現れた梯子を降りていくとレバーが視界に入った。
はスコールを見て確認を取った後にそれを思い切り引く。
そうすると、奥にあるシャッターがガラガラと音を立てて上に上がっていく。
これで奥に進める、と思いが足を進める途中、ふと立ち止まる。
それに後ろに居たスコール達もつられるように足を止める。
リノアが小首を傾げ、「どうしたの?」と問うが、は答えずに視線を彷徨わせていた。
(何・・・? 今、何か居た?)
川の様に溜めてあるオイルの真ん中の橋を通っている途中、何か影が視界の端を過ぎった気がしたのだ。
は水面を覗こうと思い端の方へと近付く。
―その時、
ザバァ!!というオイルが飛ぶ音と同時に飛沫を撒き散らしながら怪生物が飛び出してきた。
そのままに襲い掛かろうとするが、彼女はバックステップを踏んで下敷きになる事を避けた。
オイルまみれになった床のせいで滑りそうになったが、何とか手を床に着いて転ぶ事を避けて、空いている手で剣を抜いては口を開く。
「なん、なななな!! ビックリしたんだけど!!」
「もう一体・・・来るぞ!」
ガンブレードを出し、スコールが言う。
彼の言った通り、反対側から同じ魔物が上がってきた。
うねうねと尾ひれを動かす白い物体。
身体中にオイルがべっとり着いており、嫌に柔らかそうな身体をくねらせ、此方に何かを吐き出してきた。
此処では足場が悪いので、広い空間のある先程の場所へ戻ろうと全員が退避した。
「気持ち悪い・・・! 何あれ!」
「んー・・・。何か、オイルシッパーって言うみたい」
リノアが自分を抱き込むようにして、両腕を摩りながら言う。
はライブラを放ち、まだサーチ中なのか曖昧にそう返す。
開けた所へ行き、此方に迫ってくる二体のオイルシッパーと改めて対峙する。
スコールが再度ガンブレードを構えつつ、に問う。
「何か他に分かったか?」
「・・・んー、微妙。 取り合えず体内にオイルが詰まってて、吐き出してくるみたい。気をつけてね!」
そんなの言葉を聞いたゼルが、「うぇっ!?」と少し可笑しな声を上げ、思わず拳を緩める。
そしての方を見る。
「だったら殴っちゃまずいんじゃないか!?」
「・・・そうだね・・・。ゼルは後方で魔法撃っといた方がいいかも。炎系でお願い!
今回は私が変わりに前に出るから」
ゼルにウィンクをしては腰に下がっていた双剣を抜く。
「分かった、気をつけろよ!」と言いゼルはバックステップを踏み、意識を集中させた。
は炎が弱点ならG.F.のイフリートを使おうか、と思ったが此処の回りにある物を思い出して直ぐに首を振った。
(オイルじゃん!周りオイルじゃん!!爆発するって!!)
魔法くらいならまだ大丈夫だろうが。
はそう思い、飛び掛ってきたオイルシッパーを避けつつも双剣で切り裂いた。
切り裂いた場所からどろり、とオイルが流れ出して来た物を見、思わず眉を顰める。
「どうしようスッコー、キモイ」
「俺がキモイみたいな言い方をするな」
「だってキモイんだもんあれ!!何かぶよぶよしてるし!うねうねしてるし!どろどろしてるし!!」
そう声を上げるにスコールは「仕方ないだろう」と言い短く息を零す。
あ、鳥肌立ったんだけど。と、言うにリノアが「分かる分かる!」と言う。
最悪の相手かもしれないな、ある意味。
スコールはそう思い、あまり戦意を持っていない女子二人の前に立った。
オイルシッパーは結局スコールとゼルが倒したようなものだった。
リノアの攻撃も、の攻撃も中々効かなかったのだ。
油で覆われた表面はぬるぬるしていて、力があまり無いとリノアの女子二人の攻撃は上手く通らなかった。
ゼルが魔法を放ち、怯んだ隙をスコールがガンブレードで切り裂く。
その拍子にトリガーも引くものだから、威力は抜群だった。
戦闘が終わった後、が「いやー・・・」と言い頭を掻きながら男子二人を見る。
「もーしわけない」
「・・・仕方ない。相性が悪い敵だったんだ」
スコールはそう言い、ガンブレードを横に薙いでオイルを払うと仕舞った。
もそれに習って双剣を鞘に収める。
全員の怪我が無い事ともう周りに敵が居ない事を確認したスコールが「さあ、急ごう」と言う。
「ミサイルが迫って来ているかもしれない」
スコールの言葉に全員が頷き、先程の道を通って奥へ進む。
奥へ進むと、また梯子があった。
ゼルが「また梯子かよ・・・」とぼやく言葉を聞きつつ、もうんざりした気分で梯子を降りる。
其の侭降りていくと、周りに色々な機械がある所に辿り着いた。
開けた空間の真ん中に、上へ上へと伸びている機械がある。
其れを見上げつつ、スコールは口を開く。
「MD層最深部・・・」
此処が、きっとそうだ。と、付け足して言う。
確かに、周りにはもう下に下りる梯子は見つからない。
「そうだけど、さ」とは言い、大きな機械を見上げた後、前にある操作盤を見詰めつつ言う。
「どうすれば、良いんだろ・・・?」
「そうだよ、な・・・。何か出来るかもって来たけどよ・・・」
いざ着いたら、何したら良いんだ?
の言葉の後にゼルがそう言い、辺りを見渡す。
リノアも辺りをキョロキョロと見ていたが、直ぐにハッとして「見てても仕方が無いね!」と言う。
がリノアの言葉に頷き、取り合えず、と言うように操作盤に近付く。
が、当然だが彼女は首を傾げて其れを見る。
彼女の後ろに着いたスコール達も、何処を如何操作して良いのか全く分からない。
(・・・シド学園長も知らないんだ。俺達にわかるはずないよな)
スコールはそう思い、の横に立つ。
目の前にあるパネルの他に、バルブがあるのを見てそれに手をかける。
「取り合えず、回してみよう」とスコールは言い、錆び付いてギチギチいうバルブを回し始めた。
横に立っているも其れを手助けし、少しずつだがバルブを回す。
――少しの間、そうしていたが直ぐにバルブは動かなくなってしまう。
結構な力を入れていた為、疲れた様子でスコールとがバルブから手を離す。
行き当たりばったりな行動に、ゼルが「良いのかよ、こんなやり方で・・・」と不安げに声を漏らす。
それにスコールは眉を潜め、「じゃあ、どうすればいいのか・・・」と、其処まで言い、止める。
重たい沈黙が少しの間、空間を包んだがそれは急に終わりを告げる。
ガタン!と床が大きく揺れ始めたのだ。
「?!!」
全員が突然の事に着いて行けず、辺りを見渡す。
目の前にある、上に伸びている機械が低い音を立てて動き出したのを見、は「あ、」と声を上げる。
辺りを見渡したままの皆に機械が動き出した事を伝えようとしたが、が口を開いた瞬間、また他の事が起こった。
先程一度大きく揺れた床がまた大きく揺れだし、達の居る操作盤の前が上へ上へと上昇し始めたのだ。
体勢を崩したを横に居たスコールが咄嗟に支える。
それに「ありがとう」と言おうとしたが、言葉を口には出来なかった。
行き成り急停止をしたせいで、リノアとゼル、スコールとは床に尻餅をついてしまう。
かなり上へ上昇したのか、何故か目の前にシドまで居る。
上昇している中、校長室を通って巻き込んだのだろう。
突然の衝撃は、スコールが抱き締めてくれたお陰でに対して伝わらなかった。
スコールの腕の中から、辺りを見渡すと一面ガラス張りの空間に居る事に気付いた。
何だ何だと思っていると、眩い光が辺りを包み込んだ直後、物凄い砂埃が舞った。
ガーデンの上空に位置してあった円形の物が、今は逆に下に下りたらしかった。
砂埃が舞う中、風を切る音が、轟音が近付いてくるのが分かった。
前を見ていたリノアが目を大きくして「ミサイルが!!」と叫ぶように言う。
彼女の言葉を聞いて前を見ると、低空飛行して迫ってくるミサイルが見えた。
しかも、かなりの数の。
ミサイルは一旦上空へと上がり、一気に此方に降下をしてきた。
迫ってくるミサイルが見えて、は思わず強く目を閉じてスコールにしがみ付く。
間近で、スコールが息を呑んだ気配がした。
彼も思わずの行動なのか、を強く守る様に抱き締める。
ゼルも身を屈め、リノアも頭の上に手を置きしゃがみ込む。
シドはただ、目の前に迫り来るミサイルを見詰めているだけだった。
全員が、もう駄目だ。と思ったその時、
びゅん!と音を立ててミサイルが真横を通って地面に落ちた。
何が起きたか分からず、固まっている内に他のミサイルも、地面へと落下していく。
数本ガーデンを掠ったのか、ガタガタとガーデンは揺れたが、無事だった。
ドォン!!という爆発音を耳にした直後、一気に背後からグンと押される感覚がした。
スコールは片手をついてそれに耐え、顔を上げる。
上げて―――、驚愕した。
「・・・うごいて、る・・・?」
周りを見ると、動く景色が見えたのだ。
スコールの呟きにリノアとゼルが目を怖怖と開け、辺りを見て驚きの声を上げる。
立って外の様子を確認している二人を見、スコールも立とうとした。
が、を支えていた事を思い出し、腕の中の彼女を見下ろす。
丁度スコールがそうした時、は先程の二人の様に怖怖と目を開いている所だった。
睫毛を震わせ、上目遣いでスコールを見た。
紅紫の瞳に至近距離で見詰められ、スコールは思わず息が詰まらせた。
「・・・スッ、コー?」
瞬きを数度繰り返した後、はスコールの腕に手を置いて彼を見る。
直後、今現在の体勢を理解した彼女は大慌てでスコールの腕の中から抜け出して背筋を伸ばして立った。
余りにも素早い行動に呆気に取られるスコール。
は顔を真っ赤にしながら、「ごっごごごごごごごめん!!」と言い両手をブンブンと振った。
そんなに「否・・・」と言いスコールも立ち上がる。
は自分の両頬を手で包むようにし、「わー・・・」と言う。
スコールはそんなに「どこか打ったのか?」と問うが彼女は「ぜんっぜん!!」と言い首を大きく振った。
「怪我なんて無いよ!」と元気良く言った後、何故か急にしおらしくなっては「だ、だって・・・、」と言い頬を朱に染めてスコールを見上げた。
「スッコーが、守ってくれてたから・・・」
少しだけはにかんで、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに言う。
そんなに、スコールは思わず赤くなったであろう自分の顔を隠す為に手を口元に持っていった。
が、スコールの動作はが丁度前を見た瞬間にされた事だったので彼女に気付かれる事は無かった。
それにホッとしつつ、スコールはの背を見た。
見ると、本当に大丈夫なようだったので、其の事に関しても安堵の息を吐いた。
彼女の背を見たまま、先程の事を思い出す。
よろけてきた彼女を支えたりする事は今回が初めてという訳ではなかった。
だが、今回の様な事は、今までに無かった。
ミサイルが眼前にまで迫って来ていて、もう駄目だと思った。
そう思って咄嗟に、近くに居たを強く抱き締めてしまったのだ。
その時の事を思い出しながら、スコールは、ハ、と息を吐く。
(も、強く抱き付いて来た・・・)
きっと、同じ事を思ったのだろう。
そう思い、スコールはの背をじっと見詰め続ける。
回した腕の中に、簡単に、すっぽりと納まってしまった小さくて細い身体。
あんなに、小さかったか? そう思い、を見ていたら彼女が突然振り返った。
見ていた事がばれたのかと思いスコールは驚いたが、表面上冷静に見えるように努め、「何だ」と言った。
「MD層の機械って、ガーデンを動かす物だったんだね!」
にこり、と笑って言う。
それに「あぁ、」と返しつつスコールは今更ながらゼルとリノアの様子を見やる。
二人共窓に張り付いており、「すげぇ!」やら「嘘みたい!あはは!」と言い嬉しさのあまりはしゃいでいる。
シドも安心し、嬉しそうに微笑んでいたが、ふ、と何かを思い出したように呟く。
「外はどうなったのでしょう?」
「あ、じゃあ私たち見て来ますよ!」
がそう言うとシドは微笑み、「お願いします」と言った。
ゼルとリノアも窓から離れ、「見に行こう!」と言い一人ずつエレベーターの様なものを使い降りていった。
スコールの横を通り抜け、もにこりと微笑んでエレベーターの上に乗る。
そして、
「さっきはありがとうね、スッコー」
と、微笑んで言うと降りていった。
残されたスコールも口元に笑みを微かに浮かべつつ、エレベーターに足を乗せた。
オイルシッパーって、苦戦しませんでした?(此処で詰まったのは私←)
そろそろゴタゴタが始まりますね、ちょっとしたゴタゴタ。