。 ・・・先に行くわ。直ぐに来て」


シュウはそう言い先に学園長に話をする為か、走って行ってしまった。
はスコールを見上げ、口を開く。


「何か、無駄に探し回ってたのが馬鹿みたいだったね」

「・・・過ぎた事をくよくよ言っても仕方ない。行くぞ」


スコールは短くそう言い、先にエレベーターに向かって歩く。
そんなスコールをゼルは慌てて追いかけ、はリノアと一緒に進んだ。

















学園長室のある三階に到着すると、入り口の脇に立っていたシュウが近付いて来た。


「学園長が詳しい話を聞きたいって。 私は、みんなにガーデンから避難するように伝えて来る」


そう言い去って行ったシュウの背を見送り、達は学園長室へ入った。

中に入るとシド学園長が居た。
ちなみに、駐車場ではホログラムのシド学園長が居て騙されたが、今度はちゃんと本物のようだった。

スコール、、ゼルは直ぐにシドの前に立ち、SeeDの敬礼をする。


「スコール班、戻りました」


スコールがそう言うとシドは頷き、敬礼を解くよう手で合図を送る。
敬礼を解いたスコール達の顔を一人一人見た後に、シドは「ミサイルの事は聞きました」と言い、言葉を続ける。


「避難命令を流そうとしたのですが、館内放送が駄目になってるみたいです」

「シュウ先輩と、雷神風神が皆に伝えに行ってます」

「それでは、君達もみんなに知らせつつ避難して下さい」


スコールの言葉を聞いた後に至極当然のようにさらりと言ってのけた。
それに達四人は思わず首を傾げる。


「(
避難だって? 色々質問があるんだ、学園長。 それに、あれだ・・・、) 色々報告が・・・・・・、」

「無事再会した時に報告してもらいましょう。良いですね」

学園長・・・


スコールが混乱する中色々と考え、シドに言うがシドはそれをもばっさりと言って切り捨てる。
それにスコールは思わず眉を潜め、シドを見やる。
そんな彼の視線に気付いたシドが「気に入りませんか?」と言い少し笑う。


「(
何だか・・・、中途半端なんだよな) 学園長はどうするんですか?」

「私はここで最後まで頑張りますよ。此処は私の家みたいなものですからね」


さらりととんでもない事を言ってのけるシドにとリノアがぎょっとした表情をする。
ゼルも身体を思わず反らして「まさかガーデンと一緒に!?」と声を上げる。
ゼルの言葉を聞いたは少し焦った様子で「だ、駄目ですよ学園長!」と言いシドを見る。
其の後に、リノアが慌てた様子で口を開く。

「ガーデンはまた作ればいいけど、シドさんは一人なのよ!」

「勘違いしてはいけません。 試してみたい事があるのです。 このガーデンを守る事が出来るかもしれません」


口の端を吊り上げ、シドは何処かへ行こうとしたのか歩き出す。
が、直ぐに足が縺れ、躓いて膝を床に着いてしまう。
そんなシドを見、スコールは(
こんなんで如何するんだよ・・・、)と考え、シドに近付く。
シドは苦笑を浮かべ、「はは・・・、」と乾いた笑い声を上げ、ゆっくりと立ち上がる。


「・・・年は取りたくないですねえ」

「何をするつもりなんですか? それ、俺にやらせてください」


取り合えずこのままシドに任せるのは心許無い。
そう思ったスコールは気付けばそう言っていた。

そんなスコールの言葉を聞いたシドは少しだけ考えた後に真っ直ぐにスコールを見詰めた。

まるで、心を見透かすような、真偽を確かめるような瞳を向けたまま、シドはスコールに問うた。


「何故そうしたいのですか?」


何故。

そう言われるとパッと浮かばないかもしれない。

はそう思いながらスコールの背を見詰めた。

スコールはシドを見返しながら、考える、


何故? それこそ、何故だ?


何だか知らないけど学園長が失敗しそうだからか?・・・それだけか?


其処まで考え、もっと他に何か理由が無いかを模索する。
が、浮かんだ事は先程考えていた事と大差無いものだった。


・・・避難命令なんてつまらないから?此処は大切な場所だから? ・・・・・・理由は・・・、沢山ある。
 方法があるなら試したいから? 此処は俺にとっても家だから?



気付けばガーデンに居て、ガーデンで育った。
そんなスコールにとっても此処は家だから勿論大事な場所だ。

救える可能性があるなら、救いたい。


・・・どれも、きっと俺の気持ちだ。・・・・・・解ってもらうの、面倒だな


色々と脳内で自問自答を繰り返した後、スコールは口を開く。


「・・・俺の気持ちなんて関係無いと思います」


スコールがそう言うとシドは何故だか面白そうに笑みを浮かべる。
そして「キスティスの報告通りですね」と言い言葉を続ける。


「自分の考えや気持ちを整理したり伝えたりするのは苦手のようですね」

・・・面倒なんだ、そういうのは。大体何の話だ?俺の評価か?


だとしたら今は関係無いはずだ。

下手したら後少しでミサイルが飛んできて此処に落ちてくるかもしれない。

スコールはそう思い、焦りを感じて腕を横に薙いで「学園長!」と口を開く。


「何処へ行って何をすれば良いんですか!!」


焦れている様子のスコールを見、シドは立ち上がって数歩歩く。
数歩歩いた後、振り返ってスコール、、ゼル、リノアの順に彼らを見やる。


「この建物は元々シェルターでした。それを改造したのが今のガーデンです」


シドは簡単にそう説明をすると、ポケットから鍵を出してスコールに投げる。
スコールは其れをキャッチし、掌の上に転がる其れを見つつシドの話を聞く。


「それはエレベーターのロックを解除する鍵です。ロックを解除するとMD層へ行く事が出来ます。
 MD層の最も深いところには何かの制御装置があるらしいのです。
 シェルター時代の装置らしいのですが、私は一度も見た事が無いのです。

 勿論、どんな機能なのかも知りません・・・。

 ただ、シェルター時代の装置ですからミサイルにも効果があるかもしれません。それに賭けてみようという訳です」


そう言うシドの言葉を聞きつつ、は少しだけ考える。

何だか頼りない離しだが、何もしないよりは断然マシだった。

1%でも可能性があるのなら、それに賭けてみれば良い。

残りの99%だって、根気で何とかすれば良い。


はそう思い、決定権を持っている班長であるスコールを見やる。
スコールは「分かりました」と言い頷き、敬礼をする。


「MD層最深部へ行って、その未確認の装置を起動します」

「お願いしますよ、スコール。
 ・・・、前にも言いましたが、彼をよろしくお願いしますね」


シドに行き成り名指しでそう言われ、は「え?」と内心思ったが直ぐに以前シドに言われた事を思い出す。

SeeD試験に合格し、晴れてSeeDとなった時に学園長室で言われた言葉だ。



「ひそひそ・・・(彼を支えてあげて下さいね。貴女自身も頑張って下さい)」



確か、そう言われた。

今思えば何故自分にそんな事を頼むのだろうか。

はそう思い小首を傾げるが、取り合えずは笑みを浮かべ、「任せて下さい」と言った。




スコールがメインな話。
SeeDは何故と問う事なかれではないのかと思ったんですがそれは学園長が考えたのじゃないんですかね?
マスター派ですかね、多分。

さて次は文月的トラウマのあるMD層です←