「・・・・・・今は保留、って事にしない?」


気付けば、そんな事を言っていた。


「色々、考え込んじゃってる時にこんな事でチームワーク乱しても、ほら、あれだしね!」


つらつらと言い訳染みた言葉を述べていく。
自分でも分かってる、これは一番ずるい方法だ、って。

スコールが好き。大好き。

だからこそ、彼に拒まれるのが怖い。

保留にしておけば、何時か振り向いてくれるかもしれない。

まだ、拒まれずに済むかもしれない。

そんな事ばかり考える、自分。


・・・汚い、


胸の内で渦巻いている感情に、は自己嫌悪した。














































スコールとエレベーター内で話をした後、は訓練施設内に居た。

其の後も、ずっとだ。
シャワーと睡眠の為に自室へ戻ったりもしたが、一日の大半は訓練施設で過ごしていた。
スコールとエレベーター内で話してから三日後、はやはり訓練施設に来ていた。
昼を食べたり、リノアとお喋りしたり、スコールに挨拶をしたりしても、最終的には此処に来ていた。

双剣を抜き身の状態にして、施設内を歩いている。
出てくるグラッドやらの魔物を難無く倒し、ついでに魔法もドローしてストックをする。

そんな事をしながらも、は心此処にあらずという様子だった。


卑怯だな、私


結局は自己防衛なのだ。
スコールの気持ちを聞くのが怖くて、

そう思うと知らずの内に溜め息が出てくる。
はぁ、と大きく息を吐いたとほぼ同時に、訓練施設の床がズン、と大きく揺れた。
これは、と思いは双剣を構え、辺りを窺う。

少しだけ離れた場所に、大きな赤い鱗を持つ巨体が見えた。

あちゃー、と小さく零し、は双剣を再度構えた。


「アルケオダイノスに会っちゃうって・・・、今日はついてないかも」


そう言い、此方に気付き牙を剥いてくるアルケオダイノスに走り出した―。

まず剣で足元を切りつけて、氷の魔法・ブリザラを放つ。
それに怯んだ様子を見せたアルケオダイノスだが、尻尾を振り回してきた。
はそれを腕を交差させて防御し、後ろへ飛んだ。

ずざ、と床の上を滑った後に直ぐに魔法を放つ。
G.F.を呼ぶには時間がかかるし、隙も生じる。
今は一人なのでそれは出来なかった。


・・・一人、


それを再確認すると、何だか胸が痛んだ気がした。
ツキン、と痛むそれには自嘲気味た笑みを浮かべる。


・・・私って、弱い存在だったんだよね、


何時も皆が居るから、忘れてた。

そう思い、は突進してくるアルケオダイノスにブリザラを放った。
足元を凍らせ、暴れるアルケオダイノスの前に立っているは、そのまま意識を集中させる。

一人で居る状態で、G.F.を呼ぶ為にはこうするしかない。

そう思い双剣をクロスさせ、意識の集中を高める。
足元に淡い光が舞いだした時、アルケオダイノスを拘束していた氷が砕け散った。





砕けた氷の破片が吹き飛んできて、に軽い傷を付ける。
アルケオダイノスが尻尾をまた振り回した。
このままでは直撃だ、と分かっていながらもは、


「っつ――!! シヴァ!!」


氷のG.F.・シヴァを召還した。

直後、の腹部にアルケオダイノスの尻尾は直撃し、彼女は思い切り吹き飛んで訓練施設の壁に叩きつけられた。
魔力を最大限に高めて召還したシヴァの放ったダイヤモンドダストはアルケオダイノスを一瞬にして凍らせ、その身を砕いた。
役目を終え、光になって舞い戻るシヴァ。
その輝きをぼんやりと見ながらは大きく息を吐いた。

直後、酷い痛みが腹部を襲う。


「うぁっ・・・!」


思わず腹部を押さえて、その場に蹲る。
ケアルを、と思いながらも意識が集中できず、魔法を放つ事が出来ない。

このような時、自分は一人なのだと再確認される。

普段は誰かと一緒に居ても、こんな時は一人ぼっち。

苦しんでる時、誰も傍に居て欲しくない。

でも、理屈はそうでも本当は、誰かを求めている。

傍に居て欲しい、声をかけて欲しい、手を握って欲しい、

でも、


・・・普段と、今。 こんなに苦しい・・・、


何だか、夢から現実に引き戻された気分だった。


もう、一人は嫌だ。


そう思いは意識を手放した―。






















































目が覚めたら、真っ白な天井が目に入った。

パチパチと瞬きを繰り返し、「あれ?」と声を上げて身を起こそうとする。
と、腹部に鈍い痛みが走って思わず顔を顰める。


「・・・痛、」

「当たり前だよ、アルケオダイノスの一撃を喰らったんだからね」


が起きた事に気付いたのか、室内へとカドワキ先生が入ってくる。
此処は保健室の病人用個室部屋か、とは理解し「せんせ、」と擦れた声を出す。
そんなに、真横から水の入ったコップが差し出された。
「ありがとう、」と言いはそれを受け取り何気無しに飲んで喉を潤してから気付く。

誰、真横に居たの!?

そう思い其方をバッと見ると、顰めっ面のスコールと目がばっちり合った。


「・・・あ、スッコー・・・?」


どうして此処に?と、が思っているとカドワキ先生が口を開いた。


「スコールはアンタが怪我したって連絡を受けて来てくれたんだよ」

「スッコーが? あ、心配かけちゃった?」


ごめんね、と言いスコールを見ると、彼は眉を潜めて口を開いた。
「訓練は程々にしろ」とスコールに言われてしまいは苦笑しながら頭を掻く。
其処で自分の髪が下ろされている事に気付き、ハッとする。


―ヘアピン!


そう思い「ヘアピンは!?」と思わず焦った声色でスコールに問う。
突然のの言動にスコールは少し瞳を丸くし、驚いた様子を見せたが直ぐにサイドデスクの上にあるヘアピンを取り、に見せた。


「此処にある」

「・・・よ、かったー・・・」


傷一つ無いヘアピンに、は安堵の息を大きく吐いて脱力する。
そんなにスコールが小首を傾げていると、彼女は嬉しそうに笑いながら顔を上げた。


「スッコーからのプレゼントだもん。絶対壊したくないんだ」


無事で良かったー!

そう言いながらは微笑んだ。

そんなにスコールは瞳を細め、彼女の手首を掴んだ。
それには瞳を丸くし、「スッコー?」と言い彼を見上げる。

細い、手首。

力を入れたら簡単に折れてしまいそうな其れに、スコールは眉を顰めつつ言う。


「・・・そんな物、別に今は良いだろ?」

「そんな物、って・・・!だってこれはスッコーがくれた・・・、」

「代わりは幾らでもある」


スコールはの言葉を遮り、口早にそう言った後に「だが、」と続けた。

そして、彼女に負担が掛からないように強く、でも優しく、抱き締めた。

ポスン、と音を立ててスコールの服に頬が埋まる。

背に回された腕が、酷く熱い気がする。

はそう思いながら、瞳を大きく見開いて「ス、ッコ?」と混乱して言う。


「アンタの代わりは、居ないんだ」


耳元でそう囁かれ、は身体中の力が抜けた感じがした。
感じ、というか、実際抜けたのだが。

突然力の抜けたにスコールは気付かず、彼女を抱き締める。


「アンタは俺の傍に居ろ、」

「スッコー・・・?」


不安げに震える彼の腕に気付き、はスコールの肩に手を置いて少し身体を離す。
スコールの瞳は不安げに揺れていて、酷く不安定だった。

は手を上げ、彼の頭を優しく撫でながら「ごめんね、」と言った。


「やっぱ心配かけちゃってるね、私」

「・・・全くだ。アルケオダイノスに遭遇したのなら隙を見て逃げろ。一人で敵う相手じゃない」

「はい、ごめんなさい」


が微笑んでそう言うと、スコールは彼女の後ろに回したままの手をまた引こうとした。
それにが気付き、「あ、っちょ!」と声を上げる。

それを傷が痛むと勘違いしたのか、スコールが「すまない、」と謝る。
は首を振り、「違うの、痛む訳じゃないの、」と言う。

唯、疑問なのは、


「どうして直ぐに引っ付きたがるの、スッコーは」

「・・・分からない、アンタとこうしていると安心、する気がする」

「・・・子供持った気分だよ、」


はそう言い抱き締めてくるスコールの背をぽんぽん、と軽く叩く。
それにスコールは幼い子供が甘えるようにの肩口に顔を埋めた。


「・・・自分の身を大事にしろ」

「う゛、ハイ・・・」


この前会った時に自分が言った事を其の侭返されてはギクリと身体を強張らせた。
そんなにスコールは続ける、


「過去形に、なるな」

「・・・うん、」

「居なくなるな、」

「・・・うん」

「俺の、傍に居てくれ、」

「うん、」


きゅ、と。彼の背に腕を回して彼を抱き締める様にする。
身近に居る仲間を失う事を恐れている大きな子供を、安心させる為に。

はそうしながら、自分の心の内も温まっている事に気付く。

好きな人にこう言われて、喜ばない人は居ない。

抱き締めて貰って、心配して貰って、凄く嬉しい、

でも、


「スッコー、大丈夫だから」


そう言って、微笑む。
肩口に顔を埋めた彼は、微かにだが頷いてくれた。

嬉しいはずなのに、心が痛むのは如何してなのだろうか?




友愛なのか恋情なのか、そこについて新たに悩みだす。
でも聞けない、拒まれるのが怖いからぐだぐだぐだぐだ。