気付いたら駆け出そうとしていた彼女の手を掴んでいた。
瞳を丸くして振り返り、「スッコー?」と俺を呼ぶお前に我に返る。
何をしているんだ、俺は。今は緊急事態だっていうのに。
そう思いながらも、彼女を傍に置いておきたくて、傍に居て欲しくて。
戸惑いを覚えて俺は何も言えずに彼女を見下ろす事しか出来なかった。
彼女は少しだけ困った様に笑うと身体を向き直させて俺の手を包み返した。
にこりと笑みを浮かべ、口を開く。
「大丈夫、後でまた会おうね!」
そう言って俺の手を放して背を押してくる。
「放送かかってたでしょ、早く」と言って背を押し続ける彼女を振り返り、俺は口を開く。
「・・・後で、会ったら言いたい事がある」
「ん? うん、約束ね」
じゃあ後で。そう言ってゼル達の方へ駆け出す彼女の背を暫く見ていたが、自分の役割を思い出して俺も駆け出した。
―保留期間はもういいだろ?
そう思いつつも、後で会ったら、と考えると緊張の意味でか鼓動が速まった気がした。
ウィンヒルを後にし、南海の方にあるセントラ大陸へ向かった。
脇にガーデンを停めて、降りて辺りを散策していると石で出来た家を見つけた。
その傍には灯台、それに、此処は海に面している。
明らかに此処がそうだった。
(此処は・・・何となく見覚えがあるな。・・・思い出した・・・、此処が"イデアの家"だ。
でも、この気配は何だ? 何か巨大な物が近くに・・・、)
そう思い、スコールが辺りを見渡すと、傍にある森に隠れる様にしている物があった。
赤い模様が特徴的であり、バラムガーデンと同じように飛行機能が動いているそれは紛れも無く、
「・・・ガルバディアガーデン・・・!」
如何して此処に、と呟いてが其方を見詰める。
魔女が拠点とすると言っていたガルバディアガーデンが此処に。
スコールは一緒に来ていたとセルフィに「ガーデンに戻るぞ」と口早に言って駆け出した。
ガーデンに戻り、取り合えずスコールはブリッジに上がる。
操縦桿を操作しているニーダが首だけを動かして「見てくれよ、スコール」と言い双眼鏡を手渡す。
それを受け取ったスコールは前を見てみた。
ガルバディアガーデンの様子を確認しているスコールにニーダは「どうなると思う?」と問う。
ニーダに双眼鏡を返しながらスコールは「戦闘は避けられない」と言う。
(向こうも気付いているはずだ。気付いていないなら・・・こっちから行く)
そう思いスコールは放送機器へ視線を移す。
「あれには魔女が乗ってるんだろ? 最終決戦か?」
ニーダの問いに「・・・そうしたい」と答えながら、スコールは額に手を当てて考えた。
(まず・・・どうする。 皆に指示をするのが指揮官の役目。
かといってあまり多くの指示をしてはかえって皆を混乱させる・・・。
さあ、考えるんだ! 時間はない・・・的確な指示を選べ!)
少しの時間で脳内で指示の内容を整理し、スコールは顔を上げる。
そんな彼にニーダは「何か決まったら放送してくれ」と言い放送のスイッチを入れる。
マイクに近付き、スコールは「こちらはスコールだ」と言い言葉を続ける。
「これは緊急放送だ。良く聞いてくれ。
これからガルバディアガーデンとの戦闘に入る事になりそうだ。
剣接近戦検定2段以上は駐輪場で。MG検定3級以上は2F外壁デッキでそれぞれ待機。
ウォームアップを怠らないように。奴らは多分ここに乗り込んでくる。だから校庭と正門を固めて敵襲に備える。
出席番号末尾が8の生徒は年少クラスの世話も忘れるな!
、キスティス、ゼル、セルフィ! ブリッジに集合してくれ!」
そう指示をし、マイクのスイッチを切る。
スコールは他には無いか、と考えているとブリッジの下のほうから「おいおいおい!」という不満げな声が聞こえてきた。
「何で僕は呼ばれないんだ〜?」
アーヴァインの声だ。
もう既に集合をしているようで、スコールもエレベーターを使用してブリッジ入り口へと降りた。
其処にはもう、キスティス、セルフィ、そして不満げな表情をしたアーヴァインが居た。
「僕だって仲間だろ〜?」
口を尖らせて言う彼にスコールは「ああ、悪かった」と短く返す。
それにアーヴァインが「頼むよ〜、もう」と言い頭をかく。
「ガーデン対魔女、最終決戦、やるぞ〜!」
「それで、私達はどうすればいい?」
張り切った様子で片手を挙げるセルフィの次に、キスティスがそう言う。
彼女達の視線にスコールは口を開く。
「俺達が手分けして他の生徒の指揮を執るつもりだ。ゼルが来たら分担を決める」
「あ、ゼルねえ、きっと眠ってるんだよ。 もう全然眠ってないって言ってたもん」
この場に居ない唯一の人、ゼルについてスコールが言うとセルフィが腰に手を当てて言う。
そんな彼女にキスティスが「ああ、あれ?」と言って困った様に息を吐く。
アーヴァインも「こんな時にねぇ、」と言い分かっている様子だが、とスコールは小首を傾げた。
「何の話だ?」
「秘密」
「(・・・何やってんだよ。待ってられないな)俺は校庭の様子を見てくる。一緒に行くのは・・・、」
スコールはそう言い、ちらりとを一瞥した。
彼の視線に気付いたは小さく頷いて彼に近付く。
「他は・・・、セルフィ、来てくれ」
「りょうか〜い!」
SeeDの敬礼をして駆け寄ってくるセルフィ。
そんな彼女を確認しながらスコールは残りの二人へ指示を出す。
「キスティスとアーヴァインはゼルを見つけて合流。正門グループの指揮を執ってくれ」
「了解!」
「敵との接触までには時間がある。さ、校庭まで行くぞ。俺についてきてくれ!」
エレベーターに乗り込んだ所で、アーヴァインが「あっ」と言い此方を見る。
「おーい、」と言い彼は続ける。
「リノアはどうするんだい〜?」
「(リノアか・・・)・・・任せる」
スコールはそう言いエレベーターの閉まるボタンを押した。
取り合えず2Fに降りて生徒達の様子を先に見る事にした。
何せ候補生にとっては初めての実践だ。慌しい事になっているだろう。
「何してる?カテゴリーは?」
「間接魔法系レベル2候補生です」
「MG検定1級だな。持ち場はこの先のデッキだ、急げ!」
エレベーター付近で慌てた様子の男子生徒にスコールが指示を出す。
それに男子生徒は「ありがとうございます!」と言いデッキへと走っていく。
スコールがそうしている間には近くに居る女子と男子生徒達に近付く。
「君達はどうしたの?」
「ファイア隊レベル3練習生です」
「同じくファイア隊レベル1見習いです」
「私は救護班A班です」
三人の所属を聞き、は先ほどスコールが放送した内容を思い出しながら指示を出す。
「ファイア隊の二人はデッキへ。残りの貴女は守備隊だから下ね」
が言うと彼等は「分かりました!」と言い駆け出した。
二人がそうしている間にセルフィは年少クラスの子を教室へ行くように指示を出していた。
生徒達に指示を出しながら進み、やっと校庭へ行くと聞き覚えのある声がした。
「お前らは此処だ。前衛部隊を援護しろ。
みんないいかッ!この戦いがきっと最後だぜ!何が何でも勝利だぜ!」
この声は、と思い三人で校庭へ降りる。
そこでは生徒達にゼルが指示を出していた。
スコール達が来た事に気付いたゼルは「あっ」と言う。
「おう、スコール! ここは任せてくれ!」
「お前、寝てたんじゃないのか?」
「そうだけどよ、あんたの放送聞いて飛び起きたぜ」
ゼルは笑ってそう言う。
が、直ぐに表情をキリリとしたものに直すとスコールを手招きした。
「あのな、スコール。ちょっと来てくれ。お前ネックレスしてるよな?こんな時になんだけど・・・」
(何だよ・・・)
「そのネックレス、俺にくれ。 否、貸してくれるだけでいい。無くしたりしないからよ! な、貸してくれ!」
懇願するゼルにスコールは自分の胸元にある獅子の模様のネックレスを見やる。
どうやらゼルは小さい方のネックレスを指しているようで、シンプルなそれを手に取って彼に見せる。
「どうする気だ?」
「理由は言えねえ。でも、貸してくれ」
(何だよ・・・・・・ このネックレス、気に入ってんだからな。 まあ、貸すくらいならいいか)
スコールはそう思いながらそれでこの場が収まるなら、と思いネックレスをゼルに渡す。
「無くすなよ」
「感謝するぜ、スコール! これで俺のプライドも守れる。きっとお前もも喜ぶ!」
「?」
「おっし、スコール! ここは俺に任せてくれ!」
ゼルがそう言い皆の所へ戻ったその時、キスティスの「ゼル!居たの!?」という声が響いた。
スコールが其方を見てみると駆け寄ってくるキスティスとアーヴァイン、そしてリノアが見えた。
リノアは真っ先にに駆け寄ると、真っ直ぐに彼女を見詰めた。
「・・・私、戦うから。
守られるだけじゃ嫌だから戦う。 私にも誰かが守れるなら、戦う。
皆と一緒にいたいから、戦う・・・、と、一緒に居たいから・・・」
「・・・リノア、」
はそんなリノアに微笑んでみせ、彼女の肩をぽんと軽く叩いた。
「此処が戦場になるなんて最後にしてえよな・・・」
「此処が外部からの侵入の可能性がある場所ね。それだけに重要な守備拠点よ」
口々に言うゼルとキスティス。
そんな彼等にスコールは頷き、とリノアを見やる。
視線に気付いたリノアはスコールを見上げ、拳を握って口を開く。
「戦わなくちゃ、あなたに認めてもらえないなら・・・戦う」
「・・・気を付けろよ」
スコールがそう言うとは「大丈夫大丈夫」と言ってリノアの手を握った。
「今回は私がリノアの傍に居るよ。 ちゃんと見てるから」
が笑ってそう言う。それにスコールは瞳を細め、何かを言おうと口を開く。
丁度その時、校内放送がかかった。
『スコール!! ブリッジに戻って来てくれ!』
ニーダだ。
焦った様子の彼の声色に何かを察したが「スッコー!」と声を上げる。
「校庭班と貴方に着いていく班で分けよう!
時間が無いからちゃっちゃと言っちゃうけど、私はリノア達と此処を守備するよ」
「・・・あんたは・・・、 ・・・」
「スコール!!」
言い淀むスコールにゼルが声を上げる。
なんだと思い其方を見ると彼は拳を強く握り、「此処は俺とに任せてくれ!」と言った。
スコールはブリッジへ、そしてセルフィ達に指示を与え其々の守備やら攻撃に回って貰わなければいけない。
彼だって分かっているのだ、頭では。
スコールは内心舌打ちをし、頷く。
そんな彼にも頷き、「じゃ!」と短い声を上げて駆け出そうとする。
くるりと身を反転させた彼女。
気付けばスコールは、彼女の手を掴んでいた。
「スッコー?」
瞳を丸くし、はスコールを振り返った。
無意識の行動だったのか、スコールはハッとしてを見返した。
彼の瞳には戸惑いの色が濃く浮かんでおり、は「うーん、」と少しだけ考える。
きっと彼は不安なのだ。
視界に入っていないと落ち着かない、とも言っていたし。
でも、今この緊急事態ではどうこう言っている暇なんてなくて。
はにっこりと笑みを浮かべ、身体を反転させて彼の手をぎゅっと包んだ。
ぶんぶんと上下に振りながら、は「だいじょぶ、」と言う。
「大丈夫、また後で会おうね!」
そう言って、スコールの手を放して彼の背をぽんと押す。
「放送かかってたでしょ、早く」と言いながら背を押し続けているを、スコールが振り返る。
「・・・後で、会ったら言いたい事がある」
彼の瞳が、何時も以上に真剣味を帯びていて、は内心ドキリとした。
其れを隠す様に何時ものような笑みを浮かべ、答える。
「ん? うん、約束ね」
じゃあ後で。そう言ってはゼルとリノアの方へ駆け出す。
後ろでも彼らが駆け出した靴音を耳にしながら、は自分の首筋で揺れるシルバーリングに触れた。
(・・・後で、会うんだから)
これだって預かってるんだもん。絶対大丈夫。
そう思いながらは接近しているガルバディアガーデンの事も考え、駆けた。
やっと此処まで来ました。
そろそろDisc2も終わりますね、やっと・・・!