「スッコー、」


ガーデンへ戻って、これからブリッジへ戻ろうとしたスコールの背に声がかかった。
何時もとは違う様子のだ。
そんな彼女を見て、当然か、とスコールは考える。

魔女の下へ行ってしまったサイファーに着いて行った風神と雷神。
彼等と結構仲が良かったらしい彼女が、落ち込まない訳が無い。
自分だって、結構堪えるというのに。

そう思いながらスコールは少しだけ気まずそうに視線を彷徨わせるを振り返った。

紅紫の瞳を不安げに揺らしながら、彼女はまた「スッコー、」と呼んだ。


「好きな人の傍に居たいって思う事は、罪なのかな?」


そう問いながら彼女は自分の首元にあるシルバーリングを握った。








































































は一人自室のベッドで横になっていた。
戻ってきて早々そうした彼女を、リノアが身を屈めて覗き込む。


「…話、聞いたんだけどさ…」

「…ごめんね、リノア。直ぐにまた元気になるから」


そう言うとリノアは「そんな!」と言いベッドに詰め寄った。
は少しだけ笑ってみせると寝返りを打ってリノアの方を向いた。


「…大丈夫なの。風神と雷神が居なくなっちゃってそりゃあ寂しいんだけどね…」

「当たり前だよ…! 友達だったんでしょ?」


リノアはそう言って、まるで自分の事の様に瞳を悲しげに細めて手を伸ばしてきた。
綺麗な手に、髪を撫でられては心地良さそうに瞳を閉じた。


"好きな人の傍に居たいと思うことは罪になりますか?"


スコールに問うたら彼は困った様に視線を彷徨わせた。
恐らく、言葉が見つからなかったのだろう。
そんな彼には元気良く笑って見せて、すれ違う時に彼の肩を叩いた。
そして、「深く考えないで良いって!」と言って部屋に戻ってきたのだ。
呼び止める彼に、適当な返事を返して誤魔化して。


「風神と雷神はサイファーが大好きなんだよね」


ぽつり、と零された言葉。

リノアはそれを一字一句聞き逃さない様に、と心がけて耳を傾けた。


「…そう、唯大好きな人の傍に居たいだけなんだよね」


それだけなのに、


「罪になるのかなぁ、それって」


私達から見れば裏切り行為。
でも、彼等からすれば好きな人の傍に居たいという願望。

そう願う事は、罪になるのか。


そう思いながらはそう言い、身体を起こした。
そして瞳を揺らすリノアを正面から優しく抱きしめた。


「ごめんね、意味分かんない事ばっか言って」

「…、」

「周りに何て言われたって、本当に好きな人なんだもんね、仕方ないんだよね、」

、」

「…きっと、私も二人の立場だったらそうしちゃうんだろうな」


はそう言いリノアの背を優しく撫でる。
そうするとリノアも彼女の背に回した手をゆっくりと動かした。
背を優しく撫でられて、は瞳をうっすらと細め、言葉を続けた。


「…大丈夫、私は行かないから。
 私は、スッコーの傍に居るって、リノアを守るって約束したんだから!」


そう言ってリノアの肩を掴んで少しだけ離れて笑う。
ニッコリ、と元気良く何時もの笑みを浮かべたにリノアは小さく頷いた。


「…、私、を支えたいの…!」

「私は十分リノアに支えて貰ってるよ?」


そう言ってはリノアの頭に手を置いて優しく撫でた。
「だって何時も、凄く助かってるから」と、言って微笑むにリノアは何故か俯いた。
突然俯いたリノアには慌てて、「リノア?」と声をかけて彼女の顔を覗き込む。

そうした途端、リノアに片手をぎゅっと握られた。


「…こっちは、私」

「え?」

「私が引っ張ってってあげるの! でも、一人じゃ駄目だから、一緒に引っ張っていくから…!」


「だから…、」と言ってくしゃりと表情を歪めたリノア。
そんな彼女には困った様に笑って「うん」と言った。


きっと、意味が分かっていないのだろう。
リノアはそう思う。けれど、頷いてくれた事が何よりの信頼の証。

胸の内が暖かくなり、リノアはを強く抱き締めた――。


「私、には絶対幸せになって欲しいんだから!」

「え?」


突然何ですかいリノアさん?

そう思いながらもはリノアに抱き締められた状態で小首を傾げる。
そうしているとすっかり何時ものテンションに戻ったリノアがちらり、との首元に視線を向けた。


「それ、スコールの指輪でしょ?」

「え、あ、うん…?」


それが何か?という表情をしているにリノアは少し笑って、「やっぱりね」と言った。
次に何かを考える仕種をした後、何処か嬉しそうに彼女は笑った。
リノアの動作の意味が分からないは小首を傾げ、「何が?」と言うがリノアは意味深に笑うだけで何も言ってくれなかった。

ほんとに、何。

そう思っているの横にリノアは腰を下ろし、「、可愛くなった」と言った。
これまた突然の彼女の言葉には「えっ!?」と声を上げる。


「最初に会った時も、そりゃあ可愛かったんだけどね。
 何か、雰囲気がすっごく柔らかくなった!!そんな気がするの!」

「それは……、」


リノアのお陰で、と言いかける
だがその言葉は彼女に遮られてしまった。


「大丈夫、分かってる。が私の言葉をちゃんと聞いてちゃんと考えてくれてたって。
 変わったね、


嬉しそうに微笑んで言うリノアに、「それ、スッコーにも言われた」と言っても笑みを返した。
リノアは「やっぱり?」と言って笑った後、また口を開いた。


「凄く柔らかい感じもするし、やっぱ可愛くなったよ、

「いやいや、可愛くだなんて…、」


「私は、」と言いかけたの口を人差し指を当てる事で止め、リノアは悪戯っぽく笑った。


「女の子はね、恋をすると可愛くなるものなの!」


そう言って微笑んだリノアこそ、綺麗で可愛いんじゃないかとは思った。




閑話的な。
ちょっとした考え事。