コンコン、というドアのノック音で目が覚めた。
隣で寝ているリノアを起こさない様に、は上着を羽織って少しだけ警戒しながらドアのロックを解除する。
「はい?」と言ってドアを開くと、其処には予想外の人物が居た。
「・・・スッコー・・・?」
真っ先に視界に入ったのは彼の胸元で揺れるシルバーペンダント。
そして視線を上に向けると、相変わらずの表情のスコールの顔があった。
取り合えず、「おはよースッコー!」と挨拶をする。
すると彼の方からも「あぁ。おはよう・・・」と返事が返ってくる。
は何か用かと思い小首を傾げ彼を見上げる。
「・・・で、どったの?」
「否・・・大した用じゃないんだが・・・、」
何処か言い難そうに言葉を濁すスコール。
そんなスコールを見上げつつ、は取り合えず「お誘い、とか?」と問うてみる。
もし、そうだったら良いな。と思っての言葉だったが、スコールはの言葉に少しだけ瞳を丸くする。
そして「どうして、」と呟く。
「え?」
「・・・どうして、分かったんだ・・・?」
不思議そうに問いかけてくるスコールに、次はが目を丸くする。
そして「っつ・・・!」と声にならない叫びを上げ(内心絶叫)思わず口元を押さえる。
そんなに小首を傾げるスコール。だが、彼が何か言うより先にがくるりと身体を反転させる。
「じゃっ、じゃあ準備してくるね!」
「? ・・・調子が悪いのなら・・・、」
「良いの、良いの!! ちょっと待っててね!」
は赤くなった頬を隠す様に顔を覆いながらそそくさと室内に入って行く。
中に戻ると、ベッドにリノアが腰を下ろして此方を見ていた。
何処か嬉しそうに、そして楽しそうに笑いながらリノアはに言う。
「真っ赤、」
「う、うっしゃい!」
は口早にそう言うと何時ものタンクトップを頭から被った。
そして短パンを履き、ジャケットを羽織る。
何時もの格好だ。
其処まで着替えてはつい何時も髪飾りが置いてある場所へ手を伸ばしかけて「あ、」と声を漏らす。
(もう、壊れちゃったんだった)
其処に置いてあったのは修復不可能にまでに壊れてしまった蝶の髪飾り。
は自嘲気味に笑った後、リノアを振り返る。
リノアも既に着替えを済ませており、此方を見ていた。
「リノアも、どっか行くの?」
「まーた探検でもしようかなーって。それとちょっとゼルに話があるからね」
「ゼルに? ・・・ま、いっか。後でまた会おうね!」
がそう言ってドアに向かう途中、リノアが悪戯っぽい笑みを浮かべ「頑張ってね〜」と言って手をひらひらと振る。
リノアの言葉は聞こえないふりをしてはドアを開けて素早く外に出る。
そして待っていたスコールに「お待たせ!」と言い彼を見上げる。
「・・・で?何処行くの?また訓練? あ、カードは嫌だぜよ?」
「(だぜよ・・・)否、どれもハズレだ」
「ん?じゃあ、何処?」
スコールにハズレと言われたのでは他の施設を考える。
保健室、はまず無いだろう。図書室も何かが違う気がする。
駐車場なんか論外だ。まず外に出れない。
食堂、も、朝食を取るのも考えられるが微妙な気がする。
と、が考えていると、頭上から何処か柔らかめの声色で「デッキだ、行くぞ」と言われた。
「デッキ、」と反復しながらは歩き出したスコールの背を追う。
そうしていると此方を振り向かずにスコールは、
「海、見るんだろ?」
と、言ってきた。
前、一緒に海を見ようと約束をしていた事を彼は覚えていてくれたのだ。
はそれが何だか堪らなく嬉しくって、「うん!」と元気良く返事をして嬉しそうに微笑んだ。
―その時、
ピンポン、という校内放送の音が響いた。
何だろう、と思いスコールとは思わず立ち止まる。
『皆さん、こんにちは。学園長のシドです。久し振りの館内放送復活。誠に喜ばしい事です。
・・・あ!? ああっ!!』
シドの声がガーデン内に響いている、と思って聞いていた途中。
酷く慌てた様子のシドの声が響き渡った。
思わず身を硬くするとスコール。
その直後、
ガグン!!と、ガーデンが揺れた。
周りに居るガーデン生徒が「な、何だ!?」やら「キャ!」やら声を上げる。
とスコールは身構えていたので特に倒れたりする事は無かったが、驚きの表情をしていた。
「な、何? 何の揺れ?」
無意識の内に腰に下げてある双剣の柄に手を回しながらが言う。
スコールも辺りを見渡しつつ、眉を潜めている。
『スコール君!SeeDのスコール君!
誰かと一緒でも良いので直ぐに学園長室まで来なさい。繰り返します。スコール君、学園長室まで来てください!』
其の後に響いたシドの声に、はスコールを見る。
スコールもに視線を向け、「行くぞ」と短く言うと駆け出した。
学園長室へ行くと、シドが再度放送をかけている所だった。
「皆さん、落ち着いて行動してください。
それから、これは大切な事です。ガーデンから出てはいけません。
許可が出るまでガーデンから出てはいけません」
そう放送をかけた後、シドは振り返ってスコールとを見る。
「ああ、スコール、も来てくれましたね。
スコール、命令です。、ゼル、リノアを率いてフィッシャーマンズ・ホライズンに上陸。
偉い人に会ってこの騒ぎを謝罪して我々に敵意がない事を知らせてきなさい。
同時に、街の様子の観察も忘れずに」
シドの言葉を聞きながらはちらり、と外を見やる。
外に見えるのは、どうやら海の真ん中にある街、フィッシャーマンズ・ホライズンの様だった。
どうやらガーデンはこの街に突っ込んでしまったらしい。
大事にはなっていないようだが、街の人はかなり動揺してしまっているだろう。
「・・・了解(・・・どうして俺なんだ?)」
「どうしました、スコール。命令が気に入りませんか?」
「・・・別に」
「SeeDは単なるバトル要員ではありません。君には出来るだけ外の世界を見て欲しいのです。
行きなさい、スコール」
シドは微笑んで、スコールにそう言った。
スコールはSeeDの敬礼をした後、エレベーターを使って下に下りようとする。
其の時、
「スコール・・・ガーデンをよろしくお願いしますよ」
(何だって?)
「あはは、深い意味はありません。
君がフィッシャーマンズ・ホライズンの人達を怒らせたら大変ですからね。」
あははとか笑いながらプレッシャーかけてるよ学園長!!
は降下するエレベーターの中でそう思った。
スコールと共にが下に下りると、既にゼルとリノアが其処に居た。
リノアはどうやらゼルと一緒に居たようで「来ちゃった!」と言って笑っている。
「何だったんだ? フィッシャーマンズ、行くのか?」
ゼルの問いにスコールは頷き、三人を見渡して口を開く。
「フィッシャーマンズ・ホライズンに上陸する。 目的はこの騒ぎの謝罪。街の様子の観察だ」
「フィッシャーマンズへは2F廊下奥のデッキから出れば行けるぜ。ゲートは塞がってるみたいだからな」
既に様子を見てきたのだろう、ゼルがそう言う。
スコールはゼルの言葉に頷き、「行くぞ」と言い歩を進める。
そんなスコールの背を追いながらは、あ、とある事を思い出す。
(海・・・また見れなかったなー)
ま、今度でいっか。何だかヒジョーに残念な気がするけど。
そう思い、は歩く。
そんな彼女の後ろから、ゼルが「なぁ、」と声をかける。
「何?」
「ってさ、指輪とか付けないのか?」
「指輪ぁー?」
何を行き成り。と思いながら自分の指を見る。
ピアスはつけているが、指輪はしていない。双剣を扱う時に邪魔になるからだ。
はそう考えつつ「つけないねー」と返す。
「でも、ペンダントとしてなら平気なんじゃない?」
「あ、チェーンに通すって事?」
横に居るリノアからの提案にが返す。
リノアはそれに頷き、「うん、それが良いんじゃない?」と言ってゼルを見る。
ゼルもゼルで「おう!」とか元気良く返事をする、が、からすればサッパリなやり取りである。
「わけわかんないっすよー?」
「まぁまぁ、あ、ほら。デッキ着いたし」
リノアがにそう言いデッキのドアを開けるスコールを指す。
何か誤魔化された気がする、と思いつつもは今自分達がすべき事を思い出し、表情を固くした。
デッキに出てみると、下に見えるフィッシャーマンズ・ホライズンの展望台の様な先端部分に現地の人が居た。
「出て来たよ」と言う男の横に居るもう一人の男が一歩前に出て口を開く。
「察してはいると思うが、上陸前に忠告をしに来た。
我々は戦闘行為が嫌いだ。街の中ではバトル禁止。それがこの街のルールだ」
其の後に「理解したか?」と言う男達を見ながらスコールは頷く。
「はい。 俺達はガーデンの代表で来ました。敵対する意志はありません」
「・・・ようこそフィッシャーマンズ・ホライズンへ!長くて言いにくいだろうからF.H.と呼んでくれ」
スコールの言動に男達は安堵の息を吐いた後にそう言う。
どうやら信じてくれたようだ。
彼等に手引きされるままに、素直に達はガーデンから降りてF.H.に足を踏み入れた。
「街の真ん中に駅長の家があるから一応挨拶しといてくれ。駅長ってのは、F.H.の長の事ね」
「そのつもりで来ました」
「話のわかる人間で助かったぜ」
そう言い一人の男は去って行く。
達が歩を進めていく中、残った男の一人が「しっかし、」と呟く。
「随分派手に壊れたなあ」
「申し訳ありません。ガーデンがコントロール不能になって避ける事が出来ませんでした」
「あ、気にするなよう。怪我人も出なかったしな。それに俺達は壊れた物を直すのが大好きなのさ。
まあ、ゆっくりしていってくれ」
気さくに笑う男に、つられるようにが微笑む。
男と目が合ったが「ありがとうございます」と言うと彼は「否、いいんだよ」と言って笑みを返してくれた。
「あの模様って・・・バラムガーデンだよな?」
そんな中、もう一人の男が呟く。
「そうです。知ってるんですか?」
「あん? 知ってるも何も・・・、」
「俺達が色を塗ったんだぜ。ずいぶん昔だけどな。 懐かしいな・・・ 駅長の件よろしくな。 おう、行くぞ!」
気さくな笑みをまた返して、男は去って行く。
それにもう一人の男も続いて走り出した。
F.H.か・・・。と、は考える。
そして視線を動かすと海上にある線路が視界に入る。
それを見ては海の果てまで続いているような線路を、じっと見詰めた。
(エスタに続いているんだよね。海上横断鉄道の中継地点が此処、F.H.なんだもん)
でも、長いなぁ。
はそう思いながら歩き出したスコールの後に続いた。
奥にあるリフトを使用して下に下りると、一人の男が此方をじっと見た後に「なぁ」と声をかけてきた。
「もしかして、あんたらSeeDって奴か?」
「そうです」
「金さえ貰えば誰とでもバトルするんだよな。それ、幸せな生き方か?」
(絡まれてるのか、俺は)
「いやいや、いいんだ。他人の生き方なんてどうでもいいんだ。俺達にさえ迷惑掛けなければな」
(・・・俺と同じ考え方だ。・・・言われてみると・・・・・・嫌な感じだ)
「気にしないでくれ」
そんな男の言葉を聞きながら、はちらりとスコールを見上げた。
彼の様子を見る限り、考えている事は明白だったからだ。
自分に迷惑がかからなければ、他人の生き方なんて如何でもいい。
まったくもって正論だ、正論なのだけれども、
(単なる自己防衛、なんだよね。それって)
がそう思いながら歩いていると、つい、と服の袖口を引っ張られた。
それに「ん?」と言って振り返ると、後ろに居たリノアが「ね、あれ」と言って視線を動かした。
リノアの視線を追って見ると、見覚えのある、何処か哀愁漂う後姿が見えては瞳を丸くした。
「・・・マスター、ドドンナ?」
がそう言葉を零すと、ガルバディアガーデンのマスタードドンナはゆるゆるとした動作で振り返った。
そしての姿を目に留めると「あぁ・・・・か・・・」と呟く。
明らかに憔悴しきった様子のドドンナに、思わず駆け寄って膝を折る。
「・・・どうしたんですか?」
「・・・あの後色々あった・・・。
ガルバディアガーデンを追われ築き上げてきた物は全て失い、彼方此方彷徨った挙句・・・この街の人に助けられた・・・。
仕切り直せば良いと・・・この街の人は私の様な何も無い男に声を掛けこの街に置いてくれている・・・。
私は・・・私は・・・っ・・・! 今までの自分が、恥ずかしぃいー!!」
ガバッ!と両手で顔を覆って恥ずかしぃいー!と叫ぶドドンナ。
そんな彼の様子に驚きながらも、ガルバディアガーデンがガルバディア軍により既に奪われている事が明確になった。
は取り合えずドドンナの背を優しくぽん、と叩き「頑張って下さいね、」と言う。
「私にとってのガルバディアガーデンのマスターは、今でも貴方なのですから」
はそう言い、スコール達の方へと足を向けた。
駅長の家は、直ぐ其処だ。
F.H.上陸!此処の音楽ほんわかしてて好きです