「何か用か!? 司令官殿なら、今は誰も通すなとの命令だ!」


バラムホテルの前に立っているガルバディア兵に声をかけるとすかさずそう返された。
が「エルオーネ情報を持ってきたんですけどー?」と言うと二人のガルバディア兵は「えっ、」と、声を上げた。
「・・・何?エルオーネ情報?」と、言った後に彼らはひそひそと会話をする。


「(
どうしよう・・・、またガセネタかな?)」

「(
さすがに今度、確認しないで通したら給料減らされるよな・・・)」

「(
うちの軍って上司の気分で、給料減らされちゃうから参るよな〜)」

「(
部下は上司を選べないってのが身につまされるよなぁ〜)」


ひそひそと会話をするガルバディア兵二人に焦れたゼルが「おーい!」と声を上げる。


「こっちは凄い情報、持ってんだぞ!司令官に会わせろよ!」

「(
何か・・・こいつら怪しいよな)」

「(
おうおう! 絶対、怪しい)」


ガルバディア兵二人はゼルの言葉に四人をぐるりと見渡した後、ひそひそとまた会話をした。
それが終わった後、二人して前を向き、口を開いた。


「指揮官殿に、指示を仰げ! 指揮官殿なら今はパトロール中だ!」

「指揮官殿なら、賞金の相談にものってくださる。指揮官殿なら、司令官様とも渡りあえる。
 全責任も取ってくださる・・・。 指揮官殿に相談してみろ!」


つまりは責任逃れってやつね。

はそう思いながら肩を竦め、「じゃ、その指揮官殿を探しましょっか」と、三人に言う。

取り敢えずはバラムの奥にある港に向かいながら、が口を開く。


「・・・多分さ、指揮官って・・・、」

「・・・・・・多分な」


ちらり、と横を歩くスコールを見上げて言うと彼は小さくそう返してきた。

多分、というより確実にそうだろう。
は苦戦の予感を感じながら、大きく息を吐いた。


―港へ着いても指揮官の姿は無かった。
其処に居たガルバディア兵に指揮官の事を聞いても、


「ああ、指揮官殿ならさっきまで此処で釣りをしてたぜ。
 数匹釣り上げて大はしゃぎだったな。 早速食うって言ってたぜ」


という言葉しか返ってこなかった。
先ほどまで此処で釣りをしていたらしいがもう何処かへ行った後らしい。
取り敢えず、釣った魚を食べると言っていたのなら・・・、


「・・・どっかの台所とか借りてそうだよね?」

「ええ、そうね。ホテルには帰れないでしょうし」


の言葉に同意の言葉を返し、キスティスは頬に手を当てて考える。
そして、「取り敢えず、住宅街に行きましょうか」と言うキスティスに皆同意し、住宅街へと向かった。

ちなみに、ホテルに帰れないという予想はパトロールをサボっていたのが司令官にばれるからだ。

そんな事を考えながら住宅街に行くと、ゼルの家から煙が出ていた。
それにゼルが驚き、そして同時に鼻に付いた匂いに「うおっ!?」と声を上げる。
取り敢えずまたゼルの家に入ってみると、中ではゼルのお母さんが換気をしていた。


「あら、ゼル。さっき、台所を貸してくれってガルバディアの偉い人が来て・・・」

「ガルバディアのお偉いさんがウチに何の用だったんだよ?」

「魚を焼いていったみたい。・・・お陰で部屋中が変な臭いでいっぱいだわ。
 こんな臭いを出す魚なんてろくな魚じゃないと思うけれど・・・あの人、本当に食べる気かしら?
 あの人は部下と一緒に食べるって言ってたの。何事も起きなければいいけど・・・・・・、」


この異臭は魚か。と、思いながらは「あ、」と声を上げる。


「"バラムフィッシュ"、じゃなくて"バッダムフィッシュ"だったんじゃないですか?魚って、」

「あら、よくバラムの魚について知ってるわね」

「私、魚料理好きなんで。  ・・・もし"バッダムフィッシュ"だったならそりゃあお腹壊すと思うけど・・・。
 だって食用じゃないんだよ?異臭が凄いんだよ?食べられたもんじゃないよ?


ゼルのお母さんに言った後、スコール達に向き直ってそう言う。
キスティスは額を手で押さえ、「何だか頭が痛くなる臭いね・・・」と呟いた。
彼女の言葉に頷きながら、スコールは放置されていた"バッダムフィッシュ"の残り物を手に取った。


「スッコー? それどうするの?」

「・・・港に犬が居た。それに嗅がせれば勝手に指揮官の所に案内してくれるだろう」

「・・・犬、居た?」

「(
何だ、目を輝かせて・・・、)・・・居た」


スコールの言った"犬"に反応したがじっとスコールを見上げながら言う。
それに少したじろぎながらスコールは頷く。

そういえば、ペット通信とか読んでたな、コイツ。

リノアが飼っているらしい犬の話もよく聞いているようだし、犬好きなのかもしれない。

そう思いながらスコールは家のドアを開けた。


―再び港へ行くと、確かに犬が居た。
探索犬だろう。は直ぐに駆け寄っていき、犬の前にしゃがみ込んだ。
がそっと手を差し出すと犬はじっとを見詰め、彼女の匂いを嗅いだ後に手に擦り寄ってきた。
それに(あれ?)と、思いながら撫でてやる。


訓練された犬なら、こう簡単に人にはくっ付かないんじゃあ・・・?


そう思いながらはスコールから受け取った"バッダムフィッシュ"の残骸を嗅がせる。
臭くてごめんね、と内心謝りながらそうしていると、犬はすぐさま動き出し、ワン!とひと吼えすると走り出した。
それを直ぐに達は追いかける。後ろからガルバディア兵が何かを言う声が聞こえたが、無視だ。

何処に行くのだろう?と、思っているとホテルを横切り、真っ直ぐに駅の方へと向かった。
そして、停まっている電車の入り口でまたひと吼えした後、素早く車内へと入っていった。
その際、入り口で何故か倒れているガルバディア兵数名を踏みつけて。
追った方が良いのだろうか、と、思っていると、ワン!!という吼える声と共に誰かが後ろの入り口から飛び出してきた。
逃げるように走り去る彼の後を、犬が吼えながら追いかけている。彼が指揮官の様だが―、


「ビンコじゃん、雷神!!」


やっぱりそうだった!
はそう思いながら逃げて行く指揮官・雷神を追いかけた。

ホテルに戻っただろう、と踏んでバラムホテルに行くとドアが全開に開かれていた。
前に立っていた兵士二人も慌てた様子で立っていた。
達に気付くと彼らは「あ、君達!」と声をかけてきた。


「今、危険だから近寄らない方がいいぞ!」

「今、ちょうど、司令官殿が戻ってきた指揮官殿を・・・、
うぉお!!


ガルバディア兵がそう言いかけた瞬間、ドゴッ!!という音と共に巨体がホテルの中から勢い良く飛び出してきた。
それはやはり雷神で、尻餅をついたかれは「イテテテ、」と言いながら腰を摩る。


「ふ、風神。ヒステリーは良くないんだもんよ・・・。
 ちゃんとパトロールしてたもんよ・・・、サボってた探索犬を叩き起こしてきたもんよ!」


つらつらとホテルの中に向かって言い訳を述べる雷神だが、そのドアは無常にもバタン!と勢い良く閉められてしまった。
それに雷神は焦った様子を見せ、両脇に居る二人のガルバディア兵に、


「お前達も俺を助けるもんよ!一緒に風神を宥めるもんよ!」


と、言い二人を巻き込もうとした。
そんな相変わらずの様子の雷神には溜め息を吐きながら、前へ出る。


「風神を簡単に宥められる訳無いじゃん雷神」


そう声をかけると雷神は勢い良く振り返って、「うおおおお!?」と声を上げた。
そんな彼をゼルが「雷神ッ!」と呼ぶと雷神は「お、お前達!」と言う。


「何でここにいるもんよ!?」

バラムを解放しに来たもんよ!
 ・・・・・・じゃねぇ!移っちまった・・・、 バラムを解放しに来たぜ!」


つい雷神口調でそう返してしまったゼルだが、直ぐに言いなおした。
そんなゼルにキスティスとは思わず笑みを零すが、雷神は違った。


「サイファー、『スコール達が来たら、軽〜く捻ってやれ!』って言ってたかんな!
 ほら、お前達も俺を助けるもんよ!」


雷神はそう言うと武器を構えた。
ゼルも構えを取り、「許さねぇぞ雷神!」と言い彼と対峙した。

スコールと共に雷神を相手にするゼルを横目で見つつ、はキスティスと並んでガルバディア兵と対峙した。


「さーて、ちゃっちゃと倒しちゃいますか!」

「怪我してるんでしょ? 無茶はしないでね」


キスティスに「大丈夫ー!」と返し、は双剣を交差させ、一気にガルバディア兵の懐に飛び込んだ。
下部から思い切り蹴りを喰らわせた後、上部からその勢いで踵を落とす。
それで一気にダウンしたガルバディア兵には目もくれず、残り一人には双剣を振るった。
それに相手が怯んでいる隙に、キスティスが鞭を振るった。

簡単に片付いてしまったので、雷神と対峙している二人の方へと向かった。


「雷神!」

「ゲッ、には手をあげ辛いもんよ!!」


雷神はそう言い思わず隙を生む。
其処を見逃すスコールではなく、思い切りガンブレードを振るった。
まともに其れを喰らった雷神は膝を着き、「ぐうっ・・・。やられちまったもんよ・・・!」と言い、倒れた。


「ヨッシャ! この調子で、司令官もやっつけるぜ!」


ゼルはそう言うと真っ先にバラムホテルの中に入って行ってしまった。
達はそんな彼を追い、中へ入っていく。

丁度中に入ると司令官と対峙しているゼルが居た。


「司令官ってのはお前だな! さっさとバラムから出てけよ!」


雷神が指揮官だったので、当然司令官は風神だった。

やはり、と、思いながらも何処か遣り切れなさを感じては風神を見詰める。
風神はスコール達をぐるりと見渡すと、口を開いた。


「・・・雷神、敗北・・・?」

「そうだぜ! さぁ、サイファーと魔女は何処だ!?纏めてやっつけてやる!」

「待ってよ、ゼル」


はゼルの肩に触れ、彼を諌める。
押し黙った彼の前に立ち、は風神を見詰める。


「・・・、」

「ねぇ風神、バラムから撤収してくれる気は無いの?」


がそう問うと、風神は無言で頷いた。
そして、己の武器を取り出して構えた。


「・・・風神、」

「エルオーネ、何処?」

「・・・分かった、其れが私たちの道ならば、」


私も、

はそう言い鞘に収めておいた双剣を抜いた。
そんなの背を見ながら、スコールが口を開いた。


「どうやら、風神一人のようだな。 それでも戦うか?」


スコールの言葉に風神は「怒!」と言い、構える。
どうしても戦わなくてはならないようだ。

全員が構えたその時―――、


「ふははは、一人ではなーい!」

「だ、誰だ!?」


突然ホテルに響いた声。
それに驚いてゼルが声を上げると、先ほど倒した筈の雷神が風神の前へと駆けて来た。
まるで彼女を守る様に前に立った雷神は、己の武器を再度構えながらも言う。


「大復活だもんよ!さっきより調子良いもんよ!不死身になった気分だもんよ!」

「何でぇ!? 倒したはずじゃねぇのかよ!」

「そろそろ本気出すもんよ!」


雷神はそう言った瞬間、ゼルに拳を繰り出してきた。
ゼルは腕を交差させてそれを防ぎ、後ろへ飛んだ。

スコールはそんなゼルに加勢をしようあと動きかけたが、飛んできた刃に気付いてガンブレードで其れを防いだ。
ガキン!と、金属同士のぶつかり合う音が響いた後、刃は綺麗な弧を描いて風神の手元に戻っていった。


「エルオーネ、何処?」


そう言いまた刃を繰り出してくる風神。
今度はスコールが防ぐより先に、が彼の前へと出て双剣で其れを防いだ。

再度双剣を構えるに、風神が紅色の瞳を細める。


「疑問。、何故一緒?」

「え?」

「スコール、」


きっぱりとそう述べる風神。
何を言っているのか、何を指しているのか。それはには分からなかった。


「スッコーと一緒に居ちゃいけないの?」

「・・・否。 自覚、無?」

「自覚・・・?」


何の、と問おうとした瞬間、ズガン!という音が響いた。
驚いて其方を見やると雷神に吹き飛ばされたキスティスが居た。
ゼルが何とか雷神を防いでいるが、キスティスは攻撃をモロに喰らってしまったのか、咳き込んで動けないでいる。

そうだ、今は戦闘中だ。

そう思い直し、は双剣をクロスさせて意識を集中させる。
の身体が淡く輝き、魔力を高めているのに気付いた風神も同じような動作をする。


「自覚だとか、そんなの良く分かんないけどさ。
 一緒に居たいから、居るの! 私は・・・、スッコーの傍に居たいから居るの!」


はそう言い、真っ直ぐに風神を見る。

そう、この気持ちは一緒な筈―――、


「風神が、サイファーと一緒に居たい様に・・・・・・!」


がそう呟いた瞬間、冷気と暴風が舞った―。




指揮官探しに無茶苦茶戸惑った記憶があります。
子供使ったり、とかもありましたがあえて王道な犬任せにしました。

雷神!言い訳は良くないもんよ!!