「見ろ!」


ニーダが言い、スコールに双眼鏡を渡す。
また双眼鏡を覗いたスコールが目に捉えたもの、それは、


「・・・サイファー」

「そうだ、向こうはサイファーが指揮してるぞ。 奴ら、正面から来る気だ!」

「このまま進め!」


スコールの指示に従い、ニーダは更に前進を続けた。

前方にあるガルバディアガーデンではバイクに跨った兵士の前にサイファーが立っていた。
彼等を振り返り、準備が整ったかを確認すると手を大きく横に薙いで合図を送る。
バイクに乗った兵士達が、は発射台から飛び出して宙を舞いながらバラムガーデンへと突入してくる。

それらが校庭へ向かって飛び移ったのを見ていたスコールだが、放送も忘れない。





『敵ガーデンとすれ違うぞ! 校庭攻撃班!気を付けてくれ!』





スコールの声が放送機を通して響く。
はそれを耳にしながら、リノアを支えていた。
「まずは元を断たなきゃ」と言うにゼルは頷き、駆け出した。


「左の方へ走れ! 奴らを元から絶つんだ。もっともっと走れ!敵はこの先からやってくる!」


ゼルの声に従い、とリノアも走る。
校庭の奥へ進んだ所で、突然ゼルが「あっ!」と言いを呼び止めた。
突然の彼の呼び止めには「何?」と言い彼を見返す。


「こんな時に何だけどよ、お前のピアスちょっと貸してくんねぇか?」


ゼルの問いには直ぐに左耳につけていたピアスを外すと彼に手渡した。
そして「これでおっけ?急いでるんだしょーがー!」と言いまた駆け出した。










は大丈夫だろうか、

そう思いながらスコールは次々と侵入してくるガルバディア兵達を見やる。
そんな時、ニーダの叫びに似た声が聞こえた。


「ダメだ! ぶつかる!」

「右へ!」


スコールが咄嗟にそう叫ぶ。
ニーダは操縦桿に思い切り全体重をかけ、右へとガーデンを移動させる。
が、間に合わず二つのガーデンは思い切り衝突し、物凄い衝撃が走った。










ファイラ!!


が炎の魔法を唱え、侵入してこようとしたガルバディア兵達の前に炎の壁を作る。
それに怯んだガルバディア兵達にまた次の呪文を唱えようとしただが、剣で襲い掛かってきた敵に気付いた双剣を構えた。
両手を使ってそれを受け止め、相手を蹴り飛ばす。
ゼルとリノア、それに候補生達も戦ってくれているのでいつもより楽には戦闘が出来た。

次、と思いリノアに近付いて剣を再度構えようとした所で、背後から轟音が響いた。
なんだと思い振り返ってみると、ガルバディアガーデンが物凄く近い位置まで接近していた。

次の瞬間、物凄い衝撃が走った。

ガーデン同士が激突したのだ。

あまりの揺れにまともに立っていられない者が続出する。
は何とかバランスを保とうとし、下へ視線を移した。その時に、罅割れた地面が視界に入る。


やばい!!


咄嗟にそう思い、はリノアの手を強く掴んだ。
突然の事に「きゃ!」と声を上げてリノアは反射的に身を引こうとするが、は彼女の手をぎゅっと強く握った。

次の瞬間、


ゴオオオォォォ!!!という物凄い音と共に達の居た地面が崩れ落ちた。


足場が一瞬にして消え、重力に従い落ちる二人。

崩れた足場の上に居た二人が落ちていくのを見ていたゼルは慌てた様子で手を伸ばすが、の指先と少し触れ合っただけでそれが届くことは無かった。
それには眉を潜め、内心舌打ちをして空を切った手を動かす。

必死に手を伸ばして岩肌の様になったガーデンの壁を掴もうとした。

が、体中を擦り、手も何度も引っ掛ける。
爪も何度か剥がれたが、それでも彼女を掴んだ手だけは放さず、は岩肌に手を伸ばし続ける。

それを幾度か繰り返し、やっと岩肌を掴む事が出来た。

身体中が痛い、
そう思いながらは両手に力を込めた。

双方、少しでも力を抜くと、このまま真下へ落っこちてしまうから。

リノアの手首を掴んでいる状況のは、歯を食いしばって腕に走る痛みに耐えた。

下の方ではガーデンのリングにあたってか、粉々に砕け散る岩音が響いた。
それにぞっとしながらも、リノアを見やる。
彼女も同じ事を思っていたらしく、瞳には怯えの色が色濃く浮かんでいた。


「くそっ、届かねぇ!!」


上の方からそんなゼルの声が響き、は顔を上げる。
明らかに届く距離では無かった。そして、登りきれる距離でもなかった。
は少しだけ思案した後、リノアの手をきゅ、と強く握り「ゼル!」と声を張り上げる。


「手立てが無いなら行って!校庭もこれじゃ敵はもう入って来れないだろうから!
 次に危ないのは二階のデッキと教室! 早くスコールの所に報告に行って援護に回って!!」

「馬鹿野郎!何言ってるんだお前!!」

「うっさーい!!」


は大声でそうゼルに返す。
それのせいでか、身体中が痛んだ。

手、腕、足、膝、身体全体に擦り傷が沢山出来ていた。
確かに落ちたら命がないかもしれない、自分もリノアも危険な状況だ。 でも、


「危ないのは私達だけじゃないんだよ!? 他の皆だって頑張って、戦ってるんだよ!?」


こんな所で時間ロスしている場合じゃないでしょ!?

そう叫び、下を向いてしまった
そんな彼女にリノアはきゅっと唇をかみ締め、「ゼル、」と声を出す。


「私達大丈夫だから! だって、私にはが居るから!」

「・・・ちっくしょー!絶対助けるからな!何かロープとか、持って戻ってくるからな!!」


ゼルは瞳をぎゅっと閉じ、そう叫ぶ。
それには少しだけ笑み、「うん、」と返す。


「・・・待ってろよ!絶対助けになる物持って戻ってくるからな!!」


ゼルがそう言い、駆け出す。
そんなゼルには「・・・良いって言ってるのに、」と言いながらも嬉しそうに口の端をあげた。

そう呟いた後、「リノア、」と言いは紅紫の瞳を伏せる。
そんな彼女にリノアは「・・・何?」と言う。


「・・・ごめんね、私がもっと早く対応出来ていれば・・・、」

「謝らないで! 私、に助けて貰ったんだから!」


あのまま一人で落ちてたら、あの岩みたいになってたかもしれないし。
そう言って、気丈に笑んだリノア。
そんな彼女の健気な様子には眉を下げる。


「・・・私が、なんとかしてあげるからね。 約束したからね!私がリノアを絶対守るって!!」


そう言い、は彼女を安心させる様に微笑んだ。
が、それに反してリノアは表情を歪ませると泣きそうな様子を見せた。
唇を噛んで、耐えている様子の彼女にが瞳を丸くする。


「・・・・・・リノア?」

「・・・ごめん、私の方が、謝らなきゃだよね・・・」

「・・・。 ううん、きっと誰も謝るべきじゃ、ないんだよね」


リノアの手首を掴む手に力を込め、は言う。


「ゼルとか、他の皆もロープとかも探してくれるみたいだからさ。きっと大丈夫。
 戻ってこなかったら、私が何をしてでもリノアを助けるからさ!」


自分を励まそうとしてくれているに、リノアは笑んだ。
「何だか、」と言いリノアも彼女の手首に指を絡めた。


「不思議。が言うと何でもどうにかなりそうって思える」

「・・・リノアを護りたいから。私、リノアの為ならいっぱい頑張れるの」


お互い様だね。
そう言って、とリノアはくすりと笑いあった。



































































「スコール! 正門から敵が来る!」


ブリッジから降りて、シュウと共に走っていたスコール達。
彼等の姿を視界に留めてゼルは足をもっと速く動かした。

正門前まで来たスコールに追いついたゼルが「スコール!」と彼の名を呼ぶ。


とリノアが!」

「・・・二人がどうかしたの?」


尋常では無く慌てたゼルの様子にキスティスが訝しげに問う。
ゼルは大きく息を吐いた後、声を張って「崩れた校庭の崖から落ちそうになってんだ!」と言った。


「ガーデン同士の衝突で・・・崩れて、落ちたリノアをが助けようとして・・・それで・・・!!」

・・・くそっ・・・!


ゼルの説明にスコールは内心舌打ちをした。


何が"大丈夫"だ・・・。結局あんた、俺が目を放すとすぐこれじゃないか!


苛立った様子のスコールに、セルフィ達が気遣わしげな視線を向ける。

仲間は護る。

そう彼女は言っていた。





「私、思ったんだ。
 何時か離れてしまうかもしれない、失うかもしれない。でもそれは護れば良いんだって。
 自分の力が及ぶ範囲、ずっと護る。私は小さい頃の無力な私じゃないんだ、だから、出来る限り護りたい」
 ・・・勿論、自分の力が及ばない時だってある事は分かってる。
 其の時の為の、仲間でしょ? 皆、助けてくれる、だから私も精一杯、皆を護れる・・・!」





そう言って、自分にも皆を信じるようにと促してきた彼女。
特に今回はリノアを護ると言っていたので、何となく大方の察しはついていた。

こんな事になるなら他の誰かもう一人残して、否、自分の隣に置いておくべきだった。

そう思いながらスコールは顔を上げた。 その時、


『スコール、聞こえるか!?教室が敵に襲われている!
 あそこは年少クラスがいるんだ。早く何とかしてやらないと!』


焦った声色のニーダの放送がかかった。
校庭からの侵入が不可能になったので、二階から侵入し、教室を襲っているのだろう。
そう思いながら、スコールは目の前でガルバディアガーデンが旋回しているのに気付いた。
それに気付いたのはスコールだけではなく、シュウが「敵、旋回している!」と言う。


「また攻め込んでくるつもりか!」

「スコール、とリノアが!」

「分かってる!! でも、危険なのは二人だけじゃない・・・」

「冷たいぜ、スコール。 はさ〜!」

パーティを三班に分けなくては・・・。俺と一緒に行動するのは誰だ?


アーヴァインの言葉を聞かずに、スコールは額に手を当てて考えた。
何時もだったら瞬時にバランスの取れたパーティに出来るはずなのに、今回は少しだけ時間がかかった気がした。
正門に残るメンバーにシュウとキスティス。そしてゼルには引き続き二人の救出手段を探して貰う事にした。
残りのセルフィとアーヴァインを連れ、スコールは二階の教室を目指す事にした。


「キスティスはシュウ先輩と此処で」

「了解!」

「セルフィとアーヴァインは俺と来い。教室の方へ行く。
 それとゼル、とリノアを助ける方法を捜してくれ。絶対助け出すんだ、頼んだぞ!」

「うっしゃぁ〜〜!」


スコールが口早にそう言うと、ゼルは早速走っていった。
それを横目で確認したスコールはキスティス達に「任せたぞ!」と言うと走り出した。
セルフィとアーヴァインも彼を追って走りだし、二階を目指した。
彼等が丁度走り出したその時、ガルバディアガーデンが衝突してきた。


『スコール! 二階教室へ急いでくれ!敵が空からどんどん侵入してくる!』

「二階教室へ急げ!」


スコールは放送を聞きながら、二階へ上がる。
二階へ辿り着いて、教室のドアを開けた瞬間、ガラスが割れる音が響いた。
割って入って来たのは、飛行小型兵器を身に纏って飛び移ってきたガルバディア兵達だった。
直ぐにスコールとセルフィが駆け出し、各々の武器を構えて対峙する。
アーヴァインは銃を構えながら、年少クラスの子供達を今の隙に避難させるように着いているSeeDの女子に目配せする。


「作戦通り、ガーデンの人間はすべて処理しろ!」

「処理? 酷い言い方するね〜」

「そんな事、させないよっ!」


アーヴァインとセルフィが言うと、ガルバディア兵は「SeeDの餓鬼共か・・・」と呟いて襲い掛かってきた。
セルフィはバックステップで其れを避け、ヌンチャクを振るった。
それに気を取られている敵に、アーヴァインが銃を撃つ。
スコールはガンブレードを振りかざし、唯黙々と敵を倒していった。

次々と入ってくる敵に苦戦こそしなかったが、流石に大人数相手に疲労感を露にした三人。
セルフィは大きく息を吐いて、もう敵が此処から侵入してこないかを確認してからスコールに合図を送る。
それに頷き、スコールはSeeD女子に声をかけた。


「ご苦労、子供達を安全な場所に頼む」

「はい! さ、みんな行くよ!」


SeeDの女子に言われ、子供達は小さく頷いて立ち上がる。
彼等を見送っていると、また放送がかかって『スコール、スコール!』という声が聞こえた。
今度は何だ?と思いながら放送に耳を傾けていると『ブリッジへ来てくれ。カドワキ先生も来ている』という内容の物だった。
それにスコールは小さく息を吐きながら(何だよ、説教か?)と思い足を動かす。

またガーデン同士の激突で衝撃が走ったが、スコール達は前へ進んだ。

進む途中、廊下等でガーデン生徒やSeeDが倒れていた。
彼等は口々に「痛いよぉ、」「俺たちのガーデンを滅茶苦茶にしやがって・・・、」「くっそ、やられた・・・」などと傷口を押さえながら言っていた。
明らかに負傷者が多い。救護班の者までもが倒れている始末だ。

この現状に瞳を細めながら、スコールはブリッジを目指した。



























































「痛ッぅ・・・!!」


ガリッ、という嫌な音が聞こえた。
少しだけずり落ちた身体。 はガーデン同士がぶつかり合った衝撃で一瞬離れた手を、すぐさま壁に伸ばす。
爪が剥がれているだろう、指先までは見えないが、グローブももうボロボロになり、指先がじんと痛む。
膝も腕も、擦り傷だらけだった。

リノアは大丈夫だろうか。

そう思いは下へ視線を動かす。
リノアは少しの擦り傷と、汚れで済んでいるようだったのでホッと安堵の息を吐く。


「だ、大丈夫?リノア」

「私は・・・、は?」


息を荒くさせながら、は微笑む。
いい加減、両腕の感覚が無くなって来ているのだがどうこう言っていられる場合ではない。
「だいじょーぶ」と、明るい声色で返すとリノアは少しだけ笑んだ。

怖いはずなのに、笑顔を見せて逆に此方を安心させようとしてくれるリノア。
彼女の優しさに、まだ自分は頑張れる。
そう思い、は力を込めた。

その時、ちりん、と胸の辺りで金属音がした。
何かと思い少しだけ視線を下に向けると、獅子の指輪が視界に入った。
「ぁ、」と小さく声を漏らして瞳を細める。


・・・スッコー・・・!





「アンタは皆を護ると言った。
 ・・・明日、明後日、近い内に失ってしまうかもしれないから。アンタはそう言った。
 俺だって、アンタと同じ事を思っている、かもしれない。
 ・・・其れ、大事な指輪なんだ。デザインも気に入ってる。

 ・・・だから、失くすなよ」





彼がこの指輪を預けた時の表情、言葉を思い出し、は強い眼差しで上を見やる。

誰かを護ると言って、例え守りきれたとしても自分が死んだんじゃ意味が無い。


「・・・過去形になるには、まだ早すぎるもんね・・・!」


そう呟いて、は手に力を込めた―。




ガーデンとガーデンの激突バトル。さながらベイブry(爆)