何時もと違う服なだけなのに、雰囲気までガラリと変わった気がする。
そう思いながらスコールは横を歩くを見た。
今スコールとはセルフィ主催のコンサートに行く為、夜のF.H.を歩いている。
慣れないヒールを履いているは、歩き辛いのか、ゆっくりと歩を進めている。
スコールはそんなに歩調を合わせ、彼女の手を取って共に歩いていた。
女性をエスコート、だなんて普段の自分なら全く考えられない事だろう。
でも、ドレスを身に纏った彼女は何時もと雰囲気が違い、そうしなければならない気がしたのだ。
スコールはそう感じながら、の様子を見やる。
長い銀の睫毛は月の光を浴びてきらきらと輝いていた。
目元を見ると、軽く化粧を施してあるのか薄くラインが引かれていた。
「やっぱり、雰囲気が変わるもんだな」
気付けば、そう口にしていた。
はそんなスコールに「え、あ、」としどろもどろに言葉を零した後、困った様に笑った。
「・・・やっぱ、変かな?」
「? 何で?」
「こーゆーのって、可愛い子が良いもんでしょ?
リノアとか、セフィとか・・・あ、キスティだったら綺麗だったかも。
でも、私は・・・・・・、」
は其処で言葉を止めて、何処か言い辛そうに視線を彷徨わせる。
大体の予想は着くが、取り合えずはの話に耳を傾けるスコールに、彼女は呟いた。
「・・・全然だから・・・」
そう呟いた後、取り繕うようにパッと顔を上げて「私って普段オシャレとかもしないからさ!」と明るめの声で言う。
「リノアとか、セフィとかキスティは普段も凄く女の子って感じがしてさ、こういうドレスとかも溜め息モンなんだろうけどね」
はそう言って何処か寂しげに笑みを零す。
そしてスコールを見上げて困ったように笑った。
「スッコーも、可愛い子にお誘いされた方が嬉しいもんね」
「・・・アンタは、」
「・・・ん?」
スコールは言葉を捜しているのだろう、少し間を開けた後にまたを見下ろして口を開いた。
「・・・否、アンタが、良い。 俺は、アンタなら話しやすいし、だから、」
「・・・・・・」
しどろもどろ、という様子でスコールは言葉を紡いだ。
はクスリと笑みを零して「スッコー」と彼を呼んで、彼の掌の上に乗せてある手に軽く力を込めた。
「大体伝わった、アリガト」
「・・・・・・アンタも、普段"女の子"してると俺は思うがな」
「私も普通だと思ってたんだけどねー。
でもリノアとか見てると、私って全然女の子してなかったんだなーって実感できたよ」
ま、これが私なんだけどね。
はそう言って笑った。
F.H.の広場に行くと既にガーデンの生徒が集まっていた。
其の中でアーヴァインが此方に気付き、片手を上げて近付いてくる。
「よっ、お二人さん!」と声をかけられたのでも「よっ」と言う。
すっかり何時もの調子に戻ったな、とを見ながらスコールが思っていたらアーヴァインに肩を叩かれた。
何だと思い彼を見るとこっそりと呟かれた。
「良い雰囲気じゃな〜い?」
それにスコールは呆れるが、アーヴァインは其れを気にせずに言葉を続けた。
「二人の思い出作りの夜にぴったりの場所があるんだ」
(思い出作り・・・)
「ステージ横に、良い場所キープしてある。
目印に古雑誌置いといたから、あんた達使いなよ。礼なんていらないって。
我らのリーダーの役に立てれば嬉しいぜ〜」
(・・・お前、気を使ってるのか?)
スコールは呆れの意味を込めた溜め息を零しつつ、額を手で押さえた。
そして取り合えず、といった様子で「機会があれば使わせてもらう」と言った。
「僕らが行ったら交代してよね〜」
アーヴァインはそう言って意外と傍に立っていたセルフィに近付いた。
そんな彼にスコールは意味を察したのか「あぁ、」と呟く。
(迫る決戦の時だ・・・)
「何?」
近付いて来たアーヴァインにセルフィが首を傾げて問う。
それにアーヴァインが首を振ると彼女は未だ不思議そうにしていたが、下のほうでゼルに呼ばれて走っていった。
そんなセルフィの背をずっと見詰めているアーヴァインに、スコールは声をかける。
「震えてないみたいだな」
「ブッハ!!」
スコールの一言では思いっきり笑い出した。
以前緊張がピークに達した彼は震えが止まらなくなった事があったのだ。
スコールがその事を言っているのに気付きは腹を押さえて笑いを収めようとしたが、中々上手くいかない。
アーヴァインは「ああー・・・」と言い気まずげに頬をかくと「忘れてくれよ〜」と言いセルフィの後を追って行った。
そろそろ始まるみたいなので、スコールも階段に向かった。
笑いを収めたがスコールに続き、足元に注意しながら階段を下りる。
下の広場に行くと、綺麗にセッティングされたステージが煌びやかに輝いていた。
ステージに立っている仲間の中でフルートを持ったセルフィが「スコール!」と声をかける。
「ガーデンの若き指導者スコールの前途を祝してセルフィが贈ります! も頑張れ〜!」
(何だよ・・・)
「では! 『セルフィバンド』の素敵な演奏で〜す!」
セルフィがそう言った瞬間、辺りがシンと静まり返った。
その中でアーヴァインがタップを踏んでリズムを取ると、それに合わせてゼルがギターを弾き始めた。
二人の音楽に合わせながら、セルフィとリノアがフルートを吹くと、最後にキスティスがバイオリンを弾き始めた。
綺麗で明るい音楽が流れ出す―。
は思わず「わぁ、」と感嘆の声を上げて演奏をする皆を見上げる。
スコールも興味を惹かれた様子でステージ上の皆を見やる。
が、少し経って、スコールはの手を引いて「行くぞ」と小声で言う。
何処に?とは思いスコールを見上げると、彼は「落ち着ける場所」と短く返してきた。
そのまま脇の方へ行くと、雑誌が置いてあった。
スコールが先程アーヴァインから聞いた場所だ。
(アーヴァインの言ってたのは此処だな)
スコールがそう思い雑誌を見下ろす。
途端、表情に呆れの色を浮かべ額を手で覆った。
「ちょっと、何か変な本落ちてるんですけど」
(アーヴァイン・・・何考えてるんだ)
が以前リノアが言っていた"えっちい本"なるものを足で蹴って退かしつつ言う。
スコールは溜め息を吐いた後、を見やる。
「何か話があるんだろ?此処で良いか?」
スコールがに問うと彼女は「あ、うん」と言って腰を下ろす。
それに習いスコールも腰を下ろした。
盛り上がった場所の端っこなのかは分からなかったが、腰を下ろすには丁度良い場所だった。
「話って何だ?」
「うん。 ・・・スッコー、ガーデンの指揮執る事になったんだよね」
は其処まで言い、少しだけ考えた後、膝を立てる座り方になり、「別にプレッシャーをかける訳じゃないんだけどさ、」と言う。
「凄く嫌々って感じだけど、スッコーの事だからやるからにはとことんやるんでしょ?
そんで、一人で抱え込んじゃうんでしょ。 指揮官だから、って。
これは私の意見でもあるんだけど、やっぱ皆も心配してた。さっき話してたんだ、皆でスッコーの事」
(皆で俺の事を?)
先程の皆で話した内容を思い出しながら、は笑った。
そういえば、面白い事もしたな、と思い出して口を開く。
「皆、やっぱスッコーの事良く見てるよ。
物真似も凄くそっくりだったもん! 凄く上手かった」
はそう言いスコールの横に同じ座り方をする。
の言葉を聞いてスコールは皆が自分の物真似をしたのか、と思い呆れる。
そして額を手で覆った。
それを全く同じタイミングで隣に座るもやっていて、彼女は喋りながら動作を真似る。
「眉間に皺寄せるのも真似てさ、こうやって・・・、」
言葉を止めてスコールをちらり、と見る。
すると見た瞬間も全く同じだったのか、全く同じポーズをしたスコールと目がバッチリ合った。
もしかしなくても今凄くシンクロしてた!?
と、が思っていたらスコールも同じような事を感じたらしく手を伸ばしてきた。
それはぺしっ、と音を立てての肩に当たる。
スコールの突っ込みを受けたはわざとらしく大袈裟な動作で後ろに倒れてみる。
「ドレスが汚れるぞ」というスコールの声が聞こえたが、は「ふふっ、」と笑みを零すだけだった。
ドレスがどうだなんて全く気にしていない様子のに、スコールは再度額を手で覆った。
寝転がったまま、は手を伸ばしてスコールの頬に触れた。
突然の事に驚いたのか、スコールは瞳を丸くしてを見てきた。
「あのね、真似を完璧に出来ちゃうくらい皆スッコーの事見てるの。
皆、スッコーが好きなの。だから、指揮官になって一人で悩んじゃうスッコーを心配してるの」
「好き・・・、俺を・・・?」
問い返すスコールには頷き、微笑んだ。
「皆、一人で悩んで苦しむスッコーは見たくないの。
だから、力になれる事なら、何時でも言ってね。皆、スッコーの為に頑張るから」
がスコールの頬にかかる髪に指を絡めながら言う。
そんなの手をやんわりと握り、スコールは寝転がるの方を向いた。
何か言いたげな様子のスコールにが瞳を丸くしていると、握られた手は其の侭に、
スコールは空いている方の手をの顔の横に着いて、彼女に影を落とした。
腰を捻り、の上に来たスコールを真っ直ぐに彼女は見詰めた。
スコールもを真っ直ぐに見詰め、「アンタも、」と呟くように言う。
「俺と、同じじゃなかったのか?」
「・・・期待しすぎない、って事?」
「・・・そうだ。アンタが言ったんだ、俺に、」
「・・・私はね、一人になりたくないの。・・・もう寂しい思いは嫌なの」
彼女はそう言って苦笑を向けて来た。
瞳は酷く悲しそうで、不安の色で染まっていて、少々驚いた。
「私、最初は誰も寄せ付けなければいいかなって思った。でも、其れじゃ寂しいまんまだって思ったから、何時も独りにならない様にしてたんだ・・・」
「・・・其れは唯の気休めだろ?」
「・・・そうかもね。でも、私こうでもしないと寂しさに押しつぶされちゃいそうだから、さ・・・。
でも、現実は現実として受け止めるよ。期待もあんまりしない様に、してる」
彼女は「だって、」と呟いた後自分にとってはとても衝撃的な言葉を口にした。
「信じてて、裏切られた時の思いは、すっごく痛いから――、」
「他人に頼ると・・・何時か辛い思いをするんだ。何時までも一緒にいられる訳じゃないんだ。
自分を信じてくれてる仲間がいて、信頼出来る大人がいて・・・、
それはとっても居心地のいい世界だけど、それに慣れると大変なんだ。
でもある日、居心地のいい世界から引き離されて誰もいなくなって・・・、
アンタも知ってるだろ?
それはとっても寂しくて・・・、それはとっても辛くて・・・・・・。
何時かそういう時が来ちゃうんだ。 立ち直るの、大変なんだぞ。
だったら・・・・・・、だったら最初から一人が良い。仲間なんて・・・、居なくて良い。
・・・違うか?」
は自分の真上にある深い青の瞳をじっと見詰めて聞いていた。
彼の瞳はまるで海の様に揺らいでいて、彼の心を其の侭映しているようだった。
は掴まれていない方の手を伸ばし、彼の頬に触れた。
「私も前はそう思ってた。 仲間が居て、信頼出来る大人が居る安心出来る世界。
すっごく居心地が良くても、何時か壊れてしまうなら最初から無い方が良い。
でも、私は一人になりたくなかった、から、期待をあまりしないようにした。
・・・近付いて、でも、深くには入れ込まないで、それでも、離れて欲しくなくって、ね」
は自嘲気味に笑ってスコールの頬を撫ぜた。
「それが正しい事だと思ってた。 でも、私、スッコーは違った。
何回も何回も、追い出そうとしたのに、気付けばまた入ってきてて・・・・・・、
その度にまた追い出そうとしても、気付けば、自分から招き入れてるんだよね」
瞳を揺らがせながら言う。
彼女の言葉に、スコールの瞳も揺らいだ。
はスコールを真っ直ぐに見詰めたまま、瞳を潤ませた。
「それから、リノアも、セフィも、キスティもゼルもアービンも。
全部皆入ってきた、自分から招き入れて、皆を、こんなにも想って・・・」
「・・・後悔、しているのか?」
スコールが思わずそう問うと、はゆっくりと首を振った。
「私、思ったんだ。
何時か離れてしまうかもしれない、失うかもしれない。でもそれは護れば良いんだって。
自分の力が及ぶ範囲、ずっと護る。私は小さい頃の無力な私じゃないんだ、だから、出来る限り護りたい」
護りたい。
はそう自分に言い聞かせる様に言った。
そして真っ直ぐに、スコールの青の瞳を見詰める。
「・・・勿論、自分の力が及ばない時だってある事は分かってる。
其の時の為の、仲間でしょ? 皆、助けてくれる、だから私も精一杯、皆を護れる・・・!だから・・・!」
「・・・」
「スッコーも・・・皆を信じてみて・・・!
直ぐにとは言わない、何時でも良いから・・・・・・、考えてみて」
「・・・アンタは、変わったな」
スコールはそう言い頬に触れているの手に甘える様に擦り寄ってきた。
それを見たは少しだけ瞳を丸くした後、「スッコーもね」と言って笑った。
「明日、明後日、近い内に居なくなっちゃうかもしれない。
スッコー、そう考えるでしょ。私も、今でも考えたりするんだ。
・・・だから私は、今が凄く好き。
皆が居て、こうしてスッコーに触れていられる今が、ずっと続けば良いのになって何時も思う」
「・・・でも、何時か居なくなってしまうなら・・・」
「うん、分かってる」
はスコールに頷きを返し、言葉を止める。
スコール自身、本当は皆に心を許し始めている事は気付いているはずだ。
唯それに戸惑いを感じているだけ、だから「でも」も「だって」も出てきて色々考え込んでしまう。
全てを分かった上ではそう言い、笑った。
「まぁ、一人じゃどうしようも無くなったりした時とか皆を頼って。
・・・私もね。スッコーが呼べば私は何時でも手を貸すから!」
「・・・俺は、」
「ん?」
「アンタに前、言ったな。"傍に居ろ"って」
「・・・うん、言いましたねー」
大統領官邸で魔女の魔物に襲われた後だ。
目の届く範囲に居ないと何をしでかすか分からない、と言われた気もする。
はそう思いながらもスコールの言葉の続きを待つ。
「・・・俺も、変わっているのだろうか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・否、本当は分かってるんだ。自分が変わってきてるって」
「・・・うん。それで、戸惑ってるんだよね?」
「・・・どうなんだろうな?」
「・・・どうなんでしょうかね?」
はそう言いクスリと笑みを零す。
それにつられるようにスコールを纏う空気も柔らかくなった気がした。
「・・・アンタの、せいだ」
「うん。 責任、取ろうか?」
悪戯っぽく笑うにスコールは微かに口の端を上げて、彼女の頬に手をやった。
は解放された両手を動かし、彼の両頬を包む。
「私の元気パワーをスッコーに注入中でござーい」
「・・・何だ、それ」
「お仕事頑張れますよーにって! 勿論私もお手伝い出来る限りするけどね!!」
「・・・無駄なパワーまで貰いそうだ」
「酷っ!」
すっかり何時もの調子に戻った二人。
クスクスと笑みを零すに、スコールは自分の指に嵌めてある指輪を外す。
そして自分の頬に触れているの手を取ってその手の上に指輪を置いた。
「ん?」
「やるんじゃないぞ、持ってろ」
「え、何で?」
指輪を持った手の上にスコールの手を置かれ、握らされてしまった。
は瞳を丸くしながら腕を上に居るスコールを見た。
「アンタは皆を護ると言った」
「有限実行するよ。私は絶対皆を護る」
「・・・明日、明後日、近い内に失ってしまうかもしれないから。アンタはそう言った。
俺だって、アンタと同じ事を思っている、かもしれない」
「スッコー・・・、」
スコールはの指輪を握る手を、大きな掌で包みながら言う。
「其れ、」と言い彼は続ける。
「大事な指輪なんだ。デザインも気に入ってる」
「そんな物私なんかに渡しちゃって・・・」
「だから、失くすなよ」
スコールはそう言い、顔を伏せた。
の胸の上の辺りで項垂れるスコールのつむじをまじまじと見ていただったが、
彼の言いたい事を理解した瞬間、両手を広げて彼の首に腕を回して彼を抱き込んだ。
「!!」
「スッコー、了解しました!」
絶対、失くさない。
はその意味を込めてスコールの髪に指を絡めた。
スコールは慌てた様子で顔を上げ、地に着いていた手に力を込めて上半身を起こす。
膝が地面に着いて安定した所で、空いている手をの腰にかけて彼女の身体も起こす。
座り込む形でになってもはスコールに抱きついたままで、スコールは困っていた。
「・・・、」
「スッコー、凄くドキドキしてる」
「・・・アンタは、どうしてそういう・・・、」
「スッコー」
首に回した腕の力を緩めて、は少しだけスコールから離れた。
そして近くにある彼の瞳を真っ直ぐに見詰める。
「約束、ね。 指輪、絶対何時か返すからね」
そう言って、ふわり、と微笑む。
そんな風に笑うに堪らなくなってスコールは額をの額とくっ付けた。
こつん、という感じにくっ付いた額。
間近にある、お互いの顔。
目元をほんのりと朱に染め、は少しだけ瞳を戸惑いがちに伏せる。
気付けば、どちらからともなく、唇を合わせていた―。
正に超展開(え)
少し早めに指輪を預けてみました、ちょっとした意味もあって。