酷い、自己嫌悪に陥っていた。
寮の自室のベッドに横になりながら何度も寝返りを打つ。
眠気なんて来る筈も無く、考えているだけで時が過ぎていく。
に誘われてコンサートに行き、其処で皆が自分を心配しているという話をした。
其の後色々と逸れて、お互いの話にもなったりした。
最後に、
(・・・何してんだ、俺)
したいと思ったからした。
―だなんて。ありがちな言い訳でしかない。
でも実際そうだったのだ、あの時は。
目の前に居た少女が、何だか酷く温かな存在に、そう、愛しく思えて、
気付けば、キスだ。
(最低だ、俺)
そう思いながら顔を手で覆う。
衝動的にキスをしてしまった後は、演奏が丁度途切れて拍手が辺りを包んだ。
お互いに瞳を丸くして、馬鹿みたいに頬を紅潮させて、微妙な距離を取った。
その後にがぎこちなく笑って「取り合えず、変えろっか」と言って二人でガーデンまで帰った。
を部屋まで送った後、彼女は「なんか、えっと、」と言葉を濁した後、頬をまた赤くして「今夜はありがとうね」と言った。
俺が「あぁ」と返すとは少し間を開けた後、「じゃあ、おやすみ」と言って部屋へ入って行った。
何をしてしまったんだ、俺は。
そう思いながら自室へ戻っても、正に夢幻ループだ。この事ばかり考えてしまう。
―その時、
『スコール委員長、スコール委員長! 至急ブリッジまで来て下さい』
(・・・委員長?)
何だ委員長って。
また面倒な事が起こりそうだ、と予感しつつ俺は気だるい身体を起こした。
「私って・・・・・・・最低かも」
否、かもじゃなくて、最低だ。
は自室のベッドで一人丸まっていた。
思い悩んでいるのはスコールと同じく、昨夜の事だ。
(私、昨日の夜スッコーと、スッコーと・・・スッコーと・・・!!)
キスをして、しまいました。
「うきゃああああああ軽く済ませられないから!!これ大きな問題だから!!!」
そう言いながらボスボスと枕を叩く。
如何してあんな事をしてしまったのだろうか。
コンサートの後もお互いに何時も通りを装ってみたけどやっぱりぎこちなかった。
は叩いたせいで少し変形した枕にボスッと顔を埋めた。
「・・・スッコー、」
スコールの事は好きだ。
当然、恋愛面で。
だからこそ彼とキスをしたという嬉しさはあるが、付き合ってもいない間柄なのに、と思うと複雑な気持ちだ。
これでもし、関係が崩れてしまったら・・・、と思うととても不安で仕方が無い。
でも自分は信用してもらっているからこそ、指輪を預けられた。
そこまで考えていたはハッとして「そうだ、指輪・・・」と言いポケットから出す。
何やら獣が刻まれた指輪。
は「カッコイイ、」と呟きつつそれをチェーンに通して首から提げる事にした。
こうすれば失くす事も無いだろうし、何より身に着けている分大事に出来る。
スコールがこの指輪を返して欲しいと言わなかったという事は未だ傍に居て良いという事だ。
は自分にそう言い聞かせ、立ち上がった。
―其の時、
『こちらはブリッジです。間もなくガーデンは移動再開します。
総員衝撃に備えてください。それから、スコール委員長の挨拶があります』
という放送がかかった。
そういえばさっきスコールが委員長と呼ばれながら呼び出しを受けていたな、と思っていると続いて彼の声が響いた。
『挨拶なんて・・・俺はいいよ。 ・・・マイク、切れよ!』
少々慌てた様なスコールの声とほぼ同時にブツッ、という音と共に放送が途切れた。
突然の事にはぽかんとしていたが、直ぐに噴出し、笑い出した。
「何今の!やばいでしょ!」
ブリッジで行われていた事が安易に予想が出来る。
恐らくニーダとスコールの面白いやりとりがブリッジでは見れていただろう。
バスバス、とまた枕を叩きながら笑う。
一通り気が済むまで笑った後、は移動している様子のガーデンを思い出す。
「そっか、もう動いてるんだ」
微妙な振動を感じながら、は伸びをした後、部屋を出る事にした。
食堂に行けばゼル。図書室に行けばリノアが居たが他の皆は何処かで休んでいるのかすれ違いになっているのか、会わなかった。
ブリッジへは、好きに行って良いんだっけ?と思い取り合えずはエレベーターに近付く。
ボタンを押して少し待つと、エレベーターは来た。
それに乗って上の階のボタンを押して三階までの到着を待っていると、何故かエレベーターは二階で止まった。
誰か乗ってくるのか、と思って顔を上げてみると、
「あ・・・スッコー、」
「・・・・・・」
お互い無言で、三階まで辿り着く。
は丁度良い機会でもあるので気まずさを振り払う様に明るめの声で「ね、スッコー」と彼に声をかけた。
「何だ」
「ブリッジって、行って良いもの?」
「・・・見たいのか?」
「あ、うん」
本当はなんとなくなんだけど、と思ったがあえて言わないで置いた。
そんなにスコールは「別に構わない」と言い三階に着いて開くエレベーターから出る。
スコールの後を着いていくと、もう一つのエレベーターを使ってブリッジへ辿り着いた。
綺麗に広がる景色に目を奪われていると、スコールは操縦桿を弄っているニーダの横に立つシュウに近付いた。
そして何事かをシュウに言うと彼女は笑って口を開いた。
「あら、スコール。ちょっと驚きよね。あのスペードが負けるなんて・・・。
クスッ、でも嬉しいかな。最近、私と勝負してくれる人がいなかったのよ。
いいえ、勝負出来る人がね。
改めて自己紹介するわ。私はシュウ。もう一つの名はCC団カードクイーン『ハート』。
さぁ、準備が出来たら来なさい。勝負しましょうか?」
「当然だ」
スコールはそう言うと懐からカードを取り出した。
シュウも常備していたのか何処からかカードを取り出す。
え、何、この展開。
は目を瞬かせて後ろに立っているキスティスを見やる。
キスティスはくすりと笑みを零した後、説明してくれた。
「スコール、CC団に勝負挑んでるみたいなのよ」
「すみません、CC団ってあのカードのCC団ですか?」
CC団とはカードゲームの強者の集まりである。
カードマスターの称号を持つCC団の長、CC団首領の『キング』
四天王と呼ばれるカードナイト『クラブ』
カードプリンス『スピード』
カードプリンセス『ダイヤ』
カードクイーン『ハート』
そしてカードマジシャン『ジョーカー』
カードゲームが強い者が集まるこのCC団。
だが、正体は誰も知らないという。
噂ではも聞いた事があったが、まさかスコールが挑んでいるとは思いもしなかった。
っていうか何してるんだ。
「・・・えっと、シュウ先輩がCC団の四天王の『ハート』だったんですね」
「俺も今知ったよ・・・」
がポツリと漏らすとガーデンを操縦しているニーダが反応を返した。
そんな二人にシュウが「二人共、内緒だぞ」と言って来る。
その声に反応して其方を見ると、勝負はついた様だった。
スコールの勝ちで。
「私が負けたのはあなたで二人目だわ。
勿論、もう一人はカードマスターの称号を持つCC団首領『キング』。
CC団四天王をすべて破ったあなたの前に必ず姿を現すはずよ。
まぁ意外と気紛れな人だから自分で捜すのもいいかもね。
あっ、後ね、これからは気軽にカード勝負をしましょうね」
シュウはそう言い、スコールと固く握手をした。
何か友情が芽生え始めたらしい・・・!凄い意味で!
兎に角、とは思いながらスコールに近付く。
「スッコー!凄いじゃん、おめでと!」
何時もと変わらないの態度にスコールは瞳を少し丸くしたが、何時も通りのの反応と同じように彼も何時も通りの反応を返した。
「・・・あぁ」
「四天王全て破ったって事は・・・残るはキング?」
「そうなるな。・・・まさかアンタじゃないだろうな?」
「まさかまさかまさか!!!ほら、私転校してきたばっか!」
「なになに?はカード強いの?」
キスティスが興味深げに聞いてくる。
はぶんぶんと首を振ったがスコールは頷きを返した。
ちょっと、と言うの言葉を遮りスコールが口を開く。
「でもレアは出さないんだ」
「やだよ絶対スッコー狙ってるもん」
だってこの人カードキャプターですから!!
がそう言うとスコールは鼻を鳴らしてエレベーターに乗った。
そんな彼に続きもエレベーターに乗って下へと降りる。
スコールとの関係をハッキリさせたかったからだ。
今はどっちにしたって、関係が崩れるのは避けたかった。
ぎこちないままでは、どうにも落ち着かない。
二人になった所で、がスコールを真正面から見上げる。
彼女は一度大きく深呼吸をした後、口を開いた。
「・・・あのね、昨日の事色々考えたの」
「・・・俺もだ」
スコールがそう返すと、また沈黙が降りた。
そんな中、は勇気を振り絞って口を開く。
「・・・・・・今は保留、って事にしない?」
「・・・保留?」
は頷いて、一階へ降りる為のエレベーターのボタンを押した。
そんな彼女の背を見ながらスコールは頷いた。
「色々、考え込んじゃってる時にこんな事でチームワーク乱しても、ほら、あれだしね!」
努めて明るく言う。
そんな彼女にスコールは何かを感じたが、今は触れるべきではないと思い頷いた。
「・・・分かった、保留にする」
「・・・うん、ありがとう」
(・・・良いんだ、保留で。 ・・・良いんだ、)
「・・・・・・ね、スッコー」
は振り返らずに彼を呼んだ。
スコールが「何だ」と言うと、はやっと振り返る。
その弾みで、首から提げられた指輪が揺れる。
スコールがそれに気付き其れに視線を向けていると、はニッコリと何時もの笑みを浮かべた。
「これ、絶対失くさないからね!!」
「・・・あぁ」
「自分の身も、大事にするからね!」
「・・・あぁ」
「だから、スッコーも自分の身を大事にしてね?」
じゃないと指輪壊してやる。
はそう言って拳をスコールの胸元にコツンと当てた。
そうやって、昨日の余韻が残っているのか照れくさそうにはにかむ彼女。
そんな彼女を見ていると、内側から熱い何かが溢れ出て来る事に、気付き初めてきた、けど、
(・・・俺は・・・・・・、)
相反する感情は、どう整理すれば良い?
(誰か、教えてくれるなら教えてくれ)
そう思いながら、スコールはに頷きを返した。
表面上は普通、でも内心お互いぎこちないんだよ。