足早にガーデンに向かうスコールの背を追いながら、は無意識の内に笑みを零していた。
スコールから貰った蝶の髪飾り。
デザインも留め具も違う物だが、はコレが酷く気に入っていた。
何より彼からのプレゼントだ、喜ばない筈が無い。
(前のと違って、ピン型なんだね。 うん、これも良い!)
がそう思いながらスコールの後に続いていると、前を歩く彼が止まった。
何だろうと思い身を屈めて前を覗き込むと、アーヴァインが居た。
アーヴァインは片手を上げて此方に挨拶の様な動作をした後、近付いて来た。
「シド学園長のOKが出たからガーデン修理の人達、入ってもらったぞ」
アーヴァインの言葉を聞いたスコールは「そうか」と短く返す。
それだけ言って再度歩き出したスコールの後に続いてアーヴァインも共に歩きながら「あのさ〜?」と言う。
「何だ?」
スコールが振り返ってそう問うとアーヴァインは何処か聞き辛そうに「その・・・、何だ」と言い言葉を濁した。
がアーヴァインの背を軽く叩いて続きを催促すると、彼は言葉を続けた。
「F.H.の人って腕が良いみたいだからさ〜、直してもらいたい物があったらついでに頼んでいいかな?」
「(・・・・・・?)ガーデン修理に支障がないのなら好きにしてくれ・・・。あまり無理を言うなよ」
「そりゃ〜もー、任せとけって!」
アーヴァインの言葉を聞いた後にまたガーデンへ向かって歩き出すスコール。
そんな彼にが続くとアーヴァインも一緒に続いた。
横に並んだアーヴァインを見上げつつ、は先程から少し気に掛かっていた事を尋ねる事にした。
「・・・なんかさ、アービン、口調変わった?」
「ん? そうかな?」
「・・・どっちでも良いんだけどね! うん、どうでも良いんだけどね!」
「ちょ、〜! 何かそれ酷くない?」
態々言い直してみるとアーヴァインは眉を下げてそう言ってきた。
やっぱり、とは思って彼を再度見上げる。
(語尾伸び、って言うのかな?何かセフィみたいな感じ?)
うん、どっちでも良いんだけどね。
そう思いながら歩いていると前を歩くスコールがピタリと立ち止まって振り返った。
それにアーヴァインとで小首を傾げていると、スコールも不思議そうな顔で口を開いた。
「・・・どうしてついてくるんだ?」
そういえばそうだ。
も改めての疑問を抱き、アーヴァインを見上げる。
二人に見詰められたアーヴァインは頭をかきながら「セルフィがさ、」と言う。
「落ち込んでるんだよね〜・・・。 あんた、皆のリーダーだから元気づけてやるのも役目の内だろ?
あんた、そういうの苦手だからさー。僕が力を貸しましょーって訳」
もお手伝いヨロシクね。
そう言って彼女にウインクを一つ投げてアーヴァインは言った。
確かに、バラムガーデンにはミサイルは直撃しなかった。
だが、セルフィの母校であるトラビアガーデンは、
そう思ったスコールは思案の縁から出、顔を上げてアーヴァインを見た。
「セルフィ、何処だ?」
「学園祭のステージんとこ」
そういえば、学園祭のステージも無事ではないだろう。
そう思ったとスコールは出来るだけ早く彼女の下へ行こうと思い足を動かした。
ガーデンに近付いて来た所で、大きな機械やら何やらで修理に励むF.H.の人たちが視界に入った。
其れを見たアーヴァインが「ちょ、ちょっと待って・・・」と声をかけてくる。
「何、修理に入るって、こういう事を言うわけ〜」
「小さな工具でコツコツやると思ったのか?」
「いや・・・・・・そうじゃないけど」
「行くぞ」
「こういう事には、頼もしーのね。うちの班長・・・・・・」
そんな会話をしながらハッチからガーデン内に入る二人。
はそんな男子二人の会話に笑みを零しながら彼らに続いた。
学園祭ステージのある校庭に行くと、直ぐに黄色のワンピースが視界に入った。
セルフィの下に行くと彼女も此方に気付き「あ、はんちょ、」と声をかけてくる。
そしてすっかり壊れてしまったステージを見て苦笑いを零す。
「酷いね〜、これ」
「ガーデン、動き出したりF.H.にぶつかったり・・・色々あったからな」
「ここでバンドが演奏するの見たかったな。
メンバーも、目を付けてる人何人かいたんだよ・・・、・・・あ〜あ・・・」
セルフィはそう言って重たい溜め息と共に肩を落とした。
そんな彼女の様子を見たスコールは(落ち込んでるな、確かに)と、思いどうしたものかと思案する。
どう慰めたら良いか、と考えているスコールをはじっと見上げていた。
(さてさて、スッコーは如何出るでしょう?)
それに少しだけワクワクしながらも、はセルフィの背に当てた手を動かす。
それは彼女を励ます為にぽんぽん、と背を軽く叩くだけなのだが想いは伝わっているようだった。
スコールはそんなとセルフィを見比べた後、何を思ったのかアーヴァインに向き直った。
「アーヴァイン・キニアス。此処は任せた」
「えあっ!?」
「は!?」
スコールはそう言うと片手を軽く上げて別れの挨拶をする。
何て奴だ!!!
おおーい、スッコー?と思いが言葉を発しようとしたその時、。
タイミングを見計らったかの様な『スコール君、スコール君。学園長室まで来て下さい』という校内放送が響き渡った。
スコールは「そういう事だから」と言うと勝手に歩を進めてガーデン内へ入っていってしまった。
何て奴だ!!!
明らかに逃げた様子のスコールにが肩を落とす。
でもそれは面倒だからとかそういう感情からスコールが逃げた訳ではない事を理解しているから如何とも言えない。
(・・・ま。お呼び出しもあった事だしね)
はそう思いセルフィに向き直る。
セルフィは何時の間にか背筋を伸ばして立っていて「ま、落ち込んでても仕っ方ないか〜」と言った。
そんな彼女に同調するようにアーヴァインが口を開く。
「そうだぜ、セルフィ。楽しい事しようぜ〜」
「楽しい事? なになに?」
純粋な瞳を向けてくるセルフィ。
そんな彼女を前にアーヴァインは(頑張れ、僕)と自分を元気付け余裕を持った様子を見せつつ言葉を口にする。
「彼らに頼もうよ、F.H.の人達に。
彼らガーデンを直してるだろ? だったらこれくらいのステージ直すくらい朝飯前だろ?」
アーヴァインの言葉を聞いては「お、」と小さく声を零す。
そういえば先程直して貰いたい物があるならついでに頼んでも良いかとスコールに聞いていたな、と思いながら二人を見る。
「そうかな?やってくれるかな〜?」
「大丈夫でしょ、ま、アービンだって居るんだしね!」
ね?と意味を込めてアーヴァインを見上げると彼は頷いてセルフィに優しい笑みを向ける。
「心配するなって。彼らを説得するのに僕も力になってやるよ」
「って事は!」
「セルフィ・プロデュースのバンドがステージに立てるって事だ」
「やった〜!ではでは、早速!メンバー集め、行きますか!」
両手を挙げて喜ぶセルフィ。
すっかり元気付いた様子の彼女にはこっそりと安堵の息を吐き出す。
「メンバー集め、行こ、行こ!」と言ってとアーヴァインの手を片方づつ握って引っ張って歩くセルフィ。
は笑って「分かったから落ち着いて!」と言っているがアーヴァインはとは違う様な意味で嬉しさで笑みを浮かべていた。
(いい感じ〜! こりゃ〜行けるかも)
そう思ってこっそりとガッツポーズを取るアーヴァイン。
そんな彼の様子に気付いたが「あ、」と声を上げて足を止める。
二人が振り返る中、は「いや、あのね、」と言ってぎこちなく笑う。
(私、二人の邪魔じゃない?)
少し思案した後、は「後で行くから、ちょっと待ってて!」と言って手を大きく振って走り出した。
後ろからセルフィの「〜?」という声が聞こえてきたがはそのまま走り続けた。
ガーデンの廊下に着いた辺りで、取り合えずホールに向かって歩き出す。
先程学園長室に呼び出されたスコールを待つために、エレベーター前の壁に寄り掛かっては思案する。
取り合えずはセルフィが元気になった事やら学園祭みたいな事が出来そうな事やらを話しておこう。
そう思っているの頭上で、放送のスピーカーから校内放送の合図の音が流れ出る。
『此方は学園長のシドです。
皆さんにお知らせがあります。これからの皆さんの生活に関する重要なお知らせです。
ガーデンは移動装置の復旧作業中です。この作業が終わり次第、我々はF.H.を離れ、旅に出ます。
この旅は魔女を倒すための旅です。ガーデンは魔女討伐の移動基地となります。
ガーデンの運営は今まで通り私と職員が中心になってやっていきます。
しかし、この旅は戦いの旅です。戦いには優秀なリーダーが必要です。
私は学園長として、皆さんのリーダーにSeeDのスコールを指名しました。
今後、ガーデンの行き先決定や戦闘時の指揮を執るのはスコールです』
「・・・・・・え?」
途中まで「フムフム」とした様子で聞いていただが最後に聞き覚えのある名前が出てきて思わず短く声を上げる。
え、何?スッコーが何だって?
そう思いつつ放送に耳を傾ける。
『みなさん、よろしくお願いします。
この決定に意見のある職員、生徒は私に直接お願いします。』
何で、スッコー?
はそう思いながら取り合えず学園長と学園長室に居るであろうスコールに問うべくエレベーターのボタンを押す。
(・・・ガーデンのこれからは理解出来た。
魔女を倒す為の旅を続けて・・・、続けて・・・・・・、)
魔女、イデア。シド学園長の、奥さん。
其処まで考えては思わず俯きがちだった顔をバッと上げる。
(奥さん、なんでしょ・・・?奥さんを倒せって学園長は命令してるんだよね・・・、
それって、凄く辛いんじゃ、ないかな・・・・・・、)
愛する人、好きな人、大切な人を、殺せと命令する。
それはどんなに胸が裂けるような思いだろう。
と、が思っているとチンという音と共にエレベーターが一階に到着した。
エレベーターのドアが開いたと同時に、中から人が出てきてとぶつかった。
「きゃ・・・!」
「!」
咄嗟に伸ばした腕を捕まれる。
そのお陰で後ろに倒れる事は免れたが、驚きはまだ残っていた。
エレベーターから出てきた人物は、スコールだった。
「あ・・・スッコー・・・! 今の放送さ、」
「・・・悪いが後にしてくれ」
スコールはの言葉を遮り、口早にそう言うと横を通り抜けようとした。
が、は「待って!」と言い、彼の腕を掴んで其れを止めた。
そんなにスコールは眉を寄せ、口を開く。
「・・・命令なら、従うだけだ」
「でも顔にすっごく嫌々って書いてあるよ」
「・・・だったら何だ、俺が嫌だと思ったら其れは覆るのか?」
「それは・・・、」
スコールの言葉に何も返せず、は思わず俯いた。
そんな彼女に、スコールは大きく重い息を吐き出すと空いている手で自分の顔を覆った。
そして「・・・悪い、」と小さく呟いた。
「八つ当たりだ、今は俺の傍に居ない方が良い」
「スッコー・・・」
「嫌だけど、やるしかないだろ」
スコールはそう言うと「もう良いだろ、」と言い自分の腕を掴んでいるの手を外させた。
そして寮の方に向かって歩き出す。
は其れを追わずに唯、彼の背をずっと見詰めていた。
(・・・スッコー・・・、)
見えなくなるまで彼の背を見送っても、心の内には彼の背が焼きついた様に残っていた。
モヤモヤ。