「スコール!スコール!!」
保健室を後にし、一階のホールに来た所で声が響く。
呼ばれたスコールは足を止め、辺りを見渡す。
その景色の中、エレベーターから降りてきたらしく、階段を駆け下りてくるシュウの姿が目に留まった。
シュウは慌てた様子で「あ、あのね!」と言うと達を見やる。
「シド学園長知らない?」
「保健室だ」
スコールがそう答えるとシュウは「ありがとう!」と言い駆け出そうとする。
それをが「待って先輩!」と言い呼び止める。
「何かあったんですか?」
「二階廊下奥のデッキへ行くと分かる・・・!
船が近付いて来るの! も、もしかしたらガルバディアの船かもしれない・・・、
ま、魔女が報復に来たのかもしれない! と、兎に角、学園長に報告しなくちゃ!」
シュウは口早にそう言うよ、今度こそ走り去って行った。
は「スッコー!」と言い彼を見上げる。
その視線にスコールは頷きを返し、「デッキへ行くぞ」と言い駆け出した。
エレベーターを使い、二階の教室前の廊下を駆け抜けてデッキへ行くと、ガーデンの真横に船が着けられていた。
が真っ先にデッキへ立ち、警戒しつつ船を見下ろす。
そんなの隣に立ったスコールも彼女と同じ様に船を見下ろした。
(船・・・!? ガルバディアの船か!?)
スコールがそう思っていると、船から真っ白な服(恐らくは制服や軍服の様なもの)を来た男女が三人現れた。
そしてガーデンを見上げ、「シド学園長!いらっしゃいますか!!」と声を張り上げて聞いてきた。
それにが前へ出て、声を張り上げ返す。
「学園長は居ません! 貴方達はガルバディアの使いですか!?」
がそう問うと先頭に居る男が首を振り、再び声を張り上げてきた。
「我々はSeeD! これはイデアの船! 我々は魔女イデアのSeeD!」
(・・・SeeD!?)
魔女イデアのSeeDという事に全員が驚く。
何せガーデン関係者ではなく、討伐対象である魔女のSeeDというのだから。
達が其の事に動揺していると、白い服を着たSeeDは「そちらへ行きます! 武器は持っていません!」と言ってきた。
そして一気に飛び上がり、此方のデッキに飛び乗ってきた。
は突然目の前にワイヤーショーよろしくの様な動作で飛び上がって乗ってきた白い服のSeeD達に思わず唖然とする。
すっご!!何今の!?と、思い呆けているを庇うかのように、スコールがの前へ出、手を横に上げて白い服のSeeD達を強く警戒する。
「我々には戦意はありません」
そう言い、武器が無い事を証明するかのように両手を広げる白い服のSeeD達。
それにスコールはようやく警戒を解き、彼等を見据える。
「シド学園長にお話があります。シド学園長は・・・、」
「此処です」
白い服のSeeDの言葉を遮るようにシュウと共にシドがデッキに現れた。
「シドさん。エルオーネを引き取りに来ました。此処はもう安全ではありませんよね?」
「・・・そうですね。 残念ですが、確かにそうですね」
残念そうに言うシドにが小首を傾げる。
誰?エルオーネって?
そう思っているのはリノアも同じなようだったが、スコールとゼルは違った様子を見せた。
(エルオーネ? あのウィンヒルのエルオーネか?)
「スコール。君はエルオーネを知ってるはずです。
ガーデンの何処かに居るはずだから、此処に連れて来てもらえますか?」
(・・・っていうか、こいつら何だ? どういう関係なんだ?)
「スコール?」
「・・・了解」
スコールは敬礼をし、そう言いデッキを後にした。
エルオーネの事もさっぱりだが、あの白い服のSeeD達だってさっぱりだった。
また分からない事だらけだ、と思っているとゼルが「なあなあ、スコール」と声をかけてくる。
「エルオーネって、あの子だよな? あの、ラグナが気にかけてた女の子だよな?」
「あぁ、多分そうだろう」
ゼルの問いにスコールがそう返すのを聞き、は小首を傾げる。
何だろう、何処かで聞いたことがある気がする・・・。
そう思うのに、どうしても思い出せない。
何時誰が言っていたのか、どういう状況で聞いた単語なのか、全てが思い出せなかった。
「何処に居るか、知ってるの?」
リノアがそう問うとスコールは首を振った。
それにゼルが「じゃあ手分けして探そうぜ!」と言い、それに皆が賛同する。
ゼルは「よっしゃ!」と言うと一人先に駆け出して行ってしまった。
残ったリノアは、スコールを見て「ねえ、スコール」と声をかける。
「エルオーネってどんな人?」
「・・・"あっちの世界"の登場人物だ」
スコールは簡潔にそう言う。
あんまりにも全然分からない情報にリノアは両手を挙げ、分からない。と言った様子を見せる。
が、「まあ・・・探してみるね」と言って走って行った。
そんなリノアの背を見送り、は額に手を当てて溜め息を零す。
「うおぉーい、スッココさーん? それじゃ理解出来ないでしょ?」
「(また変なあだ名付けられた・・・)・・・良い、アンタは休んでろ」
「え?」
スコールの言葉には首を傾げる。
どうして自分にだけ休めと言うのだろうか、彼は。
そう思っているとスコールはの額部分を見て瞳を細めた。
「・・・大事な、物だったんだろ?」
「・・・・・・、あ、髪留めの事? まー、ね。うん。 ほら、柄とか可愛くって、気に入ってたしね」
へらり、と笑って言う。
そんなに何だか苛々した。
どうしてそんな風に笑うんだ、どうして本音を曝け出さないんだ、どうして、
「スッコー?」
急に歩き出したスコールには彼を呼ぶ。
だがスコールはそれに答えず、一人でスタスタと進んで行ってしまった。
置いていかれた。
正にそんな状況だった。
あれ?と、思っている間にチン、というエレベーターが作動する音が静かな廊下に響く。
恐らくスコールが階下に下りたのだろう。
はゆっくりと歩き、エレベーター前の廊下から一階を見下ろす。
そうすると、エレベーターから降りたスコールが何故か真っ直ぐに図書館に向かっているのが見えた。
(・・・あ、)
段々と小さくなっていく背、
伸ばしても、届かない指先、
それを感じた途端、目の奥がチカリと強く輝いた気がした。
『お兄ちゃん・・・』
『ごめんな、。直ぐ戻れる様にするから』
そう言った兄の赤茶の髪が小さなの肩にかかる。
閉じていた瞳を開け、翠の綺麗な瞳を真っ直ぐにへ向けてくる。
『―――――なお前を残していく事は凄く、気掛かりだけど、同じくらい気掛かりな誰かさんが居るんで・・・』
『前にお兄ちゃんが話してた人でしょ?分かってるよ』
『・・・ごめんな。 あの爺さん婆さんなら、事情も知ってるし大丈夫だと思う』
『うん。迷惑かけないようにするよ、良い子で待ってるよ、お手紙も書くよ』
だから――、
うりゅ、と歪む子供の顔。
其れを見た彼は困った様に笑い、の頭をくしゃりと撫でた。
『じゃ、行って来るよ』
柔らかく微笑んだ、整った兄の顔が浮かぶ。
そして背を向けて去っていく背。
段々と遠ざかっていく、大好きな、兄の背。
(あ・・・、)
それを見た途端急に足元から体温が失われていく感覚がした。
スッ、と冷え切った身体、無意識の内に震える身体。
あ、とか細い声を漏らし、はその場に膝を着いた。
(駄目、駄目!行かないで!!)
行ったら最後、彼は帰ってこない。
何年経っても帰らぬ、彼―。
(待って!!!)
伸ばしても、決して届かなかった手、
「スコール・・・!」
か細い声でそう呟き、はその場に蹲った―。
そういえば昨日図書室で会った女性が居た。
あれがエルオーネかもしれない。
それに、以前訓練施設で彼女を助けた時、思い出してみたら白い服のSeeD達が彼女を助けに来ていた。
そう思い、スコールは図書室へ向かっていた。
全てを包み込んでくれるくせに、自分の事を厳かにして誤魔化している様子のに無性に腹が立った、
でも、その苛立ちをにぶつけたくなくて、つい引き離して置いて来てしまった。
着いて来るか、と思ったが意外にも彼女は後を追ってこなかったようだ。
其の事に安堵しつつも、何処か残念がる自分が居る事に気付いたスコールは目元を手で覆った。
(・・・アンタは、何処まで俺を狂わせれば気が済むんだ・・・?)
どうしてくれる、頭の中がアンタで埋められてきてるじゃないか。
そう思い、スコールは図書室へ足を踏み入れた。
図書室の奥に行くと、昨日と同じ所に彼女は居た。
スコールが後ろから近付くと、彼女は振り返りスコールの姿を目に留めると微笑んで「な〜に、スコール?」と言った。
明らかに自分を知っている様子の彼女にスコールは恐る恐る、「もしかして・・・エルオーネ?」と問うてみた。
それに彼女は頷いて、「そう、エルオーネ」と言う。
「アンタがエルオーネ? あの、エルオーネ?」
再確認のようにスコールが問うと、彼女―、エルオーネはまた頷いた。
「(どういう事だ?)ラグナを・・・知ってるな?」
「知ってる。大好きなラグナおじさん」
「教えてくれ!あれは何なんだ!?」
思わず、そう声を張り上げて言う。
そんなスコールにエルオーネは「ごめんね、スコール」と言い少しだけ俯く。
「上手く説明出来そうに無い・・・。 でも、一つだけ。あれは"過去"よ」
(・・・やっぱり過去を見ていたのか)
何処か確証はあった。
デリングシティの事や、ティンバーの戦争、そして、
(クロスの事・・・)
カーウェイ大佐が話していた事、あれは明らかに過去を振り返っての言葉だった。
これであれは過去という確証が持てた。
そう思っているスコールの前で、エルオーネはゆっくりと口を開く。
「過去は変えられないって人は言う。
でも、それでもやっぱり、可能性があるなら試してみたいじゃない?」
(過去を変えたいだって? 本気で言ってんのか?馬鹿馬鹿しい・・・)
そんな事、出来る筈が無いのに。願うだけ無駄だ。
そう思うスコールだが、彼女の言葉を聞いてある考えが浮かびハッとして彼女を見る。
「あんたがやっているのか!?あんたが"あっちの世界"に俺達を連れていくのか!?」
「ごめんね」
エルオーネからの返事は、それだけだった。
分からない事がまた増えて、酷く苛立った―。
「(・・・またかよ。また、訳の分からない事で俺は混乱する・・・!)
どうして俺なんだ!? 俺は今の自分の事で精一杯なんだ! 俺を・・・、俺を巻き込むな!」
「ごめんね」
「俺を・・・俺をあてにするな・・・!」
あてにするな。
そう言いつつ、先程自分がにあてにして欲しかった事実を思い出す。
何て矛盾した感情なんだ、これは。
そう思いながら、スコールはふらり、とよろけるように近くにあった椅子に腰を下ろした。
スコールが一人自己嫌悪に陥っていると、入り口の方からシュウの声がし、「スコール、エルオーネは居た?」と言われる。
それにエルオーネが立って「あの、私です」と言う。
シュウはエルオーネを見て頷き、同行の意を求めるとエルオーネは直ぐに頷いた。
其の後にシュウは椅子に座り、項垂れているスコールに視線を向け、「大丈夫?」と問う。
が、スコールは聞こえていないのか、あえて聞かない様にしているのか、無反応だった。
エルオーネが靴音を響かせつつ、スコールに近付く。
「スコール、 」
スコールにしか聞こえない程度の声でエルオーネは何事かを呟き、シュウと共に図書室の外へ向かって歩いた。
(エルオーネが囁いた言葉は・・・『頼れるのは、あなた達だけなの』だ。
どうして人は人に頼るんだ? 自分の事は自分で何とかすれば良い。
俺は今まで誰にも頼らず生きてきた。辛い事も苦しい事も飲み込んでそうやって生きてきた。
・・・確かに、子供の頃は自分一人なんて無理だったさ。いろんな人に頼ってきたけど・・・それは認めてもいい。
いろんな人が居たから、今の俺がいる。 ・・・・・・今は一人で大丈夫。
生きていく手段も身に付けている。もう子供じゃないから、何でも知ってる・・・・・・、嘘だ。
俺は何も知らなくて混乱してる。の事で頭がいっぱいだ。
誰にも頼らず生きていきたい。それにはどうしたら良いんだ?
教えてくれ・・・・・・誰か教えてくれ・・・。
・・・誰か? 結局・・・俺も誰かに頼るのか・・・?)
―暫くの間、ずっとそうして考えていたスコールだが突然肩をポンと叩かれる。
細く、しなやかな手に一瞬を思い浮かべるが、其処に居たのはリノアだった。
「よ」と言いリノアは軽く手を上げてスコールの顔を覗き込む。
「エルオーネって人、見つかってもう白いSeeDの船に乗ってったって。
スコールは此処で何してたの?」
そう問いかけてくるリノア。
スコールはゆるゆると顔を上げ、「別に・・・」と言い視線をリノアから外した。
それにリノアはムッとした様に眉を寄せ、腰に手を当てる。
「・・・スコールって、の事大好きだよね」
「・・・・・・ん?」
「私も、が大好き」
突然のリノアの言葉に着いて行けず、スコールはリノアを見て首を傾げる。
超展開だ。 何だって? 誰が誰を好きだって?
突然の事に頭を真っ白にしたスコールに、リノアはお構いなしに言葉を続ける。
「・・・大好きだから、つい頼っちゃうんだよね」
「分かるな、スコールの気持ち」と、リノアは言って近くの椅子に腰を下ろした。
膝の上に手を置き、少しだけ俯き気味になり、リノアは再度口を開く。
「・・・どうして無理するんだろうね、。あの髪飾りだって、壊れた時、凄く悲しそうだったのに・・・」
「・・・・・・大切な物だと言っていた」
「・・・うん」
リノアはそう言い、顔をゆっくりと上げてスコールを見た。
「私じゃ、これ以上の事を支えてあげられないと思うの」
(そうか? 俺にはアンタがを必要としている分、もアンタを必要としている様に見えるが)
「だからスコールも、もう片方の手を伸ばして欲しいの」
「もう片方?」
「うん。 両手でしっかり、を支えてあげて欲しいの」
悔しいけど、私一人じゃ無理だから。
リノアはそう言い苦笑した。
そして「うん、用件はそれだけ」と言うと軽い足取りで図書室を後にしようとした。
そんなリノアを思わず「リノア、」と呼び止めると、彼女は案外あっさりと立ち止まった。
「・・・は何処に居る?」
何だか、無性に彼女に会いたくなったのだ。
さっきは突き放した癖に、本当に自分は勝手だ。
そう思いながらスコールはリノアにそう問いかける。
に触れたい、に癒されたい、を癒したい。
頭の中はやはり彼女でいっぱいだった。
既にベタ惚れスコールさん(笑)
しかし山はまだあるぞ、自分の行いを思いだせ(笑)