「ママ先生が…、魔女、イデア……」
セルフィの呟きが、静かに響いた。
キスティスが口元に手を当てながら、「どうしてママ先生が……」と震える声を零す。
「どうして? どうしてママ先生が国を乗っ取ったりミサイル発射したりしたのか、って事?
それはきっと僕達が此処で話しても解らないと思うんだ」
そう言うアーヴァインにスコールは(…そうだろうな)と思いながら耳を傾ける。
「……聞いてよ。
SeeDとかガーデンってママ先生が考えたんだろ?
僕はSeeDじゃないけど気持ちだけは君達と一緒だ。 SeeDは魔女と戦うんだろ〜?」
(何か変だ。
そうだ…、あれはサイファーに拷問されたときだ。
SeeDとは何かと聞かれた。そんな事、ママ先生なら知ってるはず…、でも、魔女イデアはママ先生。
それは間違いない。 …どういう事だ?)
アーヴァインの言葉を聞き、一人思案に耽ったスコールに彼は気付いた。
「スコール、聞いてる〜?」と声をかけながらも彼は続けた。
「僕が言いたいのはこういう事。 え〜と…… そうそう。リノアが言った事。
とっても良く分かるんだ。分かるけど、それでも僕は戦うよ。
僕がこれまでに決めてきた事を大切にしたいからね〜。それは皆も同じだと思うんだ。
だから戦う相手がママ先生だって事、ちゃんと知ってた方がいいと思った」
アーヴァインはリノアを含め、全員にそう言い肩を竦めて見せた。
「ほら、良く言うだろ?」と言い、彼は言葉を続ける。
「"人生には無限の可能性がある"ってさ〜。 僕はそんなの信じてないんだ。
何時だって選べる道は少なかった。 時には道は一本しかなかった。
その、少なかった可能性の中から自分で選んだ結果が僕を此処まで連れてきた。
だからこそ僕はその選んだ道を……、選ばなくちゃならなかった道を大切にしたい」
ね、。
そう言ってアーヴァインはを見た。
突然話をふられた彼女は「え、」と言い肩を跳ねさせた。
「確かに僕達の相手は大好きだったママ先生だ。G.F.のせいで大切な物無くすかもしれない。
良いんだ、それでも。 僕は運命とかに流されて此処にいる訳じゃないから。
自分で選んだから今、此処にいるんだ。それに、何より…、僕達は子供の頃一緒に居ただろ?
それが、いろんな事情で引き離されてしまったんだよ。
子供だったから一人では生きていけなくて……、他に許された道も無くて、ただ泣いているだけだったさ〜」
アーヴァインの言葉に、は自分の過去が重なる。
成すすべなく、見送った兄の背中。
そして戻ってこなくなった兄。もしあの時、もしあの時、と、何回考えただろうか。
子供だったから仕方ない、選べる道なんて限られていたのだから。
後悔は沢山ある、でも、その道を辿ってこなければ、皆に会えなかった。
そう思うと、その道も酷く大切な物に思えてくるものだ。
「でもさ…… でもさ、こうしてまた一緒になれた。新しい仲間…友達も増えた。
僕達はもう小さな子供じゃない。 皆とっても強くなった。
もう黙って離れ離れにされるのは嫌だから、だから、僕は戦う。
少しでも長く一緒に居る為に。 それが僕に出来る精一杯だから」
そう言って微笑んだアーヴァインは、とても眩しく見えた。
そんな彼に同調するように、ゼルが「俺もだぜ!」と言いアーヴァインの肩に触れた。
「俺戦うぜ! 怯えて隠れるなんて嫌だからな!」
「ママ先生相手なのが辛いとこだけどね〜…」
「それ、状況によってはガーデンの卒業生同士が戦わなくてはならないのと同じよ」
ゼルに続いてセルフィ、キスティスも同調の言葉を放った。
スコールは彼等に頷くと、リノアを振り返った。
「リノア…、俺達の方法って、こうなんだ。
戦う事でしか自分も仲間も守れないんだ。それでも良ければ俺達と一緒にいてくれ。皆も望んでいるはずだ」
初めて真っ直ぐにスコールに気持ちをぶつけられたからだろうか、リノアは瞳を大きく開いた。
が、直ぐにその後ぎこちなくだが、頷いてくれた。
スコールは次にを見る。
「…、あんたも、来てくれるか?」
「…スッコーがそんなのって、ちょっと不似合いですぜ?」
はくすりと笑みを零すと、スコールに向き直った。
「私、F.H.で言ったよ?『スッコーが呼べば私は何時でも手を貸す』って。
それに、約束だって、あるし?」
後半、仄かに頬を朱に染めながら言うに、スコールは少しだけ口の端を吊り上げた。
そんな二人の間に、ふわりと何か白い物が舞い降りてきた。
何だと思って空を見上げると、セルフィが喜んだ声を上げた。
「あ、見て見て! 妖精の贈り物だ〜!」
「あ、これが」
さっきセルフィの友達の女の子が言ってたのか。
そう思いながらは振ってくる白い"雪"を見詰める。
暫く皆が妖精の贈り物を見ていたが、ゼルが「なあ、」と声を上げた。
「イデアの孤児院へ行ってみないか?」
「どうなってるかな〜?」
「何か分かるかもね〜」
「ん? ママ先生がこうなってしまった原因?」
口々に放す彼等に、スコールは妖精の贈り物を見ながら考える。
(原因は過去に起こった何か、だろ? 過去は過去……終わってしまった事)
変えようの無い軌跡。
けど、
「どんな真実が出て来ても今が変わる訳じゃないさ。
でも……正直言って、俺も見たい。
何があるのかわからないけどイデアの家を捜してみるか」
スコールはそう言った。
それに皆が頷き、各々に歩き始める。
は未だに立ち止まったままのリノアを振り返り、「リノア、」と彼女の名を呼んで手を差し出す。
それをきゅ、と掴みながらリノアは少しだけ笑った。
「皆…、強いんだね……」
「ちょっと、違う気もする。
深く考えると、身動き取れなくなるから、今はこうするしか無いんじゃないかな」
はそう言うと、「それは私なんだけどね」と言って悪戯っぽく笑った。
はリノアの手を引きながら、前を歩く皆を追う。
「遅れたら、私がリノアの手を引いて歩くよ。
呼吸のリズムも、私がリノアに合わせるよ。
ね? だから安心して、リノア」
は首を動かし、リノアを振り返ってにっこりと微笑んだ。
「私が、絶対リノアを護ってあげるから」
そう言って微笑むが、妖精の贈り物がちらつく中では何だかとても儚く見えて、
「……うん、」
酷く、心が震えた。
「でも、何か突っかかってるんだよね、まだ」
そう言って頭を掻くアーヴァイン。
それにキスティスも、ゼルも同意する。
「分かる。何か、あと一欠けらだけなにか抜けてる気がするんだよなー…」
「何だったかしら…。アーヴァインまで覚えていないなんて…」
「否、おぼろげなんだ、凄く。僕に直接関係あったっていうか、スコール関連っていうか、」
アーヴァインはそう言いながらも、「何だっけ?」と頭を掻く。
そんな彼等の後ろではが「そういえば、」と言う。
「皆の孤児院、もしかしてセントラ大陸にあるんじゃない?」
「セントラ大陸に?何で?」
リノアが小首を傾げて問う。
それはスコールも同じ気持ちらしくを見ていた。
は「灯台、」と呟くと言葉を続けた。
「海の見える場所、灯台。それだけ言われると、セントラ大陸が思い浮かぶんだよね、私」
「…セントラ大陸か、南海の方にあったな」
「そうそう。多分、其処ら辺だと思うよ?だって灯台って言ったら其処以外あんまないし…」
そう言うにスコールは「行ってみる」と返した。
が、直ぐに彼女に視線を戻すと「そういえば、」と言う。
「アンタは良いのか?」
「? 何が?」
「一度故郷を見てみなくても…、」
はスコールの言葉に少しだけ考えた後、「じゃあ、寄り道お願い出来る?」と頼んだ。
スコールは頷いた後、「そういえば、」と言う。
「あんたの故郷は…?」
「…バラムから少し南下した所にあるから、其処寄ったらそのまま南下してセントラ大陸を目指そう!」
は曖昧に笑って、そう言うだけだった。
バラムを南下。その言葉を聞いてスコールは「ああ、」と、声を漏らす。
「あんた、ウィンヒル出身だったな」
「あ、思い出した?」
初任務に出向く時、列車内で話をした。
思い出したスコールには悪戯っぽく笑って「そうだよ」と言った。
「前言った通りド田舎だからね? 村に入るのは私一人でも問題ないからね?」
「どうして?私達が着いて行っちゃいけないの?」
リノアがそう問うとは「んー、」と言い少しだけ考えた後、また口を開いた。
「余所者が嫌われてる村なんだよね、何だっけ、色々まぁ理由があるんでっせ」
そう言って笑って誤魔化す。
「でも二人くらいなら良いんじゃないかな?」と言うにリノアは嬉しそうに笑う。
スコールはを見て瞳を細めた。
何だか、今の彼女の笑みが引っかかったからだ。
(…なんだ?)
そう考えても、答えは出てこなかった。
次回、ちょっとした寄り道をします。