フシュルルル・・・」という異様な声。
それに不安を覚えつつも、マスターノーグに呼ばれている為達は足を踏み出した。

奥にあった大きな椅子の様な台座。
其処に黄色い肌の色を持つ、巨体が腰を下ろしていた―。

明らかに異様であるその姿に、全員が息を呑んだ。

頬や顎からは他の種族の生き物独特の物なのか、皮膚が伸びて垂れ下がっている。
大きな手を、掌を見せる様に振りながらマスターノーグは達を見下ろした。



これが・・・ガーデンの、マスター?


ガルバディアガーデンのマスター・ドドンナとはえらい違いだ。

はそう思いながらもノーグを見上げた。
その横でスコールもノーグを見上げつつ、同じような事を思っていた。


・・・・・・これがガーデンのマスター?これがガーデンの経営者? ・・・人ではないのか?


明らかに異様な容姿をしている者。
明らかに人間ではないその姿にスコールは瞳を細める。

こんな事、全く知らなかった。 知らされていなかった。


・・・俺達は、そう言えば何も知らなかった・・・


SeeDは何故と問う事無かれ。

ずっとそう教えられてきて、此処まで来た。
今まで教師の言った事は全て真実だった。
だが、今は如何だろう。

この、昔とは違い、言い表せないこの感情は―、


・・・ショックだ


スコールはそう思い、無意識の内に拳を握った。


フシフルフシフル・・・お前・・・魔女のごと 報告ぜよ


ノーグはそう言い達を見下ろす。
此処は班長であるスコールが言うべきだ、とは思い横目でスコールを見る。
スコールは(
何処から話せば・・・)と、考えた。

思い返してみれば、色々ありすぎたのだ。

何処から如何いいか、混乱した頭では分からなかった。

考えているスコールに脇に立っているガーデン教師が「速やかに報告だ」と言ってくる。


「結果が先、経過は簡潔にな」


言われた言葉をスコールは瞬時に理解し、真っ直ぐに立つ。
スコールに習い、やゼル、リノアが真っ直ぐに背筋を伸ばして立った。


「・・・我々は魔女イデアの暗殺に失敗しました(
ハッ・・・情けない報告だ・・・
 ・・・ガルバディアガーデンでシド学園長からの命令書を確認。
 ガルバディアガーデン所属アーヴァイン・キニアスをメンバーに加え、バラムガーデンとの共同命令"魔女暗殺"の遂行にあたりました・・・」


最初こそ情けない報告で声が少し震えたが、途中から開き直るようにハキハキとスコールは報告した。
スコールの報告を聞いた直後、ノーグが「ブジュルルル!」と大きな息を吐き突然怒り狂った様に暴れだした。
ダンダン、と音を立てて台座を叩く音が響き渡る。
それと同時に床が揺れた気がし、達は思わず引き気味になる。


ブジュルルル! 共同・命令だど!? ブジュルルル! お前ら・ダーマされだ!

騙された、だって!?


怒り狂う様に暴れたノーグが声を震わせて叫ぶように言う。
それに達は信じられない思いで瞳を見開く。

スコールは戸惑い、思わずに視線を向ける。
も丁度スコールを戸惑いの目で見ていて、ばちりと視線がかち合う。

は少しだけ考える素振りを見せた後、「・・・意味が、分かりません」とよく通る声で言った。
それにノーグが「フシュルルル・・・説明じてやれ」と、脇に立っているガーデン教師に言う。


「ノーグ様はガルバディア大統領と魔女が手を結ぶ事を早くからご存じだった。
 ガルバディアガーデンのマスターから相談を受けていたのだ」

「ガルバディアガーデンのマスタードドンナから・・・?」

フシュルルル…… ガルバディア・ガーデンのマスターはわじの・手下の・ドドンナ・だ

「そう、魔女とガーデンはいろいろと因縁があるのだ。
 だから魔女は必ず、各地のガーデンを自分の物にしようとするはず」


ガーデン教師の言葉にが確認の意を込めてドドンナの事を聞くとノーグが答えた。
其の後も、ガーデン教師は続ける。


「そこでノーグ様はガルバディアガーデンに伝令を送った。今の内に魔女を倒してしまえ、とな。
 方法は暗殺がベストだと思われた。だが、しかし・・・」

ブジュルルル! 小賢しい・ドドンナは・いざという時のためにお前達・暗殺に・利用したのだ!
 わじの指示で・やったと言い逃れる・ために。小賢しい・小賢しい奴め!!



怒り狂った様子でノーグは再度暴れだす。
そんなノーグの言葉を聞いたは瞳を大きく見開き、一度大きく息を吐く。
そして真っ直ぐにノーグを見ながら、何処か冷めた声色で言った。


「あの命令とバラムガーデンは関係無い・・・・・・そういう事ですか?」

「作戦実行を前に、偶々現れたお前達が利用された。しかし作戦は失敗。魔女は生きている。
 そして我々の予想通り魔女は復讐してきた。恐らくミサイル攻撃も魔女の報復だろう」


それは間違い無いだろう。

はそう思いながらガーデン教師の言葉を聞く。


「何とか魔女の怒りを静めなくてはならない。
 それには暗殺の関係者を魔女に差し出し、バラム・ガーデンの誠意を見せる必要があった」


が、淡々とした様子で言われたその言葉に、再度全員が目を見開く。

暗殺関係者を魔女に差し出して誠意を見せる? それはまるで―――、

が驚きの余り固まっていると、横でスコールが思わず一歩出て焦った様子で口を開く。


「ちょっと待ってくれ・・・、それは・・・!」

ブジュルルル! SeeDの・首・差し出して魔女に・従うふり・するのだ!
 魔女の所望ずる・生贄だ! 白銀の髪の・女が・ベストだ



ノーグがそう言いを見下ろす。

突然視線を浴びたは思わず肩を跳ねさせ、「え・・・!」と短く声を上げる。
確かに魔女に捕まった時も、D地区収容所でも、自分は生贄にされると言われていた。

何の為に? これはティンバーの放送局での事が関係しているのか?

はそう思いつつ、ノーグの視線から逃れる為か無意識に後ろへ下がっていた。
そんなの前にスコールが立ち、腕を横に薙いで「何故ですか!」と吼えるように言う。


「何故魔女と戦わないんですか!? 俺達が毎日受けている訓練は何の為ですか!?」


今こそ戦う時ではないんですか!?

スコールはそう叫んだ。
そんな彼の背を見ながらは瞳を瞬かせ、「スッコー・・・」と小さく呟いた。

横を見るとリノアとゼルもスコールに同調する様にしている。
リノアは大きく頷き、ゼルは拳を震わせていた。

そんなSeeD達に、ノーグは怒りを露にして叫んだ。


何だど!? 魔女に・負けたくせに! 偉そうに・吠えるな!


今度は誰も怯まなかった。
真っ直ぐにノーグを見返している中、脇の方に居るガーデン教師達が「シド学園長も同じ事を言っていたな・・・」「お、おい」と会話をした。
その会話の中のある単語を耳ざとく聞き取ったノーグは咆哮した。


ブジュルルル!シドだど!? シドのアホが・SeeDを魔女討伐に・送り出した。失敗・したら・どうする?
 このガーデン・終わりだ。わじの・ガーデン!わじの・ガーデン・終わりだ! シド・あのアホ・許さん!
 貧乏シドに・ガーデン建設・金出してやったの・忘れたか!?
 おお・SeeDの首・一緒に・あいつの首も・魔女に・差し出すべし・思った。
 シド捕まえろと・命令したら・生徒・シドの味方・しやがった!
ブジュルルル! ブジュルルル! わじの・ガーデンなのに・だ!


「違う! あんただけの物じゃない!」


ノーグの言葉の後にスコールが声を張り上げて反論する。
それには大きく頷き、スコールの横に立つ。


ブジュルルル! では・何だ!?シド学園長と・魔女イデアの・物か!? あの夫婦の物か!?

「何ですって?!(
学園長と魔女イデアが夫婦!?・・・どういう事なの・・・?)」


ノーグの突然の言葉にが声を上げる。
学園長は魔女を討伐しろと命じている張本人だ。
そんな彼と、敵である魔女が夫婦という事は一体どういう事なのか―、


フシュルルル・・・今・わかった。シドとイデア・わじからガーデン・乗っ取る気だ。
 お前らも・シドの手先・だな。 ゆ・許せん!



ノーグはそう叫ぶと、何かの装置を押した。
それと同時にノーグの座っていた台座が乾いた音を立ててカプセルの様な形になってノーグを隠すように蓋をした。


あお・きいろ・あか。
 あかい・いろになれば・魔法が・たぐざん! 殴られて・色が・変わらない・限り・魔法で・SeeDを・叩きのめず!



何だ何だと思っていると篭ったようなノーグの声がする。

青と黄色と、赤とはどういう意味だろう。

はそう思いながらも腰から双剣を引き抜いて構える。


「・・・ねえ、赤とか黄色とかって、あの台座のランプの事じゃない?」


腕にブラスターエッジを装着して構えたリノアがそう言う。
リノアの言葉に達がノーグの台座のランプを見ると、赤く光っていた。
という事は魔法が来るという事か。

は直ぐに其れを理解してバックステップを踏む。

それと同時にゼルとスコールが走り出し、台座を狙う。
は双剣をクロスさせて集中する―。


いける!


そう感じた瞬間、身体から光が放たれる。
はクロスさせた双剣を前へ突き出し、緑色で、小さな身体のG.F.カーバンクルを召還する。
カーバンクルの額に付いているルビーの石が光り輝いた瞬間、達にリフレクの効果がかかる。

そうなった直後に、台座の機械ががサンダラを放ってきた。
間一髪でカーバンクルのリフレクが間に合ったようで、達にダメージは無かった。

スコールとゼルが左右についているランプを攻撃した瞬間、ランプの色が青色に変わる。
これで魔法を撃たれる心配は無さそうだ。

その勢いのまま、ゼルとスコールはノーグが篭っているシェルターに攻撃を仕掛ける。
ガンブレードの銃声とゼルの拳が繰り出す爆音と共に、シェルターの蓋は呆気なく開く。


ブジュルルル・・・ぐぞう・シドの手先・SeeDめ。
 此処は・わじの・ガーデン。お前らの・好きには・させない!


「ガーデンは貴方だけの物じゃないって言ってるでしょ!!」


現れたノーグにはそう言い、キッとノーグを睨みつける。
感じるのだ、ノーグからある感情が―、

酷く暴れている様な、苦しんでいる様な、思いが。


「今、助けてあげるからね」


はそう言い双剣を両手に、低く走る。
一気に台座を駆け上がり、ノーグの懐に飛び込んで一閃する。

ノーグが「ギャアア!」と悲鳴を上げて怯んでいる隙に双剣をクロスさせてはドローをする。
紫の光がに真っ直ぐに伸び、彼女の体内へと入り込んでいく。

身体の中で温かな光を放ち、落ち着きを取り戻した様子のG.F.には安堵の息を吐く。
G.F.、リヴァイアサンをが回収した直後、ノーグが咆哮を上げて腕を我武者羅に振り回す。

ノーグの其の腕が、G.F.を救えた事に気を取られていたの頭部にガッと当たった。

―それと同時に、何かがパキィ、と弾ける音がした。


!!」


バランスを崩し、台座から頭から落下するを下に居たスコールが支えた。
何時もなら、「ありがとう、スッコー!」と言い直ぐに笑みを向けて来るが俯いた儘動かない。
それにスコールは何処か打ったのかと不安を覚え、「?」と声をかける。

其の時、


ぽろり、との頭から何かが落ちた。
きらきらと輝く破片は床に落下し、キン、と音を立てた―。


「・・・あ、」


が瞳を大きく見開いて、床に落ちた其れを見詰める。


ノーグに殴られた時に壊れた、蝶の髪飾りを―。


は直ぐにしゃがみ込んで真っ二つに割れて壊れた蝶の髪飾りを拾い上げる。
蝶の模様は真っ二つになっており、破片も散らばり無残な状態になっていた。

それを見たスコールも瞳を見開く。


あれは、確かの―――、


そう思った瞬間、脳裏にD地区収容所でのとのやり取りが浮かぶ。






「これ、大事な物だったんだ、ほんとにありがと!」






そう言って、本当に嬉しそうに微笑んだ
滅多に見せる事の無い、本当の無邪気な笑み。

大切な物。

はそう言っていた。

それが今、見るも無残な状態で壊れている―。


の様子を伺うスコールの背後から、「おい!ぼさっとすんな!」というゼルの声が響く。
それにハッとしてスコールはガンブレードを構えつつもの傍に移動する。
が、はすっと立ち上がり、ポケットの中に壊れた髪飾りを押し込んだ。


「ごめんね、大丈夫だから」


そう言ってにこり、と笑う


違う・・・


こんな、上辺だけの笑みじゃなかった。

スコールはそう思いつつも、今はノーグを倒す事が先決という事を思い出す。
直ぐに決着を付ける。
スコールはそう決意し、ガンブレードを構え直して口を開く。


「行くぞ、ゼル」

「おうよ!」


スコールがそう言って駆けた後に、ゼルが続く。
そんな二人の様子を見て「終わったね」とは呟いて双剣を腰の鞘に収める。
そしてリノアの横に立った時、背後で轟音が響き、決着が着いた―。


フシュルルル・・・わじ・もうダメ!魔女は・恐いが・こいつらも・恐い!
 何故・わじが・こんな目に・・・



ノーグはそう言い、力なく台座に寄り掛かった。
それと同時に、周りから糸の様な物が伸びてきてあっという間にノーグを包み込んだ。

まるで、繭みたいな状態になったノーグを見上げ、は「何これ?」と声を上げる。

「気にするな。訳のわからない事が増えただけだ」

「・・・ん、そーだね」


そう言い再び繭を見上げた
そんな二人の様子にリノアが「でも、やばいんじゃないの?」と言う。


「これだって大丈夫か分かんないし・・・、ねえスコール・・・?」


良いの?

そう問いかけてくるリノア。
ゼルも視線でスコールに何かを訴えてきている。

それにスコールは眉を潜め、奥歯を噛む。


どうして俺に聞くんだ! わからないのは俺だって同じだ!
 俺、何も知らないんだ! 何も・・・知らないんだ。だから・・・騙される・・・、だから・・・利用される・・・」

「・・・スッコー」


後半、自己嫌悪した様に俯き気味に呟くスコール。
そんなスコールには靴音を立てて近付き、そっと彼の手を握る。


「その通りだね、私たち何も知らない。
 ・・・ずっと、何も知らないまま利用されて、戦ってきたんだよね」


SeeDは何故と問う事無かれ。

これが今になって、こんなにも―――、


「これからは、知っていけば良いよ。利用なんてされないようにさ!
 ・・・聞きに行こう、学園長に。私たちには知る権利があるはずだよ」

・・・」

「人は知らない事があると周りにどうしても頼っちゃうんだよね。
 スッコーは頼れる存在だから・・・ごめんね?」

「・・・なんでアンタが謝るんだ?」


スコールはそう言いを見る。
は悲しげに微笑み、「頼りっぱなしだからさ」と言って少しだけ俯く。
それと同時に、今まで纏められていた前髪がさらり、と重力に従い落ちる。

スコールはそれにハッとして髪飾りの事を思い出す。


・・・、」

「・・・取り合えずさ、学園長に会いに行かない?
 きっと、カドワキ先生の所に行ったと思うからさ」


にこり、と明らかに無理をしている笑みを浮かべる

何時も自分をこんなにも支え、励ましてくれているのに俺は何も出来ないのか。

そう思い、スコールは自分の不甲斐無さを呪った。




話だけ進む感じです、ここら辺は会話が多い・・・!
多分次も話です、シド学園長とオハナシ。

話以外、髪飾りが壊れたくらいでしょうかね、真っ二つ蝶とか、えげつな!