「・・・・・・じょぶ、」


ポツリ、と呟いてゆるゆると顔を上げる。
そして虚ろだった瞳を数回瞬かせ、床に手を着いては立ち上がった。


「・・・大丈夫・・・、」


自分に言い聞かせるように再度そう呟き、きゅ、と手を握った。

が、今は誰とも会いたい気分にはなれず、


「・・・・・・部屋に戻って寝ようかな」


何だか気分が沈みっぱなしだった。

自分を置いて行ってしまった兄にスコールを重ねて見てしまい、在り得ない事なのについ考えてしまう。

スコールも、自分を置いて行ってしまうのではないか? と。

駄目だ、何かネガティブだ。とは思い勢い良く首をぶんぶんと振ると窓に近付く。
外を見ると、気付けば夕暮れ時になっていた。
「うわ、やば!」とは声を上げ、取り合えずはテンションを上げて食堂へ向かう事にした。














































何だか食欲が余り無くてはサンドイッチだけを頼んだ。
そして適当に空いている席に腰を下ろしてぱくりとパンに噛み付く。
もぐもぐ、と口を動かしつつ先程の事をつい思い出してしまう。

水を一口飲んで、溜め息を一つ零す。


・・・きっと髪飾りが壊れたからこんな後ろ向きになってるんだ・・・


それと、魔女の事も何処か突っかかっていたりする。

自分は何かを知っている気がする、


子供の頃から魔女、そしてある日を境に突然暴走してしまった、魔女。


これが何故か酷く気になる。

は溜め息をまた零し、パンに噛み付く。
その時、前にカチャン、という音を立ててトレーが置かれた。
誰か来たのか、と思い顔を上げると其処にはゼルが居た。
視線がかち合うとゼルは「よっ!」と言って手を挙げ、明るい笑みを見せてきた。


「此処、良いか?」

「勿論、どーぞどーぞ?」


が釣られた様に笑って言うとゼルは明るい笑顔のまま「サンキュ!」と言い席についた。
夕飯なので、ちゃんとした食事を取るゼルはの夕食を見て目を丸くする。


、夕飯そんだけか?」

「え? あ、うん・・・。ちょっと食欲無くって・・・」


少し考えた後に苦笑交じりに言うと、ゼルは「あ・・・」と短く声を上げて気まずそうに視線を逸らした。
恐らくはの髪飾りについて、考えているのだろう。
其れを察したは彼を安心させる様に微笑み、「ゼール、」と彼を呼んだ。


「何かさ、D地区収容所からハイスピードで戻ってきてさ、ガーデンのいざこざ収めてさ・・・。
 そんで次にはマスターノーグとの対決だよ? これ、疲れないって方が無理っしょ」


お陰で食欲もあんま無いんですよねー。

と、言うにゼルは少しだけ間を開けた後、「そ、そうだよな!」と言って水を飲む。


「色々と、あったからな・・・」

「・・・うん。もうこれは帰ってぐっすり寝るに限るね。
 ガーデンだって、何処向かってるのか全然分かんないんだから」

「エスタに上陸、なんてのはゴメンだぜ」


ゼルが冗談交じりにそんな事を言いながら、肉を頬張る。
そんな様子を見ながらもサンドイッチを食べ、言う。


「明日何しよう?」


任務が無いにも等しい状態なので暇となってしまった。
そんなの言葉にゼルは「俺は朝からパンの為に並ぶぜ!」と意気込んで言う。


「・・・食堂のパン、人気だもんね」

「あぁ・・・、サンドイッチとか、そういう系なら売れ残るのにな・・・なんでだろ?」

「やっぱ、美味しいからじゃない?」


取り合えず、頑張ってね。と、が言うとゼルは「おう!」と言って拳を作る。
そんなゼルを見て、思わずくすりと笑みが零れる。


何時もこうだ、ゼルは。

何事にも真っ直ぐで、直感勝負。

偶にそれが仇となる事もあるが、見ていて清々しさを感じる。

こういう所、良い所だよね。


はそう思いながら「私はどうしようかなー」と零す。


「明日スコールも暇だと思うぜ。誘ってみたらどうだ?」

「・・・そーだね・・・。でも何に?」

「それは・・・ほら、あれだ。確か前に一緒に海を見るって言ってなかったか?」


ゼルの言葉には「あぁ・・・」と呟く。

前、スコールと二人で確かに海を見に行こうとした。
だが、ガーデン教師に呼び止められてマスタールームへ行くようにと命じられたのだ。

確かに其の時、海は見れなくてまた今度見る約束をしたのだが―、

は微かに瞳の色を濁らせ、小さく息を吐いた。
先程から考えていた事がまた浮かび上がってきたのだ。


伸ばしても届かない手、

スコールも、自分の届かない所に行ってしまうのではないか、

身体も、心も、遠く―――、


そんな事をぼう、としながら考えていると突然頭に大きめの手が置かれた。
それは頭をわしゃわしゃと撫で回される。
が思わず「わ!」と驚きの声を上げると、手を乗せたままゼルがぽつりと呟いた。


「・・・何か、あったか?」


何時もより真剣な眼差しで、

それでも優しい声で、ゼルは問うて来た。

はそれに瞳を丸くし、彼を見返す。


「・・・どうして?」

「・・・何て言うかさ、って静かに悩むだろ?」

「え、あの、騒いで悩む人ってそうそう居ないよ?

そういう事じゃねぇよ!


え、何言ってんの?的に苦笑交じりに言うにゼルは思わず声を張って返す。
其の後に「コホン」と一つ咳払いをしてゼルは言葉を続ける。


「何っつーか・・・。一人で全部抱えて、自己完結してそうだって事」

「え?」

「前はよ、確かに相談とかする相手とか居なかったと思うけどよ・・・。
 今は違うだろ? 今この状況で不安がるって事は可笑しい事じゃないし、
 別に誰かに頼っても良いと思うぜ?」


ゼルが氷だけになったグラスを傾けながら言う。
そんな彼の様子を見ながらルナは再度瞳を大きく開く。


「・・・お前、実はずっとそうやってただろ? 俺以外も、当然気付いてるぞ」


ゼルは優しい声色でそう言って、再度の頭をくしゃりと撫でる。
そして、「で、どうしたんだ?」と優しく問いかけた。

微笑むゼルが何だか眩しくて、は瞳を細めた―。




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