「ねぇサイファー。実地試験ほんとに今日なんだってねー」
教室で通り道を挟んで隣の席に居るサイファーには視線を向けてそう言った。
前々から一週間後辺り、とは言われていたがあくまで辺り、だった。
実地試験が今日という噂が耳に入ったのでは「へぇ」と思いながら彼に言った。
そんなを横目で見ながらサイファーは口の端を吊り上げて「ハッ」と鼻で笑った。
「お前、課題未だ受けて無いんだろ?実地試験行けねぇぞ」
「今日行くの! ったくー。昨日アンタが邪魔したから行けなかったんだからね!」
「アイツなんか放って置いて一人で行けば良かったじゃねぇかよ」
「それはダメ」
面倒そうに言って来るサイファーにはビシッと指を指しながら迷い無く言った。
「初めてのスッコーからのお誘いだもん!珍しい!物凄い事だよ!?
其れなのにスッコーの初めてのお誘い蹴って一人で課題受けにいっちゃうなんて・・・!・・・どんだけ薄情なのさアンタ!!」
「否、俺じゃ無ェし」
至って真面目な顔で言ってくるに呆れの色の目を向けてサイファーは呟いた。
変な事を言ってくるに呆れつつも、サイファーは本当にスコールがを誘った事に驚いていた。
サイファーは二人が結構良い感じなんじゃないかと思っていた。
誰も寄せ付けなかったスコールが、唯一気を許している存在。
だって、何処かスコールに縋っている様にも見える。
そんな二人だが、何時もお互いに一歩踏み出していないのをサイファーはじれったく思っていたのだ。
(これで少しは発展するか?)
最近珍しい事が起きなくてつまらなかったから丁度良い。
サイファーはそう思いながらを見返した。
―丁度其の時、教室内が一気に騒がしくなった。
担任のキスティスが来たからだ。
金の美しい髪を靡かせて教卓に立つキスティスに、皆席へと着く。
キスティスは「おはよう、皆。先ず今日の予定からね」と言い教師用の椅子へと腰を降ろした。
あ、先生来た。と思っていたの真横に誰かが座る気配。
其方を見てみると頭に包帯を巻いたスコールが居た。
「あ、スッコー。オハヨー」
「・・・・・・あぁ」
「デコ大丈夫?」
「・・・・・・あぁ」
(・・・・・・あぁオンリーですかい)
はそう思いながら今日の予定だったっけ。と思いなおして前を向いた。
「昨日から噂になってるみたいだけど・・・、SeeD選考の実地試験が夕方からスタートします」
キスティスがそう言うと前に座っている女子が「やっぱり!」と小声で雑談を始めた。
そんな彼女達を見ながらはキスティスの話を聞いていた。
「試験に参加しない人、先週の筆記試験で失敗しちゃった人は此処で自習。
試験に参加する人は夕方まで自由行動。何時もの試験以上に念入りに準備しておく事。
16時、ホールに集合。各班のメンバーを発表します。 OK?」
キスティスが確認する様に生徒に視線を向けるとほとんどの生徒が頷いたり何なりして反応を返した。
そんな生徒達の反応に満足した様に笑みを浮かべていたが直ぐに視線を鋭くして「それからサイファー!」と言った。
キスティスの言葉に釣られて思わず横目でサイファーを見る。
「練習の時は相手に怪我をさせない様に。以後気をつけなさい」
キスティスがそう言うとサイファーはチラリ、と越しにスコールを見た後机に拳を落とした。
ダン!という音が響くがキスティスは大して気にした様子も無く続ける。
子供かよアンタ。とサイファーに思いながらもキスティスに度胸のある先生だなー。ともは思いつつ彼女を見ていた。
「それじゃ、試験参加者とは後で会いましょう」
キスティスがそう言うと周りの生徒は席を立って教室の外へ出て行く。
―・・・残って項垂れている生徒も居るが。
は真っ先に出て行ったサイファーの後姿を見ながら心の中で「ばーかばーか」と悪態を吐いていたが凛とした声で名前を呼ばれて身体を硬くした。
「それからスコール、。話があるから此処へ来てちょうだい」
ゲッ、私もですかい?私は怒られる様な事してないよ?
とは思ったが呼ばれた理由が何となく理解出来たので「はーい」と軽く返事をしておいた。
恐らく課題の事だろうと思いは席を立って前へと歩いた。
後ろからはスコールが無言で着いてきている。
キスティスの傍まで行くと、彼女の周りには生徒が居たが達が来ると邪魔にならない様に退いて行った。
「先生何ですかー?」
「貴方達、未だ炎の洞窟に行ってないわね?あの課題をクリアしないと今日のSeeD試験には参加出来ないわよ?」
「分かってますよー」
はそう言い唇を尖らせた。
行こうとしていたのにサイファーが邪魔したから行けなかったんだよねー。
恐らくスコールも同じような事を考えているだろうとは思い黙っているスコールを見上げた。
に習ってキスティスもスコールを見て「何か正当な理由があるの?」と問うた。
「・・・・・・別に」
「それじゃあこれから一緒に行くわよ。自信が無かったら学習用パネルで復習してからでもOKよ。
私は正門で待ってるから準備が出来たら来なさい」
「了解です!」
がそう返すとキスティスはに笑みを向けてから教室を出て行った。
は自分にジャンクションしたG.F.を確認した後魔法ストックも確認した。
其の後にスコールを見上げた。
「スッコー、G.F.とかちゃんとジャンクションしてる?」
「・・・あぁ。 行くぞ」
「はいはーい」
口早にそう言い教室を出るスコールの後に続いて出ると、廊下でドタドタと走る音が聞こえた。
廊下は走っちゃいけないんだったよね、確か。とが思っていると高い声が聞こえてきた。
「ち・こ・く〜〜〜!」
遅刻?とが思っていたら曲がり角から女の子が走って来た。
「あ」と短く声を上げてスコールに「ぶつかるよ」と忠告しようとしたが時既に遅し。
思い切りスコールと女の子は激突した。
しかも女の子は短い悲鳴を上げて尻餅をついてしまった。
は、あーあ。と思いながら女の子に近付いて「大丈夫?」と声をかけた。
すると女の子は「しょっと、」と声を上げて立ち上がって人懐っこそうな笑みを向けてきた。
可愛い子だなー。とは思いながら目の前の女の子を見ていた。
大きな瞳に外はねの茶の髪。
「テヘッ」と言い舌をぺろりと出す仕草はとても可愛らしかった。
「大丈夫だよ。 ごめんねぇー急いでたから・・・・・・あっ! ねぇねぇもしかして其処のクラスの人?」
急に焦りだした少女に瞳を丸くしながらもとスコールは頷きを一つ返した。
すると少女はガックリと肩を降ろして「ガーン!しょっくー・・・ううう、」と声を上げた。
「だって此処って前居たガーデンより広いんだもん・・・」
そうポツリと呟いた女の子にが、お、と反応する。
前に聞いた事あるな。SeeD試験の為にトラビアからもう一人編入生が来るって・・・。
きっと、この子だ。
はそう思い彼女を見詰めていた。
彼女は落ち込んでいた表情をコロリとまた人懐っこそうな笑みに変えて「あっ!ねぇねぇ!」と声をかけて来た。
「私、さっき此処に転向して来たばっかりなの。よかったら此処のガーデン案内して?」
「うん、もちろ「そんな暇は無い」―――オイコラスッコー君」
人の言葉を遮るモンじゃありませんぜ?しかも何断ってるのアンタ!
はその様な意味を込めてじろりとスコールを見上げた。
するとスコールは「課題はどうする」と言って来た。
「・・・確かにさ、先生待たせてるのは悪いケド。転校初日なんだよーこの子・・・。
やっぱさ、心細いじゃん、周り知らない人ばっかで・・・・・・さ?」
がそう言いスコールに「お願い、時間かけないから!ほら案内板で案内すればいいじゃん?」と付け足してお願いをして来た。
そんなを見、スコールは(アンタも初日は心細かったのか?)と思い返してみていた。
確かに、編入生の紹介でも、今の様な元気も無かった気がする。
あれは不安を感じていたのか?
スコールはそう思いながら、ゆっくりと息を吐いた。
「・・・・・・仕方ない」
「スッコー!」
スコールの一言にパァ!と瞳を輝かせたに彼は「アンタが全部案内しろよ」と言った。
は彼の言葉を気にした様子も無くニコニコと笑っていた。
「ラジャーラジャー! じゃ、行こう?
悪いけど私達も用事があるから行き先案内板っていうのでの簡単な説明になっちゃうケド・・・」
「ううん〜全然構わないよ!」
少々申し訳無さそうに言ってくるに女の子は笑みを返してそう言いスコールを見た。
「君もゴメンね〜?用事あったんでしょ?」
「・・・構わない」
「もしかしてデートの予定でもあった?」
「否、課題を受けに行く所だっただけだ」
スコールは女の子に素っ気無くそう返すとエレベーターのスイッチを押した。
彼の後ろではが女の子を見て「通ったと思うけど、1Fのホールにあるからね、案内板」と言っていた。
エレベーターに乗って1Fに降りた後、三人は案内板の前へ来た。
が案内板を見ながら女の子に説明を始める。
「これが案内板ね。じゃ、施設の説明しよっか」
「はーい先生」
案内板の前へ来ては先ず北を指す。
女の子はの指を視線で追って見ている。
「北にあるのが学生寮ね。皆寮なんだって、外から来る人も居るらしいけどほんっと少ししか居ないってスッコーが言ってたー」
「あっ、あたしも寮借りたよー」
「うん、多分私と同室だよ。私もガルバディアガーデンから編入して来たばっかだから相部屋の相手居ないから」
「そうなんだー!よろしくね! ええと・・・、」
そういえばお互いに自己紹介して無い。
は其れに気付き女の子を見て笑みを浮かべて自己紹介をした。
「私は。 ・よ、よろしくね」
「よろしく!私はセルフィ・ティルミット!」
「・・・・・・案内をしろ」
二人でニコニコしていたら後ろで待っているスコールにそう言われてしまった。
余り怒った様子の声ではなかったが少々苛ついている様だった。
はこれは早くした方が良さそう、と思い案内板に視線を戻した。
「怒られちったからお話はまた今度ね。
北ブロックの西にあるのが学生食堂。此処ねーパフェとかデザート系が凄く美味しいんだよ!」
「わー楽しみ!」
「あ、それとパンが大人気だったよ、確か。
競争が激しいから確実にゲットする為には早く来て並ぶしかないよね」
「はーい」
「北ブロックの東は駐車場。ミッション指令が出された時は此処から車に乗って行く事が多いみたい。
で、南は正門だけかなー。 で、西ブロックは校庭があるよ」
「あっ、学園祭やるんだよねー!其処!」
「良く知ってるねー」
「私実行委員になるつもりなんだー!良かったら一緒にやろうよ?」
「考えておくね。 んで、次は西の南。此処は保健室!怪我したり体調が悪い時にはお世話になる場所ね。
・・・誰かさんは昨日お世話になってたけどー」
此処は会話を切ってはチラリとスコールを盗み見た。
ちょっと不機嫌だ。そう思いは案内板へと視線を戻した。
其の時に丁度セルフィが質問をする。
「保健の先生の名前はー?」
「カドワキ先生。 次は東ブロック!此処は訓練施設があるんだよね、夜間で使用出来る施設は此処だけね。
訓練は訓練なんだけど、中は本物の魔物が居るし凶暴なのも居るからね・・・・・・下手したら大怪我じゃ済まないかもしれないから気をつけてね?」
「うっ・・・気をつける・・・」
「私は訓練好きだから結構其処に居るから見かけたら声かけてね?
東の南は図書室があるよ。まぁ・・・あれよ・・・。本がいっぱいあるよ?」
「そりゃー図書室だからねー」
「うん。 資料もいっぱいあるよ?勉強の時はお世話になる場所。小説とかもあるから時間つぶしにも丁度いいんだよねー。
資料といえば。教室の学習用パネルにも沢山載ってるからね?」
「うん。あっ、教室の場所はもうOKだよ!2Fでしょ?」
「オッケーオッケー。 んで3Fは学園長室ね、シド学園長が居るの。
許可が下りないと行っちゃいけない場所だから間違えて行かないよーに!」
「はーい!」
「こんなもんかな?」
はそう言い長く言葉を続けて少し疲れたのか息を吐く。
其れにセルフィが頷きを返して「ありがとうね」と言う。
「ガルバディアガーデンから来たって事は、SeeD試験受けるんだよね? お互い頑張ろうね!」
「うん!」
はセルフィにそう返すと手を振ってスコールの横へと戻って行った。
「お待たせ」と言うと少々不機嫌な声色で「遅い」と言われた。
其れにはスコールを見上げて「ごめんなさいねー!」と半ば自棄調子で返した。
「まぁ昨日誰かさんがサイファーの訓練受けちゃうから今日っていう遅い日になったんだけどねー」
「・・・・・・悪かったな」
「別に良いんだけどね。 ほら、先生見えた。行こ?」
そう言い歩を進めるの後ろ姿を見てスコールはほうっと息を吐いた。
そして今更だが制服では無いを見て小首を傾げた。
は振り返った瞬間そんなスコールと目が合って彼女も小首を傾げたが自分の服にスコールの目線が行っているのに気付き「ああ、」と声を上げた。
「炎の洞窟行くんだもん、制服で行ったら汚れるって」
SeeD試験は制服着用だからねー。とは続けて青いワンピースの裾を掴んだ。
袖は肘辺りまでの七部で下も膝くらいの七部のズボンを履いていて、動きやすそうな服装だった。
スコールがじっと見ている事に照れを感じたのか、がふい、と前を向いて「・・・行くよスッコー!」と少々強めの声でそう言った。
さっさと炎の洞窟へ行け(爆)