歩くと同時に何時もは纏められていた髪がふわりと舞うように動く。
何時も彼女の髪に留まっていた蝶の髪飾りは無残にも砕け散ってしまった。
髪飾りが無いだけなのに、何だかがじゃないように感じてしまった。
大事な物だった。
確かに彼女はそう言った。
恐らく、兄から貰った物であるのだろう。それか深い仲の誰かか。
誰でも良かった。
取り合えず、の前髪が落ちている事と、彼女の愁いを帯びた瞳が酷く気に掛かった―。
(壊れちゃった、)
ぼんやりとそう思いながらは保健室へ向かう中、最後尾を歩いていた。
先頭にスコール、そしてゼルとリノアが前を歩いている。
そんな四人の中の空気は何処か重く感じた。
恐らく、これから学園長に全てを話してもらう事が原因だろう。
そういえば、と思いはノーグの言っていた言葉を思い出す。
(シド学園長と魔女イデアが夫婦だって言ってた・・・。これも聞かなきゃ・・・)
そう思いながら保健室へ続く渡り廊下へ入った所、歩くペースを緩めたリノアが隣に並んだ。
何か言いたげなリノアにはにこりと笑みを浮かべて「何?」と問う。
リノアは心配気に眉を下げ、ゆっくりと首を振る。
「何でもないって顔じゃないよ? どったの?」
「・・・シド学園長は、魔女を倒そうとしてるんだよね?」
「そうだね」
「・・・それって、好きな人を、殺せって命令してるって事でしょ?」
「・・・そうだね」
「・・・・・・凄く、辛くないのかな・・・」
俯いてそう呟くリノア。
はそんな彼女の肩に軽く手を乗せ、安心させる為に笑顔を向けた。
リノアはそれに何とも言えないような表情をしたが、「取り合えず、シドさんに話を気かなきゃね・・・」と言い前を向いた。
も前を向いた時、丁度スコールが保健室をノックする時だった。
中からカドワキ先生が出てきて、スコールの「学園長は?」という言葉に表情を歪める。
「学園長に用かい? う〜ん・・・今、学園長はねぇ・・・」
頭をかきながら、言い難そうに言葉を濁すカドワキ先生。
何かあったのだろうか、とスコールやが思っていると保健室の中から「カドワキさん、」というシドの声が聞こえた。
「もう大丈夫です」
「・・・ほんとにいいのかい?」
「ええ。もう、充分泣かせてもらいました」
「・・・無理するんじゃないよ」
カドワキ先生はそう言うと、保健室の中へ招き入れてくれた。
中に入ってもシドの姿は見当たらず、が小首を傾げていると、カドワキ先生は「あっちだよ」と言いカーテンで仕切られている部屋を指した。
確かSeeD試験前日、スコールが運ばれた場所だ。と、は思い出しつつそちらへ足を向ける。
カドワキ先生は達に少々苦い表情で「色々、あるんだよ」と言い目を細めた。
それはシドの事だろう。
マスタールームでの言葉やら、今さっき言った彼の言葉で大体を掴めたは少しだけ、俯くように頷いた。
カーテンを捲って中に入ると、シドはベッドに腰を下ろしていた。
達は敬礼を取り、シドの前に立つ。
「君達には、恥ずかしい所を沢山見られてしまいますねえ・・・。
さて、どんなお話をしましょうか?」
「・・・報告をさせて下さい」
「いやいや、それには及びません。大体何が起こったのか、想像がつきますから」
スコールの言葉にシドは首を振り、微笑んで言った。
初任務から、ティンバー放送局での事。
そして、ガルバディアガーデンへ行き魔女暗殺の任務を下され、それに失敗した事。
恐らくシドは本当に全てを理解しているのだろう。
なら、とスコールは思い「マスターノーグの事を教えて下さい」と、言った。
真っ先にSeeDの本当の意味や、魔女の事を聞く事は気が引けたからだ。
「あれはシュミ族の者です。
一族の変わり者とでも言いましょうか。私がガーデン建造の資金造りに走り回っている時に知り合いました。
ガーデン建設に興味を示して私達は意気投合・・・、そんな彼のお金でガーデンは完成。
所が、ガーデンの維持にも莫大な費用が必要でした。我々はそのお金を得る為にSeeDの派遣業務を始めたのです。
ノーグのお金儲けのアイディアはことごとく当たりました。莫大なお金がガーデンに入ってくるようになりました。
・・・そしてガーデンは変わっていきました。
最初の理想は失われ、真実は覆い隠され・・・、・・・この辺でいいですか?
はっきりした態度を示さなかった私が一番悪いのですから・・・」
シュミ族。
それは一体どんな部族なのかは分からないが恐らくは遠い地の民族なのだろう。
スコールはそう勝手に自己完結をさせ、そのガーデンの事を聞くことにした。
「これからガーデンはどうなるんですか?」
「まず、この漂流状態を早く終わらせて・・・その後は・・・、
・・・ガーデンとSeeD。本来の姿に帰れるといいのですが・・・」
シドの言葉の後に、スコールが軽く頷いた後、
「そのSeeDの本来の姿、本当の意味を教えて下さい」と言った。
それに学園長は少しだけ困った様な笑みを浮かべ、口を開く。
「・・・・・・SeeDはSeeD。バラムガーデンが誇る傭兵。・・・いやいや、君らは何か気付いているようですね」
シドはそう言いスコールとを交互に見る。
(・・・俺は何時だって何も知らない)
スコールはそう思い、無意識に眉を潜めた。
そう、自分は何も知らないのだ。
SeeDの本当の意味もガーデンの事さえも、そして、の事さえも。
「・・・SeeDの本当の意味は、魔女討伐なのではありませんか?」
がそう問うと、シドはゆっくりと頷き、口を開く。
「ええ、SeeDは魔女を倒します。
ガーデンはSeeDを育てます。SeeDが各地の任務に出かけるのは魔女を倒す日の為の訓練のようなものです。
でも、魔女が世界に恐怖をもたらす存在となった今、SeeDの本当の戦いが始まったと言えましょう」
「・・・魔女イデアを、ですか? 学園長の奥さんだと、聞きました・・・」
が少しだけ瞳を伏せてそう言う。
シドは自分を気にかけてくれる事に気付いているらしく、優しげに瞳を細めた。
が、直ぐに愁いを帯びた瞳へと色は変わり、彼は「・・・そうです」と呟くように言う。
「イデアは子供の頃から魔女でした。私はそれを知りながら結婚しました・・・、本当に、幸せでした・・・。
二人で力を合わせて働きました。 とても、幸せでした・・・。
・・・ある日、イデアはガーデンを作ってSeeDを育てると言い出しました。
その計画に私は夢中になりましたが、SeeDの目的だけが気懸かりでした・・・。
イデアとSeeDが戦う事にならないか、と。イデアは笑って言いました。それは絶対に無い、と。 それなのに・・・」
子供の、頃から。
はその言葉に何だか突っかかりを覚えて小首を傾げた。
何だろう、何処で聞いたんだろう? 小さい頃? 故郷? ウィンヒル?
そんな事を考えている間に、スコールがシドに話の終了を告げて退室を始める。
それには慌てて彼の後を追う。
(ずっと、魔女だった。 それなのにどうしてイデアさんはおかしくなってしまったの?
・・・平気だった魔女も居る・・・。 誰だっけ、そうだ、お兄ちゃんが言ってた。
お兄ちゃんは魔女を知ってた? 誰? ウィンヒルの人? それとも、ガルバディアに居た頃の人?)
分からない・・・。
はそう思い無意識の内に溜め息を吐いていた。
正直、私が分からない(え)