「命を・・・助けられたな」


リノアが去った後、スコールとは広場に座り込んだままのドープ駅長に近付いた。
そう言う駅長にスコールが「迷惑でしたか?」と返すと駅長は首を振った。


「そうは言わない。しかし、礼も言わない」

「礼なんていりません。ただ・・・、」


其処まで言って、言葉が急に浮かんでこなくなりスコールはふと考える。


ただ・・・・・・何だ? 俺は何を言いたいんだ?


急に考え始めたスコールの背を、がばしんと叩く。
それにスコールはハッとして彼女を見る。


「言いたい事、言えば良いんだよ」


こっそりとそう耳打ちされ、スコールは頷く。
そして再度ドープ駅長に視線を戻して口を開く。


「俺達の事も、分かって下さい。 ただのバトル好きの人間じゃありません」

「ほう?」

「(
こういう話、苦手なんだ・・・何て言えばいいんだ・・・)・・・上手く言えませんけど・・・・・・、
 貴方が言うように、話し合ってお互い解り合って・・・そして戦いの必要が無くなればとても良い事だと思います。
 でも、自分達の事を説明するのはとても時間がかかります。相手に聞く気が無ければ尚更です。
 戦いで一気に決着を付けようとする相手と理解し合う・・・。
 これはとても時間がかかるんだと思います。だから駅長、駅長達がじっくり考えられるように、
 駅長達に邪魔が入らないように・・・俺達みたいな人間が必要なんだと思います。

 俺達みたいのが何処かで戦っています。 時々、思い出してください」


スコールの言葉に、駅長は何も返さなかったがスコールはそれで良いらしい。
話を聞いてくれただけでも大きな事だ。

スコールはに「行くぞ」と言い歩を進めた。
もそれに続き、少し駅長から離れた所に来たら「言えたじゃん」と言う。


「でも、ああいうのは苦手だ」

「そうっぽい。凄く、そうっぽいです」

「・・・分かっているなら、あんたが言えば良かっただろ?」


スコールの言葉にはゆっくりと首を振った。
そして止められていないせいで靡く前髪をさらり、させる。


「自分でも分かってるでしょ?スッコーが言ってこそ、なの。ああいうものは」


はそう言って、海風に靡く髪を手で押さえる。
そうしながら「海風が気持ち良いね」と言って彼女は微笑んだ。

そんなを見ながら、スコールは頭を抱えたくなった。


自分は何時もこうだ。

何時もの言葉にこうも簡単に左右されている。

何時の間に、自分はこんな風に変化してしまったのだろうか?


そう思っているとくいくい、と服の袖を引かれた。
其方に視線を向けるとが「見回り、行くんでしょ?」と言って来た。
スコールは「あぁ」と返事をして歩を進めた。


何時も背を押されっぱなしの自分が、何か彼女に出来る事は無いか。


貸されっぱなしは、好きじゃない


スコールはそう思いながら、歩を進めた―。












































少し歩いていくと、F.H.の端っこの方に辿り着いた。
其処には帽子を被った老人が一人、項垂れていた。


「長年気に入っておった釣り場の多くがはちゃめちゃにぶち壊されてしもうた・・・」


老人の言葉に辺りを見渡すとガーデン衝突によって壊されてしまった所が数箇所目に入った。
それにスコールが「済まない・・・俺達のせいだ」と言う。
それに老人は「おおっ、そうか・・・」と言い釣具を弄くる。


「まあ、気にする事でもない。 
・・・死にかけたけど・・・、 気にするな!!」

「「・・・・・・」」


明らかに今小声で何か言った。

これは逆に気にしろと言われているような物だと思いスコールとは思わず黙る。
そんな二人の様子を笑い、老人は釣竿を振って糸を海へ垂らす。

「ぢょ〜だんぢゃよおお。 わしの腕には目がついとらんからな。
 場所が変わっても気付きはせんよ。ばれなければ、何時も通りぢゃ。
 ・・・さてと続き、続き。 ・・・何ぢゃ? 他に用かな?」


特にこれといった用はないのだが、と言おうとした時に老人が「おおそうじゃ」と言う。


「居住区にちっこい弟子がおるんだが大丈夫かの・・・?
 ちと気になるの。あんたら、近くに行ったら声でも掛けてみてくれんか?」

「・・・了解した」


スコールは老人にそう返し、街中へと戻る。





居住区に行くと、店の前で海の前に立っている子供を見つけた。
子供は釣具を持っていて、この子が先程の老人の言っていた弟子なのだと理解する。

が近付いて「君、釣りするの?」と問うと少年は元気良く「うん!」と返事をした。


「あんた!釣り好きなのか?そうか!じゃあ俺の腕前見ててくれ! うりゃ!!

「あ、え、ちょ・・・!」


一方的にそう言い釣竿を振るった少年。
は別に、と言おうとしたのだが飛んでいく釣り針に思わず声を上げる。

狙いは大きく外れ、真後ろへと飛んでいったのだ。

釣り針のついた先端が店の老人にちくりと刺さるのをとスコールは見てしまった。


「あだっ。 うぐっ、こ、こないだは・・・店の看板!!今度はわしかああああ!!
 良いとこ見せようとするといっつもこれだ・・・」


老人はそうぶちぶち言いつつ、店の中へと入って行った。
其れを見ていた子供が「おっかしいなあ〜」と言って竿を傾けて糸を引く。


「何で後ろに飛んでいくのかな〜?やっぱ重しが軽いのかなあ〜?
 そういや、あんたら・・・釣りしてる人に会った?クレーンとこの釣り場にいるんだ。
 あんた達、そっから来たんだろ?」

「うん、会ったよ。 私達はそのおじいさんに言われて君の様子を見に来たんだ」

「ほんとかい! で? で、で、どんな感じだった?」


握り拳を振りながら言う少年には「んー」と悩む声を上げる。
そしてちらり、とスコールを見る。

釣りに関してはさっぱりなのだ。

まだ詳しいであろうスコールに聞いた方が的確なのは目に見えていた。

スコールは老人の事を思い出しながら「なかなか・・だったな」と言う。
それに少年はとても嬉しそうに笑いながら言う。


「だろ!だろ、だろ!! 俺は一番弟子なんだ!
 俺もあれくらいの人になるんだ! ガーデンがた時も目の前に来るまで、釣りやってたんだ!
 すげえよなあ〜!そっか〜!わかる人にはわかるんだあ!
 うんうん。そっか〜そっか〜頑張るぞ〜! うりゃ!


そう言い少年は再び竿を振るう。
当然狙いは当たる事無く、今度は店の硝子へと突っ込んでいった。
ぱりーん!という硝子の割れた綺麗な音を聞きながらスコールは額を手で押さえ、は両手を肩の位置まで上げた。

当然、店内から先程の老人が出てきて説教を始めた。


わわわしの店潰す気かああああぁ!! 船出して行ってこーーーーい!!

「おっちゃん〜、そんな危ない事はおいらには出来ないよ」


怒る老人に冷静にそう返す少年。

今してる事が十分危険なんだけど。

と、は思ったがあえて口に出さない事にした。


「おいらね、筋はいいはずなんだ。見ててくれよ。うりゃ!

「何も・・・起こら・・・・・・、」


老人がそう呟いた時、やはり少年の狙いは外れて今度は店に引っ掛かった。
その後に垂れ降りてきた先端に老人までもが引っ掛かってそのまま店の方へと釣り上げられていった。


「わ、わわわ!そう来たか!
そう来たかああ!!

「やばいよお、糸が絡まって、外れな〜い。やばいよ〜」

降ろせ〜!
降ろじでくで〜!


何この超展開。

思わずポカンとした様子で目の前で行われている事を見る。
呆けているだったが、直ぐに「あ、やばいやばいお爺さん苦しそうじゃん!」と言い糸が絡まって困っている少年に近付く。
解かないと、と少年から竿を受け取り絡まった部分を急いで解いていく。
それでも中々解けずに、が焦っていると真後ろから手が伸びて来た。


え?

「半分貸せ」


耳元で少し焦った様子のテノールボイスが響く。

どうやらスコールが自分の真後ろから手を伸ばしてきて釣り糸が絡まっているのを解く手助けをしてくれているようだった。
それはありがたい。

ありがたいのだが、


何この体勢!?


まるで後ろからスコールに抱き締められているような体勢には思わず赤面した。

しかし今はそんな事を気にかけている場合ではない。

は自分にそう言い聞かせてスコールと共に糸の絡まりを全て解した。
お陰で老人は地の上に降りて(思い切り尻餅をついていたが)無事だ。


いでっ!!

「すげぇ!カッコイイ!!」


痛みで声を上げた老人なぞには目もくれず、子供はとスコールを見上げた。
そして直ぐに「あ、」と声を漏らすと両頬を手で覆って「ラブラブだぁ〜」と言った。

子供の言葉で今の体勢を思い出したが俯きながら「ス、スッコー、ありがと」と言って前へ進む。
スコールも何処か呆けた様子で「あ・・・あぁ、」と言い一歩下がる。

そんな事をしていると老人がずかずかと進んできて子供の頭を一発殴った。


「この・・・・・・、 
ど下手くそ

「酷い・・・そんなに言わなくても〜・・・」


少年はしょんぼりと落ち込んだ様子を見せたが、直ぐにまた顔を上げるとまた釣具を構えた。


「もうそろそろ良いとこ見せないと、ねっ・・・と!」

「そう何度もくうかああああ!」


少年が竿を振るったと同時に老人が軽いステップを踏んで後退する。
元気な爺さんだな、とスコールが思って見ていたが、何時までたっても老人の方にも店の方にも糸が飛んでくる事は無かった。


「ほっほっほっほっ。はれ?」


その事に気付いた老人が笑う事を止めて少年の方を見やる。
すると、釣り糸は真っ直ぐに水面に垂れ下がっていた。

それにが「おおー、成功!」と拍手をしながら言う。


「や、やや、やったああああ! 見た?みたみた?やったあ!
 とうとうやったあ!! よおおおおし、これで師匠のとこに連れてってもらえるぞお!」

「・・・・・・何だ。それはそれで、面白ない」


きゃっきゃとはしゃぐ子供に老人がポツリと呟く。
何だかんだで、この子が可愛いのだろう。

そんな老人の様子にはくすりと笑みを零した。

少年はスコールを見上げて「師匠に会ったら言っといてよ〜」と言って水面を覗き込み始めた。
これはまた先程の釣りをしている老人の所に行くべきだな、とスコールは考えを呼んだ。





先程の釣りをしている老人の所に行くと、老人から声をかけてきた。


「さては、弟子の使いにされたか?色々やるぢゃろ?おもろい子ぢゃて」

「からかってるのか?」


先程の頑張っている子供を思い出して、その子が馬鹿にされていると感じたスコールが思わずそう問う。
すると老人は「ふ、ははははは!」と笑い声を上げ始めた。
それにスコールが「何が可笑しい?」と言うと老人は「否、」と言った。


「お主ら・・・自分が干渉されるのは嫌なタイプじゃろ?」

「?・・・・・・ああ、そうかもしれない」


スコールとはお互いに顔を見合わせた後にそう返す。
それに老人は「それなのに・・・否、失礼した」と言って続ける。


「勿論、からかってはおらんよ。これからの子じゃからな」

「それなら良いんだ・・・まあ頑張ってくれ」


スコールがそう言い去ろうとした時、背後から「ちと待ってくれ」という声がかかった。


「バラムに戻る前に時間を少しくれんか?この爺は、お主らカップルが気に入ったぞい。
 少し時間をくれるならガーデンに戻る前に宿屋に来てくれ」

ちょっと、カップル違うよお爺さん!!

「(
カップルは・・・違う・・・) ・・・何がしたいんだ?」

「説教じゃ」

「「??」」


老人の言いたい事が理解できずに二人で小首を傾げていると老人は優しげに笑った。


「爺とはそういう者じゃろ? とーとつな話で悪いんじゃが、近くこの辺りは、賑やかになるからな。
 その時は退散したいんぢゃ。 ま、主らに任せるよ」

「・・・スッコー、」


はスコールを見上げる。
彼女の視線にスコールは頷き、「行く」とだけ端的に返事をした。





老人と共に宿に行くと、彼は立体映像機を出してきてそれを再生した。


「話というよりな・・・見せたいのじゃ。若かりし時のドープの記録じゃよ」


老人の言葉を聞きながら二人は立体映像に視線を移す。
其処には若かりし頃のドープが必死に説得を続ける姿が映し出されていた。


『何故、軍事目的にこだわる! あなた方が、そう言っても・・・!』

「・・・エスタを変えようとして、一番体を張ってた男じゃ」

『・・・そんな、』

「エスタ・・・知っておるか?そこの線路の先にある近代国家・・・」

『お待ちください! 私の話もお聞きください!!』


映像では、必死に説得を重ねるが全て無視をされて項垂れているドープの姿が映っていた。


「知っとるとは思うが、このF.H.の住人はそのエスタの職人だった奴が多いんじゃ。
 エスタ創世記ってな頃は活気があってなあ・・・。全ての職人が張り切ってたもんじゃ。

 ・・・が、いつしか目的がずれてきてなあ。その技術を軍事目的に使うようになってきた。
 それを何とかしようと、駅長のドープ達が色々と頑張ってきたが・・・駄目じゃった・・・。

 結局、エスタにそれが求められんのなら『創ればいい』と誰かが言った。
 職人にとって"創る"は最大の魅力・・・、賛同者は多く、結局此処にF.H.を創ったんじゃ。
 ドープは最後まで話し合っとったよ・・・『出ていっては問題の解決にならん』てな。結果は・・・、
 ・・・・・・まあ、此処に居るんじゃから・・・の。

 だから、今でもこだわっとるんじゃ。 "話し合い"ってやつに。
 まぁ。自分のしてきた事への『誇り』なんじゃろ。
 ・・・誰も責められんよ。・・・が、最後には分かってくれた・・・。
 先頭に立ってくれた・・・あれは嬉しかったな。

 時は流れ・・・、エスタもこのF.H.も変わった・・・じゃが、この街に誇りを持てるようになった。
 これは胸を張って良い、一つの事実じゃ。歴史に残らん・・・小さな出来事じゃがの。

 ・・・・・・これがワシから送る"説教"ぢゃ」


だから、あの人はあそこまで"話し合い"に執着していたのか。
とスコールはそう理解し、複雑な心境になる。


だからと言っても、話し合いが通る確立は相手と同等の立場の時が高い・・・。
 ・・・無謀だと、心の何処かで理解していても微かな、正当な解決が出来る可能性を見捨てられないんだろうね



はそう思い、腰に手を当てる。
黙っていた二人に老人が「も少し付き合えるか?」と問う。
それにスコールがに視線を投げる。
はそれに頷き、「構いませんよ」と老人に返す。


「ほお、若いのに付き合いがいいのお。それじゃ行こう。着いて来てくれ」


老人の後に続こうとした時に、流しっぱなしの立体映像から声が響いた。


『フィッシャーマンズ・ホライズンは絵空事では断じてない!』


先頭に立ってF.H.の建設を力説する若い頃のドープの姿を横目で見ながらとスコールは老人の後に続いて宿を出た。




本当はガルバディア将校との話も入れたかったんですが、あれ、窓から逃げるだけなんでやめました・・・!
ど下手くそはゲームに忠実に赤字で(笑)