「ちゃん!」
老夫婦がに駆け寄っていくのをスコールとリノアは物陰から見ていた。
此処はの故郷、ウィンヒル。
ド田舎だよ、と言っていた彼女の通りに何も無い村だった。
はどうやら他の皆も村に入れて良いかと許可を頂いている様だ。
老夫婦が頷き、手招きしたのを確認してからスコールは自分達とは少し離れた位置に居たセルフィ達を呼んだ。
アーヴァインは村に入りながら「此処が、」と呟いている。
そしてスコールを見て、「ラグナとキロスが頑張ってた村だよね?」と問うた。
あのとき、キロスに飛んでいたのはアーヴァインだったのだという事に気付き、スコールは頷いた。
取り合えず、老夫婦の家に入れて貰い、各々が椅子につく。
お茶の準備をしようとする老婆にが近付いて手伝いをする。
老婆を座らせ、全員分のお茶を用意したに老婆が「ありがとうねぇ、」と言う。
それに彼女は笑みを返し、スコール達に老夫婦を紹介する。
「私の世話をしてくれてた、ユナさんとガインさん。
・・・お婆ちゃん、お爺ちゃん、この人たちは私と同じSeeDの人達だよ」
そう紹介するにユナと呼ばれた老婆とガインと呼ばれた老人が頷く。
「そう、」と言い、ユナは「それで?」と口を開く。
「あの子は、見つかったの・・・?」
「・・・お兄ちゃんは、まだ・・・」
何の情報も、
そう言い少しだけ俯くに、ガインが小さく息を零す。
「そうかい・・・。あの小僧、一体何処をほっつき歩いてるんだか・・・」
「お兄ちゃんはお友達を探しに行ったんだから、そんな言い方しちゃ可哀相だよ」
「五歳だったお前さんをわし等に預けて、連絡も途絶えた。
わしからすればお前さんの方が不憫でならんよ・・・」
ガインの言葉には「ううん、」と言って首を振った。
そして、笑顔で口を開いた。
「私、お兄ちゃんに拾って貰って幸せだったんだから。
・・・しょうがないよ、お兄ちゃんにもやる事あるんだし、友達からの連絡が途絶えたってなると、私も同じ事するだろうし、」
そう言い困った様には笑った。
彼女にそんな表情をさせたガインをユナが小突くと、ガインは一つ咳払いをした。
「・・・所で、身体は大丈夫なのか?」
「全然、前と変わんないけど・・・。どうしてそんなに心配するの?」
私からすればお爺ちゃんとお婆ちゃんの方が心配なのに、と言うにユナが「ありがとう」と言って微笑む。
ユナは優しく微笑みながら、に声をかける。
「私達だって、本当の孫の様なものだもの。
ちゃん、絶対無理はしないでね。 ・・・皆さん、をよろしくお願いしますわね・・・」
ユナの目は何処か探る様なものだったが、スコール達にそう言って頭を下げた。
それにスコールは強く頷きを返し、に視線をやる。
彼の視線に気付いたは彼を見詰め返し、「ん?何、スッコー?」と言う。
それにスコールは「否、」と言い小さく首を振った。
はそれに深く探りは入れず、机に手を着いて立ち上がった。
「私、お参りしてくる」
「レインのかい? ・・・そうだな、あの坊主の代わりに行って来い」
お兄ちゃん、最期までレインさんに着いててあげたって聞くしね。
離れた地に居るとしても、きっと何処か心の隅ででも気にかけているかもしれない。
レイン、という名が出てきた途端何時もユナは切なげに瞳を細める。
どうしたのだろうか、と思うが自分が深く食い込んではいけない領域だと理解しているは何も言わない。
何かを堪える様に、手をぎゅっと握って何時も自分を見つめてくる。
その瞳の色には許しを請うかのような懇願さが色濃く映っていた。
「花屋に寄ってから行こうかな」と言いはスコール達を見やる。
「私、ちょっと用事があるから皆は此処で待ってていいよ?」
「俺も行く」
頷く皆とは違い、直ぐにそう言い、立ち上がったスコール。
そんな彼の様子に皆は瞳を丸くしていたが、いってらっしゃいと手を振った。
も瞳を丸くしていたが、頷くと「行こっか」と言いスコールの前を歩いた。
出て行った二人を見、ユナは「さてと、」と言い立ち上がる。
「皆さんの事、あの娘は大変大事に思っている様ね」
「僕たち仲間であり友達なんでね〜」
アーヴァインがそう言って笑うとユナは「そう、」と言い嬉しそうに瞳を細めた。
「今回、ウィンヒルに皆さんを連れてきたのもきっと自分の事を知って欲しかったからかもしれないわね。
・・・あの彼には、自分から言うでしょうが・・・。 ・・・皆さん、ちょっと着いてきて下さいまし」
そう言い立ち上がり、家のドアを空けるユナ。
彼女の行動に小首を傾げながらアーヴァイン達は立ち上がり、彼女の後を追った。
リノアが振り返り、ガインを見やると彼は手を振って「行って来い」という合図を送った。
それに頷き、リノアも家を出た。
「あの娘は捨て子だったんです」
隣にある家のドアを空けながら、ユナは言った。
家に入ってみると、全く人の気配が感じられないが、家具が一通り揃っていて、埃も被っていなかった。
ダイニングの脇にある写真立てを手に取り、ユナはそれを近くに居たセルフィに手渡した。
「あの娘は生まれて直ぐ、この村の入り口に捨てられていました。
それに気付き、小さな命を救ったのがその写真に写っている彼・・・。
が兄と慕う子です」
渡された写真を見、セルフィは瞳を大きく開いた。
そんな彼女の様子が気になり、キスティス達も写真を覗き込んだ。
少し遅れて、リノアも覗く。
其処には、小さな女の子を両手で抱えて微かな笑みを浮かべている赤茶の髪を持った青年、
クロスが写っていた――。
「お兄ちゃんは元々ガルバディアの兵士だったの」
サァ、と吹く風を身に受けながら、は静かに言った。
そしてそっと、花束を墓石の前に置く。
「五歳位の時に両親が他界して、ガルバディア軍の親戚に引き取られたんだって。
親戚の家のお陰で一等兵になれた筈なのに、一般兵だったんだって、きっと、妬みとかのせいだよね」
スコールはそう語るの背を見詰めながら、静かに彼女の話に耳を傾けていた。
「同じ隊の一般兵と、友達になれたんだって。
何時も話してた、初めての友達で、馬鹿だけど凄く良い人達なんだって」
はそう言い、ゆっくりと立ち上がった。
でも、振り返らずに墓石に視線を落としたまま彼女は続ける。
「どっかの任務でね、凄い大怪我をして、その友達と一緒にウィンヒルでお世話して貰ってたんだって。
其処に同じ隊の人が様子見に来てくれた時は、ほんとは凄く嬉しかったんだってお兄ちゃん言ってた」
お兄ちゃん、素直じゃないからきっと素直に喜べなかったんだよね。
そう言っては少しだけ笑った。
「魔女狩りに、知り合いの女の子があって、友達と追いかけたんだって。
その子を連れて、お兄ちゃんだけ取り合えずは戻ってきて、友達との連絡が途切れたんだって。
・・・お兄ちゃんは友達の恋人だったレインさんの最期を看取って、孤児院に助けた子とレインさんの子供を預けたんだって」
ほんとは、育てたかったらしいんだけど、何か色々あったみたい。
そう言い、はやっとスコールを振り返った。
少しだけ笑って、彼女は「それで、私拾われたんだって」と言った。
「五年間、私はずっとお兄ちゃんと一緒だったの。
でもやっぱり、お兄ちゃんはずっと友達が気懸かりだったみたいで、探しに行ったの・・・。
・・・最初は、お便りがあったんだけど途中で途切れちゃって、ね」
其処まで言い、彼女は憂いを帯びた瞳を一度伏せ、「でも私は、」と続ける。
「信じてるから。お兄ちゃんだって、凄い強い兵士さんだったんだって!
きっと生きてる、でも、連絡が取れないだけなんだよ。
だから私は探したいの、自分でもう戦えるし、探せるから、お兄ちゃんがしたみたいに、」
そう言い、きゅ、と唇を引き結んだ。
だから、と、まだ言葉を続けようとするの肩に手を置き、スコールはゆっくりと首を振った。
「もういい、あんたの気持ちは分かったから」
「・・・スッコー、」
紅紫の瞳を真っ直ぐに向けられ、スコールは少しだけ視線を彷徨わせた。
周りにあるのは綺麗な花ばかり。
そう、花畑の真ん中にレインの墓はあった。
彼女は花が好きだったらしいよ、と説明したの言う通りなのだろう。
スコールはエルオーネの見せた夢のウィンヒルに出てきたレインを思い浮かべた。
ラグナと良い雰囲気に発展していた女性。
きっと、あのまま発展したのならレインの子供というのはラグナとレインの子供になるのだろう。
それと恐らく魔女狩りの被害にあって攫われたのはエルオーネだろうか。
そう思い、スコールは、はた、とある事に気付く。
ラグナとレインの子供とエルオーネ。
同じ隊だった男、大怪我して運び込まれた男、馬鹿だけど良い人、
その単語を組み合わせてそんな彼を素直じゃないけど友達だと思っていた人物といえば、
「・・・、」
「んー?」
「・・・あんたの、兄さんの名前は何ていうんだ?」
スコールの問いには小首を傾げた後、直ぐに口を開いた。
「クロス・。 それが私のお兄ちゃんの名前だよ」
でも、それが何?
と、言い小首を傾げるにスコールは思わず額を手で覆った。
何て事だ。それだったら彼女の使用している双剣がクロスの物と酷似していたのも分かる。
何せきっとそれはクロス本人の物なのだろうから。
そう思い、スコールもに話をする事にした。
エルオーネの見せた夢の中に居たクロスについてを――。
「じゃあ、ってお兄さんを探すためにSeeDになったのね」
キスティスが写真を元の位置に戻しながら言う。
「世界を回れるから?」と言うゼルに答えを返したのはユナだった。
「それもありますけれど、あの娘自身も強くなりたかったんだと思います・・・。
兄を探すと言っても、各地を回るのにも魔物も居ますから・・・」
そう言うユナ。
彼女は他に何か聞きたい事があれば隣の家に戻ってますから、来て下さい。と言い出て行った。
鍵は、ドアの近くに居たアーヴァインが受け取った。
ユナの背を見送り、アーヴァインは「しかしね、」と口を開く。
「あの夢に出てきたクロスが、のお兄さんだったとはね〜」
「クロス様、行方不明なんだね・・・、すっごく心配!」
両手を動かしながら言うセルフィに、キスティスが頷く。
「・・・、大丈夫かしら・・・。・・・ううん、今更よね、こんなの・・・」
「・・・、何時も私達を励ましてばっかだったから、気付かなかった」
リノアがそう言い、再度写真に目をやる。
そんな中、ゼルが「なぁ、二階に行ってみねぇ?」と言う。
「勝手に入っていいの?」と言うキスティスだが、もう此処まで入っているのだ、問題無いだろう。
そう各々が結論付け、二階へと上がる。
二階の寝室には、色々な物があった。
セルフィとリノア、アーヴァインが率先して入る。
そして各々に部屋にある物を見始める。
「お、なんだこれ」
ゼルがそう言い、棚の上にあった箱にある物を手に取る。
リノアはそれを見ると、「あっ」と声を上げてそれをまじまじと見詰めた。
「それって、まさか・・・オダイン・バングル・・・?」
リノアにとっては複雑な思い出の品だ。
デリングシティの大統領官邸に忍び込む際、に見つかった記憶が蘇った。
魔女の力を制御出来るというオダイン・バングル。
それが何故とクロスの家の寝室に?
各々がそう思っただろう。
けれど、何故かユナに問い質す気は起きなかった。
これに関しては何故か触れてはいけない。 そんな気がしたからだ。
「え?」
は瞳を丸くしてスコールを見上げたが、直ぐに嬉しそうな笑顔を見せた。
そんな彼女に、胸の内が熱くなるのを感じながらスコールはぎこちなく視線を彼女から外す。
は笑って、スコールの肩をポンポンと叩き、言う。
「さっきの気にしててくれたんだ、ありがとう! やっぱスッコーって優しいね!」
先ほどガインが彼女の体調についてを尋ねていた。
それにスコールは持病か何かがあるのか、と思い彼女に聞いてみたのだ。
聞いた結果、瞳を丸くされ、万遍の笑みを向けられたのだが、
スコールの肩に触れながらはふわりと微笑んで「大丈夫、」と言った。
「大体何であんなに心配するのか私には分かんないんだし、病気も何もないのに、何でですかいねー」
少しだけ小首を傾げて言う彼女。
がそうすると、首につけているチェーンが動き、指輪が揺れた。
スコールはそれを視界に留めると、無意識の内に手を伸ばしていた。
少しだけ屈んで、彼女の首から下げられている獅子の指輪を見る。
「鎖に通したのか、」と言う彼には頷く。
「だって大事な物だから、ってプレッシャーかけられたらねぇ・・・!」
こうしてれば失くさないでしょ!!
と言うにスコールは少しだけ口の端を上げた。
ああだこうだと指輪とチェーンについて色々喋ってる彼女を見てスコールは思う。
なんて、
「――ほら、動いた時にも揺れるから直ぐに分かっ――っつ!?」
気付けば、 彼女の腕を引いて腕の中に収めていた。
身近に感じる体温と、彼女の香りに酔いしれそうになりながらスコールはの髪を撫でた。
突然の事に両手をあわあわと彷徨わせているは「スッコ!?」と言い慌てる。
スッコって何だ。と、思いながらもスコールは彼女を優しく抱き締めた。
腕の中で暴れる彼女をやんわりと嗜め、おとなしくさせるとスコールは「そういえば、」と言った。
「保留、って、言ってたな」
「へぁっ!?」
何のが!?と、変な声と微妙な言葉を上げては固まった。
何の、か、何が、かハッキリしろ。と言うスコールには反射的に謝る。
「・・・って、何で私が謝ってるんざんしょか!?」
「・・・不思議だ、」
話聞いてよ、ってかスッコーの方が不思議だからね!?
そう喚くを無視し、スコールは少しだけ腕の力を緩めて彼女を見下ろした。
「あんたを見てると、どうしても放っておけなくなる」
「・・・この前の怪我の事とか言ってる?」
「・・・そういう意味でもあるな」
スコールは其処まで言い、瞳を細めた。
やばい、どうやらどうでも良い事思い出させたらしい!
はそう感じて冷や汗をかく。
「そ、それにしてもやっぱスッコーは直ぐに引っ付きたがるね!私はスッコーのお姉ちゃんじゃないんだぜよ!?」
慌てて話をそらそうとしたにスコールは「そんな事分かってる」とあっさり返した。
それっきり途絶えてしまった会話に「え、それだけ?」とは思ったが口を開く前に彼が口を開いた。
「好きな人の傍に居たいと思う事は罪なのかってアンタは聞いたな」
「え、あ、」
"好きな人"
スコールの口からその単語が出ただけで動揺してしまった。
何せ好きな人から聞いた言葉だ、仕方が無いのかもしれないが、
はそう思いながら笑顔を作って頷く。
「うん、確かに聞いたけど・・・?」
それが?という意味を込めて彼を見上げる。
そんなを真っ直ぐに見下ろしながら、スコールは少しだけ瞳を細めた。
「罪だろうが、何だろうが、良いんじゃないか」
彼女の頬に手をかけ、それを移動させながらスコールは言う。
銀の髪に触れながら、彼は続ける。
「世間が何を言おうと、自分が良いと思えば良いんじゃないか」
スコールの言葉には小さく声を漏らし、瞳を大きく開いた。
が、直ぐに瞳を細め、彼女はスコールの胸板に額をくっつけた。
ぎゅ、と彼の服を掴んで引っ付く。
「・・・うん、そうだね、そうしたいならそうすれば良いんだよね」
スッコーは、そうなんだね。強いね。
そう言いは少しだけ笑った。
長いから一区切り。