、と呼ばれて振り返る。
其処にはスコールが立っていて、一歩一歩、近付いてくる。
なーに?と言い小首を傾げるにスコールは「次の目的地が決まった」と言う。
恐らくは同行を頼んでいるのだろう、そんな事お願いされなくてもは元から着いて行く気だったというのに。
そんな風に考えながらは「次は何処へ行くの?」と問うた。
「トラビアガーデンだ」
スコールは頷いて、はっきりとそう言った。
セルフィの母校であるトラビアガーデン。
取り合えず調査を、という面目で向かう事になったらしい。
何て言ったって、ミサイルの被害を受けたであろうガーデンだ。
セルフィはどうするのだろう、と思いは思いを馳せる。
取り合えず、また三人メンバーを組んで行くらしい。
スコールはとキスティスを同行者に選んだらしく、ガーデンのハッチにはキスティスが居た。
三人で外へ出てみると、北の方に位置するトラビアならではの寒さが肌に染みた。
辺り一面銀世界。
そんな中、トラビアガーデンに向かい歩を進めていく。
雪に足をとられながらも、其処へ辿り着いた三人は上から下までトラビアガーデンを確認した。
その表情は、苦渋の色が占めていた。
「…酷い有様だな」
スコールが呟いた。
それにが頷いて、再度トラビアガーデンに視線をやる。
ミサイルが直撃したらしく、辺りには瓦礫やら残骸やらが散らばっていた。
中はどうなっているのかは分からないが、生存者は居るようだった。
取り合えず中に、と思ったスコールの真横を何かが通っていった。
それは、ガーデンで待機しているはずの彼女、
「セルフィ!」
キスティスが呼ぶが、セルフィは振り向きもせずにガーデンの入り口まで駆け寄って辺りを見渡す。
硬く閉ざされ、焼け焦げている門に触れながら、彼女はがっくりと項垂れた。
「…ミサイル、直撃?」
そう、ぽつりと呟く声が聞こえた。
彼女は直ぐに顔をあげると、スコールを見上げて「あたし、行ってくる」と言った。
止める気が無かったらしく、スコールは頷いて「気を付けろよ」と返した。
近くにあるネットを掴み、門を登って行き、セルフィは門の向こう側へと消えていった。
それを見送った後、もネットに近付く。
ぐいぐいとそれを引っ張って安全を確認した後、先ほどセルフィがしたようにもネットを掴んでよじ登った。
スコールとキスティスもちゃんと登っているのを確認し、は門の内側へと飛んで降りた。
もうずっと前を走っているセルフィの背を見送っていると、スコール達も降りてきた。
そのまま三人で進もうとしていると、背後から「スコール、」と呼ぶ声が聞こえてきた。
振り返ってみると、アーヴァイン、ゼル、リノアが追ってきたらしく此方に向かってきていた。
アーヴァインは辺りを少し見渡した後、「セルフィは?」と問うた。
それに答えたのはで、「もう奥に行っちゃったよ」と返した。
「こんなボロボロな所、魔物は居ないのかな?」
「魔物は居ないと思うよ。人が居る感じはするもん」
はリノアにそう返し、歩き出した。
それに自然と皆が着いて歩いてくる。
「あいつ、きっとショックでかいんだろうな…」
「…バラムが占領された時、正直言って俺もショックだったんだ。
セルフィの気持ち、俺、少しだけど分かると思うんだ…」
「セルフィは、此処で育ったのよね…。セルフィ、きっと、きっと早く来たかったよね。…大丈夫かな、セルフィ」
アーヴァイン、ゼル、リノアが口々にそう言う言葉を聞きながらは前を向いて歩いていた。
奥へ進んでいくと、広場の様な所があった。
否、きっと元はホールだったのだろう。
噴水の近くに、セルフィと他の女の子が立って話をしていた。
それを確認しながらは辺りをこっそりと見る。
ガーデンの生徒達と教師が混ざって、復旧作業を行っていた。
絶望しきった様子ではない彼等に安堵の息を吐きながら、はセルフィに近付いた。
「セフィ、」
「あ、皆〜」
きっと友達の無事も確認したのだろう。
先ほどより少し明るめなセルフィがにっこりと笑って此方を見た。
それにつられるように、セルフィの横に居る女子生徒も此方を見る。
「あ、セルフィがお世話んなってます」
「こちらこそ、セフィは何時も凄く頑張ってるよ」
仏頂面で黙ったままのスコールに代わり、にこりとが笑って答える。
それにセルフィが嬉しそうに「えへへ〜」と言って笑う。
そんな彼女に女子生徒は「でも、良かった」と言う。
「セルフィに会えて、セルフィと話したらちょっと元気が出たよ!」
そう言って、二人で笑いあった。
セルフィは此方を振り返ると、「奥に運動場があると思うの」と言った。
「其処で待ってて。 あたし、知り合いに挨拶してくるから」
そう言ってセルフィは片手を挙げて走っていった。
ゼルやらリノア、キスティスが奥にあるらしい運動場へ向かって歩いていく中、だけが立ち止まってずっとセルフィの背を見送っていた。
そんな彼女に気付いたスコールとアーヴァインが足を止め、彼女を見やる。
セルフィの背を見送っているに、女子生徒は「…あっち、お墓があるんです」と言う。
「セルフィを悲しませたくはなかったんやけど…」
そう言って、少しだけ俯く彼女にはゆっくりと首を振った。
「ううん、しょうがないよ」
そう言っては悲しげに瞳を揺らした。
紅紫の瞳が揺らいだのを見た女子生徒は、「不謹慎やけど、」と言う。
「あんたの目の色、髪の色、めっちゃ綺麗やな」
「……え?」
「白銀なんて見慣れてるはずなんやけどね」
そう言ってクスリと笑みを零す彼女に、も「何それ、」と言って笑った。
少しの間二人でクスクスと笑い合っていたが、不意に吹いた冷たい風に女子生徒が「あ、」と声を漏らす。
「…寒なってきたな。こんな日は、パラパラと妖精の贈り物が降るかもしれへんわ」
「妖精の贈り物?」
「…ま、その内分かるやろ」
最後まで小首を傾げていただったが、スコールとアーヴァインを待たせている事を思い出して彼等の方へ駆け寄った。
が近付いてきたのを確認してから歩き出したスコールに、アーヴァインは少しだけ笑みを零しながら歩き出した。
運動場へ、と思い奥へ進んでみると違う道からセルフィが出てきた。
墓参りは済んだのだろうか、と思っているとセルフィに子供達が駆け寄って行った。
「セルフィ!スマン、セルフィ!ホンマに、許して!」
「えー? 何ー? 何で謝ってんのー?」
突然の言葉に瞳を丸くしながら、セルフィは腰を折って子供達の視線に合わせながら言う。
子供達は酷く困った様子で、続けて言う。
「セルフィがくれたクマさんのぬいぐるみ、助けられへんかった!」
「どっかで寂しいって泣いてるよぉ……」
後半、涙声になりながら喋る子供達の頭を撫でながらセルフィは明るく笑って見せた。
それは、何時も見ているような彼女の元気いっぱいの笑顔だったが、優しさも混ざったものだった。
「セルフィのクマちゃんは、そんなんでへこたれるほどヨワヨワちゃんちゃうで!
あんたら皆が無事やったらクマちゃんも喜んでるからね。
聞こえるよ! クマちゃん、皆をコッソリ見てるって。
クマちゃんが見てへんと思って、我が儘ゆうたり、メソメソしたらアカンよ!」
「…うん。 絶対、ウチ、そうする!
ウチ、メソメソせえへんって、クマちゃんに伝えてね?」
「ありがと、セルフィ!」
子供達はにっこりと嬉しそうに笑うと駆けていった。
彼等に手を振っていたセルフィだが、達に気付いて「あっ」と言い近付いてきた。
「ごっめーん。もう行くから、運動場で待っててねー!」
そう言い、セルフィは最後に回る場所があるのか、また駆けていった。
彼女の背を見送りながら運動場へ向かう事にしたは歩き出した。
行く途中、校庭ステージにミサイルが突き刺さったままだったり、崩れ落ちた校舎だったりと、惨状の名残を数多く確認した。
校庭の奥へ行くと、バスケットコートがあった。此処が運動場らしい。
先に来ていたキスティス達が此方に気付き、近付いてくる。
スコールは「セルフィが来たら帰る。それまで待機だ」と言ってフェンスに寄りかかった。
スコールの言葉に各々も好きな場所へと座ったり寄りかかったりする。
(このガーデンに敵は来ていない。
……これからか?魔女は何処にいる? 早く捜し出して……、)
そう考えるスコールだが、今此処で色々考えても答えは出ない事に気付き雑念を払うように首を振った。
そんな彼を見ていたに、リノアが「ね、」と声をかける。
「私、達に会ってから色々考えさせられちゃった。
今も考え続けている事があるの。そしてずっと答えが出ないの…」
「…答え?」
「…うん、本当は分かってるのかもしれないんだけど、違う気もするの。あやふやだね」
だって、何かいっぱい考えてる顔してる。
そう言うリノアには困った様に笑った。
そんな二人の会話を聞いていたのか、ゼルが「考え事って言えばよぉ、」と言う。
「魔女ってのは何で突然現れたんだろうな。
どっかで機会を伺っていたのかなぁ?普通の人の振りをして普通に暮らしていたのかなぁ…?」
「…魔女が、何処から来たか…、か」
ゼルの言葉にはフェンスに寄りかかりながら腰を下ろした。
感じた違和感に小首を傾げながら、は、あれ?と、考える。
(…何だか、どっかで引っかかる気がする、魔女が、何処から来たか…?)
何でだっけ?何で引っかかるんだっけ?
がそう疑問を抱いた時、バスケットボールがぽすぽすと弾みながら飛んできた。
そして次に「お待たせ〜!」というセルフィの声が。
どうやらボールを投げてきたらしかった。
「皆、我が儘聞いてくれてありがとう!」
努めて明るく言おうとしているセルフィに、アーヴァインが「気ぃ落とすなよ〜」と声をかける。
さり気ない彼の優しさにセルフィはふわりと微笑んで「ありがと」と返す。
「魔女とバトルする時は絶対連れてってね! 敵討ちなんだから。もう、絶対なんだから」
ぐ、と拳を握り締めて言うセルフィの瞳は真剣だった。
それでも動作は何時ものものであったが、彼女の本気が伺えた。
全員が頷いたと思いきや、リノアだけが違った。
彼女は「あのさ、」と言うと座っていた体制から腰を上げ、立ち上がって皆を見た。
「バトル…、しなくちゃ駄目なのかな?
他の方法ってないのかな? 誰も血を流さなくて済む様な、そういう方法……、」
「…リノア?」
何処か何時もと少し違う様子のリノアには小首を傾げる。
先ほど話をしていた同一人物とは思えないほどに、今の彼女は頼りなさげだった。
そんなリノアにゼルが「おいおいおい!」と言う。
「今更そりゃねえだろよッ!」
「何処かの頭のいい博士とかがバトルしなくてもいい方法を考えてるとか……、」
胸の前で手を合わせて言うリノア。
視線も俯きがちで、何時もの覇気が全く感じられなかった。
(だったらどうなんだよ……)
リノアを見ながら、スコールは眉を潜めて考える。
(他にも方法があるんだったらそれで何とかすれば良いんだ。
でも誰も何もしてないだろ? 震えて、不安がって、文句言って考えてる振りしてるだけじゃないのか?
そういう奴は、人がする事にケチつけて何だかんだ言う癖に、結局自分では何もしないんだよな。
リノア、今更何を言い出すんだ? リノア、俺達に何を期待してるんだ?
俺達はガーデンで育ったんだぞ? 俺達はSeeDなんだぞ? 分かってるのか?)
「スッコー、」
腕を組み、思案に耽っていたスコールはの声で顔をやっと上げた。
「大体、分かりますけどー、」と言ってはリノアの前に立った。
「他にも方法があるんだったら、確かにそれで何とかすれば万事解決だね。
でも、結局皆魔女の力を恐れて、崇めて、何にもしてないで…。影で文句言ってるだけ。
こんな人たちばっかなんだよ」
がそう言うと、無駄な事だと分かっていてもそうハッキリと言われると何か堪えるものがあったのか、リノアは俯いた。
「責めてるわけじゃないよ」と、言いはリノアの手をそっと優しく包んだ。
「…リノア、何かあったの?
ティンバーの、反政府組織に入って武器を手に戦っていたんでしょ?」
隠れて、ガタガタ震えてるばっかの人たちとは違って。
そうが問うとリノアは表情に影を落とし、俯いた。
そして足を動かし、つま先で地面をつつきながら「……恐くなった、かな」と、呟いた。
「私、皆と一緒にいて時々感じる事があるんだ。
あ、今、私達の呼吸のテンポが合ってる……そう感じる事、あるの。
でもね、戦いが始まると違うんだ。みんなのテンポがどんどん早くなっていく。
私は置いて行かれて何とか追いつこうとしてでもやっぱり駄目で………、」
リノアはそう言い、瞳を細めた。
戦闘のプロであるSeeDの中に混じっている、一人の女の子。
そう感じてしまうのは当たり前だ。はそう思いながらもリノアは話を黙って聞く事にした。
「皆、何処まで行くんだろう、もう、みんなの呼吸、聞こえない。
私が追いついた時には皆は無事だろうか、皆笑顔で迎えてくれるだろうか。
……皆倒れていないだろうか。 皆一緒に帰れるだろうか。 そう考えると……、」
「分かるよ、リノア」
リノアの言葉に、一番最初に反応したのはアーヴァインだった。
彼はテンガンハットをくい、と親指で上げると寄りかかっていたフェンスから離れ、歩き出した。
「誰かがいなくなるかもしれない。
好きな相手が自分の前から消えてしまうかもしれない。
そう考えながら暮らすのって辛いんだよね〜…、…だから僕は戦うんだ」
そう言いアーヴァインはしゃがんで、地に落ちていたバスケットボールを拾った。
それを数回ドリブルしながら、彼は言葉を続ける。
「僕が子供の頃…… ありゃ四歳くらいだったかなあ。 僕、孤児院に居たんだよね〜」
そう言い、懐かしそうに瞳を細めながら彼はボールを宙へ放った。
それは綺麗な弧を描いて、見事バスケットボールへシュートした。
孤児院、その話は以前少しだけ聞いた気がする。
そう思いながらは自分の手をぎゅっと握ってくるリノアの手をそっと握り返した。
「大勢の子供達が居て…みんな親がいなくてさ〜。
魔女戦争が終わった頃だったから親の無い子は沢山居たんだよね。
ま、僕がいたのはそんな所だった訳。で、いろんな子供が居たんだけど、僕にとって特別な女の子がいたんだ〜」
そう言いながらアーヴァインはどこか遠くを見ている。
きっと思い出の世界に居るのだろう。
特別な女の子。
それはも初耳だった。
何時も女の子達に甘い言葉を吐いて誘い文句を言う彼にも、特別に思う女の子が居たのだ。
「僕はその子が大好きで声を掛けられるのがとっても嬉しかったんだ〜」
アーヴァインは本当に嬉しそうに、微笑みながらそう言ってセルフィを見た。
急に見詰められたセルフィは瞳を丸くし、小首を傾げた。
「…ねぇ、アーヴァイン、その孤児院って石の家?」
そう問うセルフィに彼は「そうだよ〜」と言って笑んだ。
セルフィに続き、キスティスも「石で出来た古い家? まさか、……海の側?」と彼に尋ねる。
「そうだよ〜」
微笑んで、またそう返したアーヴァイン。
彼は二人が反応してくれた事が嬉しいらしく、微笑んだまま言葉を続けた。
「ガルバディアガーデンで会った時に僕はすぐに分かったよ〜?」
「どうして言わないのよ〜!?」
頬を膨らまして不満たっぷり、といった様子で言うセルフィ。
それにキスティスも頷きながら「そう、どうして?」と問う。
二人にアーヴァインは両手を広げて見せて、「だって皆忘れてるんだも〜ん!」と言う。
「僕だけ覚えてるのって何か悔しくてさ〜、ね?元気なセフィとえばりんぼのキスティ?」
「何だか、ふっしぎ〜」
アーヴァインをまじまじと見詰めながら言うセルフィ。
そんな彼女にアーヴァインは優しい笑みを向ける。
話を聞いていたゼルが「おい、」と言い声をかける。
「…もしかして花火したの覚えてねえか?」
「それはね……」
アーヴァインがゼルに話を始めた時、スコールが額を押さえた。
それに気付いたが彼を振り返り、「スッコー…?」と声をかけるが、彼には聞こえていないらしかった。
『まませんせい!おねえちゃんいないよ! おねえちゃん、どこ!?』
「……なんだ、」
『お姉ちゃん…何処に行ったの?僕の事嫌いになったの?』
スコールは額から手を放し、深々と溜め息を吐いた。
思い出していたのは幼少期の自分。
記憶が一気に蘇り、子供特有の甲高い声で喚いた後、泣きくじゃる自分を思い出したのだ。
(我ながら情けなくなるな…)
スコールはそう思いながら前で盛り上がっているセルフィ達を見た。
「夜に子供だけで花火して、俺が見つけて…、」
「…皆で怒られたわね」
当時を思い出してか、キスティスがくすくすと笑みを零しながらそう答えた。
「……じゃあ、俺のバラムの家の両親は?」
「バラムのディンさんご夫婦はゼルを引き取ってくれたのね」
そうだったのか、と思いながらゼルは孤児院で過ごしていた事を思い出した。
何時も何時も、泣き虫だった自分を苛める奴が居た。
『痛いよ〜!まませんせ〜!痛いよ〜!』
『泣き虫ゼ〜ル!』
あれは、誰だったか。
ゼルがそう思い、嫌な記憶ではあるが思い出そうと努める。
『弱虫ゼ〜ル!』
『痛いよ〜、サイファーがぶつよ〜』
サイファー、
そうだ、何時も孤児院で突っかかってきて自分を苛めていたのは、
ゼルは思い出して顔を上げた。
それはセルフィ達も丁度思い出したらしく、「…あっ!」と声を漏らしていた。
「サイファー……、俺の天敵だった……」
そう言い拳を握るゼルを横目で見ながらスコールはゆっくりと瞳を伏せた。
思い出すのは、孤児院で過ごした時の彼等。
(サイファー…、サイファーは何時でもサイファーだった。
ゼル…、泣いたり叫んだりうるさかった。
アーヴァイン? …悪いな、覚えてない。
キスティスは…、苦手だったような気がする。
セルフィ…、何時も走り回ってた……、)
腕を組んでいるスコールを横目で見ながら、アーヴァインが口を開いた。
「サイファーも一緒だったよ。リノアと以外、皆一緒だっんだ」
「って事は〜!」
セルフィがそう言いスコールを振り返る。
他の皆も、期待に満ちた瞳をスコールに向けていた。
スコールは「ああ、」と言いながら寄りかかっていたフェンスから離れた。
「俺もそこに居た。 俺は……、」
そう言いながら、スコールも過去の自分を思い出していた。
雨の中、何時も自分は泣いていた。
「何時も"お姉ちゃん"の帰りを待っていた…」
『僕…… 独りぼっちだよ。でも…… 頑張ってるんだよ。
お姉ちゃんがいなくても大丈夫だよ。何でも一人で出来るようになるよ…』
(……全然大丈夫じゃなかった)
スコールはそう思いながら、まだ思い出せない何かがある、と思う。
それは他の皆も同じようで、「あれ?」と言い小首を傾げている。
『……エルお姉ちゃん』
幼き日の自分はそう言ってずっとそのお姉ちゃんを待っていた。
スコールはそれを思い出したが、何か違う感じもした、自分が思い出したかったのは、これじゃない気がした。
「エル…、エルオーネ。 エルオーネが"お姉ちゃん"だった。
彼女は僕達より少し年上で皆からお姉ちゃんと呼ばれていた。
キスティス、ゼル、セルフィ、アーヴァイン、サイファー、エルオーネ、俺……。
そうだな。どんな意味があるのかわからないけど確かに皆一緒に居た」
スコールが思い出し、はっきりとそう言うとゼルが小首を傾げた。
そして「あのエルオーネが、お姉ちゃん?」と少しだけ不思議そうに言った。
「あたし達をラグナ様の時代に連れて行ってくれるんだよね〜」
「……過去を変えたいと言ってた。 理由は…、分からない」
「過去を変えたい理由なんて一つしかないわ」
図書室で話した内容を思い出しながら言うスコールにキスティスが腕を組んで言う。
それにセルフィが頷き、「今が幸せじゃないんだね」と言った。
彼女の言葉にゼルが拳を振り上げ、何だか張り切った様子で言う。
「そういう事なら力になってやりたいぜ!同じ孤児院で育った仲間だもんな!」
「ぜ〜んぜん忘れてたクセに〜!」
「セルフィだって僕が言い出すまで忘れてただろ〜?」
正確に言うと、アーヴァイン以外が、だ。
おちゃらけて言う彼に、セルフィがぺろりと舌を出した。
そんなセルフィに笑みながらもアーヴァインが「そうか〜」と言いスコールに視線を移した。
「お姉ちゃんがエルオーネだったのかあ。
皆お姉ちゃんが好きだったのにスコールが独り占めしてたんだよね〜」
「あんた…、良く覚えてるな」
あまり触れて欲しくない事なのか、スコールは顔を顰めてそう言う。
お姉ちゃんにべったりだったスッコーか、と思いながらは話を聞いていた。
暢気にがそう考えていると、何か思い当たったのかスコールが瞳を細めて言った。
「……可笑しな話だ。
俺は…こんな性格だから誰も引き取ってくれなかったんだと思う。
多分、サイファーも同じようなもので、だから、五歳くらいの時には2人ともガーデンに居た……はずだ。
それなのに、孤児院の頃の話なんて全然した事がない。
俺はあいつを見ても、そんな事考えもしなかった。 ……変だと思わないか?」
「それは変〜! あたしはトラビア行ってから楽しい事いっぱいあったからね〜!
だからちっちゃい頃の事、忘れちゃったんだよ、きっと〜 でも、スコール達は変! ぜ〜ったい、変〜!」
スコールに同調するようにセルフィが言う。
彼等の言葉を聞いた後にキスティスが「私、覚えてる、」と言う。
「…いいえ、思い出した。
私、引き取られた家で上手くいかなくて十歳でガーデンに来たの。
その時、サイファーとスコールに気が付いたわ。サイファーとスコールは何時も喧嘩をしていたの」
「ああ…。何時もキスティスが止めに入って来た」
「そう!そうなのよ!サイファーはいつでも自分が中心に居ないと気が済まない子供だった。
それなのにスコールは何時も無視してて……。そしていつも最後は喧嘩。
スコールも逃げればいいのに黙って相手してた。
相手しなけりゃいいって言ったらスコールはベソかきながら……、
『一人でも頑張らなくちゃお姉ちゃんに会えなくなる』って」
キスティスはそう言いながら頬に手を当てて、話を続ける。
「私はお姉ちゃん……、エルオーネの代わりになろうとしたんだわ。
何とか頑張ったけどダメで……、そうなんだわ!
私、教官になってからもスコールが気になって仕方なかった。
それは…、恋だと思ってた。 私は教官だから気持ちを隠して隠して……」
そう告げるキスティス。
それに驚いたのはだった。
何故なら彼女がスコールに恋をしていると思っていた、気付いていたのだから。
最初のSeeD就任パーティでの彼女の視線の意味に、気付かなかったわけが無い。
キスティスは「でも違ったんだわ、」と言ってゆるゆると首を振った。
「子供の頃の姉のような気持ちだけが残ってて…。 …な〜んだ、」
キスティスはそう言うと、大きく息を吐いて瞳を伏せた。
(勘違いの恋……ってやつ?まぁ、とスコールを見ててすっぱり諦めてたから全然いいんだけどね)
そう思い、キスティスはをちらりと見た。
きっと彼女は私の気持ちに気付いていたでしょうけど、
と、考えながらキスティスはある事も思い当たって「あっ!」と声を漏らす。
「サイファーも同じなのよ!サイファーも子供の頃の事は忘れているんだと思う。
けれどもスコールを見ると気持ちがザワザワしてきて」
「それでスコールに絡んできたのか?」
「……どうして忘れるんだ? 子供の頃から一緒に居て、それでどうして忘れられる…?」
スコールが呟くと、全員が黙り込む。
薄々思っていたのだろう、何故忘れているのか。
それに答えたのは、だった。
「G.F.の代償。
聞いた事無いかな?G.F.は確かに凄い力を持ってるけど、頭の中に自分の場所を作って其処に巣くう。
その場所は元々記憶の溜まり場、って言われてるよね」
「でも、それはG.F.批判の人達が流している単なる噂じゃあ…、」
キスティスの言葉にはゆっくりと首を振って、「今の皆を見てるとそうとしか思えないよ」と言った。
「そんな危険なもの、」と、言ってキスティスは続けた。
「シド学園長が許すはず無いじゃない」
「じゃあ、みんな忘れてるのに僕だけ色々覚えてたのは〜?どういう訳〜?
僕は君達と会うまでG.F.をジャンクションした事はなかった。だから君達よりもいろんな事覚えてる」
「セルフィはどうなの? G.F.体験はバラム・ガーデンに来てからよね」
アーヴァインの言葉に、キスティスはセルフィへ視線を移す。
言われたセルフィは「う〜ん」と声を上げて考えている様子だった。
「俺達は力と引き換えに記憶を差し出した…記憶をなくすのはG.F.…のせいなのか?
それで他の軍隊はG.F.使わないのか……、」
寧ろ使用しているのはバラムガーデンくらいじゃないか。
ゼルがそう言うと、アーヴァインが何処か遠くを見詰めながら「覚えて無い方が良い事だってあるから、」と言う。
「戦いの中にいる時は、その方がいいって事が多いから…」
ぽつりと呟いたアーヴァイン。
そんな彼にが小首を傾げ、「アービン?」と名を呼ぶ。
丁度その時、セルフィが挙手をして口を開いた。
「告白しま〜す!!
あたし、十二歳の時に野外訓練行ったんだ〜。そこで倒したモンスターにG.F.が入ってて…、
そのG.F.をしばらくジャンクションしてたの。だから経験者って事。
でも……、でも、変! そのG.F.の名前、思い出せないよ〜!」
「じゃあ、やっぱりG.F.のせい? ……どうするの?」
「どうするって……、それはそれで良いだろ?」
キスティスの言葉にそうあっさりと返したスコールにゼルが「よかねえだろ!?」と言う。
そんなゼルを横目で見ながらスコールは「なら此処で止めるのか?」と問うた。
「G.F.を外してほしいか?
戦い続ける限りG.F.が与えてくれる力は必要だ。その代わりに何かを差し出せというなら俺は構わない」
「スッコー…、」
迷いの無い瞳でそう告げたスコール。
が彼を見上げ、名を呼ぶと彼は振り向いてくれた。
(…アンタも、きっとそうするだろ?
皆を護る為なら、アンタはどんな自己犠牲も厭わないんだろ?
…だったら、約束した俺も、アンタの傍に居る為にそうしてやるさ)
を見詰めながらそう思っているスコールの後ろで、セルフィが両手をぱんと叩いて口を開く。
「皆日記をつけよう! きっかけがあれば思い出せるよ。
それに、消えてく思い出に負けないくらいたっくさんの思い出の種、作ろ〜!」
「ホントにそれでいいのかよ!」
ゼルはそう言うが、直ぐに何か思い当たったのか「…否、それで良いのか」と言った。
「そうだぜ…… 子供の頃サイファーに苛められた事なんか忘れても良い。
それよりも、今バラムにいる両親を守るための力が俺には大切だ。
俺を引き取って育ててくれたんだ。 母さん達を守る力、手放せないぜ!」
ゼルの決意の言葉に、キスティスが「お母さんといえば、」と言い皆を見る。
「ねえ、皆。 ママ先生の事は思い出せる?」
「何時も黒い服で……、」
「え〜と〜」
(ママ先生…、黒い服…、それはまるで……)
キスティスの言葉に皆でママ先生を思い出そうとするが、どうしても何かが引っかかる。
まるで"思い出してはいけない"と言われているような、
「優しい顔…、黒くて長い髪…、ああ、私、憧れてたな」
「あれ……? 顔を思い出したら……、」
「似ている。ママ先生……似ている、」
キスティス、セルフィ、ゼルの順で口々に言う。
そんな彼等にアーヴァインは瞳を細め、口を開いた。
「似ている? 違うよ。 ママ先生の名前はイデア・クレイマー」
静かに言い放ったアーヴァインの声は静寂の中ではよく響いた。
全員の表情が強張ったのを見、彼は悲しげに瞳を細めて「そうだよ、」と言う。
「ママ先生は魔女イデアなんだ」
「え、」と、そう零したのは、誰の物だっただろうか、
無茶苦茶長くなったんで切ります、
うおおおお長い…!